43日目 期間切れ
やや早朝、朝日が校内に差し込む中、男子寮の一つのドアが開き、静まりかえった世界に音を作る。
そんな雰囲気の中、一人の男子生徒が寮の部屋から出てきて、ん〜と背伸びをしたあと、元気よく廊下を走り出したかと思えば、
「お〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!!! みんな〜〜〜〜〜〜〜〜〜!! 起きろ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
バカでかく、寮にいる人全員が飛び起きそうな音量で走りながら叫ぶ。
そしてそのまま寮から出て一階の広場に行ってからもスー、と大きく息を吸い込むと、
「朝だぞ〜〜〜〜!!!!!!」
これまた大きな声で叫んだ。
「……………………うるさいな、ラルモ」
「同感」
「あれ!? 何で俺より早く起きているわけ!!? 護熾! ガシュナ!」
一階の広場に用意されているベンチのところに護熾が寝そべっていて、寮を出たすぐそこにある壁にガシュナが背中をつけて寄りかかっていた。二人はラルモが起きる30分も前にここに来ており、故にラルモの目覚ましボイスを五月蠅そうにしていた。
「お前、もしかして毎日こんなことやってんのか?」
護熾は少し眠そうな目でラルモに顔を向けて聞く。ラルモは片腕を上げて拳をグッと作り上げると
「そうだよ!! 俺が毎日みんなの目覚ましになってるんだぜ!!」
自慢げにそう言いうと護熾は『ああ、そうなのか』とベンチに寝返りをうった。
「あれ? 何で私、布団ですまきにされているの? しかも全裸だし…………」
目を覚ましたユキナは芋虫状態でキョロキョロ周りを見渡した後、ベットの上を転がって布団を取り スタッ、と立ち上がった。
「え〜〜〜〜〜と、私のドレスはどこだっけ?」
部屋の中を歩き回り、ソファーのところにドレスと下着があったのでとりあえず着る。
そして何の躊躇いもなくドレスの袖に手を通しながら、
「あ、そういえばミルナと後で会う約束していたのに…………行ってなかった」
そう言いながら着服が完了して、アルティの部屋に置いてきた私服を取りに行くために部屋から出ようとドアノブに手を掛けたとき、ピタッとその手が止まった。
ふるふると何か恐いものを見たかのように手が震えている。
「ちょっと待て、確かこの部屋には護熾がいたのよね…………で、私はさっきまで全裸だった。てことは…………」
そう考えただけで顔がどんどん赤くなっていく。
手順はどうあれ、この部屋に護熾がいないということは間違いなく見られたことに変わりはない。
だが突然、その場にうずくまるようにしてしゃがみ込んだ。
「あれ? うまく立てない…………しかも頭が痛いし、だるい……」
ふらふらと立ち上がってベットの方にUターンをしたユキナは何とかバタンッとベットに倒れ込んでから情けない声で言う。
「う〜〜〜〜〜〜〜気持ち悪い〜〜〜〜〜〜〜〜」
そのまま何度か唸った後、くかーっとまた眠りに落ちていってしまった。
一方、ミルナのほうも目を覚ましていて、ガシュナがいないことに気がついたので探しに行こうとするが、こちらも同じく上手く立てない。
「あれ? 何で私、こんなにふらついているの?」
ベットに手を掛けて立とうとするが、いくらやっても立つことが出来ず、疲れたのかとうとうベットの脇に座り込んでしまった。目をぱちくりさせながら
―――え〜と、確か私はガシュナに飲み物を持って行って、緊張をほぐすためにグラスに入った飲み物を少し飲んだ途端、何だか良い気持ちになってガシュナと…………!!
ハッ、と思い出したように唇に手を当てるミルナ。
信じられない!、という目をしながら顔がどんどん赤くなっていく。
「わ、私ったらもしかして…………ガシュナと………キスを?」
記憶が少し鮮明になっていく。自分がふらふらとガシュナに近づいて、飛びつき、押し倒して、そして―――
「キャーーーーーーーーー!!!! 私は何をしちゃってるのーーーー!!?」
恥ずかしさ全開になり、ベットに顔を埋めるようにして叫ぶ。
そして何度も何度も埋めた顔を擦るようにして自分がやった行動に後悔を感じていたが、やがて顔を少し上げ、体を動かそうとすると突然、口を手で覆うようにした。
体のだるさ、吐き気、そしてガシュナも男の子なんだから―――という条件からミルナはある一点の結論に達する。その結論とは――
―――もしかして私、妊娠を!?
ラルモの声で起きた生徒達が目を擦りながら寮から出てきて『もうちょいボリューム下げろ!』と紙パックをラルモに向かって投げ、パシッとそれを受け取ったラルモは『いいじゃねえか! 俺のおかげでお前ら寝すごさねえんだからよ!』と笑顔でその後挨拶し、生徒達もやれやれと言いながら同じく挨拶を交わす。
やがて時間が経つと外から通っている生徒も改札口からどんどん入ってきて学園祭の片づけが始まろうとしていた。
「さてと、俺も片づけを始めるか」
護熾はベンチから立ち上がってラルモとガシュナに一旦別れを言ってからその場を離れると仕事を貰いにますイアルを探しに歩き始めた。ガシュナはミルナがまだ起きていないので様子を見に再び寮内に。ラルモは手で頬を叩いて気合いを入れたかと思えば『やっほーーー!!! さあ〜やるぞ〜〜!!!』と叫び、走り去ってしまった。
護熾は二階の会議室におそらくいるだろうと思い、エレベーターに足を進めた。エレベーターまで着くとボタンを押して、到着を待つ。すると後ろの方から
「おお、カイドウはん!! おはようだもんよ!」
元気な声でギバリが手を挙げて護熾の隣まで歩いてきた。護熾はその姿を見ると蹴られ仲間のギバリだと気づき、『おおっ、おはよう』と軽く挨拶をした。
「ギバリ、お前も2Fに?」
「そうだもんよ。イアルが昨日、会議室に来いって言ったからもんよ」
「ああ、じゃあやっぱり会議室にいるんだなあいつは」
「おや? カイドウはんはイアルに用が?」
「ああ、何したらいいかを聞きにな」
チーン、とエレベーターが到着したベル音が聞こえ、扉が開く。護熾とギバリは乗り込み、二階行きのボタンを押した。そして二階に着いたことを知らせるベル音が鳴り、扉が開き、二人は降りた。廊下を歩いて行き、会議室のドアの前に止まった。
「おーい、じゃあ開けるぞ」
護熾は声を掛けながらドアを開けて、顔を覗かせる程度に中の様子を見た。
部屋の奥の方でイアルが気持ちよさそうに腕枕に顔を乗せており、机に突っ伏して寝ているのが見えた。
護熾はその様子を見ると、顔を引っ込めてギバリに顔を向けて小声でヒソヒソと話して中の様子を伝える。
「おい、イアル寝てるぞ?どうする?」
「え!? イアルが寝てるのかもんよ!?」
「まあ、今の時間は早いからな」
「寝ているイアルは何をするか分からないんだもんよ。カイドウはん、起こしてやってくれないかもんよ?」
「おい、冗談じゃねえぞ。何で俺があいつを起こさなきゃいけないんだ!?」
「この通りだカイドウはん!」
「………………わかった。やりゃいいんだろ? お前は外で待ってろ」
護熾は不本意ながらもその場にギバリは残すと、単身で忍び足で会議室に入っていった。
ゆっくりと寝ているイアルがいる机にまで足を運んでいく。そしてイアルのところまで行った護熾は爆弾処理をする気持ちで背中をさすった。
「おい! 起きろイアル。何すれば良いかを教えてくれ」
「ん〜〜〜〜〜〜〜〜減点10ポイント〜〜〜〜」
「おーい、寝言が仕事しているお前になっているぞ」
「ん〜〜〜〜〜〜〜〜マシュマロ〜〜」
―――こいつ、案外面白い奴だな
護熾にとっては起きているときは何かと食えないイアルであるが寝ているときはちゃんと女の子らしく浅はかな夢を見ている。
そんなイアルを護熾はじっと見る。
会議室の窓から差し込む光が、ユキナに負けないほど艶やかな髪を優しく照らしていく。
そしてその朝日がやがて、イアルの目に届くと、
「ほぇ?」
と、いつものイアルらしくない可愛い声で目を覚まし、そしてう〜んと背伸びをし、目を擦りながら体を起こし、周りを見渡す。
そしてようやく気が付き、護熾のほうに顔を向ける。
「よお、よく眠れたか?」
護熾がいたことにびっくりしたイアルは急に立ち上がり、慌てた様子であたふたと手を振る。
「わわ、何であなたがここにいるのよ!?」
少し離れ、下がってから壁に背を付けてバッと一気に警戒態勢に入る。
護熾はそれを少し呆れた表情で頭をポリポリ掻く。
「そりゃー何したらいいか分かんねえから聞きに来たんだよ。ギバリが部屋の外で待っているぜ」
「―――ああ、そういえばそうだった。え〜と、とりあえずゴミ拾いをしてきて」
「わかった。じゃあな」
すんなりと仕事の内容を聞き終えるとイアルに手を軽く振りながら会議室を出て行き、そして外で待機していたギバリに『あいつ起きたからもう大丈夫だぞ』と伝え、感謝されてから掃除用具の在処を聞き、ギバリに互いに頑張ろうと交わしてから今日の意気込みでも吐き出すかのように呟いた。
「さぁて、やるか」
寮内に戻ったガシュナは自分が借りている部屋にまだいるミルナの様子を見に行っていた。
寮の二階の一番奥の部屋のドアの前に立ち止まり、『おい、入るぞ』と声を掛けてからドアを開け、中に入った。ベットの脇でぐったりしているミルナを発見したガシュナは、急いで駆け寄って抱き起こした。ガシュナに抱き起こされたミルナはうっすら目を開けながら言った。
「あ、ガシュナ…………おはよ〜〜〜〜〜〜〜」
「無理をするな。お前は昨日、果実酒を飲んでいるんだ。」
「え、あれって…………お酒だったんだ………だからこんなに気分が」
「今日は休んでいろ。今日までお前は休みをとっているんだから」
「でもそれじゃぁ―――ってひゃぁ!」
急に体が持ち上がったと思うとガシュナにお姫様抱っこをされたミルナはすぐには気がつかなかったが思わず驚いてしまうがそのままベットに優しく仰向けに寝かされ、ガシュナが布団を掛けられながら
「お前の分まで俺がやるからおとなしく休んでいろ。お前はおそらく二日酔いだろう。どういった間違いで飲んだかは知らんが、体に毒だ。お前ならすぐ治ってしまうだろうが俺が戻るまで寝て待っていろ。」
と言いつけて部屋から出ようとするとミルナが少し恥ずかしそうに布団で顔を隠しながら
「あ、あの〜ガシュナ〜昨日は…………ごめんね」
頭が沸騰しそうな気持ちに駆られながらもガシュナは一旦ミルナのほうに振り向いてから少し恥ずかしそうに苦笑いを浮かべると
「構わん、それに―――たまにだったら」
「え? 何ガシュナ?」
「いや、気にするな」
周りから冷たいと言われているガシュナが唯一人間らしさを見せる瞬間にミルナは気付くことはできなかったが、ガシュナはそのまま部屋を出るとパタンとドアを閉めて行ってしまった。
その背中見送ったミルナは、申し訳なさ反面、ガシュナの優しさを一心に受け止めることができるという喜びに浸かり、終わったら、何かしてあげよう、そう思った。
片づけが開始されてから何時間か経ったあと、護熾はほうきを持ってせっせと床の掃除をしていた。他の生徒達も飾りを取ったり、雑巾をかけたり箱をもとの場所に戻したりと、みんな一生懸命に後片づけに取り組んでいる。
「すげえな、みんなちゃんとやるもんだな……」
ほうきに手を掛けて休んでいる護熾はその様子を見て感心していた。うちの連中もこれくらいちゃんとやってくれたらな、とユキナが来る前の六月にやった学校行事の文化祭でのみんな
の行動を思い出しながらせっせと掃除をしている生徒を見ながら少し休憩に入る。
「おい!あれ、一昨日イアルと戦った男子じゃね?あの新人って言われている眼の使い手の」
「あ!ホントだ!」
「確かあのちっちゃい女の子とも面識があるんだよな!?」
「チャンスだ!色々聞いてみよう!!」
数人の男子が取った飾りを入れた箱を持って廊下を歩いているときに、休んでいる護熾を発見したので小走りで駆け寄っていく。
何か騒がしくこちらに近づいてくる足音に気がついた護熾はその方向に振り向くと、走ってくる男子達の姿をしっかりと捉えた。歳は護熾より二、三歳下くらい。
そして護熾の前に止まり、その内ノ一人が目をキラキラと輝かせながらまるで有名人を相手してるかのような口調で尋ねてきた。
「すみません! 聞きたいことがあるのですが、名前は何て言うんですか?」
「ん? 名前? 俺はご……カイドウだけど」
「カイドウさんですか! では眼の使い手ということなので称号をお持ちかと思うんですが……」
これは言うべきなのかな?と少し迷うが、別に自分が異世界から来たとようはばれなきゃいいのでここでは『カイドウ』という男子として称号は『翠眼』だと伝えた。
「うわ! そうですか!! では次にカイドウさんと一緒にいたアルティさんではない女子が一人いましたがあの人は一体?」
「ああ、ユキナの事か? それが?」
「是非! 是非そのユキナさんについて知ってる限りでいいですから教えて下さい!」
急にユキナを知ってると話した途端、男子生徒はもう必死で教えてもらおうと護熾の袖を掴むとブンブンと振って情報を聞き出そうと必死になる。
これはもう、ユキナに一目惚れしたに違いない。
そしてその一目惚れした連中に自分がどれだけ追いかけ回されたか、―――護熾はその地獄から逃げ出すためにほうきを投げ出すとその場から全力疾走で男子達から逃げ出した。
急に逃げ出した護熾のあとを 『何で逃げるんですか〜!? どんな関係なんですかユキナさんとは!?』 と声を発しながら男子達が追いかけてくる。
「ちっ、何でこの世界も俺んとこの世界もユキナのことを俺に聞いてくるわけ!?」
と舌打ち混じりの小声で言い、廊下を疾走していた。男子達はなおも追いかけ続け、『何が趣味なんですか!? ユキナさんは!?』とか『ユキナさんの好みのタイプとかは!?』など、護熾の学校でも聞かれたことを質問してくる。そしてそのまま一階の廊下を一回りして逃げ出した地点に、
「ちょっと!! 何走っているわけ!?」
護熾の前に両腰に手を添えて仁王立ちしたイアルが突然現れたので急ブレーキをかける。
イアルはまず止まった護熾を睨んでからあとに来た男子生徒達をジロリと見た。男子生徒達はヘビに睨まれたカエルの如く、その場で立ち止まって体中から汗を流して硬直してしまった。
「片づけを終わらしてからそういうことをやりなさいよ!!」
「いや、だって後ろのあいつらが…………」
「口答えしない!! その場で正座!!」
仕方なく護熾はその場で言われるがままに正座をする。
後ろの男子生徒達も前に来て、続けて正座をする。そのあとイアルの説教が5分くらい続いてやっと解放された。護熾は『やれやれ』と言いながら立ち上がると目の前にいるイアルの向こうからアルティが何か服みたいのを持ってこちらに近づいているのがわかった。そしてそのままこちらに来ると護熾の前で止まった。アルティは両手に持っている服を護熾に差し出しながら
「これ、ユキナの服だけど姿が見えないから…………あなた知っている?」
どうやらアルティの部屋でユキナが着替えをしたときに残していった私服のようである。
「あ〜あいつは……………大丈夫、あいつがいるとこは見当がつくからそれは俺が預かっているよ」
「じゃあ、よろしく」
護熾はアルティからユキナの私服を受け取った。そしてイアルに『じゃあ俺ちょっとこれ渡しに行ってくるから』と言い、急いで自分が昨日借りた寮のところに行った。護熾の姿が見えなくなるとイアルがアルティに聞いた。
「命の恩人の元にいったのね。それにしても彼、何者なの?アルティ」
「…………護熾は“異世人”だけど……?」
「へえー、異世人なんだ………ん? 異世人ってあの異世界の?」
「そうだけど?………もしかして知らなかった?」
「ええぇぇええええぇえええぇええええぇぇええ!!!!!!!!!!!?」
どうして!? 何で!? 海洞が異世界の住人のハズがない!
イアルはあまりのショックに頭がその事実を受け入れずそのまま後ろにふらふらと下がり、腰が抜けてその場でそのまま貧血のようにぺたんと座り込んでしまったのでアルティが心配して近づく
「う…………嘘でしょ? ………そんな……海洞って異世人のワケが……」
「落ち着いてイアル。」
「そんな…………だって『開眼』を会得しているじゃない……」
「…………ホントに何も聞かされてなかったのね。中央の人たちはこのことを隠しておきたいのかしら?」
アルティは誰かいるわけでもないのに遠い空を見つめるような視線で天井を見る。そばには護熾が異世界の住人だということを初めて知ったイアルがただただ自分に初めて敗北を思い知らせてくれたあの少年がここの世界の人ではないことにショックを受けていたが、やがて落ち着かせるように溜息をつき、顔を上げると
「ア、アルティ。じゃあ知ってる限りでいいから海洞のこと教えてくんない?」
「ええ、知ってる限りで」
「入るぞ〜ユキナ〜」
一方、護熾はノックをして返事がなかったので扉を開けて中の様子を見ながら入る。
ベットの上ではユキナが寝ている。護熾はベットに近づきユキナの耳元に大声で、
「起きろ!!!!」
叫んだ途端、ユキナが飛び起きて目を覚ました。びっくりして目をぱちくりさせて護熾のほうに顔が向く。
「ほらこれ、アルティが届けてくれたぞ」
そう言いながら手に持っている服を突き出すように差し出す。
ユキナは少し混乱しながらもソッと手を伸ばしてそれを受け取る。
そして受け取ったあと、表情を険しくし、顔を急に赤らめながら叫ぶように、
「昨日私に何したの!!?」
「うお! いきなりなんだ?」
「何で私は全裸だったの!!!!?」
「………………そりゃおめえがしたことだろうが」
「何!? 私が自分で脱いだって言うの!!?」
一旦、肩で大きく息をした護熾はギロリとユキナの方を見ると、あんなことが二度とないようにするには本人に気をつけてもらわなくちゃな、と判断し、やや怒鳴り声言う。
「お前が昨日酒飲んだからだよ!!!! 急に全裸でこの部屋に入ってきやがって!!!! 自業自得だぞ!!」
「……………えええ!? 何!? あれお酒だったの!?」
キョトンとベットの上で昨日自分が飲んだものをユキナは思い出して見る。
昨日護熾に飲み物を渡そうとして、そして寝ていたから代わりに自分が飲み――――その後の記憶がない。
「私ってお酒飲むと…………裸になるんだ」
護熾はユキナの言ったことを聞き取ると 『ああ、そうだよ!!』とふんぞり返ってみせる。
その途端、校内放送から“片づけ終了”の合図が入る。
内容は放送部の生徒が全生徒に向けて各自それぞれ事が済んだら自分のクラスに戻り、そこで先生のお話を聞いてから家に戻ることだった。
放送を聞き終えた護熾はユキナのほうに顔を向け、
「…………お前、結局何にもしなかったな」
「ああ〜〜終わってしまったのね〜〜〜〜〜〜お片づけやりたかったのに〜〜〜」
ユキナは残念そうに弱々しい声で大の字になり、ベットに寝ころんだ。
10分後、ユキナは私服に着替え終わり、家に帰る準備が整ったあと、外で待っていた護熾がドアから覗き込むように顔を出したあと、
「なあユキナ…………そろそろ一週間経つから戻らねえと」
「え!?何で?」
突然そんなことを言ったので思わずびっくりした表情で護熾のほうに顔を向ける。護熾は覗き込んでいた顔を引っ込め、壁に寄りかかりながら
「いや、親父に一週間で戻るって言ったから明日で丁度一週間になるんだよ。だからそろそろ戻らねえといけない気がして……」
それに毎年夏休みには中学から決まって沢木から遊びのお誘いが来る。それでいらん心配を掛けさせては後々何を言われるか溜まったものではない。
それにユキナは少し困惑する。
護熾が元の世界に戻るということは自分はこの世界からまた、離れなくちゃいけないからだ。ユキナはまだこの世界に未練が残っているが、でもそれじゃあ護熾のためにならない少し悩むが、すぐにドアのほうに向かい、開けながら
「じゃあ、明日帰るってことでいいわね?」
「ん。そうだな。明日だな」
覚悟を決めたのか、ユキナはしっかりとした目で部屋から出てきた。




