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ユキナDiary-  作者: PM8:00
16/150

16日目 翠光の少年

 













 ――何で!? 何考えてんのよ!! 護熾!! 護熾!! あなたじゃ勝てない!! 相手は『知識ナレジ持ち』なのよ!! 殺される!!


 ユキナの声なき必死な思いは伝わらず、護熾は怪物を真っ直ぐ見据えて走って行ってしまった。その背中を追いかけようと、体を無理矢理でも動かそうとして電柱に寄りかかって立ち上がろうとするが背中に刺さっている棘がそれを妨げ、服の血の染みを広げるだけに留まってしまった。

 

 目の前で自分が守っていくと誓った護熾ひとが今、怪物が“見える”という特殊な能力を信じて、蟻が象に挑むと同じくらい無謀なことを、凡人が武器無しで素手で自分を守ろうと戦いに行ってしまったのだ。分かっている結末が容易に想像できたとき、自分の無能さに改めて悔しさを感じた。

 ―――何で……何で……

 動かない体に必死に動いてくれと頼んでも、動かせるのは自分の代わりに戦場に立った一人の少年の背中を見る目だけだった。


 


 護熾は落ち着いていた。

 今、目の前にいる猿に似た外見を持つ二足歩行型の怪物と対峙していても怖い気持ちも逃げ出したい気持ちもまったくなかった。

 自分が持っているという正体不明の力に期待しているから冷静なのではない。無謀なのも分かっていた。ではなぜ?

 自分はせいぜい、怪物を一体吹き飛ばすだけの力しかないのになぜそこまで守ろうとするのか?

 答えは分からない。体が勝手に動いたのだ。

 護熾はギロッと険しい表情で尻尾をくねらせて何故自分の前に殺せと命令された標的が自分からのこのこ出てきたのが理解できない怪物を睨む。

 状況が理解できた怪物は


「はっ、まさかお前一人で俺に勝とうなんぞ思っちゃいねえだろうな!? だとしたらお前は馬鹿だ!! ただの人間が怪物キャプチャーよりも強い知識持ナレジに適うはずがない!! お前らはここで死ぬんだよ!! 俺の手でなぁ!!」


 さげすんだ口調と目で目の前にいる「大馬鹿な標的」を嘲け笑った。呼吸を整え、大けがをしたユキナを助けるために身構え、奥歯を噛みしめた表情になった護熾は走り出した。怪物は一瞬呆気にとられたがその猿のような顔を人間のようにニヤリと笑うと迎え撃つわけでもなくその場から動かなかった。

 ―――動かない!? いけるか!?

 動きを止めた怪物に向かって腹に自分の全身全霊を込めた右手の拳をたたき込もうと怪物の一歩手前で前に出した足をアスファルトにねじ込ませる勢いで踏み込み、その勢いで加速したパンチを前に突き出した。

 その拳が行き届いた先は何もない空間。


 怪物は姿をかき消したようにその場からいなくなった。


 ユキナの目にはしっかりと怪物がどこに行ったのかがはっきり見えていた。

 どこに消えたのか困惑する護熾のすぐ真横に常人では確認できない速さで動いた怪物が自分がどこへ消えたのか焦って探しているその姿を楽しそうに見ているのが嫌にハッキリと見えていた。

 

 怪物は広げた手のひらを持ち上げて、斜め上にかざすようにするとそのまま平手打ちのように振り下ろし、護熾の頭を捉えるとそのままコンクリートの地面に押し込むように叩きつけた。

 

 凄い力でしかも固いコンクリートに体が叩きつけられ、血混じりの大量の唾を地面に吐き出し、意識が飛びそうになるのを堪え、朦朧としている護熾は立ち上がろうと温度のない地面に手を付けるが怪物に容赦はなかった。

 尻尾の先を護熾の左肩に定めるとそのまま棘を発射して護熾の左肩とコンクリートに縫いつけた。


「うぉ! がぁあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 突如、襲いかかった激痛で絶叫する護熾。

 突き刺さったところから血がみるみると湧き出て服を緋色に染め、地面にもその赤黒い液体で小さい水たまりを作っていく。右手で自分を地面に縫いつけている棘を引き抜こうとするが怪物は服の襟を掴み、無理矢理地面から引き剥がし、あまりの痛さに気を失いかけている護熾に顔を近づけると


「だろ? たかが人間が進化した我々に適うはずがないんだよ」


 圧倒的な力の差と絶望を見せつけるように言ったあと、右手に拳を作り、後ろに引かせた。

 ユキナは殺されかけているのを救おうと血が噴き出すほど体を動かしもがくが、糸の切れた人形のようにその場から立ち上がれず、その瞳には襟を掴んで持ち上げられている護熾と命を砕こうとしている拳が映っていた。


 ―――――護熾!!



「終わりだ!! 力なき者が強者に逆らった罰だ!! 骨が砕け、内臓が潰れ、全てを粉々にして死んでいけ!!」


 怪物はあらん限りの力で持ち上げている護熾の腹にその拳を突き出した。骨が砕ける音が確かに聞こえ、穴が空くんじゃないかいう衝撃が奔り、体をくの字に曲げて怪物の手から勢いよく離れ、無人の家の石垣に体が突っ込んでいった。

 そして石垣を破壊し、奥にある家まで突き進み、辺りを白煙で包み込んだ。


 護熾がいると思われる場所にはおびただしい血の水たまりが瓦礫に染み込み、雫を垂らして、血まみれの腕が力なく投げ出されていた。




「うそ……そんな……ご…おき……」



 想像した結末が今、現実のものとなってしまった。

 怪物は自分が仕留めなきゃいけない電柱に力なく寄りかかって座っている血だらけのもう一つの標的のとこへ歩いていくとその数メートル前で止まった。

 動かせない体で自分を見上げているその目は、死を予期しているような、何もかもを映し出しているような何も見ていない目だった。


「あいつは死んだ。安心しろ、お前も一緒に連れて行ってやる。【眼の使い手】を殺せれば“あの方”もさぞお喜びになるだろうな」


 低い声で死を覚悟しているユキナに言うと、尻尾から棘が生えて矛先を頭に向けるとピタッと止めて狙いを定めた。漆黒の棘は姿を現した満月の光で鈍く光った。

 ユキナはゆっくりと、自分の死を受け入れようとしていた。




 






 無人の家だったと思われる瓦礫の山には白煙が少し晴れ、血だらけで仰向けに倒れている護熾が姿を現した。あばら骨が何本か折れ、内臓の方にも損傷が起きているらしく息をするたびに口から血が出ており、まさに虫の息でいた。肩に刺さっている棘も抜けずに血を出させ続けている。

 震える手で目の前にある瓦礫の破片の一つを掴み、前に体を引きずって動かし、顔を少し上げると今にも怪物に殺されそうになっているユキナの姿が霞む目に映った。


『―――動け!! 動け!! 動け動け動け動け動けぇ!! 何で動けねえんだ!! 俺は目の前で消えようとしている命さえ救えねえのか!? あいつは―――あいつはたった一人でこの町を守ってくれたんだぞ!? 俺を守ってくれたんだぞ!? こんな時に……肝心な時に何で体は動いてくれねえんだ!?』


 視界がだんだんと狭まっていき、暗い闇が覆い尽くしていってユキナの姿を黒く染めていく。


『くそったれが!! どうして……俺はあんな女の子ですら、助けられねえのかよ…………頼む、動け、動いてく…………れ―――』


 それから闇が全てを覆った。



 








 夕方だった。

 オレンジ色の夕陽がコンクリートの道路を染める中、一人は黒く長い髪の綺麗な女性、もう一人は小さな男の子で手を繋いで家へ帰ろうとしていた。


「ねえお母さん、どうして僕の名前“護熾”っていうの? クラスのみんなから変な名前って言われたんだけど……」

「あらあら、そんなことがあったの?そういえば言ってなかったわね。でもこれを教えるのはもう少しあとにしたほうが……」

「いやだいやだ!! 教えてよお母さん!!」


 男の子は首を激しくブンブン振って自分の名前の意味を訊いたので女性、護熾のお母さんはしょうがないわね〜と軽く肩で息をすると前を向きながら言った。


「護熾の“護”は誰かを守れるくらいに強い子になるってこと、“熾”は盛んに燃える火のように元気でいて欲しいって意味よ」

「ふ〜〜ん、そんな意味なんだ」

「そうよ、さあ、家には一樹も絵里もお兄ちゃんの帰りを待ってるから早く行こうね」

「うん!!」


 男の子、護熾は自分の名の意味を知り、嬉しい気分だった。自分の名前は恥ずかしものではない、自分の両親がそんな願いを込めてつけてくれた名だと誇りに思い、明日自分の友達に威張るように言ってやろう、そう思いながら住宅街の歩道を歩いているときだった。

 

 お母さんはフッと何かに気がついたように夕暮れの空を仰ぐと何かを見つけたような驚愕の表情を浮かべ、そして何かを言いながら護熾を突き放すように体から離した。

 護熾は突き飛ばされたことで地面に倒れ込み、自分の母親の行動に驚いたがやがて顔を向けたときには既に――――いなくなっていた。そしてその後、行方不明になったと後から知った。


 あの時俺には何も出来なかった。ただ悔しかった。急にいなくなったおふくろのかわりにと思って家事をずっとやってきたけど何の償いにもならないことは分かっていた。

 


 






 ――けっ、嫌になるぜ……ユキナが俺を庇ったときのあの姿…おふくろにそっくりじゃねえか。おい、俺の怪物が見えるって力―――少しでいいんだ。







 そっとただ願うように、自分の正体不明の謎の力に呼びかける。

 唯、あの子を護りたい。そのためだったら命を懸けてみせる。

 これ以上、あんなに小さな身体の少女に、負担を、絶望を、孤独を、味わせたくないと唯に思う。

 これが神様の決めた運命とやらならば、それをぶち壊すほどの力を、

 自分があの少女を絶望の淵から引きずり上げる資格があるのなら、

 太陽のような、あの笑顔を護りたいと思うのなら、







“俺に力を貸してくれよ”

 











 ――――ここで終わりなのね……楽しかった……みんなありがとう



 自分が守るべき人を失い、槍のように頭目掛けて突き出されてくる漆黒の棘を見つめながら、自分の過ちを粛正し、時間がまるでゆっくりと動いているような感覚に浸っている状態で最期の時を向かい入れ、目をつむった。

 だが、来るべきはずの“死”が来なかった。

 おかしいと思い瞼をゆっくりと開けていくと、目の前には漆黒の棘が止まっており、怪物は横を向いて驚愕の表情を浮かべていた。怪物は額に汗を流し、少し怯えているのでその方向に目をやると


 ――――ご……おき?


 血まみれで苦しそうな表情を浮かべているが確かに護熾がそこに立っていた。荒い呼吸と右手で肩を押さえ、虚ろな瞳でそこに立っていた。

 今立ってるのが本当に奇跡のようだった。


「ハァ――ハァ――ハァ――死ぬには……ちと早いぜユキナ……ハァ」

「―――馬鹿な!! 何故生きている!? 確実に死んでいるはずなのに!!」


 怪物は確かに自分の手で護熾の骨が砕ける音、内臓が潰れる感触を確かめたのにそれに関わらず自分が殺したはずのただの人間が自力で立っていたのだ。しかし護熾も護熾で明らかに弱っている様子で口から途切れ途切れに血を吐き出していた。

 

 怪物は尻尾をどけてユキナにトドメを刺すのをやめ、護熾に向き直って今立っているのはまぐれだと思い、今度こそ息の根を止めようと歩み寄り始めた。


「ユキナ、ハァ……聞いてるか? お前はハァ……ずっとこの町を守ってくれた。そうやって五年間……ハァ……過ごしてきたんだろ? だけど……だけど今度はハァ……俺がお前を守る番だ。俺の名前は“熾烈”な戦いをしてきた奴を“護る“って書く。俺はこの名にかけてお前を……」


 一旦、しゃべるのをやめた護熾は口から血反吐を地面に吐き捨てると肩を押さえている右手を横に垂らし、しっかりと怪物を見据えた。


 ――――何? 護熾から強い気が感じられる……


 ユキナは死んだと思われていた護熾が立っていることにも驚いていたが、今までなかった力を感じ取ったことに驚愕をしていた。


「だが所詮、死にかけの分際で何が出来る! 死にきれなかった憐れなお前に何が出来る!!」


 怪物はフラフラとしている護熾に向かってそう叫ぶと今度こそ息の根を止めようと先ほどの常人が反応することが出来ない速度でその場からかき消えるようにして目の前へ移動し、心臓に向かって棘の付いた尻尾を槍のように伸ばし、これで終わったかと思われた。

 

 だが怪物は見た。

 護熾の目に自分がしっかり映っていることに

 スッと相手の速度に合わせて右に体勢を低くした状態で体を動かした護熾は棘が顔を掠めながらも相手の懐に入り、拳を鳩尾みぞおちへと繰り出す。

 

 すると拳は面白いように腹の中にめり込み、怪物の表情は目を見開いた表情へと一変した。そして自分の腹の方に視線を降ろし、信じられない、と言った目で自分にめり込んでいる護熾の拳を見た。

 そして衝撃が後から来た。怪物は後方へ吹き飛び、体勢が崩れそうになるが何とか持ちこたえ、地面の上を滑りながら腹を押さえ、口からよだれを出しながら自分を殴り飛ばした護熾へと視線を向けた。


 ―――何!? 人間の力じゃない! しかもあんなに弱っている状態でこの威力!


「この名に掛けて、お前を護るぜ!!」


 護熾は何故、適うはずのない怪物に戦いを挑んだのかが分かった。


“護りたいから”


 横で倒れている一人の少女がこの町の平和を守ってくれていたのを初めて知ったその瞬間、今度は自分を守ってくれると誓ってくれて、嬉しかった気持ち。

 そしてさっき、触れて改めて知った戦うにはあまりにも幼いその壊れそうな体。

 

 もう迷いなど無い。

 

 その真っ直ぐな思いに応えるかのように、体から鮮やかな翠色のオーラが風と共に勢いよく吹き出した。護熾を中心にオーラは空を覆い尽くすんじゃないかという勢いで広がり、風に揺れるように不安定なオーラはなびいた。左頬に貼ってあった絆創膏は風で剥がされ宙に舞い、そして体中にあった傷は凄い速さで修復を始め、終わりにした。元の状態に戻った護熾にユキナは


 ――――何てすごい気!! ……護熾……あなた、もしかして……


 その気は大きく、そして暖かい“気”だった。風に運ばれてくるそのオーラは何かを伝えるようにユキナを包み込み、そして持ち主のとこへ舞い戻っていった。

 やがて広がっていたオーラは段々と護熾に戻るように凝縮を始め、全てが戻った時、風は止み、静寂が包み込んでいた。

 怪物は先ほどの現象に驚いていたが、何も起こらなかったことに安心し、しゃべろうとしたら護熾がそれを遮った。目をつむって、静かに言った。


「安心しろユキナ。そしてこの町のみんなに代わって、『護ってくれてありがとよ』!! ユキナ!!」


 言いながら開かれたその瞳はエメラルドのように澄んだ翠色をしていた。

 それが何を意味するか怪物とユキナは一瞬で理解した。


「そんな……雰囲気が変わった、だと? そんな……この現世せかいでこんなことが……」

 

 怪物はたじろぎ、警戒するように様子を見ていた。

 ユキナは翠の瞳で怪物を睨んでいる護熾に驚愕していた。

 そして黒から鮮やかな翠へと塗り替えるように髪の色が変わり、護熾の姿は一変し、時折体から翠のオーラが顔を覗かせている。


 ――――護熾が開眼をした? ……そんな――しかもこんな大きな気を持って……


 護熾は自分に何が起きたのかを意に介さず、倒すために怪物の元へ走り寄り始めた。

 怪物は怯えた表情をしながらも尻尾の棘を展開し、無数の針を作り出すと護熾とユキナがいる一帯にばらまくように発射した。

 

 襲いかかる無数の針は何の意味もなかった。

 護熾からはその針がゆっくりと動いて見え、自分に当たりそうなのとユキナに当たりそうなのをその中から選び抜くとかすめ取るように手を動かし、残りは地面や石垣などに深々と刺さり、辺りは小さな針で埋め尽くされた。一つの場所を残して。


「あ、あり得ん!! あの無数の針から無傷だと!? 何故だ!?」


 怪物は無傷で立っている護熾に何故、無事でいられるのかを問いかけると、右手を前に差し出してその答えを見せつけられた。

 指と指の間に挟まっているたくさんの針。

 それは攻撃を完全に見切り、自分たちに当たらないようにした結果だった。怪物は驚愕した。そして恐怖を感じた。


「あわ……そんな……そんな……」


 体が震え、思うように動けない怪物の元に護熾は歩み寄り、対峙するように目の前に立った。翠の瞳でしっかりと捉える。


「お終いにするぜ。けが人がいるんでね」


 その瞳に怯えている自分の姿が映った。


「ちくしょおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 怪物はあらん限りで絶叫し、腕を振りかざして最後の抵抗をした。

 そしてそれが最後の行動と言葉になった。

 護熾は振り下ろされた腕をいとも簡単に避け、そして右拳を開いている怪物の口の中へと突っ込み、喉を破壊し、そのまま突き破った。口から後頭部へと穴を開けた怪物はその場で力なく膝をつき、倒れ、頭を地面に付ける頃には体は塵へと姿を変えていった。

 そして空気の流れで流され、戦いは終わった。


 



 









 護熾は元の黒髪と瞳に戻すと電柱で倒れているユキナの元へ急いで駆け寄った。

 背中に刺さっていた棘はなくなり、見たところ出血は止まっているが半分開かれた目が護熾を見上げていた。ユキナは弱々しい声で


「……護熾……倒したんだね……」


 と、無傷でこちらを見下ろしている護熾に向かって言った。少し微笑んだ表情で


「ああ、これでもう大丈夫だ」

「……そう……よかった」


 護熾が言った後、ユキナは横に倒れるように目をつむり、力なく体を投げ出そうとしたので


「!! おい! ユキナ!!」


 急いで腕を差し出して倒れる体を支えた。『おい! おい!! 死ぬな!! ユキナ!!』と懸命になって顔を覗き込むと、すやすやと寝ていた。

 傷は何故か大怪我から怪我へ回復しており、止血もしており、なぜ倒れたのかはさっき使った疾火と戦いによる疲労だとすぐにわかった。

 護熾は心配した自分が馬鹿だったと呆れ、そしてもう一度自分の腕の中で眠るユキナを見た。つややかな黒髪が触れ、幼い体を自分に預けて寝ているその姿はとても愛らしいもので、その寝顔は安心しきって見る者を釘付けにした。


「何やってんだ俺は―――帰るぞ、ユキナ」


 首を横に振った護熾はユキナをそのまま抱きかかえて家まで歩いていった。

 



 


 




 結界から出た護熾はこっそりと一樹達を起こさないように家の玄関から入り、忍び足で救急箱を居間から持ち出し、ユキナと救急箱を抱えて二階へと昇っていった。

 ユキナは大怪我ではないにしろ、怪我は怪我なので護熾はかなりためらったが服を脱がすことにした。

 

 傷に触れないように慎重に服を脱がし、薄着のシャツに大きな血の染みが見えたことに驚いたが乾いていた。そして最後の一枚に手を掛け、潔く脱がすと柔らかそうな背中が露わになった。女の子らしいその背中には数カ所、血の止まったやや大きい傷口があったので護熾は消毒と包帯を施し、そしてもう一度慎重に服を着せ始めた。


 ベットにユキナを寝かせ、布団を掛け、スースーと寝息を立てているユキナを見た後、寝る場所が埋まってしまったのでユキナと同じように壁に背を付けて座り、窓から見える満月に目をやった。


 そして護熾は気を失ったかのようにガクンと頭をもたれ、眠りについた。




 夜は静かに朝を迎える。





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