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ユキナDiary-  作者: PM8:00
31/150

31日目 質問と答え

 




 中央四大東門で入場審査を通った護熾とユキナは今、トーマから許可を得て、研究所の地下1階にある観察部屋に来ていた。

 ここでなら開眼状態になって暴れても音が外に漏れず、さらに壁は対爆用なので飛光や疾火等などの強力な攻撃の練習をしても周りに被害を与えることはない。鍛錬、修行をするにはうってつけの場所である。

 

「ふおおおおおおおおおーーーーーーーーーーー!!!」


 体中全ての力を絞るような声を広げ、部屋の中で護熾は掌を壁に向けて“飛光”を撃つ練習をしている。

 だが案の定、途中までは形にはなるものの、やはり風船のように情けなく萎んでいき失敗に終わる。

 一方ユキナはというと護熾の横4メートル辺りで鞘に収まっている蒼い刀を両手に持ち、瞼を閉じて己の内に流れる気を正確に感じ取り、ぼうっとオレンジに光らせていた。自分に流れる気の全てを把握しそれを操ることで質の向上、同調を試みているのだ。

 こうすることで完璧に気を操ったり、疾火の威力を上げたりするのだ。

 三度失敗に終わった護熾は両手に膝を付き、隣で気の向上を図っているユキナをちらっと見るとユキナの体から放出されている気が視覚化されていたのでそれをじっと見る。

 オレンジ色の陽炎がゆらゆらとユキナに纏っている。どこか温度がある、そんな気。

 やがてオーラは波打つのを止め収縮し、吸収されるとユキナはふうと溜息をつき、切っ先を下に向けた。


「まだまだね、もっとがんばらなきゃ」


 そう言い、刀を腰のベルトに差すと一回うーんと背伸びをし、それから護熾の方を見た。

 護熾は既に顔はこちらに向けて折らずに相変わらず、飛光を撃とうと何度も何度も撃つ直前まで持ってくるものの、やはり発射前にまるで撃っちゃダメと体が言ってるように勢いを無くして萎んでいってしまう。


 ――もし、護熾が撃つことができたら相当な威力になるのにね。


 撃つ直前までは本人は気付いていないらしく、ユキナから見れば大波がくるような空気が部屋全体を一瞬、包み込む。だがそれはほんの一瞬。やっぱりできていない。

 結局、撃とうとするたびに反動だけが体に響き、疲れが溜まるとやがて仰向けに倒れ、汗を掻きながら どうしてできねえんだ!?ちくしょ〜〜と情けない吠え声を天井に向かって叫び、体を休ませるのに専念し始めた。

 ユキナはそんな護熾を見て、手綱の握り方を教えればいいかな?と考え、歩み寄って倒れている護熾の横に立つとそのまましゃがみ込み、オレンジの瞳に翠の少年を映し出す。


「ちょうどいいわ。護熾、そのまま目をつむって私の言うとおりにして」

「ん? こうか?」


 言われたとおりに瞼を閉じると薄暗い世界が目の前に広がる。


「まずは心に円を浮かべ、それに色を付けるように想像して」


 ユキナが自分に何をさせたいか、やらせるからには意味はあるだろう。

 そう信じ、呼吸を整え、精神を集中させると体の奥底にぼんやりと円を描き、それに自分の色、つまり翠色に染めていく。すると何か、緑色の線がその円を拠点に全体に浸食するように張り巡らされ始める。そしてその張り巡らされた放射状の翠の糸の中心近くにオレンジの火のようなものができる。


「どう? 何か見えた?」

「何か蜘蛛の巣みてえのがあるし、真ん中当たりにオレンジ色の火が見えるけど…」

「ふ〜ん、一応、感じ取れたのね」


 ユキナが護熾にやらせたのはもう少しあとで教えようと思っていた“操気法”と呼ばれるものでこれは己の内に秘める生体エネルギーを頭の中で映像化し、どのように見えるかを試す訓練でこれができると他人の気を感じ取ったり、体に張り巡らせられたりと色々と便利なのだ。

 

 そして今、放射状の中心は護熾、そのすぐ近くにあるオレンジの火はユキナである。

 当然戦闘訓練を積んでいないミルナ一名を除いて他の眼の使い手はこれは簡単に扱え、戦闘に活用している。

 この操気法、実はこれさえできるのならば飛光は撃つことはもちろん、気を操って具現化させて自分だけの武具の精製、または飛光の性質、形態などを思いのまま操ることが可能になるハズ―――なのに飛光、武具精製の才能がまるでゼロの護熾にユキナは頭を悩ませた。


「う〜〜ん、それが出来るのに飛光が撃てないんじゃ、あなたはただの感覚超人よ」


 そう、このままではただの普通の人より数倍強いだけ。

 護熾はユキナの言葉を真摯に受け止め、その自分より強いユキナを見る。

 『知識持ナレジ』の時は自分が開眼をし、それに動揺した相手を一気に畳み掛けたから勝つことが出来たが、そういう状況は二度と来ないだろう。

 またあんな状況に出くわしたくない、心配を掛けさせたくない、強くなりたい。

 だが、今の自分は眼の使い手の基本と言われている飛光すら撃てないのだ。

 

 もう一度練習しよう、そう思い、ユキナの視線を受けながら立ち上がろうとした瞬間、



「やっほお〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!! ユキナ、そして護熾!! 元気してるか!?」


 苦労を知らない元気な声が衝撃波のように耳に届いた。

 二人が振り向くと入り口のドア近くに昨日アルティに黒こげにされ、ズルズルとゴミ袋みたいに連れて行かれた称号『琥眼』ラルモが二人を見ていた。

 ラルモは雰囲気が変わっている、つまり開眼状態の護熾を見ながら真っ直ぐ歩き、ユキナと挨拶を交わした後に護熾の体全体を観察するように見るとその色、気の大きさに感心するように声を漏らす。


「ホントに開眼だ、それに大きな気。武器は何が出せる!?」

「……………出せねえ」

「え?」

「だから…………出せねえんだよ」

 

 この世界の眼の使い手はみんな武器を持つ、そんな常識が適応されていない護熾は諦めた口調で答えるとラルモは特に気にするわけでもなく少し驚いた後『ああ、そうなんだ』とまあ成り立てだからそんなこともあるかと軽く頷き、ユキナの方にも顔を向けると


「ユキナ、その姿久々に見たぜ。気も上がってるし強くなってるね。」

「うん、ありがとラルモ。ラルモはどう?」

「うん? オレはバリバリだぜ! あ、そうだ! よーし、それじゃあ護熾! オレの開眼見せてやるぜ!!」


 頼んでいないけど興味はある。護熾はユキナ以外にはまだミルナとアルティの開眼状態しか見たことがなかったのでラルモを真剣な眼差しで見る。

 二人が見守る中、ラルモは一度深呼吸し、一度大きく吐いた。

 すると茶色っぽい髪は一瞬で鮮やかな、艶のある黄色へと入れ替わるように変わり、それと同時に瞳の色も同じ色へと変わる。

 

 黄色、それがラルモの開眼の特色。

 ラルモは開眼状態の調子を確かめるように二人の前で壁に右掌を向け、力を少し込めるとそこから黄色の光が生まれ、それがソフトボール程度の大きさになると放った。

 

 二人の目の前で風を放ちながら弾け飛ぶように飛んだ飛光はそのまま壁に一直線に進み、護熾はそのまま壁にぶつかって終わるのかと思いきや、ラルモは発射した掌を上に返し、くいっと指を自分の方に曲げると飛光は壁にぶつからず、そのまま直角に90°天井に向かって飛んでいき、そして綺麗に弧を描かせながら自分の元まで手繰り寄せるように飛光を放った手に戻すとそれをサッカーボールのように人差し指の上で回転させる。

 まるで生きているかのような動きを見せたラルモの飛光に護熾は驚きを隠せず、茫然としているとラルモは得意そうな口調で


「これがオレの飛光! 面白いだろ!? オレはみんなと違って自分の意思でこいつを操れるんだよ。」


 楽しそうにそう言い、光の球をスッと掌に吸い込ませるように消した。

 護熾にとってはそれが当たり前のように扱えるラルモが羨ましかった。

 

「ラルモ、護熾は飛光も撃てないのよ」

「え!? そうなの!?」


 ユキナから聞かされたその事実に驚愕したラルモはバッと護熾の方に向くと はい、それが何か? コンチクショウ!!と嫉妬を込めた目の恐い顔で睨まれたので『おおおお!!こえ〜〜〜』と頭に汗を掻き、苦笑いで二、三歩後ろに下がって何がきても大丈夫なように身構える。

 護熾は はあと溜息をつき、悔しそうに俯むくと悩みを打ち明けるように言う。


「ダメなんだよ。いくらやってもいくらコツを教えてもらっても撃てねえんだよ」


 所詮、一週間前くらいに開眼を会得した身。

 その成長力にはユキナも驚くべきものがある。だが、こうして汗まみれになるほど練習しても修得できない。

 自分だけができない孤立感でどこか焦りを感じていた。


「まあ、ゆっくりやるのが鍛錬だぞ?護熾」


 入り口から別の声。

 3人がそちらに目をやるといつもの白衣姿で口に白い棒をくわえたトーマが入り口近くの壁に寄りかかってこちらを見ていた。トーマは3人に近づき、そして息切れしながらこっちを見ている護熾を見据えると、何か思い出したようにそっと口を開いた。


「護熾、お前今、俺たちが“何語”で喋ってるか分かるか?」

「あ? そんなの日本語に――――」


 ふと頭に過ぎる違和感。言葉を途中で切らした護熾は何故そんなことを尋ねてきた理由を考え、何が言いたいのかがすぐに解った。

 ここは“異世界”。

 文化、もとい言葉も違うはずなのになぜ自分達はこうして普通に会話を交えているのか?

 護熾が何か、エイリアンでも見るかのようにユキナ、ラルモ、そしてトーマを順に見るとトーマは何を考えているか分かったらしくその答えを教えてくれた。


「気が付いたか? そう、お前が発している言葉と俺たちが話している言葉はまるで違うものだ。当然、お前が聞いている言葉も俺たちが聞いてる言葉も違うはずだ。」


 トーマの話にラルモ、そして一番長く一緒にいたユキナもそのことに気付いていなかったらしく目を丸くして話の続きを待っている。


「答えはこの世界中に張り巡らされている結界だよ。」


 認証して入れば装置が作り出す空間に身を置くことができ、どんなに暴れても、どんなに叫んでも外界の人々に不要な影響を及ばさない覆世孤立空間発生装置、通称『結界』。

 護熾もその機械には何度もお世話になり、望めば空を駆け抜けることができるその機械が何故言葉が通じる要因になっているかは話から大体想像は付いていた。

 

 トーマの話に寄れば、結界はトーマ自身が作り出した対怪物用の装置であり、怪物が纏うステルスの絶離空間に波長を合わせる、分かりやすく言えば水を纏って泳ぐ魚には水で周りを取り囲ってしまうという方法でパラアンのサポートを行う。

 

 だがそれはあくまで向こうの話。

 この世界では怪物はステルスなどを纏わずに容赦なく襲いかかり、不意に外へ出ようものなら一気に浚われてしまう。なのでこの世界ではわざと出力を抑え、そして全世界で怪物の出現を結界を通して発見し、それを各町の軍事力で撃破、ということになっているのだがもし、その町の力だけでは及ばない、または救援を呼ぶときに言葉という神が下ろした壁が立ちはだかってしまう。

 そこで言葉を一旦電子情報に変え、音を相手の耳、つまり電気信号を変換し―――


「はいはい、つまり世界で協力し合えるように翻訳装置を結界に搭載し、そのおかげで俺たちは何の隔たりもなくこうして話し合えるわけだろ?そして俺のとこの世界の結界にも同じのがある。そう言いたいんだろ博士?」

「…………まあ、簡潔に言えばそうだな」


 護熾が解りやすく要点だけを述べたのでそのおかげでトーマは研究者としての本領発揮の仕組みについての説明が出来なかったのでもの凄く落ち込んだ気分になった。

 そんな、落ち込んでいるトーマに護熾は一つ、頭にこの世界の疑問について知りたいことがあったのでそれについて尋ねると、トーマは軽く微笑んで いいよ、と応じてくれた。


「博士、“開眼”って何だ? そして眼の使い手って、一体?」


 最も単純で最も知りたい事柄、そして【開眼】。トーマは護熾の質問を受け取ると若干片眉を上げ、それから口に挟んでいた白い棒を手に取って鉛筆を回すようにクルクル回転させながら


「生体エネルギーについてはユキナから聞いてる?」


『ああ』と護熾が返事をすると一度軽く息を吐き、話した。


「まずは開眼について話そうか。開眼は俺たちの中にある生体エネルギー、通称“気”を解明できていないけど何らかの影響で爆発的に増やす形態であり、それによって人が怪物に身一つで闘う言わば【人間兵器】だ。」


 人間兵器、響きが悪い言葉にぞくっと来る。話は続く。


「そして眼の使い手というのは“代々”それら開眼を担う人達の総称のことでこの町ワイトの平和を守ってるし、他の町が怪物に襲撃された時には召集されて出撃することもある。」

「なあ博士、代々ってどういう事だ?それじゃあまるで俺たちの前に開眼を使える人がいたって言ってるもんじゃねえか?」


 護熾の質問にピクンとトーマは反応し、少しの間黙り、それから口を開く。


「ああ、正解だ。何百年も前から開眼は代々実に奇妙にこの町でしか会得者はいない。………………ラルモ、二人を裏に案内してくれないか?」

「え、あ、ハイ。」


 突然話をやめたトーマはラルモにある場所に護熾とユキナを案内するように頼んだ。

 護熾は当然不思議顔をトーマに向けるが、


「今から行くとこで全部解ると思うよ。」


 口に再び白い棒を挟み、それだけしか言ってくれなかった。






「それで護熾の人間性を測るおつもりですか?」

「うむ、それがわしらが下した判断じゃ。開眼を会得しとると言っても、やはり余所者をそう易々と認めるわけにはいかないんじゃろう。だからお主がその目で判断をしとくれないか?」

「…………私がどう言おうと覆るわけがないことはご承知です。しかし、彼はまだ―」

「言い訳は無用じゃ、じゃがワシだって本当はそうさせたくない。じゃからお主が面倒を見るんじゃぞ。事は一刻を争う、シバ、頼んだぞ」

「はい、仰せのままに」


 シバは丁寧に敬礼をし、それから身を翻して部屋を出て行った。

 その心の内に不安と抱きながら……



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