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ユキナDiary-  作者: PM8:00
38/150

37日目 風紀委員イアル

 




 エレベーターのランプが二階で止まる。

 つまりこのエレベーター内に誰かが乗り込んでくると言うことなので護熾はまたジロジロ見られるのかと溜息をつく。

 だがそんなことを考えても仕方がないとあきらめ、開く扉を見つめた。だが開いた瞬間 驚きで目が開いた。

 どこかで見た顔、だと思ったら同じ眼の使い手のラルモが乗り込んできた。

 服装は護熾達と変わらず私服姿でラルモは護熾が訊く前に先にエレベーターにいた護熾達に疑問の声を投げつける。


「あれ!? 護熾! ユキナ! 来てたのか?」

「何でこんなとこにお前がいるんだ!!」

「そりゃ〜ねー 俺もここの生徒だから」


 頭の後ろに腕を交差させてそう言い、エレベーターに入ってきた。

 実際、ユキナもここに通っていたというのだから大して驚くことではない。しかし眼の使い手の特権なのか、私服姿でいていいところが護熾は気になった。

 ユキナが下へ行くボタンを押そうとしたときに急いでこっちに来る生徒が見えた。

 髪がユキナよりも長く、身長は165くらいの女子。


「ちょっと待ちなさい〜!!」


 扉が閉まる直前、ターミーネーター2のTー1000の如く両手を突っ込ませ、そのまま『ふぬぉおおお』と謎の気合いを込めて無理矢理開け、開いたところで体を滑り込ませ、護熾達をびびらせながら中に入ってきた。


「よかった〜 間に合った〜」


 膝に手をかけ ぜぇ ぜぇ と息を切らしながらその生徒は言った。

 膝に手をついているので今は貞子みたいに髪を前にだらーっと垂らし、黒と緑のラインの制服を着ていて、他の生徒が着ていたような青い制服ではない。


「あ、イアルだ。護熾、気をつけろよ ……彼女、“風紀委員”だから」


 ラルモが護熾にひそひそと危ない乗り方をしたこの生徒のことについて短く説明を加える。


「危ない乗り込み方をしといてか?」


 明様に風紀委員のやる行動ではないないと護熾はボソッと突っ込む。

 しかしどちらにせよ相手はこの学校の生徒。用心するのに越したことはない。


「大丈夫? 危なかったわねさっき」


 そんな護熾の警戒心を知らずにユキナが顔を下からのぞき込んで心配そうにいうとイアルの目がジロリとユキナのほうに向く。

 突然、バッと髪を掻き上げながら乱れた髪を丁寧に手で直すと腰に手を当てて少し微笑むと


「久し振りね! ユキナ!」


 急にそう言われたユキナは少し驚いて後ろに下がり、目をぱちくりさせながら自分を見ているイアルを見据える。

 どうやら相手が誰だか分かっていないらしい。


「……どちら様?」

「イアルよ! イアル!! ほら! 五年前、一緒のクラスであなたと背が一緒だったあのイアルよ!」

「……………え!? イアル!? うそぉん!!」


 ユキナが驚愕の声を上げる。

 ユキナの記憶が正しければ、五年前のイアルは自分と背丈が一緒のはず。だが今目の前にいるのは五年の月日を経て、背が高くなり、女性らしくなったイアルの姿がある。

 五年間でついた体型の差、そして次にユキナの視線が向くのは女性の象徴の胸。制服越しでも分かるその大きさにユキナは自分のを見て、そして、


「何でみんな、スタイルいいのかしら――ブツブツ」


 体育座りで級友との体格の差に拗ね、体育座りでこちらに背を向けてブツブツと自分の幼児体型を呪う。護熾とラルモは後ろ頭に汗を掻いて『ユキナ、大丈夫か?』と声を恐る恐るかけ、慰めようとする。

 イアルはどこか勝ち誇ったような表情で左手を腰に添え、ビシッとユキナに指を突き出し、


「そしてあなたは五年前! 売店のパン屋からあんパンを大量に盗み出そうとしたのよ!」

「お前そんなことやったのか?」


 イアルの言ったことを聞いた護熾はユキナにそう問い掛ける。

 確かにこいつならそんなことをやりかねん、護熾はそこだけ妙に納得がいく。


「あー、あれね…………」


 覚えがあるのか、そう呟いてみせるが、級友のスタイルと自分のスタイルに相当ショックだったらしくまだズルズルと引きずっているユキナは元気のない返事を返す。

 ユキナが暗ーいムードのままなのでラルモは何とか明るくしようとイアルに話しかける。


「まぁまぁ、過去の話じゃんそれ! 久し振りの再会だから何か話そうぜ!」

「あなただって学校の銅像を破壊した器物損害の違反があるのよ!」


 ――ああ〜〜この人、電車で絶対駆け込み乗車をするタイプの人だ……


 さっきからイアルを見ていた護熾は悠長にそんなことを思いながらその様子を何もせずにボーッと見ていた。

 が、ここでイアルの目線が向く。

 確かこの人はシバ先生とユキナについてきていた人。

 故にユキナとシバと何らかの繋がりがあることは間違いなし。

 イアルは眉間にシワを寄せた少年に質問を投げかける。


「そういえばあなたは何なの? 見ない顔だけど」


 思ったより力強い視線に思わず後ずさる護熾。 

 イアルは問い質そうとずいずいと近づくと護熾はその度に蹈鞴を踏み、とうとう壁際まで追いつめられてしまった。イアルは確認するように下から上を見て、最後に護熾の顔のところで止まった。


「……ここの生徒じゃないのは間違いなさそうね……」


 ――どうすればいいんだ!? おい! 二人とも!


 護熾が他の二人に目で助けを求めるがユキナはまだショックから立ち直れて折らず、ラルモはイアルが苦手らしく、手を顔の前に合わせてすまねえと言わんばかりに


 ――すまん! 俺たちじゃ彼女を止められない

 

 もうお手上げ、といったことを目で伝えている。

 イアルはもう一度ズボンから上着、そして髪の毛を見たりして風紀委員らしくじっくり調べてから

 

「んーー まあいいや、あなたが誰であろうと校則違反をまだしてないから今回はいいわ」


 あきらめたのか、調べるに値しなかったのか、視線を護熾から逸らし扉のほうに向き直る。


 ――何なんだよ。とりあえず助かった。


 壁に寄りかかりながら安心したのか、胸に手を置いてため息をつく護熾。エレベーターのランプが1階についたことを示した。扉が開き最初に降りたイアルが護熾たちのほうを向き、ラルモ、そして背を向けて体育座りをしているユキナを順に見てから


「いい? ラルモ! ユキナ! 二人ともくれぐれも校則違反をしないように」

「へーい」

「…………」


 ラルモは前に項垂れて生返事を、ユキナは無言で返事をする。そして次に、


「そしてあなた」


 護熾の方に顔が向けられる。

 護熾は何だ何だと言った表情で巨取ったポーズをとっていると、


「この二人と一緒に連んでいたらあなたも校則違反をしかねないわよ。気をつけてね」


 その二人といるともしかしたら巻き添えを食うかもよという忠告だった。

 または、連んで変なことをしでかせばたたでは済まないという忠告でもあった。

 言いたいことは言ったのか、三人に注意を言ったあと 何か用事でもあるのか、走ってその場を後にしていった。


「何なんだあいつ? こえー、女子だな」

「護熾、言ってなかったけど彼女は“ガーディアン”の一員でもあるんだよ」


 彼女の名は『イアル』 この学校の風紀委員であり同時にこの学校での最高ランクの戦闘のスペシャリストの“ガーディアン”の一員で、戦闘能力は『眼の使い手』には劣るものの開眼状態でなければ向こうの方が強いとのこと。

 

 尚、数ヶ月に一度行われるバトル祭では最上階のスタジアムを使って各々の武器を持って戦う試合形式の大会では今のところ彼女を破った生徒、ガーディアンは存在せず、彼女は眼の使い手と戦いたがっているが、ラルモ曰く『絶対に戦いたくない』と断言した。

 ちなみに彼女の大人っぽい美しさは誰もが惹かれ、憧れていてここのサークルの中には彼女のファンクラブがあるそうだ。


「なるほどね つまりここでいう『優等生』ってわけか」

「そう、彼女は校則違反者に対してはかなり厳しいのよ」


 ショックから立ち直ったのか、ユキナはそう言いながら立ち上がり、振り向きながら言った。そして昔、自分があんパンを盗み出したのをイアルに見つかったことを思い出していた。パンを口にくわえて逃げるユキナとそれを追いかけるイアルの映像が頭に過ぎる。


 ――だっておいしいんだのも……あんパン


「じゃあ俺アルティ呼んでくるわ。あいつユキナがここに来たから喜ぶだろうな」

「あいつもいるのか?」

「だって俺とアルティ、ここの寮に住んでいるんだもん」


 この学校の1階にある寮は自己申告制であり、部屋はお世辞にも広くないが、机やタンス、ベットなどの生活には一通り揃っている部屋で、風呂は同じく1階の大浴場で済ますことを義務づけられている。

 尚、当然男子寮、女子寮に分けてあり、互いに異性の人間が入ることは禁止されているがラルモは分かってるのか、分かっていないのか、我が道を行くという感じで堂々と女子寮に向かって歩き始めてしまった。

 

 ラルモが視界から消えると護熾とユキナはエレベータから出て、さっきの緊迫した空気を解き放つようにう〜んと背伸びをした後


「俺、食堂ってとこに行ってみたいんだが……」


 護熾はユキナに『食堂フロア』と書かれている通路に指さして行きたいと言う。ユキナは過去なんてもう気にしないと主張しているような口調でさっきとは打って変わって元気な声で言った。


「じゃあそこに行ってみますか!」


 




 食堂フロアは今が昼の時間じゃないのか、かなり空いていた。テーブルがいくつも並んでいて窓の外から町がよく見える。おしゃべりで集まっている生徒が楽しそうにそこで過ごしていた。


「じゃあ、ちょっとトイレ行ってくるね」

「ああ、ここで待ってるよ」


 ユキナが行ってしまったので護熾はとりあえず何を売っているのか確認すべく食堂のカウンターに向かった。

 メニューには見たこと無いような料理が並んでおり、どれも見たことがない名前だった。 

 こんな料理を作るんだから変わった器具を使ってるんじゃないかと主婦心を刺激された護熾はカウンターの奥に見えるキッチンを覗き込むが、フライパンやまな板、鍋など護熾の世界のものとはなんら変わりなかった。


 ――なんだ、あんま変わらねえじゃん


 少しは期待していたのか、残念そうにため息をつき、元の席に戻ろうと歩みを開始するといきなり忙しそうな声で護熾に尋ねる声が後ろから聞こえた。


「ちょっとお聞きしたいんだけど。あんた料理できる?」


 振り向くと白衣を着ていて髪の毛を縛っているおばさんが立っていた。


「え、一応は……」

「じゃあよかった!さっきちょうど店員が風邪で来れないってきたからさー、手伝ってくんない?」


 そう言うと護熾の返事も聞かずカウンターから手を伸ばして襟を掴むとそのままカウンターの脇にある通路を潜り抜けさせ、返事も訊かずに無理矢理引きずり込んでしまった。

 そして反論する暇もなく、パパッと白衣と三角巾を手渡されると護熾はこれはこっから逃げ出せないな〜でもここの料理には興味があるなと白衣を急いで着始めた。










「うわっ なにこの数……」


 トイレから戻ってきたユキナの目に飛び込んできたのが食堂に集まってきているものすごい数の生徒であった。みんな売店のパン目当てで来ているようだ。長い列を作って並んでいる。


「あ、あんパンなくなっちゃう!」


 護熾を探すことよりも先に目の前で失われていくあんパンのほうを選び、急いで列に並ぶ。列はかなりの長蛇でまるで行列のできるラーメン屋のような光景である。


 ――う〜早く早く〜〜〜〜〜〜〜〜


 このままでは無くなってしまう。そんな危機感に見舞われる中、聞いてはならない悪夢のかけ声、『すいませ〜ん、売り切れましたー』が長蛇の列に掛かる。

 

 ――あ〜〜私のあんパン〜〜カームバック!


 あまりのショックでできた目の前のあんパンの幻影に手を伸ばしながらもペタンッとその場に座り込んでしまった。他のパンを買い損ねた生徒達も残念そうな顔をして別の売店に向かっていった。その場にユキナだけが取り残された。


「…………なにやってんだ? お前」


 この声に反応してさっきまでみんなが並んでいた売店のほうに視線を向けた。

 三角巾を頭に被り、白衣を着た護熾がカウンターからユキナをのぞき込んでいた。

 どんな状況なのよこれ、ユキナは沈黙の6秒後、


「……それはこっちのセリフよ」


 ゆっくりと立ち上がってカウンターに近づいて前に立ち、妙に護熾に白衣が似合っているので少しの間ジーッと見た後、


「なんであなたがそこにいるの?」

「いや、なんかさ ここの店員さん休んだらしくて代わりを探していた店長さんに声をかけられたんでその代理で」


 白衣を脱いで折りたたみながら、事の成り行きをユキナに説明した。

 しかしそんなことはどうでもよさそうにユキナは疲れたような顔をして


「はあ〜〜〜〜ここって結構人気があるんですぐ売り切れちゃうのよ〜だから五年前こっそり出荷前のあんパン頂いたんだけどあれ惜しかったな〜〜」


 残念そうにため息をついてユキナがカウンターにあごを乗せる。すると護熾が何かに気がついたように折りたたんだ白衣のポッケに手を突っ込み、ゴソゴソとすると、


「じゃあそのうまいあんパンとやらをいただきますか?」


 護熾が白衣から2個の袋に入ったあんパンを取り出してニッと笑った。

 それを見た瞬間、ユキナの髪の毛の一本がぴーんとアンテナみたいに真っ直ぐ伸び、同時に目がキラキラと輝き出す。


「店長にバイト料の代わりに貰ったんだ。感謝しろよな」


 護熾はあんパンをユキナに渡しながらそう付け加えると、ワナワナと手を震わせながら受け取ったユキナはまるで新しいオモチャでも貰ったような子供みたいにあんパンを見ている。


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜護熾!!! ありがとう〜〜〜〜」

「うおおっ 泣くなよこんな事で!!」


 あまりの嬉しさにユキナの目から嬉し涙がらはしゃぎ、護熾は周りからの注目を浴びないように宥めるよう注意を呼びかけた。

 そのあと二人は開いているテーブルに相席になって座る。

 それからユキナが先に力任せで袋を開け、両手にとって化石でも見るかのようにじっくり観察してから、パクつく。

 それから目の輝きを増しながら、


「そうそうこの味この味!! 変わらないな〜〜」

「おお、うめえな確かに……ここの連中が競い合って買うのがわかる気がする」


 ここのあんパンは生地がしっかりしていて同時にこしあんもよく仕上がっており、食べるたびに口の中に幸せが広がっていく。 

 護熾もこの味に驚いたらしくもったいないので少しずつ食べるようにし始めた。だがそれがすぐに間違いだったと護熾は後悔することになる。


「あら? いらないの?」


 ゆっくり食べるためにペースダウンした護熾の行動を何か具合が悪いんじゃないかと勘違いしたユキナは護熾の手からあんパンをヒョイッと奪い取るとそのままポーンと口に入れてしまった。


「……ぬぁああああああ!! てめぇええええ!!! なに人のを勝手に盗んで喰っているんだ!!!」

「ふえ? こえ、ひゃへたくはいのはほ……」(え?これ食べたくないのかと……)

「ゆっくり食べていたんだよ! 返せ〜〜〜〜〜」


 だが時既に遅し、口の中ではあんパンパラダイスになっていてもはやどんな料理人でも作り直すことができないカオスになっていることは護熾でもすぐに分かった。

 結局、あんパンを二口程度でユキナに盗られ、喰われた護熾はテーブルに片肘を乗せてそこに顎を乗せて、ユキナが口に含んでいるあんパンを飲む込むまで待っていた。


「おい、早く飲み込めよ!」

「ほっほまっへよ!おひいんははら、はほひひはいほ!」(ちょっと待ってよ! おいしいんだから楽しませてよ!)


 何なんだよたくっ、そう言って席を立ち上がろうとするとポッケが何か細かい震動で震えていることに気がつき、手を突っ込んで取り出すと称号を与えられたときに一緒に同封されていたテレフォンカードのような物体がブルブルと震えている。

 

 何だと思い、顔を近づけていくと突然、ブオンと低い音を出してプリズム上に光が展開する。それに驚いた護熾は顔をバッと離し、目を大きく開けて驚いていると映像が鮮明になっていき、上半身だけのトーマが姿を現した。


『えーと映像安定率百パーセントっと。よぉ護熾、どうやら起きたみたいだな? そこはF・Gか?』


 相変わらず口に白い棒をくわえたトーマがそこにいた。


「え!? 何これ!? このカードって通信機なの!?」

『お! 良い反応だな。君の言うとおりだ。このカード状の端末は君が眼の使い手としての証だからちゃんと持っててくれよ』


 このカード、通称『M・Gカード』(眼の使い手とガーディアンの頭文字をとってつけた)は文字通り証として必ず携帯をすることを義務づけられており、また通信機としての利用も可能で互いにコードを交換すればいつでも好きなときに話ができるという優れものである。

 だがユキナが持っているような黒い端末よりは電波が弱いため異世界越しでは連絡は取れないという。


『まあそんなわけでちゃんと作動するかどうかでテストしただけだからF・Gを楽しく見学しろよ。じゃあな』


 そう伝えるとプッとテレビを消したみたいに映像は掻き消えてしまった。護熾は茫然とカードを見ていたが、そのあとスッとポッケに再び仕舞い込み、ユキナの方に振り向いた。


「そういえばラルモの奴遅くねえか?」

「ああ〜〜たぶんね。今頃――――」



「こら〜〜〜ラルモ!! 何であなたはデリカシーを持っていないのよ!!?」

「わっはは!! だってアルティを呼ぶには直接行くしか手がねえもん!」


 ユキナの予想は的中し、今ラルモは女子寮に住んでいる女子達から追いかけられていた。当然といえば当然だがラルモはそんなこと一切気にしてませんといった楽しそうな顔で女子達からヒョイヒョイと猿のように逃げていく。


「―――だと思うから私はアルティのとこへ行きたいな」

「そうか、じゃあ俺は…………三階の戦闘訓練施設ってとこに行ってみたいな」


 そこでなら鍛錬が行えるなと思った護熾はユキナに『そこにいるけどいいよな?』と尋ねると『うんいいよ。また後で会おうね』と返事をし、互いに行きたいところへ足を進め、ひとまず解散と言うことになった。







「おお、バカに広いな〜〜〜〜」


 ここは三階の戦闘訓練施設。

 そこは天井が高くまた、運動するための師とのために風通しをよくする狙いで天井付近に青空が見える通気口がいくつもあった。床は緑色で各フィールドがテニスコートのフェンスみたいので囲まれており、他の人の邪魔にならないようになっている。しかも各フィールド一つ一つが戦闘訓練用なので広い。

 護熾はそこを歩きながら見ると途中、他の生徒達が練習しておりお互いに剣をぶつけ合ったりして、なかなかの練習試合になっていた。


「ここでいいかな?」


 奥にある誰から見てもよく分からない場所を選び、そこのフェンスのドアを開けて中に入っていく。護熾はここでちょっとした修行を行おうと考えていた。

 しかし開眼状態での鍛錬は当然できず、もしできたとしても下手をして飛光など撃てばこの学校の半分は消し飛んでしまうだろう。なのでそこは大人しく腕立てでもしようと腕をまくり始めると


「あら、さっきユキナと一緒にいた人じゃない。何でここに?」


 よく通る声。護熾がその声に気づいて振り返ると、そこにはフェンスの扉を開けて入ってくるイアルがいた。先の辺りが何かたたみ込まれているような鉄棒を持っていて手には滑り止めなのか、黒い革手袋をしている。


「え、イアル……だっけか? いやあの俺は別に……」

「あら、名前を覚えててくれたんだ。そういえばあなた、ここで鍛錬しに来たわけ?」

「……まあな、でも特に何かやるってわけじゃねえからもし邪魔だったら譲るけど……」

「いいえ、シバ先生が稽古をつけてくれるって言うから早めに来たんだけどちょうど良かったわ。相手してくれない?」

「え」


 護熾は硬直する。仮にも相手は女子で男子が相手をするというのはどうかという気持ちであったがそれとは別に、ラルモの言っていた『開眼状態じゃなかったら勝てない』が頭の中で繰り返される。つまり、今目の前にいるのは校内最強の人物。そして護熾はできれば開眼者であるということは伏せておきたく、ユキナの言い付けで自分が何者なのかを話してはいけないということなので


「あ、結構だ。じゃあ、これで」


 最悪の結末を回避するためにそそくさとその場から脱出しようとするとイアルは武器を持っていないから逃げようとしてるのねと解釈し、声を掛けて呼び止めると


「遠慮することはないのよ。武器なら二本あるし。」


 とイアルは一本に見えた鉄の棒をスッと二本に増やした。そしてその内の一本を投げ渡す。

 護熾は『何で二本持ってるんだよ!?』と投げ渡された棒を受け取ると割と重みがあり、そしてこれは何なのかとマジマジと見ているとイアルからルールが言い渡される。


「じゃあ今から稽古を始めるわよ! 一つ! 相手が参ったというまでやること。二つ! 手加減はしないこと! または怪我をさせられても文句は言わないこと! まあこの武器は殺傷能力がかなり抑え込められているから大丈夫だと思うけどね(でも怪我はする)。以上! 行くわよ〜〜〜」


 そう告げた後にグルングルンと鉄の棒を体の一部みたいに振り回した後、ジャッキンッと金属音を響かせて大きな刃が展開して鉄の棒が銀色の鎌へと変貌する。その姿はまるで月、そしてその月を振り回す少女。

 

 逃げられないことは考えるより先に明らかである。


「マジかよ……とんでもねえことになってきたな」


 護熾はギュッと棒を両手で握りしめ、自分に戦いを挑んできた少女を見据える。

 ここは何とかシバが来るまで持ち堪えれば何とかなるだろうと思い、鎌へと変身する棒を見下ろすと


「もう試合は始まっているのよ」


 いつの間にかイアルが目の前に来ていた。



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