36日目 F・G
暗闇の世界を誰かが疾走する音をさせている。
その音は段々暗闇の中でこちらに背を向けている人物の元へ近づくとその音に気が付いたその人物は振り返って
「お! 珍しく張り切っているな、っておっとォ!?」
サングラスを掛けた兄ちゃん風の若い男、第二は突然攻撃を仕掛けてきた開眼状態の護熾の右ストレートをあっさりと避ける。
護熾は攻撃の手を緩めずに容赦なくサングラスを叩き割るという信念の元で回し蹴りや踏み込みパンチなどを連続で繰り出すがスイスイとまるで紙のように避けていく。
「いや〜〜会うなり攻撃を仕掛けてくるとは元気な弟子だな〜〜」
「へっ! あんたの言葉が役に立ったから一応師匠とは認めてやるよ!」
避けながら第二が、吐き捨てるように言いながら護熾は一歩後ろに下がって右拳に力を溜めると、
「でもこれで終わりにするぜ! お喋りサングラスが!!」
気を込めた渾身の一撃が第二の顔に伸びていく。
そしてそのままと思いきや、第二はスッと左手の人差し指を顔の前に差し出すと衝撃が吸収されたかのように護熾の拳がそこで止まってしまった。
「なっ―――――指で!?」
「お前ちょっと気負いが過ぎるな。今のがお前の最高の攻撃だろ? まだまだだ」
トンッとボタンを押すように指を前に突き出すと護熾があっさり押し返されて尻餅を付いてしまった。 自分の攻撃がたかが指一本で止められてしまった。
護熾はショックを隠せず目を見開いたまま第二を見つめているとつかつかとこちらに近づいて手を翳すようにしてくると
「もうちょい現実で修行が必要だな。お前は成長率が半端ないからゆっくりやってこいよ。じゃあな」
護熾の視界が真っ白になり、真の暗闇が覆っていった。
「んあ? ここはどこだ!?」
「あ!! 護熾さんが起きた〜〜〜〜〜〜!!!!!」
「ぐごっ!? え? ぎゃああああぁぁあああああぁあああああああああ!!!!!!!」
朝、中央所属の病院で護熾は病院服を着ており、ベットの上で起きた。前回、ガナとの戦いで体力気力共に激しく消耗した護熾はあの後病院で適切な治療を受けて寝かされていた。
そしてその朝の目覚めを吹き飛ばす最初のモーニングショットは丁度見舞いに来ていたユリアの死の抱擁から始まった。
護熾は骨を折るんじゃないかと思われるほどのパワーを持った首に巻き付いたユリアの腕をペチペチと叩いてギブアップ宣言をし、それに気が付くと『あら、私ったらつい』と謝りながら身を引いてくれた。
一方、護熾の叫び声を聞きつけ、仕事の合間を縫ってお喋りをしていたミルナとユキナがバタバタと騒がしく駆けつけ、
「護熾!? 起きたの!?」
「護熾さん!! 体の方は!?」
部屋の中を覗き込むと既にユリアから着替えの一式を受け取った後で、丁度上着を着替えているところだった。見る限りでは傷一つ無く、まったくの健康体。
護熾は『おおっ、いたのか』と二人に気が付き、次にズボンをはき始める。
「護熾〜あなた二日も寝ていたのよ」
「……………えぇ!?」
履く作業を停止し、びっくりした表情で二人に顔を向ける。
ユキナ、そしてミルナの話に寄ると護熾は病院に運ばれた後、そのまま怪我の治療を行おうとしたら護熾の強大な気のおかげか、傷はほとんど治っていたらしく疲れを癒すために精密な検査をおこなった後にベットにゆっくり寝かせた。だが、一日目はピクリとも動かずにそのまま死んだように寝ていたためラルモとシバは特に心配して起きるのが今か今かと待っていたが結局起きず、そのまま二日目に突入、そして現在目覚めたというわけである。
「二日も寝ていたのか俺」
いまいち実感が湧かず、とりあえず履く作業を再開した護熾はバッチリ着替えを完了させ、元の元気な姿を三人に見せた。その姿を見たユリアは何だか気持ちが高揚し
「一昨日あんなことがあったと知らず護熾さんが入院したのを知ったときは心配で心配で………でも本当によかった!!!」
再び抱きつこうとしたので護熾は咄嗟に腕を掴んで何とか回避した。そして退院の届けを出すためにミルナに先導されながら病室を出てカウンターに向かおうと廊下を歩いているときだった。
向こうから何か脇に薄茶色の資料などを入れる紙袋を挟んだシバが護熾の姿を見ると喜びと嬉しさを込めた表情で駆け寄り、護熾の前で止まると脇に挟んでいた紙袋を差し出した。
護熾はそれを受け取り、怪訝そうな顔で中を見ようとするとシバは口の前に人差し指を当て、
「まだ開けないで持っててくれ。後で裏に来てくれないか? ユキナも」
そういうと風のようにシバは先に裏、霊園へと足を運んでいってしまった。
この後、無事退院届けを出した護熾は仕事に復帰するミルナに『世話になったな。ありがとよ』と礼を言って別れ、ユリアとは今日中に家に戻るから先に、と話をつけて必ず今日中に家に戻ると約束をしてからその場を後にした。
霊園。
かつて13年前に起きた大戦で犠牲になった人達を弔う場所。
二人が着くと祈念碑の前でシバが顔の前で合掌し、目をつむって祈っていた。
そして二人が近づいたことを感じ取ると祈っていた手を解き、二人に向き合った。
「ユキナ、この前はご苦労さん。護熾、本当にすまなかったな。」
「いえいえ、自分で決めてやったことだから気にしないで下さい。」
「そうか」
いくら自分で決めたことだからだと言っても、シバには責任の念は消えず、何かに相談するようにもう一度記念碑の方を見る。さっきの合掌と何か寂しそうな眼差し。護熾はきっとシバにも大切な人がいてその戦争で死んでしまったんだろうとその場で理解し、あえて尋ねずに次の言葉を待っていると
「この霊園には俺の妻が眠っている。」
護熾は急にシバが話したので片眉を上げて目を大きく開くと話が続く。
「13年前、大戦があったのはラルモから聞いたみたいだな?その時、死んでしまったんだ」
「…………そうだったんですか」
この人も心の傷を負っている。
だがシバはそれ以上は話してもくれず護熾は尋ねる気にもならなかった。
護熾は祈念碑の前に一歩歩み寄ると手を合わせて死者達に弔いの念を送る。
その隣ではユキナも見習って手を合わせて自分の父へ、そして死んでしまった人達に同じく祈る。
「じゃあ、それを開けて中を見てくれ」
祈り終わった護熾にシバは持っている紙袋の中身を見るように言った。
ズボッと手を入れて中の物を掴んで引っ張り出すと何やらテレフォンカードらしき四角い薄っぺらな物と書類みたいな物があり、そこに書かれていることを覗き込んで見ると
『カイドウ ゴオキ。そなたの勇気ある行動、強い心を評してそなたに称号を授け、以下その名を名乗ることを許す。』
と書かれており、下の方を読んでみると
『博士からの報告によりそなたに称号【翠眼】の名を与える』
「わあ〜〜とうとう護熾も眼の使い手として認められたのね♪」
称号を与えられることはつまりワイトの中央所属の“眼の使い手”として認められ、以後それなりの権限が与えられるという意味である。そしてこの許可証は必ず保管しなければならないという義務もある。
「これで君もりっぱな眼の使い手だ。」
ビリビリビリビリビリビリ
護熾はその許可証を何の躊躇いもなく縦に真っ二つに破った。
「ええええぇ!!? ちょっと!! 護熾くんそれはないよぉ!」
「シバさん、俺にこんなものを渡される資格なんてない。俺は人を護りきれなかったんだから」
破った理由はガナ戦の時に自分の対応が遅れて死なせてしまった人のためであり、少なくとも自分が賞賛される所など何もないと護熾はシバに話す。
こんなことを認められるために戦闘に参加したわけではない。
もっと自分の力が強ければ、あるいはあの死の光から人々を護れたかも知れない。
そんな後悔しか残っていない。
だから自分は受け取るのは称号だけでいい。それだけで充分だと言った。
「そうか……じゃあ改めてよろしくな! 八人目の眼の使い手!」
「こちらこそシバさん」
「護熾!いえ、『翠眼』! よろしくね!!」
「確かユキナは『烈眼』って名前だったな。改めてよろしくな………そういえばシバさん、そういえば後一人誰ですか?」
ユキナ、ガシュナ、ラルモ、ミルナ、アルティ、シバ、そして自分を入れても“七人”しかいないのに何故“八人”と言ったのか?そして前にユキナも護熾が開眼する前に“七人”と答えていることから聞き間違いでなければまだ自分が知らない眼の使い手が一人いるということになる。
シバはそのことを聞かれ、う〜んと苦しそうに唸ったあと、後ろを頭を掻きながら、
「トーマだよ。」
「えぇ!? 博士が!?」
しかしトーマは初めてあったときにはそんなことを明かさずに自分は研究者だと言い張っていたので何故そのことを話さなかったのかを考えていると
「あいつは…………実は俺もだけど13年前の大戦以来、【開眼】ができなくなってしまったんだ。だからあいつは本業の研究を主にしてるんだよ」
大方心の傷によるストレスで力自体が体の奥底で身を隠してしまっているのだとトーマはそう言ったそうだ。シバの心の傷は妻が死んだこと、トーマの心の傷は当時師としていた人物の死からきていることも話し、トーマはその師から引き継いだ結界の研究を完成させた。
護熾はカルスの時に何故シバが開眼をしなかったについて疑問を感じていたが、その気持ちもすっかり晴れていた。
「さてと、実は俺、ワイト中央軍所属の兵長っていう職に就いているけど………」
シバはそう言いながら服のファスナーを下げ、内ポケットを見せるかのように服を翻すと何か免許証みたいなものがあり、顔写真も貼られている。
護熾はそれが何なのか分からずにいるとユキナが突然、
「シバさん!! それって!!」
「ユキナは当然知ってるか。護熾、時間あるか?」
「え? まあありますけど――――」
「これって…………学校なのか?」
護熾は今、全長五十メートルほどあると思われる丸く、水色の金属光沢を放っている建物の前に来ていた。ここはワイトの北エリアでこの建物の周りにはこれといった建物は見あたらず完全に孤立していた。そんな中、小さな子供達が建物の側で遊び回ったり、設けられているベンチでは護熾より少し年下と見られる女子達が何か楽しそうに語り合っていた。
ポカンと学校にしては規模が大きいことに驚いている護熾にシバが得意そうにこの建物の名前を言った。
「護熾、ようこそ! “F・G”に!」
「ねえねえ、カルスでの戦いの時に兵士達とそれに参戦していた“ガーディアン”達から『オレンジの女の子』と【緑色の少年】が戦っていたっていう目撃情報が入って今生徒達の間で話題になっているよ♪」
「一体誰だもんよ? 情報からして眼の使い手っぽいけど……」
「オレンジ? もしかしてユキナかしら? そういえばもう帰ってきてるはずだから会えると思うけど……」
綺麗に掃除された廊下を二人が両傍らに、一人が真ん中を歩いてカルスでの戦いの話しをしていた。一人は褐色の肌をした大男で愛嬌のある顔をしており、特徴的な語尾で話し、もう一人は小柄でクリンとした感じで眼鏡がチャームポイントになっている女の子。
そしてその二人の間を歩いている人物は凛とした顔立ち、艶やかで腰まである黒髪をしており、どこか気の強そうな女子で三人とも黒の制服に緑のラインが入った制服を着こなしていた。
「それにしても“緑の少年”って一体?」
シバが見せてくれた免許証はこの学校の職員だという証で担当教科は戦闘と社会。何故職員になったかというと『子供達が好きだからだよ』と楽しそうに教えてくれた。
案内してくれたこの世界の学校は【フューチャーガーデン】通称“F・G”は 1Fに食堂や寮などの4つのフロア。 2Fが学習室(いわゆる教室)がたくさんあり、3Fが戦闘訓練施設、 4Fが学園長室。そして最上階がスタジアムと呼ばれている生徒達が実力を試す場があるという護熾の世界では考えられない構造をしていた。そして各階を繋いでいるのは階段とエレベーターだそうだ。
生徒達の独自のサークルも活発で、七歳から十八歳の子供達が通う一貫性の学校である。
「すげぇなぁ」
「ほら護熾、シバさんに置いてかれちゃうよ!」
ユキナが護熾の背中を押す。
高速道路みたいな道を進んでいくと、途中で木が植えられていたり、天井が開けていて青空がよく見えていた。
簡単に言えば開放的なのだ。
進むと改札口みたいなゲートが見えてきた。
その向こうには階段があり、さらに奥へと続いていた。
「シバ先生こんにちは。ユキナちゃん、お帰り。そして君は見ない顔だね」
ゲートの脇の監視室から老人が珍しそうな顔をしていった。
このゲートは中に出入りする生徒を確認するための場所であり、この改札口みたいなところに生徒独自に持ち合わせているカードキーを使って中に入る。つまりキーがなければ入ることができず、遅刻したこともこれですぐにばれるという意外と抜け目のないシステムになっているのだ。
老人はシバ、ユキナ、護熾の順に見て護熾に誰なんだい? 、と聞かれ、対応に困っていると、
「大丈夫ですよ。ちょっと中の見学と校長に会いに来ただけですから」
「シバ先生の友人、ですか。それだったら許可を出してもよさそうですね」
老人はそう言うとゲート脇にある教職員専用のゲートを開けてくれた。
三人はそこを潜り抜け、奥へと進むと開けた空間が目に入り始める。
その場所の中央に大きな柱みたいのが見えた。
その柱を取り囲むように廊下がぐるっとまわっている。
また、天井が非常に高く二階から見下ろせる通路や場所がいくつもある。小さい子達が追いかけっこしたりして遊んだり、歩きながら青い制服を着た生徒がおしゃべりをしていた。そしてその中を歩き始めるとすれ違う年の近い男女の生徒が珍しそうにこちらを見ている。
―――なんかな〜じろじろ見られているのはあんま好きじゃねえな
「どうしたの? 護熾 そんな顔しちゃって」
ユキナは周りを気にしている護熾に心配そうな顔を向ける。
護熾は頬を指で掻きながら、
「いや、なんかじろじろ見られるのが嫌だな〜って思って」
素直に思ったことを話してみる。
実際、どこを見ても、青い制服を着た生徒がこちらを見ており格好の注目の的になっていた。
ユキナもそれに気がつくが どうってことないでしょ?とまったく気にしない素振りで前を行くシバの後を再び、追いかけ始めた。
「あいつはここに通っていたんだろうから平気なんだろうけどな…………」
護熾はため息をついて渋々あとを追いかけていった。
「ねえねえ、シバ先生と一緒に歩いているあの2人なんだろうね?」
「さあ、誰なんだろう? 見たことない顔だわ〜」
二階から歩いている護とユキナを見ながら二人の女子がそのことについて話していた。
シバは元眼の使い手であり、この学校でも有名な人物なのでその後ろに付いてくる二人について話さないわけがなかった。
一人は背が低く、見た目も可愛い少女。
一人は背が高く、眉間にシワを寄せたような顔をしている少年。
一体どういう組み合わせで後ろを付いているのかについて話していると、
「どうしたの? 二人とも」
よく通る声が二人に掛けられた。
その声ははっきりとしておりどこか威圧感があった。
声を掛けられた二人の女子はビクッとして振り向くと腰まである長い髪、凛とした端整な顔立ち、そして他の生徒とは違う配色がなされた制服を着ている女子がこちらを見ながら立っていた。
「あ! イアルぅ、あのね、シバ先生と歩いている二人が気になるな〜って思って」
「シバ先生と一緒にいる二人? どれどれ」
イアルと呼ばれた少女はそう言うと女子生徒が指さしている通路の窓から1階を覗き込むと確かにシバの後ろによく見えないが黒髪のボサボサ頭の男と小さい黒髪の少女が他の生徒の注目を浴びながらエレベーターへと向かっているのが見えた。
「あれ? あの女の子……ユキナだわ!!」
イアルは小さい女の子がユキナだと分かると頭を引っ込め、急いでエレベーターの方に向かう。残された二人の女子はイアルの態度の変化に驚き、そのままその背中を見送りながら『あのイアルが反応するなんて、どんな子何だろうね?』とまた互いにお喋りを始めた。
「さて、このエレベーターでからしか学園長室には行けないから覚えとけよ」
ぐるっと回った廊下を歩いていき、大きな柱で見えなかった向こう側にエレベーターが存在していた。 シバはボタンを押しながらそう護熾に向かって説明をし終え、降りてくるのを待つ。
チーン!
独特の電子音を響かせながら到着の合図が耳に届くと閉まっていた両開きのドアが左右に消えるように開き、正方形の空間が姿を現す。
三人は中に人が乗っていないことを確認してから、そこに乗り込むと入ってきた方向に体を向ける。
そしてシバは、学校の階が表示されたボタン盤の方に一歩を歩を進めると腰を屈め、
「学園長殿! そちらに行きたいので許可を」
エレベーター内のスピーカーに向かって許可を求めるとその途端、扉が閉まり動き出した。
エレベーターのランプが四階を示し、扉が開く。
そこには豪華な扉があり、そこを開けていくと、そこは校長室よりも広く、高い 部屋がエレベーターの向こうにあった。
横の方に歴代の学園長なのか、写真が壁に並べられていた。
「さあさあ、こちらにおいで」
絨毯の道の向こうにある一際大きい机のところに白い顎髭と眼鏡をかけた老人が座りながら手招きをしていた。その姿は中央最重要にいた長老と呼ばれている人物そっくりである。
「あれ!? 長老じゃん!!」
「いや違うぞ護熾、あの方は長老の弟様だ」
シバがすぐに説明に入る。
長老には双子がいて兄の方が中央のトップに、弟の方がこの学校の学園長として治まっており、互いに仲が良く情報交換もよくする。
二人とも、よくこの町を知る人物なのだ。
なのでユキナが帰ってきていることもすでに護熾が何者なのかも知っているというわけである。
「うわ〜〜〜〜 似すぎでしょ」
護熾の言う通り、眼鏡をかけているのを除けばまったく一緒。
護熾とユキナは机から3メートル離れたところでシバに整列するように言われたので横に並んだ。
「ふむ、二人のことは兄から聞いておる。まずはユキナ、5年間もの任務ご苦労様」
ユキナは学園長の言葉に対してペコッと笑顔で礼で返す。
ふむ、と言ってから学園長は今度は護熾のほうに顔を向ける。
「そして異世界から来た護熾殿、お主の働きぶりはカルスでの戦いで聞いておる。町を守っていただき感謝する。」
護熾もユキナに習って同じく礼で返した。
「護熾殿、“フューチャーガーデン』 略して“F・GZ”へようこそ。ここは未来を守り育てる いわゆる養育施設じゃ、ゆっくり見学をしていってくれ。」
「学園長、ありがとうございます」
「じゃあ護熾! 行くわよ〜〜〜」
ユキナは『待っていました!』と言わんばかりに護熾の襟をつかんで小さな体から出たとは思えない力で引きずると開いていたエレベーターに滑り入った。
「あ! ちょっと待てよ! シバさん!! またあとで!」
護熾がシバに手を振って言った途端、エレベーターの扉が ガタンッと閉まった。そしてそのまま下に下がっていくのがランプで表示される。置いてかれてしまったシバは学園長に顔を向けると学園長はうむと頷きシバも頷く。
それからゆっくり、シバは口を開いた。
「彼は、とても強いです。まるで自分の力の使い方を知ってるかのように。」
「そうらしいの。博士からも護熾殿が持ち合わせている気の大きさの原因については解明ができていないそうじゃ」
「そうですか。まあ、私は護熾に謝らなければならないことがあるのでこれで失礼しますね」
「うむ、午後の授業は確か一人、生徒がお主に戦い方のレクチャーを求めていたな」
「ええ、イアルのことですね」