17日目 力の使い方
―――異世界の守護者 (パラアン)
この現世を怪物から守る異世界の人達の総称で、人知れず影で動いている戦闘を携える者。 結界を巧みに使い、怪物の撃破及び怪物に捕らわれた人の救出を主に担っている。
朝が来た。
昨日、この町が二人の若者によって守られたことは誰も知らない。そしてゆっくりと町は起きる。
部屋に束ねた朝の光が差し込み、その光で眠りを妨げられたユキナは鬱陶しそうな表情で寝返りをうって朝日から目を背けたが、すぐに自分のいる場所に違和感を覚え、むっくりと眠たそうな目で起きあがった。
周りをぐるっと見渡すように首を回すとここが護熾の部屋で、自分はベットに寝かされていることに気が付く。
「………………」
昨日の記憶はあやふやになっていたが、だんだんと鮮明になっていた。
知識持の攻撃から盾となって大怪我を負い、必死になって逃がそうとしたが無視され、代わりに戦場に立った少年の背中。確実に死んだと思い、死を覚悟したあの気持ち。
そして、自分を助けるために“力”の第一解放をし、開眼状態となって再び戦場に立ち、そして初めて戦ったとは思えない戦闘力で見事撃破した自分が守っていくと誓ったあの“護熾”。
昨日の記憶が戻ったユキナは階段を誰かが上ってくることに気が付き、視線をそちらにやるとドアが拳でコンコンと叩かれた音がした。
「ユキナ、ちょっといいか?」
と聞き覚えのある声で訊かれたので『うん、いいよ』と返事を返すとドアが開き、中から片手に湯気が立ち、お粥が入っているお椀を持ってTシャツ姿の護熾が部屋に入ってきた。
護熾はベットの横にある机の上にお椀を置くとベットで上体を起こしているユキナを見た。そして目線を合わせるようにしゃがみ込むと顔色を伺うように覗き込んだ。
「よかった。元気そうだな」
「………………」
「どうした? お粥嫌いか?」
「………………」
「おい、返事くらいくれたって―――」
黙り込んだまま返事をくれないユキナに護熾は少しぶっきらぼうな表情で顔を背けた瞬間、返事の代わりに強烈なビンタが護熾の頬を襲った。
ぶたれた衝撃で首が右に90°曲がるが、すぐに顔を戻すと涙目で頬にしっかりと小さい手形を残した護熾は五秒ほど何故ぶたれたかが理解できなかったがピクピクと眉を動かすと
「何すんだてめえええぇぇぇぇぇ!!!! 痛ってえじゃねえかああぁぁぁ!!!!」
「バカバカバカバカバカバカ!!!!!!!!!!!」
「うぉっ――――」
怒りの口調で叫ぶが、ユキナはそれ以上の音量で護熾を打ち負かせ、絶句させた。そして胸ぐらを掴むと強引に護熾を引き寄せ、怒った表情で面と向かってしゃべり始めた。
「どうしてあんなむちゃくちゃなことをしたのよ!? あなたが開眼してなかったらあなたは死んでたのよ!? 何で!? 何で!? どうして……どうして…………バカァ」
そして語尾を下げて視線を下に向けた。
護熾は突然胸ぐらを掴まれて驚いていたがユキナが潤んだ目で自分を見つめていたことに気が付き、頭を掻いた後、
「悪かった、でもああするしか俺には出来なかった。」
「もし死んでたらどうするのよ!? 護熾が死んだら私はどう……ッ!!!」
突然、体に電気のように走った痛みにユキナは顔を歪ませたので護熾はびっくりして肩から手を離す。体を震わせながらゆっくりとユキナは自分の体を見た。
上半身は包帯できれいに巻かれており、消毒も施されていることのも気付く。そしてすぐに誰がこれをしたかについて考えると一瞬で該当者が頭に浮かび、顔を真っ赤にすると
「何だ?」
っと怪訝そうな顔でこちらを見ている護熾に布団から出した足で横薙ぎの蹴りで側頭部を蹴り飛ばした。護熾の体は蹴られた衝撃で体の角度が横に360°周りながら転がり、ゴロゴロと壁に向かって進み、そしてぶつかってから騒音を立てて止まった。
急に蹴られた護熾はポカンとした表情で自分の身に起きたことに理解できなかったが体勢を元に戻してあぐらになり、ユキナを見ると
「護熾!! あなた私の裸を見たの!!?」
布団で胸を隠すようにしている姿でユキナが悲鳴に近い声で叫んだので、本当は答えたくなかったが素直に答えた。
「仕方ねえだろ、そうでもしなきゃお前の怪我は――」
「キャーーーーーーー!!!!!!!! エッチ!!!!」
ユキナは最後まで聞かず、枕を投げ飛ばして護熾の顔に当てるとすぐさま布団に潜り込み、団子になってしまった。護熾は自分の顔にへばりついている枕を手で取ると、ベットの上の布団団子に目をやり、やれやれと言いながら立ち上がると
「お前の怪我はまだ治っていない。今日はゆっくりしてろ。いいな?」
「………………」
返事も反論もないのを確認すると『お粥はちゃんと食べろよ』と忠告し、静かに部屋から出て行った。護熾はこの後、買い物に行く予定であり、何かユキナに精のつくものを食べさせたかったのですぐに買い物に行く準備をしに、居間へと向かった。
ユキナは護熾がいなくなったのを確認すると ぷはっ、と言いながらひょこっと布団から顔を出すとぬくぬくとして
―――そういえば布団で眠ったのすごい久し振り。暖か〜〜〜〜〜い
ベットで寝る心地よさを改めて感応していた。
買い物袋を肩から提げ、熱い日差しの中、護熾は商店街に向かって歩いていた。
今日は土曜日なのでタイムセールスを目当てに移動しているのだが日差しが強く、向こうの景色は陽炎で歪んでいた。履いたサンダルで地面を歩きながらアイスも買ってこようと心に決めて、意気揚々と商店街の入り口に着き、人混みが出来ている中、そこに入っていった。
斉藤は商店街を歩いていた。
部活は午後なので母親の代わりにおつかいに来たのだが、結構な人だかりに困難を強いられていた。人混みを避けて進むがどうしても人とぶつかってしまい、その度に頭を下げて謝り、進むがまた人とぶつかってしまう。
そんな悪循環が繰り返される中、何かの弾みでポッケから財布を落としてしまい、拾おうとするが手を伸ばすたびに人がそこを通って遮られてしまい、おどおどと立ち往生をしているとサンダルを履いた誰かが自分の財布の前で立ち止まり、拾ってくれた。
―――あっ、親切な人もいるんだ。
斉藤は拾ってくれた人の顔を見ようと下げていた視線を上げ、
「あ、ありがとうござい―――」
と礼を言った瞬間、息を呑んでしまった。
眉間に皺を寄せたような表情、黒色の短めの髪、それは自分が紛れもなく知っている人だった。周りの音は掻き消えたように静かに感じ、時が止まったように体が動かなくなってしまった。
「よお、斉藤も買い物か?」
声を掛けられてハッと我に返った斉藤は財布を拾ってくれ人を確認するかのように目を何度か瞬きしてからもう一度見るが、
Tシャツ姿でサンダルを履き、肩から買い物袋を提げ、自分に向かって拾った財布を差し出している護熾が目の前で立っていた。
「ほれ、お前のだろ?」
「あっ、ありがとう」
母親から託された大事な財布を護熾から受け取ると大切そうにポッケにしまい込んだ。そしてその後、目の前にいる護熾にどう話しかけようか困っていると先に護熾がしゃべり始めた。
「ところでよぉ、斉藤は何を買いに来たんだ?」
急に訊かれたので少し言葉に詰まってしまい、口をぱくぱくしていると護熾は何か様子が変だと思い、心配そうな表情になってきたのですぐに母親に言われたことを思い出し、
「あっ、えっ、とね〜今日商店街のスーパーでタイムセールスがあるからお母さんの代わりに来たのよ」
若干、噛みながらもちゃんと答えると護熾は意外そうな顔をし
「ああ〜〜じゃあ俺と同じか、斉藤、一緒に行こうぜ」
軽い気持ちで同じ目的なので一緒にそこへ行こうと提案した護熾だが、斉藤にとってはメガトンクラスのお誘いにしか聞こえなかった。顔がボッと音を立てて赤くなり、フラフラと足どりがおぼつかなくなるがそこは陸上部の気合いで持ち堪え、
「い、行きます!!」
と元気な返事を返した。護熾は斉藤の了承が得られたので行くべき方向に体を向け、顔を向けながら
「時間があんまねえから急いでいくぞ。人が多いから気をつけ―――」
「おいっ!」
護熾の言葉を誰かが遮った。
護熾は声の主の方に目をやるとそこには十代後半に見える青少年が四人ほど立っていた。今時の若者っていう感じの服を着ており、あまり素行が良いように見えない少年達。いわゆる不良であり、それが護熾の目の前に立ち塞がっていた。
「………………」
護熾が黙っているとその中から護熾より少し背が高く、大人びたグループのリーダーらしき人物が少しにやにやとあまり良さそうな、好意的でない表情で護熾の後ろにいる斉藤にちらっと目をやると
「そこの兄ちゃん、ちょっと後ろの彼女を渡してくれないかな?」
少し物静かな口調でさらに顔を近づけてきた。しかし護熾は何も答えずただ少年達を見ているだけだった。何も答えない護熾に後ろに控えていた一人の青少年が急に野太い声で
「誰と話してるんだと思ってんだ!!さっさと答えろ!!」
大声で叫ぶと他の青少年達も
「ふざけてんじゃねーよ!!! そんな顔をしててもびびらねえからなこっちは!!」
とか
「なんだ? 血が見たいのかオメエ?」
などと明らかに護熾を萎縮させる目的で威圧的な言葉を掛け続けるが、護熾はつまんなそうな顔で四人をぼうっと見ていた。商店街を歩いている人達も何かのいざこざが起こっていると思い、足を止めて、止めさせるわけでもなく見守っている中、思い通りに護熾が縮こまらなかったのでリーダーの青少年は護熾の胸ぐらを掴むと顔を近づけ、
「聞こえてんのか? 俺たちはお前の後ろにいる胸が大きい彼女を少し貸してくれって言ってんだよ?」
最後の警告のように言うが、護熾は最後まで答えず、とうとう青少年達の怒りを買ってしまった。斉藤は今自分たちが絡まれていることに怯え、しかも自分を連れて行こうとしていることに足が震えて逃げ出そうにも逃げ出せなかった。
しかも護熾が胸ぐらを掴まれて、危ない状態になっているので周りに助けを求めるように立ち止まっている人を見るが、みんな冷たく見ぬふりをして視線を逸らした。
リーダー格の少年は護熾を殴り飛ばした。
殴り飛ばされた護熾は閉まっている店のシャッターに体をぶつけ、商店街に音を響かせて倒れ、殴り飛ばされた護熾の元に
「海洞君!!!!!!」
斉藤が急いで駆け寄ろうとするが青少年達の一人が行こうとする体を止め、無理矢理肩を引き寄せると斉藤は体が硬直してしまい、抵抗が出来なかった。
斉藤を捕まえた一人の青少年は妙に嬉しそうにリーダーに言った。
「可愛いですね。俺たちの彼女にしちゃいましょうぜ?」
「まずは俺からだ。さあ、楽しんでいこうぜ」
勝手なことを言いながら斉藤を引き寄せたままその場を去ろうとする四人に
「おい、待てよ」
後ろから立ち上がった護熾が声を掛けた。
「ああっ?」
青少年の一人がだみ声で威嚇しながら、そして四人が振り返る。殴られたときに口を切ったらしく血が少し出ていたがそれをぐいっと腕でぬぐい取ると
「斉藤を離せ」
短く、そして先程までとは打って変わった強い口調で威圧するように言った。
リーダーは軽く首を振って手下に合図を送ると怖い表情で一人がずいっと前に出てきた。
「もう一度痛い目に遭わないと分からないらしいな?」
そして護熾の数歩手前に来て、顔を覗き込むようにすると手下の青少年は一瞬で表情を強ばらせた。
今、覗き込んでいる青少年の目線の先には鬼のように表情でこちらを睨んでいる護熾の表情があった。そして次に何かを言おうとしたときにすでに青少年はそこにはおらず、護熾が殴られて吹っ飛んだ場所と全く同じ場所に吹き飛んでいた。
三人の青少年達は驚愕した。
そして護熾は次に斉藤を肩に寄せている一人にあっという間に近づくと跳び蹴りで吹き飛ばし、地面の上を滑らした。そして吹き飛ばした衝撃で体勢が崩れ、ペタンと地面に膝をつけそうになった斉藤を抱きかかえ、ギロっと残りの二人を睨むと
「正当防衛だ。やるか?」
青少年達がしてきたとは比べものにならないほどの威圧的な言葉を掛け、二人をびびらせるが、覚悟を決めた最後の手下が
「調子に乗ってんじゃねえぞこらぁ!!!!!!!!!」
叫びながら突進してきたので護熾は急いで斉藤を自分の後ろの方に置くと
「俺の背中に隠れてな」
っと言い、そのまま前に振り向いた瞬間に護熾の右ストレートが突進してきた一人に命中し、勢いよく殴り飛ばした。そして仰向けのまま地面を滑り、お腹を両手で押さえながら悶えている青少年にリーダーは逃げだそうとしたがいつの間に来ていた護熾が逃げようとするリーダーの肩をむんずと掴み、むりやり顔を合わせるように体を反転させると怖い表情で顔を近づけ、
「無駄な時間ばっか使わせやがって〜〜〜〜〜〜〜」
「ひいいぃぃぃ!!!!やめてくれ!!!何でもするから勘弁してくれ!!!」
「そうか、何でもするか……」
「ハイ!!!しますします!!!」
「でもなあ〜〜〜〜〜〜もう無理なんだ」
「え? ―――――」
完全に護熾に恐怖したリーダーは何でもすると言うが、護熾は胸ぐらを掴み、右手を構えると大きな声で、そして思いっきり怒った声で
「てめえらのせいでタイムセールスが終わっちまっただろうが!!!!!!!!!」
そう叫びながらリーダーの顔面に拳をぶつけ、勢いよく殴り飛ばす。
一瞬気持ちのいい音を立てながらリーダーは鼻血を吹きながら商店街を舞い、ドサッと背中から地面に落ち、それから動かなかった。
そして回復した手下の青少年は急いでリーダーの両腕脇を抱えて運び、遁走していった。四人が見えなくなってから護熾は意識がなくなったかのように座り込んでいる斉藤に歩いて近づくと目の前に立ち、しゃがみ込んだ。
「よお、大丈夫か? 怖い目にあったな。でももう大丈夫だよ」
「あ……う……」
ありがとう、と言おうにも言えない斉藤は完全に硬直しきっていた。護熾は腰が抜けた斉藤を支えながら立ち上がらせると怪我がないかどうか確認し、
「よかった、怪我はねえようだな」
と言った途端、商店街の人達から拍手喝采が起きた。突然のことでびっくりした護熾はぐるっと周りを見渡すと人混みの中から魚屋の店主が出てくると護熾に向かって
「やるな兄ちゃん! さすがだね〜〜〜〜〜」
周りの人もそれに同意して頷き、『格好良かったよ』や『よくやった!!』などの感想の声が上がった。
護熾は『友達が連れて行かれそうになったから当然のことをしただけです』と周りの人に理解を求めると簡単に納得してくれて、止めていた足をまた動かすといつもの商店街の光景に戻った。
タイムセールスが終わってしまったので護熾は仕方なくあきらめ、普通の買い物をしに斉藤に一緒に行かないかと尋ねようと振り返ると泣きそうな表情でこちらを見ている斉藤の姿が目に飛び込んできた。
「おわわわっ、どうした斉藤? どっか怪我したのか?」
「ぐすん、………怖かった……とても怖かった……助けてくれてありがとね海洞君……ごめんね……海洞君……怪我させちゃって……」
「ああ~コレね。まあ少し口切っただけだから大丈夫大丈夫。」
護熾は斉藤の帽子を拾ったときと同じように大丈夫と言い、泣きやむまで側にいた。
やがて泣きやんだのを見計らい、一緒にスーパーに行き、買い物かごを持った護熾は野菜のコーナーでどれが良いかを真剣に見当している時、斉藤はさっきの出来事について少しずつ思い出していた。
連れて行かれそうになったときにあっという間に二人を倒し、自分を護るように抱きかかえ、残りの不良の人達を睨んだあの目。
『俺の背中に隠れてな』と言ったときに見せてくれた大きくて、そして安心感がある暖かみのある背中。
よくよく考えてみると ああ、私は海洞君に助けられたんだな、っと思い、どっちのトマトが良いかで悩んでいる護熾を横目で見て、そして頬を朱に染めると
「こっちでいいか、斉藤、次行こうぜ」
と護熾が買い物かごのなかにトマトを入れると魚介類のコーナーに行ってしまったので慌ててついていった。
アイスが四割引だったので上機嫌な護熾は今日の昼食にうなぎを買ってきていた。
もちろん、ユキナを元気づけるために買ってきたのでうな丼にするつもりである。
護熾は斉藤と一緒に歩いていた。
理由は先ほどのことがあって、一人で帰るのはあぶないんじゃないか?迷惑でないなら送っててやるよ、っと護熾が斉藤に言って斉藤は激しく頷いて同意したので今に至っているのである。アイスが溶ける前に帰れるかな〜〜?っと心配している護熾を横で歩いている斉藤は何をしゃべろうか迷っていた。夏休みどうするか?や、喧嘩が強いねなどを
そうこうしているうちに斉藤の家の前に二人は着いてしまった。護熾は家の表札を見て『おっ、ここだな』と斉藤の方に振り向いて家に入るように促した。
斉藤は玄関の前に立って護熾に振り向くと恥ずかしそうにもじもじした後、お礼を言った。
「か、海洞君。ありがとね………………」
「ああ、じゃあ俺アイスがあるんで帰るわ」
護熾は踵を返して、そして手を振りながら家を離れ、陽炎の中へと消えていってしまった。斉藤は午前中に護熾といたことを後々に『デートみたいだった』っと顔から湯気を出して母親に語ったという。
護熾はすぐに家に戻るとアイスを冷凍庫にぶち込み、すぐに昼食の支度に取りかかった。炊けたご飯を丼に盛り、グリルで焼いたうなぎにタレを付けて乗せ、一樹と絵里に食べさせた後、お盆に丼を一つ乗せ、二階へと上がっていった。
ユキナは階段を上ってくる音に気がつき、体を起こすと同時にドアが開き、お盆を持った護熾が中へと入ってきた。
「お帰り護熾」
「ただいま。ほれ、コレを食え」
そう言いながらお盆ごと渡し、ユキナはフタがされている丼を不思議そうな顔で見つめた後、フタを取ると中から香ばしい匂いと共にお腹がぐ〜っと鳴った。
「うわ〜〜〜!! おいしそう!! いただきます!!」
箸をむんずと掴むと急いで口の中にほおばり込んだ。食べたことがないうな丼に感動したユキナを見ながら護熾は机の上に置いてある空になったお椀に気がついた。どうやらちゃんと食べてくれたらしい。護熾はそのお椀を手にとってユキナが食べ終わるのを待った。
「じゃあ、護熾、“飛光”を撃ってみて」
ご飯粒を頬に付け、ベットの上で胸の前で腕を組んでいるユキナは試験監督みたいな真剣な表情で部屋の中で一緒に結界内に入った護熾に向かって言っていた。
護熾は頭にはてなを浮かべながら
「“飛光”って何だ?どうすればいいんだ? あとご飯粒取れ」
頬に付いているご飯粒を取るように言った。ユキナは手で取って口に運んだ後、いきなり瞳と髪の色をオレンジに変え、左手のひらをベットの左隣にある机に向けると
「まず、力を込める。そして撃ちたいと思ったら“撃つ”」
手のひらからオレンジの光の玉を作り出し、ソフトボールくらいの大きさまでにすると撃った。風が流れる音がして、机に当たると轟音と共に机が百の破片へとなり、木っ端微塵になり、燃えるゴミへと姿を変えた。
「こらああああぁぁぁぁぁ!! 俺の机がああああぁぁぁぁぁ!!」
目の前で自分の勉強机が破壊された護熾はベットで“飛光”を撃ったユキナに指を指して大声で叫んだ。しかも“飛光”は机を壊したに留まらず、部屋の一部も破壊しており、部屋が護熾にとって泣けるものとなっていた。
「ここは結界内よ? ここから出たら元通りになっているから安心しなさい。ほら! 簡単だからやってみなさいよ」
「そうか、ここはそういうとこだったな。よかった〜〜〜〜〜」
ほっと胸を撫で下ろした護熾は言われたとおり手の平を窓の方に向けた。ユキナは護熾に注目するように見つめ、様子を見始める。
そして護熾は瞳と髪の色を鮮やかな翠色へと変えると同時に風が起き、やや危なそうにオーラが吹き乱れた。
「護熾、集中して! 手の平に自分の生体エネルギーを集めるようにしてそして“撃つ”と念じて、そうすれば出来るはずよ」
言われたとおり、乱れていたオーラが手の平へと凝縮していき、やがて小さな緑色の球体が出来はじめた。
「今よ!!」
ユキナの声を合図に“撃つ”と念じたが手の平の球体は突然風船みたいに萎んでいってしまった。そして風は止み、オーラも消えると部屋の中は静かになった。
護熾は怪訝そうな顔をしながら自分の手の平を見ると
「あれ? 消えちまった。何で?」
「あれ〜〜おかしいな〜〜〜〜これは基本中の基本なのに何で出来ないのよ?」
疑問の声を上げるがもう一度手の平を窓に向け、力を込めて“撃つ”と念じるが手の平に球体は出来るものの、同じように萎んでいってしまい結局不発に終わってしまった。
何度も何度も顔が赤くなるまで続け、その度に不発に終わり、とうとう仰向けになって床に倒れた。
「護熾…………あなた、できないの?」
「ちくしょ〜〜〜〜〜できね〜〜〜〜〜〜」
「“飛光”はさっきも言ったように眼の使い手ならいとも簡単にできるのに護熾は出来ないのね。これを使いこなせれば私の“疾火”みたいに戦闘で大きく役立つのに……」
「仕方ねえだろ! できねえもんはできねえ!!」
「これは修行が必要ね」
「修行?」
「簡単よ。何度も何度も撃てるまで練習しなさい」
日が暮れるまで集中してやってみたが結局一発も撃てなかった。そしてユキナに『才能無し!』と判を押され、すっかり疲れた護熾は汗だくで床に倒れ込み、体を休めていた
ユキナはまったく“飛光”を撃てない護熾に対し、
(――変ね~~護熾のこの姿は紛れもなく“私達”と同じ眼の使い手なのに基本がまったくできていない。やっぱりこの現世では性質も異なるかも知れないわね。ここはやっぱり“連れていく”しかないわね)
そんな後の計画を立てていた。
そんな二人に、夕陽が部屋の中に差し込んできて、オレンジ色に染めてきていた。