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ユキナDiary-  作者: PM8:00
22/150

22日目 異世界に到着

 







 玄関から出た二人はぶわっと体にまとわりついた夏の暑さに驚きながらも一旦先ほど自分達が出てきた家を名残惜しそうに見返した。護熾は家全体をぐるりと見てからユキナの方を見ると自分の部屋を見つめていることに気付き、同じように部屋を見ると、ユキナが口を開いた。


「あの部屋のベットともお別れなのね。ふかふかなのに〜」

「…………そこかよ」


 ビシッとツッコミを入れた護熾は両腰に手を当てて呆れ溜息をつくが、確かに自分の寝慣れたベットで寝られないというのはどこか心残りがあると思うが、そんな事は気にしてられないとすぐにその甘い考えを頭からきれいさっぱり斬り捨てた。

 そして、ケジメを付けた護熾はユキナが自分についてくるように言ってきたのでそれに従い、ちらっと自宅に目をやってから先を行く小さな背中を追いかけ始めた。

 


 今日は雲一つ無い澄み切った青空が永遠に空を覆い尽くす快晴。

 吸い込まれそうな晴天の底を歩く二人は一人は緊張した面持ちで、もう一人はその背中を見ながらどこへ向かうのだろうと怪訝そうな顔でノコノコとついていく。

 住宅街を抜け、両脇をマンションで挟まれた太いバス通りの歩道を通り過ぎ、さらに100メートル歩いた地点で護熾があとどのくらいで着くのかを訊こうとしたとき、ユキナは信号がない横断歩道の手前で立ち止まった。

 歩くのを止めたユキナに ここなのか?と訊くと、


「護熾、結界内に入って」


 と促されたので言われたとおり認証をして無音の世界へと入り込んだ。不気味な静けさの中、ユキナはずっと何かを待っているようにその場に佇んだので、しびれを切らした護熾は何か話そうとしたが、ユキナがはっと何かに気がついたようだったので途中で止めた。

 

 ユキナは一歩その場から身を引くように下がると歩道の真ん中当たりに黒い線がピー、と縦に引かれ、そこを境目にガバッと空間が門のように開かれた。

 

 護熾は目を丸くしてその光景に呆気にとられていたが、ユキナは平然と当たり前のようにしていた。そしてその空間の扉を一人の、黒髪の同じ歳のように見える黒づくめの戦闘服を着た若い男がくぐり抜け、二人の前に対峙すると、ユキナの姿を見た若い男は即座に敬礼のポーズをとった。


「ユキナさん! 五年間の【特例長期任務】、本当にご苦労さまでした! 連絡通り【繋世門けいせもん】をこちらに開き、交代に上がりました! ところでそちらの方は?」


 ユキナの後ろでポカンと口を開けて今自分の目の前に起こった現象が理解できない護熾に男は丁寧に訊くと代わりにユキナが答えた。


「この無愛想な顔をした人は護熾って言ってね、この世界の【眼の使い手】なのよ」

「―――――!!」

「…………無愛想な顔で悪かったな」


 この男が眼の使い手!?この恐い顔をした人が開眼者!? 若い男はスーパースターでも相手をしているかのような眼差しで護熾を上から下までまじまじと見るが、体全体を観察されるような視線に護熾が少し鬱陶しそうに咳き込んだのですぐに『失礼しました』と謝罪して二人が門を通れるよう、体を歩道の脇に置いた。

 男が退いたので、ユキナは護熾に この中に入るのよ、と教えてからスッと中に入っていった。

 

 黒い水のようなものが壁に張り付き、波打っている門の中に護熾は気色悪いとかなーり嫌がったが、ここで躊躇しても仕方がない、基い何も始まらないので心の中でまるでバンジージャンプをする前のような覚悟を決めて、駆け込むように入っていった。

 すると護熾が入っていったのが合図のように門は音もなく閉じるとスーッと陽炎のように空間へと溶けて消えていってしまった。

 やがて、その場には若い男を残して誰もいなくなり、男は自分の任務を果たしに地面を蹴って夏の青空の下を駆け抜け始めた。



 その頃、斉藤が、近藤が、沢木が、木村が、宮崎が、ほぼ同時にグラウンドから、たんぼ道から、自宅から、歩道から、校門から、それぞれ何かの気配を感じたように、導かれるように澄んだ青空を仰ぐと鳥のようなシルエットとそれに引かれるように白い線が青以外何もないキャンパスに描かれていた。


「「「「「あ、飛行機雲だ」」」」」


 五人は一斉に同じ事を言った。その中でただ一人、斉藤だけは誰かがいなくなったような不安に一瞬襲われたが、すぐに走るのに集中し、グラウンドを走っていった。

 蝉のやかましさが、七つ橋町を夏色に染めていく





 ここは護熾達【現世】の人達が知らない、そしてユキナが、その他の【異世界の守護者『パラアン』】が故郷とする世界。

 荒野の一本道を何台かのトラック、というより何かを輸送するための大型の軍の車でコンテナに何かの紋章が描かれていた。そしてその内一台にはコンテナの代わりに数人が寝泊まりでき、連結可能なキャビンが合体していた。

 

 計三台の車はそのキャビンを繋げているトラックを挟むようにして並行に走っていた。 

 運転してるのはやや黒っぽい服を着ている男性だった。

 よく見ると、どこかの軍隊に所属しているのか、右胸にコンテナと同じようなエンブレムが刺繍されている。他の車の運転席も見ると、一つも例外なく全員が黒ずくめの人達だった。

 

 コンテナの中が空っぽなので荒野を疾走しているこの車の一団は何かの任務を終えた帰りらしく、運転席と助手席の人達は互いに帰ったら何をするか?とりあえず風呂に入ってリフレッシュしたいなど、仕事の疲れを流したく自分達の住んでいる場所へと楽しそうに延々とつづく茶色の大地を走り抜けていた。

 

「なあ、お前の彼女の誕生日に何買ってあげるんだよ?」

「えぇ!? ……そうだな〜〜、まあ、帰ってから考えるよ」

「そういえば、このトレーラーに乗っている二人の【眼の使い手】、今回は同行の必要がなかったんじゃないか?」

「そうだけど。でも、もしもってことがあるじゃん。まあ怪物が出なかったから今回は俺ら運が良かったんじゃないの?」

「まあ、何はどうあれ、帰ったらまずは風呂だ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」


 こんな会話をしている二人の男の後部のキャビンでは二人の若者が静かに目的地の到着を心待ちにしていた。

 というのは二人の内の一人だけで、その一人は短髪で少し茶色の髪で黄色のフード付きトレーナーを纏い、ジーンズを履いた明るそうな、活発そうな少年で歳は護熾と同じように見える。その少年がもう一人の眼の使い手だろうと思われる人物に何か話しかけていた。


「いや〜〜〜〜〜この任務、怪物出なくってよかったな〜〜。なあ?」

「………………」

「そういえば今日ってあいつが帰ってくるよな!?」

「………………」

「頼む!! 返事プリ〜ズ!!」


 少年が手を合わせて返事を求めるがその人物はその少年がまるで幽霊か何かのように露骨に無視し、片手に持っている本を仏頂面で読んでいた。

 

 少年が話しかけている人物は少年と同じような歳の少女で、顔立ちは精悍、そしてどこか神秘的だが無表情であった。髪はやや長めの茶色がかった黒で、目は眠そうに半分開き、服装はセーラー服のようでスカートを履いている。

 

 少年はこの少女に何度も話しかけるが、少女は何も返事をしなかったので諦めたように腕を投げ出して席に寝ころんだが、すぐに何か思いついたらしく体を起こし、再び話しかけようとしたが今度は少女に動きがあった。


「…………!」


 少女は本から視線を外し、キャビンの天井を睨み付けていた。

 少年もこの異変に気がついたらしく、同じように目をやると、その表情は一気に険しくなった。

 そして、


「うわあああ!! 出やがった!!」


 運転席から驚き声があり、トラックは急ブレーキを掛けた。他の三台も同じようにブレーキを掛けて土埃を作りながら無毛の荒野に止まった。

 

 この事態にいち早く気がついた眼の使い手の内、少年の方が先に停止したキャビンのドアを開けて外に飛び出していき、大地に足を付け、トラックの前方を見ると十数体ほどの怪物の群れが蟻のようにわらわらと地面から這い出たり空間から急に姿を現したりなど獲物を待ちわびていたような獰猛な表情でこちらを睨んでいるのが見えた。

 

 少年は戦闘に入る前に体全体をほぐすように軽い運動をしていると後から腰のポケットに本を入れた少女がぴょんとキャビンから飛び降りて少年の隣に立つ。

 少女は前方10メートルほど先にいる怪物の群れに目をやると、特に表情を崩すことなく冷静に見据えていた。


「やっぱそう簡単には帰らせてくれなさそうだな。さてと、抜かりはないよな?」

「…………」

「よっしゃ!! 行くか!!!」


 少女の無言の返事を合図にまず少年が果敢に群れに向かって走り始めた。その少年の背中を見送りながら、少女はゆっくりと横に垂らしていた右手を持ち上げると、掌を少年から僅かにずらして、向けた。

 その後、怪物の群れは一分も掛からずに全滅したと、ある町に報告があり、同行していた人達からはすごいの一言に尽きるだけだったそうだ。




 繋世門通行中。

 泥沼のようにうねっている空間をひたすら歩いているユキナと護熾はかれこれ三分、この空間を歩いているのだが未だに出口らしきとこにたどり着けていなかった。

 ただ歩いているのは退屈だと感じた護熾はちょうどいろいろと質問するチャンスができたので、これを機に前を歩いているユキナに声を掛け、自分の質問に答えてくれないかと訊くと元気な返事が返ってきたのでそのまま質問をした。


「なあ? 前に【第二】が言ってたんだけどさ」

「え?護熾、もう【第二】に会ったの?」

「ああ、それでお前の親父が【第二解放】を修得したってホントか?」

「…………うん、そうらしいけど」

「“そうらしいけど”?」


 しゅんと語尾を下げたユキナに護熾は片眉をつりあげて不思議そうな表情になる。少しの間黙っていたユキナはやがて寂しそうな、悲しそうな声で口を開いた。


「私のお父さん……13年前に死んじゃってて……私……ほとんど知らないんだ…」

「……なっ…………そうか……訊いて悪いな」

「ううん、護熾が悪いんじゃないから」


 まさか自分と同じように記憶に残らず去っていってしまった親がユキナにも会ったなんて知らなかった。そして訊かなければよかった、そんな後悔の念が頭に過ぎ、護熾は右胸が痛くなるのを感じると右手を当て、ギュッと服を掴んだ。

 双方は無言のままでただ歩き続けた。護熾はこの重い空気を何とかしようとさっきの若い男が言ってた『連絡』という単語を思い出し、それについて尋ねてみた。


「なあ、さっきの奴が言ってた『連絡』ってのは何だ?それって一体―――?」

「これのこと?」


 護熾の質問に歩みを止めたユキナは振り向きながらおもむろにポケットから何かを取り出すとそれを護熾に見せつけるように突き出した。それは色は真っ黒で携帯電話ほどの大きさの折りたたみ式の機械だった。開くと蓋の部分がモニター画面になっており、縁にはアンテナが取り付けられていた。

 見たこともない機械に護熾は子供みたいに興味津々の顔でこれがどういうものなのかの説明を待っていると、ユキナが説明を始めてくれた。


「これは私達【異世界の守護者『パラアン』』が必ず持参している通信端末機なの。護熾の世界で任務をこなしながら生きて行くにはこれは必ず無くてはならない大切なものなのよ」


 そういい、電源のスイッチを入れると画面が点灯して何度か揺れた後、止まる。そこには護熾にも読める日本語で項目が複数書かれていた。

 『メッセージ』 『コール』 『レーダー』 『辞典』 『地図』、他にもまだあるがユキナが電源を切り、折りたたんでポッケにしまったのでこれ以上は分からなかった。


「あと私には必要ないけど、この機械は【結界】と連動して怪物の位置を知らせてくれたりしてくれるのよ。」

「すごいな! やっぱそっちの世界は俺んとこよりかなり進んでるんだな!」

「うん、そっちが遅れてるのよ!」

「……そんなこと言われたってな〜」

「ほらほら、こんなとこで時間を取っても仕方がないから動きましょ」

「それには賛成だな」


 さっきの暗い空気を吹き飛ばした二人は黙々と歩き続けること1分、ようやく出口らしき白い光が見え始め、そこに向かって一気に走り出し、白い空間をくぐり抜けるとそこは――岩がゴロゴロと転がっている赤茶色の原野だった。


「異世界に到着だぜ!! ――って、ここどこだよおい?」

「あれ? 道間違えたかな?」

「…………一本道だったよな?」

「それは………………私がここ長い間この世界に来てなかったからよ!!」

「嘘つけ!! どこで間違えたか知らねえけどお前道を踏み外したんだろ!?」

「ちょ、ちょっと待って! 今調べるから!」


 怒る護熾を宥め、ユキナはもう一度ポッケからあの通信端末機を取り出すと電源を入れて開き、画面が表示されると『地図』の項目を指で直接押し、次に二種類の地図が出てきたが、その内の片方を押し、細かく表示され地図が画面に現れた。その画面の中に赤く点滅しているトコがあり、それはすぐに今現在自分達のいる場所を示しているのだと分かる。

 自分達がいるとこを確認し、そして目を右へと動かしたユキナはふっと軽く溜息をついた。護熾はどうだったんだ?と訊くと


「私達は今、目的地から西に二キロの所にいるわ。しょうがないわね、行こう護熾」

「〜〜〜〜〜〜〜〜まあ、二キロなら大丈夫か」


 到着にまだまだ早い、そう考えて護熾は茶色の大地を歩き始めた。そんな護熾をユキナは少しからかうような口調で注意を呼びかけた。


「護熾〜〜〜〜そっちは西よ」


歩みを止めた護熾は恥ずかしそうに咳払いを一回すると振り返り、反対方向へ歩き始めた。そしてユキナの隣に立つと、『護熾って方向音痴?』と尋ねられたので


「う、うるせえ! ほら!! 先行くぞ!!」


 やや誤魔化しを入れた声で赤茶色の大地を走り始めた。ユキナもそれに続いて後を追いかける。

 まだ吸ったことがない空気を吸い、朗らかな風を肌に受け、まだ未知の世界に踏み込んだ護熾はただただ、すべてが新鮮に見え、東へ走り抜けていった。


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