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ユキナDiary-  作者: PM8:00
18/150

18日目 日曜日

 

 





 夜。

 ユキナの怪我が全快ではないので夜のパトロール、及び怪物退治は護熾が自ら進み出た。

 しかしユキナはそれに激しく抵抗し、傷口を広げるんじゃないかという勢いで護熾を止めようとしたので仕方なく、片手でベットに押し込み、ユキナが再び視線を護熾に向けたときには既に窓の縁に足を掛けて外に出る体勢に入っていた。


「心配すんな、戦い方は分かんねえけどやれるさ。怪我人は寝てろちゅうっの」


 そしてユキナが見送る中、護熾ははじけ飛んでみたいに窓から飛び出し、宙を走っていった。守るはずの“護熾ひと”に今は守られている。

やがて思い出すあの言葉。瀕死の状態から立ち上がり、自分に向かって言ってくれたあの

『俺が“護る”』

 この一言を思い出したユキナはしばらく、ぷくっと顔を膨らませて窓を見つめていたが、仕方なく布団に潜り込み、護熾の匂いがする枕を抱くと


「――――バヵ」


 悔しさと帰りを待ちわびているような寂しさを混ぜたで声で一言言った。





 













 日曜の朝。

 草に付いた露が日の光で何かの美術品のように美しく光る中、護熾は朝靄の中、二階の窓から入ってきた。眠そうな目以外は特に怪我などしておらず、ゆっくりと縁を飛び越えるように部屋の中に入るとベットで寝ているユキナの寝顔が目に飛び込んできた。

 

 あの自分に体を預けて安心しきった表情で寝ていた天使のような寝顔。

 護熾は引き寄せられるようにベットの横へと足を進め、視線を合わせるように座り込むとそのままその寝顔を見つめた。


 ―――何でこんな奴が五年間もこの世界でそんな危ない任務をこなしたんだ? だってこいつの見た目から推測すると歳は12、13くらいだろ? 高校に行っているのが不思議だ…

 

 疑問を張り巡らせているとユキナの頬当たりに何か小さな物が付いていることに気付き、顔を近づけてそれが何であるかを確認しようとしたときだった。

 ちょうどユキナの閉じていた瞼が開き、護熾が顔を近づけて埃を取ろうと自分の顔に手を伸ばしてきているところだったので セクハラ! 寝込み襲い! キスしようとしているの!? と勘違いをしたユキナは、かあーーっと顔を赤くすると同時に神速の蹴りで護熾の伸ばしていた手ごと壁に向かって吹き飛ばした。

 

 騒音と共に吹き飛ばされた護熾は怪物との戦いでは無傷だったのにユキナの蹴りで壁に頭をぶつけ、額を割ってしまい、そして真っ赤な線を引いて、壁を汚しながらだらだらと血を流し、その場で気を失ってしまった。

 ユキナは蹴り飛ばした直後すぐに起きあがり、壁でのびている護熾を見ると


『やりすぎだったか…』


 と呟き、反省すると布団を持ち出してベットから降り、布団をぶわっと広げて護熾に被せると自分はそのままぬくぬくの残ったベットへと戻り、布団に潜りながら


『私を襲うのは百年早いのよ』


 やがて今日が始まる。血だらけで倒れている護熾と共に――――




 











 左頬ではなく今度は右こめかみ大きな絆創膏を貼った護熾はユキナと共に買い物に出かけていた。

 成り行きは絆創膏を貼った護熾がやや不機嫌な表情ながらもユキナに『買い物行ってみたいか?』と訊いたところ、元気な返事で『うん!行ってみた〜い』と返ってきたので今は陽炎が立つ道路を歩いているのだ。

 

 澄み渡る雲一つない晴天は残酷なほど暑く、二人はできるだけ日陰を通りながら商店街へと移動をした。

 



 






 日曜なので賑やかな商店街。

 ユキナも知っているこの商店街では昨日、不良グループと護熾の壮絶な(?)戦いが繰り広げられたのをユキナは知らない。商店街の入り口付近で今日の昼食は何を食べようかと悩んでいる護熾の背中を誰かが指でつんつんと、つついたので振り向くと忍者の如く気配を消し、何やら嬉しそうな表情を浮かべた近藤とその後ろで気恥ずかしそうに顔を俯いている斉藤の姿が目に入った。


「…………よぉ、近藤、何用だ? そして斉藤、大丈夫か?」

「おっはよ〜〜〜気さくな男主婦海洞〜〜〜〜&ユキちゃん〜〜!!!」

「近藤さん、斉藤さんおはよ〜〜〜〜」

「ん〜〜〜〜〜ユキちゅん今日もかわいい〜〜〜〜〜〜〜〜〜」


 近藤はユキナの頭を撫でながらさらにゴシゴシと頬擦り開始。

 ユキナも嬉しそうに くすぐったい〜 と呟き、近藤は


『今日は私達もここに用があって来たんだけど、ユキちゃん連絡付かないから二人で来たけどちょうどよかったわ〜〜どうせなら四人で行きましょ』


 っと護熾は反論しても無駄だと分かっていたので仕方なく四人で商店街へと入っていった。

 今日は人は疎らだった。

 気分転換のために来たのでこれはこれでよかったのだが、昨日の騒動を覚えている人がおり、護熾を見かけるたびに少し微笑んだ表情で手を振ったので仕方なくそれに応える。

 

 ユキナは護熾がこの場所の常連客だと思い、さほど気にしなかった。

 しばらく前に進み、人混みの中へと入っていくと誰かと肩がぶつかり、護熾は謝ろうと顔を向けると目が少しだけ開いた。相手の驚いた表情で護熾を見返している。その後ろにいる二人も驚いた表情で立ち止まっていた。


「おおお〜〜〜〜〜!!!!! 海洞!!」

「沢木……か、あと木村と宮崎も」

「何だそのがっかりしたような言葉遣いは!! ひどいぞ!!」

「うおおいいいい!!? 何で海洞女子三人を連れてるんだ!!?」

「木ノ宮さんこんにちは!!」


 野球帽を被った沢木は護熾の胸にツッコミを入れ、宮崎は護熾の後ろにいた近藤達に驚き、木村はユキナに狙い撃ちの挨拶をし、ユキナはそれにすぐ挨拶を返し、木村は背を向けてガッツポーズを決めていた。

 

 何しに商店街に来たんだ?っと訊くともうすぐ夏休みなので新しい水着でも買おうとここに来たらしい。すると近藤が元気よく手を挙げて沢木達と自分たちの目的が一緒だと言い、一緒に行こう!っということになった。

 護熾は無論、海に行く気などさらさら無かったのだが、ユキナが行きたいと言ったので仕方なく付き合うことにした。

 七人は水着が売っている洋服店へと入っていった。




 クーラーが効いた店内で女性コーナーと男性コーナーに分かれたエリアがあったので二手に分かれてそれぞれ用を済ませようと決め、待ち合わせはレジですることになった。

 ユキナと斉藤は近藤に引っ張られて姿を消し、護熾は同じく三人に引っ張られてそれぞれの『夏の見せ場』に付き合い始めた。












「――――それでね、海洞君あっさり四人を倒して私を助けてくれたの」

「へえぇ〜〜〜そんなことがあったんだ! やるじゃん海洞」

「……護熾……昨日そんなことあったんだ……だから口から少し血が…」

「ん? どうしたユキちゃん?」

「ううん!何でもない」



 かごの中に入っている女性用の水着を模索している三人は昨日、護熾が不良から斉藤を守った話をしていた。

 近藤が 千鶴! 千鶴! これなんかどう!? と、差し出した水着はかなり派手で、胸元が開けたかなり危ないものだった。

 斉藤は一応それを受け取り、自分が選んだ物も一緒に試着室へと入っていった。

 数分後


「どお?」

「う〜ん、これはまずいと思うよ勇子〜〜〜」

「それくらいやんなきゃ海洞落ちないよ!」

「だから海洞君は女の子の体では絶対に落ちないって」


 ユキナはまだ、どれにしようか迷っていった。

 そしてお金を持ってきていないことに気付き、せめて着るだけならと適当に選び取って、斉藤の入っている試着室の隣へと入っていった。



 一方、試着の必要のない男性陣はレジでずっと近藤達を待っていたが中々来ないので 女の買い物は長い、とそれを話題にしゃべり合っていた。

 5分ほど経っても来ないのでしびれを切らした護熾は三人をレジに置いていき、女性洋服コーナーへと恥じらいもせずに入っていった。

 沢木達も行ってみようと護熾に続いて入ろうとしたが、持ち物を沢木達に預けようとUターンをしてきた護熾に見つかり、簡単にレジまで押し返されてしまった。そして何で海洞だけ……っとブツクサ文句を言ってそれで時間を潰すことにした。



 





 ユキナの着た水着は本人とは不釣り合いだった。

 胸が大きく余り、だぼだぼになっていって鏡の前でムスッとした顔になっていた。

 すると近藤が中に入ってきて、ユキナを引っ張っていき、斉藤の所へ入るとあるものが目に飛び込んできた。

 

 胸元を大きく強調するための水着を纏った斉藤の姿。

 おそらく大抵の男子はイチコロでやられる姿であろう。

 そして自分の容姿と斉藤の容姿を眼前に突きつけられたユキナは自分の胸へ手をやるとやや拗ねた口調でしゃべった。


「斉藤さん――――大きい」

「え!? あ! そんなことないよ。ユキちゃんだってそのうち大きく――」

「そんなことはないよって千鶴〜〜〜〜どんだけ羨ましい台詞を吐いてるわけ〜?」


 すると近藤が胸をガシッと掴み、斉藤はビクッと反応すると子犬のように目が潤い、危ない表情になっていくと近藤はさらに続けた。試着室の中が騒がしくなり、通りかかった女性客が驚きながら側を通っていった。


「ほらほらほらほらほら!!!! 秘技、千鶴崩し!!」

「……ちょ……勇…子……やめ……」

「ふっふっふっふ〜〜もうすぐであなたは落ち〜る、落ち〜る」

「きゃ〜〜〜〜〜〜〜」


 とうとう耐えられなくなった斉藤はなにふり構わず、試着室から飛び出し、膝に手をついて息を切らすとすぐ隣で誰かが自分を見ていると気づき、顔を横に向けるとキョトンとした表情で肩に買い物袋を提げた護熾は危ない水着を着て、試着室から飛び出してきた斉藤を見ていた。クーラーよりも冷たい空気が二人の間で生まれると護熾は踵を返し、顔を半分覆うように片手で顔を隠すと呆れた口調で


「レジで待っているから、残りの二人にもそう伝えてくれ」


 そう伝え、そそくさとその場から歩いて離れた。顔を赤くした斉藤は誤解を解こうとしたが自分の今の姿では追いかけようにも追いかけられなかったのでその場で崩れると試着室からこの一部始終を見ていたユキナは斉藤を哀れみ、近藤は


「海洞って男なの? あまり反応しなかったね。」


 護熾のあまりの関心のなさに怒り、そして斉藤が泣き叫んだのはこの五秒後だった。



 

 








 買い物が済み、用がなくなった護熾はユキナと一緒に家へと戻っていた。

 商店街で沢木と近藤達(もちろん護熾の誤解は解けた)と別れ、買い物を手早く済ませ、涼しい我が家へと足を進めていた。

 するとユキナが午後あるところに行きたいと言ったので昼飯を食べてからその場所に行くことにした。(昼はそうめんで護熾が作った具やダシで美味しく頂いた)
















 山。

 何の変哲もない、どこかの特撮番組の秘密基地になっているわけではないただの山。

 さほど遠くない山の頂上に護熾は来ていた。

 理由はユキナがここに来たいと言っていたからだった。

 何故ここに来たかは分からないが、頂上から見える景色は絶景だった。

 

 七つ橋町全体がよく見え、澄み渡った青空がどこまでも広がっている。

 まるで吸い込まれてしまいそうなほどの晴天。頂上には開けた場所があり、木陰が多いので決して居心地が悪いところではなかった。

 

 風景を見ている護熾を尻目にユキナはキョロキョロと周りを見て、何かを確認するように広場を見渡していた。護熾はそれが気になり、そばまで歩いていくと近づいてきたことにユキナは気づき、向かい合った。

 そして結界に入れと促され、怪訝そうな顔をしながらも虚無の世界へと入っていった。



 音も風もない世界でユキナは護熾と対峙したまま軽い準備運動を始めた。護熾はさっぱり何がしたいのか分からず、ずっと様子を見ていたが、やがて準備体操が終わったユキナは護熾に向かってチョイチョイと指を動かすと言った。


「ほら、かかってきなさいよ。どれほどなのか見てあげるから」


 護熾はユキナの言ったことに はあ? と声を出した。


「おいおい、まさか喧嘩しろと?お前と」

「まあ、そんなもんね。私の運動にもなるし、何より戦い方を知らないあなたのためにもなるしね」

「冗談じゃないぞ。女子と殴り合いなんざ」

「護熾」

「あ? 何だ?」

「変な顔!!」

「――――――複雑な気持ちだがその手には乗らない」


 握りしめた拳が正直な護熾の気持ちを示すようにプルプル震えていたが、理性と言う名の【安全装置すべりどめで何とか堪えていた

 ユキナはそのあと何度か護熾に向かって悪口を言ったが動じてくれず、ふんぞり返っているのでとうとう自分から攻撃を仕掛けに行った。

 

 護熾が気がついたときにはきれいな跳び蹴りが目前に迫っており、そしてそのまま顔を踏まれ、後ろに大きく仰け反ると派手に倒れた。そしてゴロゴロと回転しながら体を落ち葉だらけにし、手で鼻を押さえ、面白いほど鼻血を吹かせると


「な、な、な、な、何してくれんじゃあああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 理不尽な展開に怒り、涙目になって自分を蹴り飛ばしたユキナに向かって叫んだ。ケロリと自分がやったことは悪くないよという顔をしながら、ユキナはもう一度護熾に挑発を掛けた。


「開眼をしなさい、どんなものか見てあげるから掛かってきなさい“変な顔”さん」

「!!!!!!!」


 効果は絶大。カチンと安全装置解除。このチビの身長を縮めてやる。

 スッと眼の色と髪の色を翠色に変えるとユキナに指を指し、ギリギリと歯ぎしりをした表情になると獰猛な笑みで


「知らねえぞ、人の顔のことを散々言ったつけを返してやるからな」


 護熾の気持ちに呼応するかのように体から翠のオーラが激しく吹き上がった。ユキナは身構え、護熾の持つ大きな“気”とその“性質”を見極めるべく、翠の少年に向かって疾走を始めた。



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