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ユキナDiary-  作者: PM8:00
45/150

44日目 帰郷

 





 用がなくなり、明日の出発の準備をするためにF・Gを出ようとする護熾とユキナは一階の廊下を歩いていた。ちなみに護熾はガーディアンの制服のまま。

 なのでこの制服はユキナの家に戻ってから洗濯機でも借りて洗ってから明日返すつもりである。

 一階から出口へ向けて歩いていたときに上から元気で聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「護熾〜〜〜〜〜〜!!! どこ行くんだ〜!!?」


 明るい、そんな声が聞こえると二階の覗き窓からラルモが飛び降りてきた。

 一階から二階の差は10メートルもあるというのに気を操って衝撃を緩和しながら何も問題なく護熾たちの前でで見事に着地をし、その人物がラルモだと確認すると、護熾は


「ああ、ラルモ。明日で俺帰るからみんなにそう言っておいてくんない?」


“帰る”と聞いた途端、ラルモは0・2秒ですごい形相になって神速の速さで護熾に掴みかかる。


「何ィやぁ!? 何で!!? 明日帰っちゃうのかよ向こうに!!? もう少しこっちにいられねえのかよ!!? せっかくお前って奴が分かってきたところなのに〜〜〜」


 ようやく海洞護熾という少年が何者なのか分かってきたところなのに寂しくなるだろう!! と言うが上下に揺さぶられながらも護熾は別に振られていることを気にせずにそのまま話す。


「悪いな、いい加減戻ってやらねえとたぶん親父が心配しているだろうから…………大丈夫だ、また会えるだろうから」

「その話本当ですか?」


 別の声が近くでしたのでその方向に向くと、ガシュナとミルナが後ろから来ていた。

 この二人も今からお帰りの用である。

 ミルナは一歩前にでると心配そうに護熾、そしてユキナに顔を向ける。


「ってことはユキナも?」

「…………そういうことになるわね。私が護熾と一番長く接触しているから、それに護熾一人では心配だからね」


 ミルナの疑問にユキナ自身が答える。

 ラルモに揺さぶられまくっている護熾はその話を聞いて昨日、ユリアの話を思い出していた。


 ―――そういやそうだった。ユキナはまたこの世界から離れなくちゃいけねえのか…………悪いことしちまったかも……


「なあ、別にお前ここに残ってもいいんだぜ? 俺だって一応怪物の何匹かは―――」


 自分もいざ怪物に襲われたとしても『知識持ナレジ』程度までなら倒せる。

 それだったら別にユキナが同行しなくても済むので少々寂しくなるが、本人が幸せな家族の時間を過ごせるならと踏んで、そう伝えるがユキナは首を横に振る。


「いいえ、またあのガナみたいに強いのが現れた時はどうするの? それに私なら護熾のお父さんに了承は得ているし、一樹君と絵里ちゃんも寂しがるし、それに近藤さんや斉藤さん、沢木君に木村君に宮崎君のみんなに、突然おさらばってわけにいかないしね」


 全てが納得できることだが『じゃあお前はお母さんとの時間はいいのか?』と訊くとこくんと首を縦に動かして『いざとなったら帰れるし、この携帯があれば間接的でも伝えられるからね』と向こうに戻る覚悟があると護熾にそう目で伝えてきた。


「じゃあ、ラルモ。明日でお別れだから明日見送りに絶対来いよな」

「うぅっ、そんな〜〜〜〜〜」

「ミルナもガシュナも同じ方向だろ? 途中まで一緒だから行こうぜ」


「待って! 待って! ちょっと待ちなさい海洞〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」


 ガシュナが『フン、何で貴様なんかと』とそっぽを向いたので護熾が拳をボキボキと鳴らしながら

 『ほぉ〜? じゃあてめぇには別の道に行ってもらおうか?』とあからさまにケンカ上等状態に入ると向こうから廊下を走り、護熾の名を叫びながらイアルがこちらに向かって来た。

 何事かと驚いて少し身を引いている護熾の前に止まり、膝に手をついて少し休んだあと、護熾に顔をあげると


「何だ? イアル、………………ああ、この制服は明日返すから」

「それもだけど!……それもだけど………アルティから聞いたわ……あなた、……………異世界の人だってことを!!」


 一瞬、護熾は氷のよう固まってしまい何だか全ての努力が崩されたような感覚に襲われた。


「――――アルティの奴〜…………あいつ言っちゃったのかよ〜〜〜〜〜〜〜〜」


 一番ばれたくないことをばれてしまった護熾はイアルが次に何を言ってくるのかを覚悟した。おそらく良い返答が返ってこないだろうと次の言葉を待つがイアルから


「あなたが必死で隠していたのがよくわかったわ。でも何であなたがこっちに来ているわけ?」


 怒って何か罵倒されるかと思いきや、そうではなかったので内心ホッとした護熾はめんどくさそうに髪を掻き上げる。


「それを聞かれると長くなるんだよな〜〜〜まあ簡単に言えば俺が本来その世界で会得するはずのない『開眼』を会得したから一旦こちらに来たってことだ。そんとき一緒にいたのがユキナってわけ。まあでも明日帰るんで――――」


 バッチイイイイイイイイイイイィィィィン!!!!!!!!!!


 稲妻のような音が一階に響き渡る。

 すると護熾の右頬に痛みが突き刺さり、顔が自然と左に向いていくのが分かった。

 そして目を少し右にずらすとビンタを振り抜いた体勢でいるイアルの姿が映る。

 

「あ、護熾」 

「うっ、いたそ〜〜」 

「うわ! びっくり〜」


 ユキナとラルモとミルナはそれぞれその光景を間近で見てしまったのでそれぞれ口から呟き、護熾は突然まだ何か悪いことを言っていないので何故ぶたれたか分からず、心の中でこの世の理不尽さを兼ねて呟いた。


 ―――何で!?


 そのあまりにも理不尽な攻撃にしっかりと頬に手形を付けられた護熾はポカンとした表情でカクカクと首を動かしてイアルに向く。


「な…………なんだお前いきなり…………すっげえ痛い……」


 もはや突然過ぎて怒る気にもなれない護熾はヒリヒリいっている頬を手でさすりながら聞いた。

 その場に居合わせたユキナ達も驚いた表情で立ちつくしている。

 イアルは護熾の質問に少し間をおいてから、


「これはあなたが私に重大な隠し事をしていた罰よ……」


 そう言い、ビンタした手を戻し、そのまま護熾に背を向けて肩で小さく息をしてから静かな口調で言う。


「………またいつか帰ってきてよね。私はここでギバリ達と待っているから……」

「なんだかよくわからねえが………約束するよ……いつかまたここに戻ってくるからよ」


 それを聞いたイアルは今度は大きく肩で息をしてから護熾に向き直ると、腰に手を添えてビシッと指を突き出す。


「あなたは私に敗北を味わせてくれた人なんだから今度会ったら次は開眼状態でも勝つ!! だからそれまでにくたばったりしちゃダメよ?」 


 威厳があり、よく通る声でイアルは別れの言葉を言った。

 護熾はそれに応えるように額に対して垂直手を軽く当てると


「了解、何時になるかわかんねえけどもう一度ここに来てやるけど稽古は勘弁して欲しいな。じゃあな!」


 そうイアルに言ったあと、背を向けて出口に向かって歩き出した。

 続いてユキナ、ミルナはイアルに別れの言葉を言ってからガシュナと共に出口へ向かう。


「あ! ちょっと待ってよ護熾〜〜〜、ユキナの家まで送ってやるから」


 慌てて後からラルモが先に行ってしまった護熾を追いかけてその場から走り去る。

 残されたイアルは胸の辺りに祈るような形の手を置いて、F・Gを去ろうとする護熾の背中をしっかりと見る。そして―――


「……ほんとに……絶対帰ってきてよね…………」


 どこか寂しそうな口調で見えなくなるまで見送っていた。


 




 F・Gを出た護熾達は途中までミルナ達と一緒に歩き、分かれ道のところで別れ、ユキナの家に着くと、今度はラルモが『じゃあな、明日ぜってぇ見送るからな!!』と言い、F・Gに向かって寂しさを紛らわせるかのように走って行ってしまった。護熾とユキナは玄関の前まで行くと、その音に気がついたユリアが玄関のほうに急いで来てドアを開け、


「お帰りなさい」


 二人の帰りを笑顔で迎え入れる。そして二人は同時に口を揃えて返事をした。


「「ただいま!」」








「長老、大丈夫ですよ。護熾が明日帰ることについては」

「いやしかし、急すぎないかの〜〜〜? それにしてもあやつらがああも素直に決めるとは……」

「護熾は元々異世界の住人です。そのことについては口出しはできないのでしょう。お偉いさん方の会議で護熾の護り役がユキナに決まっていたのは幸いでしたね」


 中央の廊下を長老の両脇を歩くシバとトーマ博士はイアルから聞いた護熾が明日帰ることについて話し合っていた。どうやら議会が先ほどあったようで口々に思ったより結論が早く出たことを不思議がっていた。


「ふむ、しかしまたユキナ殿がこの世界から離れるというのも心が痛むものじゃ。大丈夫かの〜」

「長老、そのことについては大丈夫だと思いますよ。護熾が一緒ですから」

「それも、そうじゃな。」

「長老、一つ報告したいことがあります。この前護熾の戦闘能力検査の時、彼の開眼は私が見たことない色でした。そのあと気になって過去の眼の使い手達の記録を読み返しましたが、彼と同じ色の人はいませんでした。まあ、それ以外は命の源の“気”が大きいことですかね」

「何!? それは興味深い話じゃの。やはり護熾殿には何か不思議な力があるのかもしれないの〜」


 その場で足を止めた長老は窓から見える空を見ながらそう言った。シバとトーマ博士も同じように窓から外を見て、シバがポツリと言った。


「そうですね。彼には不思議な力があります」




 










 その夜、明日の準備が整った護熾はユリアに明日帰ることを伝えた。

 それを聞いたユキナ母は驚いた表情を浮かべたがすぐに和らげて こくんと頷いた。

 護熾はそのことを確認すると一足先に部屋に戻った。

 ユキナも部屋に戻ろうとすると、ユリアに『ちょっと話したいことがあるからおいで』と呼び止められたので居間に戻る。

 そしてユキナに向き合って両肩に手を置いてから話し始めた。


「いい? あなたは明日からまた向こうに行っちゃうのよ?」

「大丈夫よお母さん。私は平気よ。護熾がいるから前みたいに寂しくはないわ」

「そうね。護熾さんがいっしょだものね…………でも」


 ユキナ母はそのままユキナを優しく包み込むように抱き寄せる。


「でも忘れないでね、あなたのそばには私がいること、お父さんがいること、みんながいること、そして護熾さんがいることをね」

「……………お母さん」


 ユキナもユリアに抱き返すように顔を胸に埋めてそう言った。

 少しすると顔を上げて抱きついている手から離れるように一歩後ろに下がる。


「じゃあ、お休みお母さん」

「ええ、お休みユキナ」


 互いにお休みの挨拶をしてからユキナは二階へ、ユリアはその背中を見送ってから自分の寝室に戻ろうとするとドタドタと階段を誰かが降りてくる音がしたのでそちらに顔を向けると枕を持ったユキナが自分の前まで来る。


「……えっへへ、お母さん。一緒に……寝ていいかな?」


 当然それに拒むことなくユリアは顔をほころばせて『いらっしゃい、ユキナ』と自分の寝室にユキナを連れ込んでいった。







 出発当日いや、護熾が元の世界に戻ることを朝日が告げるように地平線の向こうから顔を出し、ワイトの町を暖かな光で包み込み始めていた。

 護熾はいつもより早く起きた。

 彼自身もまた、この世界から離れるのを心のどこかで寂しいのかもしれない。

 しかし今日で最後なのだ。


「朝か…………今日で俺は帰れるのか……」


 ベットから窓を見た護熾はそうつぶやく。

 そして寝間着から普段着に着替え、布団をちゃんと畳んでからリュックを手からぶら下げるように持ち、部屋から出て行った。

 部屋のドアを閉めると、隣ではまだ寝ているユキナがいる部屋のほうに顔を向け部屋を覗き込むとベットは空でユキナが自分より早く起きたことはないためすぐに理解した。


「そうか……お母さんと寝たのか」




 








 やがてユキナもユリアの寝室で起きた。

 まだ眠いのか、目を擦りながらもベットから降り、パジャマから用意されていた普段着に着替えると歩いて机に向かい、置いてある写真立てを手に持ってから


「お父さん、…………行ってきます」


 亡き父に別れを告げると机に再び置き、部屋から出て行った。


 朝食を済ませた護熾とユキナは外へ出るために玄関に向かい、靴を履き、家の外へと出た。

玄関から一歩外のところで二人は同時に後ろに振り向いた。開いたドアのところにユリアが見送る態勢をとっていた。


「じゃあ、お母さん………………行ってくるね!」

「行ってらっしゃいユキナ、そして護熾さん。ユキナのことを頼みますね」

「もちろんですよ。こいつの面倒はちゃんと見ますから」

「何よ護熾! 私は子供じゃないわよ!!」

「……………………その容姿でよく言えるな、お前」


 護熾の言葉に頭の頂点にムカッ、と来たユキナは思いっきりふくろはぎを蹴飛ばす。

 護熾はふくろはぎを押さえ、


「いってえええぇぇぇぇ!!!!!!! お前!! 手加減という言葉を知らねえのかあ!?」

「こらユキナ。このあとお世話になるんだからほどほどにしておきなさい」


 叱られると『は〜い』と下にうつむいて返事をしたあと、顔を上げてしっかりとユキナ母を見つめると、そのまま中央へと歩き出した。

護熾はまだ痛がっていたが、ユキナが歩き出したのに気づき、慌てて追いかけて隣に並ぶと小声で


「おい、いいのかお前!? まだ時間はあるからもう少し居てもいいんだぞ?」

「いいえ、あそこにこれ以上居たら……離れられないからね。………まずはあなたの家に帰ることでしょ?」


 明るく、笑顔で護熾に顔を向け、そう言った。護熾はその笑顔にキョトンとした顔で驚き、前に顔を戻し


「ふ〜ん、そうなのか…………」


 これ以上は何も言わず中央へと二人で足並みをそろえて向かいだした。

 二人の姿が遠く、もうすぐ見えなくなるというところで


「あなた、ユキナがまた行ってしまうわ…………でも今度は違う。あの子が笑顔で出発したことが何よりの証拠。…………護熾さん、ユキナを頼みますね。」


 ユリアは一般人故に病院以外の中央の施設に入ることは許されない。そして彼女自身、ユキナと同じでこれ以上あの背中を見ていたら離れられなくなると目をつむり、そっと亡き夫に我が子の出発を最後まで見届け、そして護熾に託していった思いを伝えるかのように話してから、二人の姿は完全に見えなくなった。





 







 中央の庭にて、出発をするために到着した護熾とユキナを見送るために集まった眼の使い手全員が集結をしていた。それぞれいつも通りの普段着でいる。その中で護熾はシバの姿を見つけると


「シバさん、これあとで返しておいて下さい。」


 護熾はリュックから綺麗にたたまれたガーディアンの制服を取り出しシバの前まで歩き、手渡した。


「おう、わかった。ちゃんと返しておくよ」


 シバは笑顔で護熾の頼み事を承知する。

 次に博士が鞘に収められていない刀を持ってユキナの前に立つ。


「ほれ、完璧に直ったかはどうかはお前が触れば分かるから」


 刀をソッとユキナに返した。

 前回ガナ戦で根元からポッキリ折れてしまった刀は護熾が寝ている二日間、柄だけになった刀をユキナはトーマに頼んで修理にしてもらっており、しかもユキナの刀は柄さえ残っていれば刃を新しく作ったとしてもそれはもうただの鉄ではなく気で密度を凝縮されたものとなるため修理の仕方は普通の刀となんら変わりない。

 

 そしてユキナの手に触れた途端、刀は光の塵となって消えてしまった。

 どうやら完全に直っているようである。博士はそのことを確認すると後ろに下がった。


「ユキナ、寂しいな。またユキナが向こうに行っちゃうなんて……」


 ミルナはそう言うと泣きそうになり、顔を手で隠した。

 アルティが心配そうにミルナの肩を抱くようにして慰める。


「だ、大丈夫よミルナ!! ほらだって私たち! 通信端末で連絡取り合えるじゃない!?」

「ぞうだよ!! 護熾がむごうのぜかいにもどっでもべんらくどれるじゃん!!」

「おめえは泣きすぎだ!!」


 ミルナよりもラルモのほうが大泣きをしており顔が無茶苦茶なことになっているのをすかさず突っ込む護熾。ガシュナは『ふんっ、たかが別れだ。死んだわけじゃねえんのだからよ』とラルモに対して呆れた言葉を発した。


「じゃあ、“繋世門”を開くからみんなどいて」


 博士は別れを惜しんでいるミルナとラルモを通り越し、護熾とユキナを間も通り越すと、ポッケから札みたいのを取り出すとそれを壁に貼り付けるように何も無いはずの空間に貼り付けた。護熾が驚いているのを気にも止めず、そのまま、


「それっと」


 グワッと札を真っ二つに切るように空間が割れる。中は来たときと変わらず怪しい空間が蠢いている。


「開いたぞ、この中に入ればお前達がいた町に戻れるはずだ。あとそれとお前達が持っている瞬間移動装置。それ実は向こうの世界でも使えるから遊びに来るときはそれを使って来いよな」


 護熾とユキナに“瞬間移動装置”のことを話してからゲートの前から退く。


「分かった博士。それにしてもこの装置、向こうでも使えるのか」


 ポッケに入っている装置を見て内心、もう一度ここに来るときの手間が省けて喜ぶ護熾。

 そしてゲートに向かって歩き出し、前で止まった。


「じゃあ、行こうかユキナ」

「そうね、みんなが待っているもの」


 二人は見送りに来ている眼の使い手全員に振り向いてから別れの言葉を言う


「じゃあ、みんなまたいつか」

「じゃあ、行ってくるね!!」


 二人が別れの言葉を言うとアルティとガシュナは口をつぐんでいたが他のメンバーは


「護熾!! ぜってえええもう一度ここに来いよな!!」

「ユキナ!! 無事にここに戻ってきてよね!?」


 ラルモとミルナがまずお別れの言葉を言ってから次にシバと博士が


「護熾、またいつか会おうな!!」

「護熾、その装置とカードを絶対なくすなよ。ユキナ、護熾の護衛頼んだぞ。それと向こうの世界に派遣しているガーディアンはお前達が戻ってから二日後に戻るように言ってあるから十分休めよ」


 こう言い、別れの言葉を告げる。護熾とユキナは別れの言葉を聞いたあと、再び目の前のゲートに顔を向け


「ほんじゃ行くか!」


 護熾がまず最初に黒い水が張り付いているような壁に飛び込むように入る。そしてその姿が見えなくなると次


「じゃあ、行ってきます」


 続いてユキナも追うようにゲートに飛び込んで入っていく。そして二人の姿はなくなり、繋世門は陽炎のように消えていき、パサッと割れたお札が元の状態に戻って地面に落ちた。






「………………ああ〜〜〜〜〜行っちまったよ〜」

「ラルモ、がっかりしないで。護熾さん言ってたじゃない?またいつかもう一度ここに来るって」


 ラルモが残念そうに肩を落として大きくため息をついた。ミルナがラルモの背中を軽く叩いて慰めの言葉をかける。その場に残された眼の使い手達はゲートをずっと見つめて立っていた。



 一方、そのころF・Gのほうでも


「え!!?カイドウはん、帰っちゃったのかもんよ!?」

「そう、すでにいなくなっていると思うわ」

「そんな〜〜〜〜〜〜まだ話したいことがあったのに〜〜〜〜〜」


 イアルから護熾が今日帰ってしまったことを告げられたギバリとリルは大きく同時にがっかりをした。二人の様子を見てイアルは視線を中央のほうに向け


「またいつかここに戻ってくるって言っていたからしっかりしないさいよ」


 自分に約束してくれた少年の顔を思い描きながら、また何時の日か会えるのを楽しみに少女はその日を心待ちにしてずっとその方向を見ていた。




 護熾のいる世界に場面は変わり、

 護熾が異世界に移動するときに使った十字路で開いたゲートと同じ場所に空間の割れ目ができて、そこから落ちるようにまず護熾が出てきた。シュタッと地面に着地したあと 後からユキナも降りてきた。


「あ、そうか、こっちでは『解除』しなきゃいけないんだった。認証解除」


 思い出したように護熾はそう言うと【結界】の認証解除を行い、結界から出た。ユキナもまた、同じように結界から出ると夏の暑い空気が一気に体にまとわりつき、ぶわ〜と一気に汗だくになる。


「うわ〜〜〜〜〜〜〜〜暑いね〜〜〜〜〜〜」

「うわ! マジだ、むこうじゃそんなに暑くなかったもんな」


 服をつまんでばさばさやりながらユキナと同意する。そして少しの緊張を持って自宅へと足を進め始めた。






「帰ってきた…………少しの間離れていただけなのにこんなに懐かしくて嬉しく感じるものなんだな」


 【海洞】と書かれた表札、いつもと変わらぬ玄関前の門。そして何一つ変わっていない護熾の自宅が目の前に広がっていた。あの日から一週間、何のトラブルもなく過ごせたかどうか心配だがそれよりもやはり少しの間離れていた家族と再会するのに少し緊張する。ユリアに会うユキナの気持ちが少し分かった気がする。


「早く入ろうよ護熾〜〜暑いからさ〜〜〜〜〜〜」


 手で顔を仰ぎ、暑さにまいっているユキナに促された護熾はふうと覚悟を決め、玄関のドアを勢いよく開けた。


「ただいま〜〜〜〜!!」


 護熾がそう叫びながら中にはいるとその声を聞きつけて急いでこちらに向かって走ってくる音がした。音はだんだんと近づいていき、やがて二階へ通じる階段から一樹が姿を現した。


「あ!! 護兄とユキナ姉ちゃんが帰ってきた!!!」


 そう嬉しそうに言ったあと護熾のお腹の辺りに飛びついて『寂しかったよ〜〜』と甘えた声を出すが、すぐにバッと顔を上げて


「護兄!! お父さんが!! お父さんが!!」


 異変を感じた護熾は『どうした?親父になんかあったのか?』と玄関にリュックを置いて、一樹に案内されるがままに武がいるとこへユキナと共に向かっていった。














「おお!!! 帰ってきたのか!!!? 護熾!! ユキナちゃん!!」


 元気にそう言っているが二階の護熾の部屋の押し入れの中に布団と天井に挟まっている形でいる武がそこにいた。そばには絵里がいて先程再会の挨拶を交わしたが護熾は今の状況を冷ややかな目で


「………………なにやってんだ? …………親父」


 理解できないと言いたげな口調で挟まっている武に向かってそう言った。武はこの成り行きについてまるで自分が今の状況に陥っているのか分かっていないように


「いや〜〜〜〜〜〜一樹達とかくれんぼするときにお父さん、ここに隠れようと思ったんだが。挟まっちまった。はっはっはっはっは」

「絵里、この状態何分くらい続いている?」

「ん〜と、かれこれ一時間くらい」


 事の成り行きなどを無視して武に指を指しながら絵里に質問した護熾は答えを聞くと、四人で武を押し入れから引き抜く作業を開始した。














「ふ〜〜〜さてと、護熾………………よく無事に帰ってきた!!!!!」


 15分後、護熾達の努力の甲斐あって何とか抜くことができ、武は服を手で叩いてから護熾を抱きしめようと手を伸ばして迫ってきた。


「あ、親父。そういえばこれ、返すわ」


 抱きつかれる前に護熾は胸ポケットからペンダントを取り出すと武は抱きつき攻撃を途中停止し、それをポンと受け取った。自分が単身赴任をするときに寂しくなったらいつも見ている家族全員が写った大切な写真入りペンダント。武はグッと握ってから次に


「どうだ? ユキナちゃんの家族は?」


 しまった、そういえばそうだった。

 護熾はとりあえず

 『ああ、元気にしてたけどまだ時間が必要らしくてとりあえずまだユキナを預かることになった』

 と言うと武は『そうか』と短く言い、


「じゃあユキナちゃん。こんな息子がうちにいるけどまたよろしくできるかい?」

「ハイ! 改めてよろしくですお父さん!」

「親父!! 飯にしようぜ!!」

「よし! そうするか!!」













 ザザアアアアアアアアアアアァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!


 






 その夜、昼は良い天気だったのに関わらず、夜は途轍もない土砂降りの大雨が降っていた。

 夕食をとり、風呂に入った護熾はベットに座り、膝に頬杖をつきながら窓から見える大雨を見ながら、


「すげえな、向こうじゃ雨降らなかったもんな」


 この世界に戻ってきたことを改めて実感するのであった。

 しばらくするとユキナが部屋に入ってきた。今回は絵里のパジャマを着ている。


「どうしたの護熾?」

「いや、なんだか懐かしい気分な気がして」

「懐かしい気分?」


 ユキナは護熾のすぐ左隣に座るようにベットに座る。そして同じように窓から見える大雨を眺め始める。


「すごいね〜〜」

「ああ、すげえな」

「……………………ちょっと腕を貸して」


 ユキナはそう言うと護熾の左腕を手にとってその腕を抱きしめ、顔を寄り添うようにし、まるで母に甘える子供のような仕草をしたので護熾は突然のことに驚きながら慌てて言った。


「お、おい! 何だ急に!?」

「…………なんだか寂しくなっちゃって」


 その言葉を聞いた護熾ははっとする。ユキナはやはり寂しかったのだと。

 出発の時のあの笑顔もやはり無理をしていたのと改めて確信をし、護熾は右に顔を逸らすと少しぶっきらぼうな顔をしてふんぞり返って見せる。


「……生きてりゃその内家族でも何でもまた会えんだろ! ……まあ俺がいうセリフじゃねえけどな」

「うん、ありがと護熾…………一つ頼みたいことがあるんだけど……」

「何だ?」

「私、海っていうところに行ってみたいの」



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