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ユキナDiary-  作者: PM8:00
39/150

38日目 月の少女

 



 



「うおっ!!?」


 突然来たイアルの攻撃を護熾は辛うじて持っていた棒で反射的に防ぐ。

 金属同士のぶつかり合いで重く、よく響く音が空間に広がっていく。

 打ち込みは強く、少女だと思えない力で簡単に後ろに強制的に下げられてしまい、さらには相手に容赦という言葉はないようで、続けざまに間合いを詰めるとそのまま体重を乗せて二撃目を加える。

 が、護熾も護熾で決して素人というわけではないので攻撃を受けた瞬間、横へと体をずらし、衝撃を和らげながら地面にゴロゴロと転がって回避する。


「へえ〜〜やるじゃない。素人かと思ったけどそうでもなさそうね」


 相手の咄嗟の機転に感心の声を述べるイアル。護熾はどうしたら鎌へと変えられるか分からず慌てた様子を見せるが、今はどうやったら今の状況を事なきに終えることができるか考える方が先だった。

 

 ここで『参った』と言えばどうだろうか? いや、そんなことを聞き入れてくれるようなタマじゃなさそうだな、護熾は相手の様子からそう推測し、できるだけ攻撃せずに何とか攻撃を防ぐだけに使えるこの鉄の棒だけで凌ごうと考え、両手にしっかりと握りしめる。

 

 イアルは一回グルンと頭上で鎌を回転させてから突進し、三度目の攻撃を加えようとする。

 護熾は素直にまた棒で受け止めようと横にして防ぐ体勢に入るが、ガーディアンとしての経験なのか、イアルは途中で攻撃を止めると縦から横に切り替え、胴体を分断するように振り抜く。


「いいっ!?」


 驚愕の声を上げた護熾はそのまま後ろに下がり、服に切っ先が掠りながらもギリギリでかわし、一度距離を取るために相手を見ながら後ろに下がる。

 一方、攻撃を外したイアルはちっと舌打ちし、片手に鎌を持ち替えて護熾を見据える。


「あなた、只者じゃないわね。私の確実に当たったと思った攻撃をすんなり避けるとは、やっぱりあなた、シバさんについてきていたところから推測すると軍のヒト?」

「いや、違う」

「そう、じゃ続行ね」


 もう一度攻撃を仕掛けようと両手に持ち直し、横に大きく振りかぶるとリーチを利用しての広範囲攻撃に転じ始めめ、そのまま間合いを詰め始める。護熾はあの状態なら急に攻撃の軌道を変えることはないだろうと読み、案の定、横に大きく振りかぶってきたのでそのまま胸に両膝を持ってくるようにして大きく跳躍し、すんなりと避ける。

 そしてそのまま二人はすれ違い、互いに背き合った状態で立つ。


「あなた、何故攻撃してこないの?」

「あぁ? オレは別にあんたとやる気はねえんだよ!」


 振り返りながらイアルは言い、護熾がやや口調を高くして言う。

 あれほど回避力があり、攻撃をするチャンスがいくらでもあったのに関わらず一切反撃をしてこない。 つまり相手が遠慮しているのか? それとも、


「ねえ、もしかして私が“女”だからなの?」


 その言葉に一瞬、護熾は反応するが『お前、人の話聞いてたか?』と逆に聞き返すがイアルはそんなことは耳に入れず、


「変な騎士道を持ってかかってくるなら痛い目に遭うわよ!」


 再び突進を開始し、護熾は棒を盾代わりにして衝突した。

 さっきよりも打ち込みが強くなっている。

 護熾は顔を少し歪ませ、そして大きく後ろに跳ね飛ばされる。

 背中からフェンスに当たり、ジャラジャラとやかましい音をフィールド内に立てて思わず持っている棒を離しそうになるが、すぐに顔を上げて体勢を立て直そうとすると既に相手は縦に鎌を大きく振りかぶっており、それを振り下ろしてきたので横に転がって避ける。

 

 そして先程自分がいた場所をすぐさま見ると、鎌の刃先が床に刺さっており、グッと力を入れて引き抜かれるとそこには数センチほどの細い穴ができていた。

 間違いなくあそこに留まっていたら怪我どころじゃ済まないじゃねえか!

 護熾はぎりっと奥歯を噛みしめ、自分を本気の攻撃で倒そうとしている少女に目をやる。


 そんな二人の戦いに気がついた同じ階にいる生徒達は口々に、


「おい! あそこでイアルと誰かが戦っているぞ!?」

「おっ、そんな無謀な挑戦をしている奴がこの学校にいるなんてどんな奴だ!?」

「何だか面白そうだな!他のみんなも呼ぼうぜ!」


 あの校内最強と言われるイアルと戦っている人物は何者か? そして勝敗はどちらに?

 その勝負に興味を持った生徒達は戦いを間近に見るために一旦稽古をやめて二人のいるフィールドへと場所を移し始めた。








「あ! アルティ見っけ♪!」


 一方、女子寮に来ているユキナは一番奥にある“アルティ”と書かれた個室を覗き込んで、アルティがベットに座りながら本を読んでいるのを発見していた。

 アルティは声に気がつき、少し驚いた様子でユキナを見る。


「ユキナ…………来ていたの?」


 そう言いながら立ち上がり、ユキナの側まで近づいていく。すると笑顔でアルティを出迎えたユキナはアルティの手を両手で持ち、ブンブン上下に振って


「そうなのよ〜〜護熾とシバさんと一緒にここに来たんだけどここも変わらないね!? そういえばこの前の任務ご苦労さん!」

「ラルモが言いたかったのはこのことだったのね。フフッ」


 先程ラルモがこの部屋のドアまで来て、『お〜いアルティ! 実はさ』のところで『きゃ〜!! ラルモ!! 何であんたここにいるのよ!?』と運悪く寮に住んでいる女子に見つかりそのまま」逃走を開始したので結局何が言いたかったのか分からなかったが、こうしてユキナがここにいるということは、そう伝えたかったのだろう。

 アルティはそう分かると嬉しいのだろうか、少し微笑んだ。ユキナはそのことにちょっと驚いて目を大きく開くが、すぐまた笑顔に戻って


「アルティの笑顔、久々に見たな〜〜〜〜っと、そういえば護熾が三階に行ってるから行こ行こ!」

「三階? ……確かイアルが…………わかった、行きましょ」


 確か三階にはイアルがいる。そして護熾がそこにいるということは。

 アルティはすぐに嫌な予感がし、すぐにユキナを連れて三階へいくエレベーターに行くためにひとまず部屋を出て行った。











「ありゃりゃ? 何だこの集まりは!?」


 シバはエレベーターから降りるとまず目に入ったのが一番奥の方で生徒達が何かサッカーの試合でも見ているような感じで集まって同じ方向を見て応援しているところだった。

 一体何の騒ぎなんだろう? 

 シバは気になって生徒達が見ている方向に顔を向けながら近づいていくと―――何故か護熾が必死にイアルの攻撃を防いだり避けたりしている光景がそこにあった。


「え!? 何で護熾がイアルの相手をしているんだ!?」

「あ、先生! イアルと戦っているあの生徒知ってるんですか?」


 生徒に尋ねられ、『ん? ああ一応ね』と短く答えてもう一度顔を二人に急いで向ける。

 護熾は一切攻撃をしないがシバから見ると中々良い動きをしている。 

 自分はイアルに稽古を頼まれたのでそれをしに来たのだから今此処で自分が出れば戦いは終わってしまう。

 もう少し見てみたいし護熾とイアルのどっちが強いかにも興味があるな〜、とシバは自分の好奇心に負けてそのまま観客として居座ることにした。


「ほらほら! 攻撃をしないとあなたやられるわよ!?」

「んなこと言われたって! 最初から戦う気がねえっていってんだろ!?」


 イアルが振り下ろした鎌を護熾が棒で受け流し、隙ができたところでその場からの回避。

 それの繰り返しでとうとうイアルはこの男と戦うのも飽きたし何より、攻撃を一切してこないことに苛立ちを感じていた。

 

「イアル〜〜〜〜頑張って〜〜〜〜!!!」

「誰だか知らないけどイアルと戦っている君! イアルの攻撃をそこまで受けて立っているなんて凄いよ!!」


 フェンスから二人にエールを送っている生徒達は、あのイアルの重い攻撃をあの鉄の棒だけで受け流している護熾に『あれ誰だろうね?制服は着ていないからこの学校の子じゃないわよね?』『それにしても反撃しないなあいつ』などとヒソヒソと互いに喋る。

 だが、生徒達が集まっているなんて目に入っていない二人は、イアルは攻撃に集中し、護熾は防御に徹する。

 

 だがそれも終わりを告げ始める。

 鎌を横に寝かせての大振りの攻撃を護熾は顔の横に棒を置いて防ぐ。

 鎌と棒がぶつかり一瞬だけ火花が散る。

 だが鎌は棒から退かず、今度はそのまま棒ごと力づくで切っ先を護熾の頬に無理矢理近づけ始める。

 そして、


「!!」

 

 咄嗟に顔を引くと鎌は後ろに引き、護熾の頬を少し抉りながらイアルの手元に戻った。


 ―――斬られた!


「ほら! 何動揺してるのよ!!」


 頬の怪我が気になって意識が途切れた直後、イアルの右下から左上に斬り上げた鎌に護熾の唯一の防御手段が弾き飛ばされ、何度も回転しながら三階の天井に飛んでいく。

 その瞬間に、誰もが武器を無くした相手ともう戦うことなくイアルの勝ちで決まりだな。

 そう思った時だった。

 イアルは鎌を仕舞い込む――――ではなく、鎌を上に掲げるように振りかざした。


「これで、終わりね」

「なっ!」


 これで試合は終わりではなかった。

 この試合のルールは相手が参ったと言ったら勝ち。

 そんなルールも試合の最中で忘れた護熾はただ茫然と振りかざされた鎌を見るしかできなかった。


「あなたはよく頑張ったわ。そしてこの状況でも参ったって言わないしその心にも感心するわ。でもあなたは一つだけ誤った。」


 両手に握っている鎌に力が入る。

 自分があれほどの攻撃をしても反撃をしてこないこの男が妙にむかつく。

 この男は自分と戦う気がないと言った。

 

 じゃあ、戦う気にさせてあげようじゃない!


 シバもこの状況はまずいと判断し、急いでフェンスの扉から入ろうと生徒達を退かして行こうとするが一足遅かった。


「反撃もしないで勝てる相手だと思うほど私は弱くないのよ!」


 鎌が勢いよく空気を斬りながら振り下ろされる。護熾の目には銀色に塗られた鎌の刃先がどんどん肩を切り下ろそうと近づいてくるのが嫌にゆっくりと見えた。

 あれは自分を怪我させるもの、あれは自分の命を脅かすもの。


 命の危険に晒されたとき、鎌を映し出している瞳の色が黒から翠に変わる。

 

 そして鎌が振り下ろされ、血しぶきが飛ぶかと思いきや―――振り下ろした場所に護熾の姿はなかった。





「え――――あいつはどこに?」


 絶対に逃げられる状況じゃなかったハズ。なのに護熾の姿はない。

 キョロキョロと左右を見るとこの試合を観ていた生徒達がポカンと口を開けてみな一斉に自分の後ろの方を観ていることに気がつき、ゆっくりと後ろを振り向くとそこには――



「アブねアブね!! てめぇ怪我するところじゃねえか!!!」


 抉られた頬を触りながら先程と雰囲気が変わった護熾の姿がそこにあった。

 眼と髪は鮮やかなエメラルドグリーン。そして時折体から滲み出るオーラが威圧感を与えてくる。

 開眼。

 護熾は命の危険と判断したイアルの攻撃から脱するために、無意識のうちに発現、そして瞬時に常人の目では捉えきれない瞬発の動きで回り込んだのだ。

 

「え……嘘………」


 人離れした色を眼と髪に染めて戦闘能力を大幅に上げ、そしてそれになれるのは十人にも満たないと言われている白兵戦最強の『開眼』。そんな選ばれた人にしかなれないと言われている開眼会得者が今、戦っている男がそれだった。

 そして朝の会話が思い出される。


『ねえねえ、カルスでの戦いの時に兵士達とそれに参戦していた“ガーディアン”達から【オレンジの女の子】と【緑色の少年】が戦っていたっていう目撃情報が入って今生徒達の間で話題になっているよ♪』

『一体誰だもんよ? 情報からして眼の使い手っぽいけど……』


 カルスを救った緑色の少年。それが目の前にいる。

 生徒達も今話題になっている緑の少年のことを当然知っているため護熾の今の姿にただただポカンと口を開けて静かに黙って観ているしかできなかった。

 シバはフェンスに手を掛けたまま開眼をしてしまった護熾を見て、


「やっぱまずかったな。イアルの闘争心に火がつくぞ」












「あなた、一体?」

「え?何が……ってうぉいっ!!! しまった!! 開眼をしてしまっ――――!!!」


 体から出ているオーラで自分が無意識に開眼状態になっていることに気がついた護熾は次に、フェンスの外にいるいつの間にか集まっていた生徒達に気がつき、自分の姿を見て驚いていることにも気がついて唖然とした。

 もう誤魔化せない。証人はこの場にいる全員。

 ガーンという効果音が頭の中に響く中、


「まさかあなたがカルスを救った人物だったとわね! 一度眼の使い手と戦いたかったのよ!!」


 嬉しそうに、イアルは『おぉおおお!!!』と声を上げながら相手が例え開眼者であっても臆せずに果敢に飛び掛かり始める。護熾はまだ攻撃を続けようとするイアルに後から気がつくと既にイアルの鎌の切っ先が首元まで来ており、そのまま下手したら首が切れる――護熾の手が鎌の峰を掴んでいる。


「なっ!!!」


 鎌を掴んだ手はそのままイアルを投げ飛ばし、鎌を離させるとイアルは両手をついて体勢を立て直しながら床を滑り、護熾はそのまま鎌をポイッと隣のフィールドに投げて相手の攻撃手段を封じることに成功した。

 これで終わりだな、そう思いイアルを見ると


「まだまだぁ!!」


 ―――えええええぇぇ!?


 武器など付属品にすぎんわ!とイアルは今度は素手で勝負に転じ、右ストレートのパンチがくるが、今の護熾にとっては集中してみればまさしく止まって見える程度の速度でしかなかったためあっさりと避けられる。

 そのあと何度も素手による攻撃をするがそのたびにヒョイッと避けられる。

 

「せっかく! 眼の使い手と! 戦えるんだから!」


 自分に言い聞かせるように言うイアルは例え攻撃が外れてもそのまま続ける。

 何度も何度も、時に蹴りも交えてくるが、開眼状態の護熾には何の意味も為さない。

 そしてとうとう疲れてしまったのか、パンチを避けられるとそのまま拳に体が持って行かれ、護熾の横を通り過ぎると両膝をついて倒れてしまった。他の生徒達も心配して、『おい!止めさせようぜ』と声が上がると


「まだ、まだ私は参ったって言って……いない!」


 生徒の声に憚るようにイアルは立ち上がり、ギロッと護熾を睨み付ける。まだ闘争心の消えていない、諦めていない目。自らのプライドなのか、生徒達に自分の負けるところを見せたくない!それが今のイアルを後押ししている心情。

 護熾はそんなイアルの顔を見て、少しだけ目を大きくしてから――憐れんでいる目で見据えた。


「あああああああああああああぁぁぁぁ!!!!!」


 また避けられるかも知れない。

 それでもイアルは叫びながら右手に作った拳を携えて突っ込んでいく。そして護熾は、避けなかった。

 護熾の左胸にイアルの拳が突き刺さる。

 だがそのパンチは弱々しく、鎌を振っているときほど力強いものではなかった。殴り終えたイアルはハァハァと息切れをして拳を戻さず、髪を前に垂らして顔を隠している。


「これで、満足か? イアル」


 優しく護熾は声を掛け、顔を覗き込むとそこには凛とした顔立ちでもなく闘志に燃えた顔でもなく―――女の子らしく泣いている顔がそこにあった。その涙は、悔しさから来ているものだった。

 

「ぐすん、ずるい、ずるいよ…………どうして……私は開眼できないの?」


 いくら校内最強だからといっても今のように結局は凡人としての限界で眼の使い手には勝てない。

 どんな武器を持っても結局は無意味で終わってしまう。初めて戦ってそう思った。

 同じ人間なのに力の差は歴然と違ってくる。

 

「ずるくねーよ。俺だって好きでなったわけじゃねえんだ」


 ピクンとイアルが反応する。開眼を会得していない者にとってはあまりにもずるい言葉。


「好きでなったわけじゃない? 何言ってるの? 開眼者になりたい人なんていくらでも……」

「うっせえな!!!!!」

「えっ」

「お前知ってか!? 開眼者は怪物と戦わなくちゃいけないんだぞ!!?」


 何故だか知らないが人に宿る力。それは怪物との戦いを義務づけられたあまりにも過酷な運命。それを羨ましいと思う人の気が、護熾にとっては知れていなかった。

 

 この力を持ってる人は皆、悲しい運命を纏った者。

 そしてこの力を持った者は、まるでその悲しみを打ち砕くために、利用されてるかのように戦うことを約束された言わば人間兵器。

 

 普通の人間の幸せと夢を捨てなきゃいけないこの力のどこが羨ましいんだ!?

 これのせいで怪物から狙われることも多々あるんだぞ!?、と怒鳴り声を上げながらイアルに向かって言う。


「護熾………」


 シバはイアルに向かって言う護熾の言葉に反応し、呟く。

 護熾はそっとイアルを体から離し、開眼を解くとふうと鼻で溜息をつき、


「もうやめにしようぜ? お前じゃ俺に勝てないことはさっきで分かったろ?」

「なっ! 私はまだ――――――!!」


「イアル、君の負けだ。」

「護熾の言うとおりだよ。イアル」


 まだ試合を続行しようと右手に再び拳を作ったイアルの両肩に手が乗せられて戦うのを止める声が二つ。

 一人はシバ、そしてもう一人はいつの間にか来ていたユキナ。そしてアルティがイアルの拳に手を置いてそれぞれ動きを封じていた。自分を取り囲んでいるのは戦う運命に委ねられた人達。

 羨ましがってはいけなんだ。

 そう思い、とうとう諦めたのか、イアルはがっくりと両膝をついて、視線を床に向け、そして


「参ったわ」


 自分の負けを認める言葉を口から出すとイアルの動きを止めていた手は離れた。

 

「おいっ」


 護熾の声に気がついたイアルは顔を上げさせると目の前に手が差し伸べられていることに気がつく。それは護熾が相手に対する敬意。


「良いか悪いか分からねえけどとりあえず試合終了は握手で片づけるのが礼儀だぜ?」


 少し、照れくさそうに言う護熾にイアルはソッと口元を緩ませ、差し伸べられた手に自分の手を伸ばすと、ギュッと握手をした。そしてそのまま護熾が力づくでそのまま持ち上げて立たせ、『ふう〜やれやれ』と服に付いた汚れなどを落としている光景がある。

 そんな護熾をイアルは不思議そうな目で先程浮かんだ疑問を向け始めていた。


 ―――彼は一体何者?


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