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ユキナDiary-  作者: PM8:00
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ユキナDiary---第参話 夜に想う







 昼食会は無事終了した。

 そして灰燼者二名が何とか蘇生し、護熾を含む女性陣のわんやわんやな皿洗いが終了したところであった。


「うー、~~……眠い」


 うつらうつら、っとこたつに潜り込み、顎を机に付けて眠そうな眼でいる少女、ユキナはどうやら食疲れでお眠のようであった。そしてその隣にはユキナと同様の症状を起こしているミルナもうとうととしている。どうやら隣の彼女の連鎖反応に巻き込まれているらしい。端から見れば美少女二人が寄り添って眠そうな表情をしているので可愛らしい光景が存在している。別の視点から見てみればこの二人の側が温かそう、が正直な感想であろう。


「何だ、眠いのか? だったらちょっと寝ときな」

「う~~~」


 眠そうな彼女に気が付き、護熾は睡魔に助力するため、頭を撫で撫でしてみせる。

 するとそれが心地良いのか、ゴロゴロと喉を鳴らす。それを十数秒ほど続けているとだんだん彼女の双眸の瞼が下がっていき、大きな瞳が閉じられると、


 すー、すー


 静かな寝息を立て、彼女は瞼を閉じ、夢の世界へと旅立ってしまった。

 彼女が完全に眠りにつくと、護熾は撫でていた手を退かす。それからまるで眠れる野生獣に細心の注意を払うかのようにそっと顔を近づけ手を口元に持ってくると小声で、


「えと、おーい……。あんパンがあるぞー……」

「スー、スー」

「…………よしっ、寝てるな」


 この単語に反応しなかったと言うことは完全な眠りについている。寝たふりや不貞寝の時はこう言えばすぐに飛び起きるがそれがないということは、とそう結論づけた彼は集まっている人々に顔を向ける。

(そんな確認方法でいいんだろうか)

 その場にいた彼らは口に出さずとも異口同音でそんなことを思っていたが、特に誰も口に出すことはしなかった。


「さて、改めて。今回集まってくれてありがとう」

「皆さん。今回娘のユキナの誕生日に集まって頂き感謝します」


 ここで護熾とユリアから、今回の集まりの真の目的について終結してくれた面子に対して感謝の言を述べる。そのことについては全員、集まれることで力になれるならと各々の表情は十人十色だがそう主張していることが顔に書かれており、その中から近藤が挙手をし全員の注目を集めるとそれを見計らってから言う。


「今全員いるしユキちゃん寝てるから確認するけどプレゼントとかは明日でいいのよね?」

「ああ、明日が誕生日だしな。今日は悟られないようにするための準備の日だから」

 

 現在御就寝中の彼女はこの場に来ている全員がクリスマスという催しに来ていると信じている。


「さて、ということで午前中が終了したところで、今夜のための買い物に行く。もちろん、男子全員でだ!」

「「「え~~~~~!?」」」


 昼食会が過ぎ、護熾の提案に速攻で異議を唱えたのが現世側の沢木、木村、宮崎の三人である。


「ちょっと待て海洞っ! そんな話聞いてねえ!」

「もちろんさっきの昼食の様子を見て練り直した予定だからな。ほーれ。洗い物やら料理やらは女子が担当してんだからそんくらいはやれっつーの! はい荷物持ち一号から六号、さっさと支度しろ」


 今回のイブの夕食に於いて、調理を担当してくれるのが千鶴、アルティ、ミルナ、リル、ユリアと護熾であり、残りの近藤、イアル、ユキナ、絵里が簡単な盛りつけや皿洗いを担当してくれている。もちろん、護熾も指揮のためにその中に加わっているわけである。

 そんなわけで働かざる者食うべからず、ということで残りの男子達は護熾の買い物の荷物持ちである。


「俺は別にいいもんよ。外行って見てみたいし」

「当然、俺もいいぜ。同じく見たいし」

「…………別に構わん」


 一方、異世界側の男子はそれぞれ肯定の意を露わにする。

 ただガシュナだけは顎に手を添えて少し考えた後にそう告げた。荷物持ちなんて一番嫌がりそうなのだが特に否定しないことに護熾は特に気にすることなく現世側こっちの友人達に再び顔を向ける。すると男子陣じゃない方から挙手があったので全員が注目すると、その圧力に少し慄くが、


「あ、あの! 私もいいですか?」


 千鶴がそう窺うように言い、それに続いて別から挙手があり、


「あ、ついでに私も行きたいです!」

「あー、じゃあ私も行こうかな」


 続いてリル、イアルもその買い物に付き合いたいと申し出る。

 護熾は三人の申し出について、別に否定する意味も義務もないのでいいぜ、と言い、それから先程から嫌がっている三人に目を向けると、

 

「さ、斉藤さんや黒崎さんが行くっていうなら仕方ねえよな?」

「お、おう。女子に荷物持たせちゃいけないもんな? な?」

「せ、せやな」

「一人だけ関西地方の言葉遣いになってんぞ」


 女子三人が行くと言い出して、男らしくないと思われたくないのか、単に外出グループに華が添えられたからなのか、謎のやる気を出しており問題はなさそうだった。


「んじゃ、残りの私たちは居残りってことでいいねー?」

「ああ、その方が助かる。眠っているそいつの面倒を見ていて欲しいしな」


 近藤からの最終確認で頷き、それから眠っている少女を見る。

 これまた気持ちよさそうな寝息を立て、安心しきっているような安らかな可愛らしい寝顔を数秒間見た後にユリアから声を掛けられる。


「ユキナのことなら見ときますから、ご心配なくどうぞ」

「あ、どうも。んじゃあ行くぞ野郎共」

(ん? そういえばミルナがさっきから静かだな)


 護熾は出発の号令を掛ける中、とあることに気付いたガシュナがユキナの隣にいるはずの彼女に目を向けると、見た瞬間に納得する光景があった。


「スー、うー、むにゃむにゃ」

「スー、スー」


 二つの静かな寝息。それが意味するのは、ユキナの隣にいた彼女もまた、夢の世界に行ってしまわれたということである。どうやらユキナの睡魔が彼女にも伝染してしまい、あっさりと意識を沈めてしまったのであろう。

 それを見た彼は、やれやれと笑みの漏れた溜息を付く。


(まあ、偶然にしろ必然にしろ好都合だな)


 極力、知らない土地での危険も避けたかったこともあり、ガシュナは起こそうとは思わずその場から立ち、外出のために玄関へと向かう。

 続いてラルモも立って後を追うようにするが、彼は特に彼女であるアルティに声は掛けない。別に激辛サンドイッチに怒っているわけでもなく、彼も彼で、彼女も彼女で理解している二人にしか分からない暗黙の了解があるのでさっさと玄関へと行ってしまう。






 こうして外出グループが全員家から出て行ってしまい、残された七人でお留守番である。


「あーもう! 残って良かった! こんな可愛い寝顔が見られるんだから!」


 そんな中、近藤はこたつでスヤスヤと寝ているユキナとミルナの寝顔にキャーキャーとラブコールを出している。そのことについてはアルティもこくこくと同意の頷きをしている。


「ふふっ、そうですね。この子ったら、お昼にあんなにはしゃいじゃって」


 悶えそうな近藤に微笑みながら、ユリアはそっと眠っているユキナの髪を撫でるようにする。

 

 









 お昼も食べ、大好きな親と遊び疲れてしまった少女の頭を優しく撫で、丁度寝かしつけた時だった。


「あら、眠っちゃった?」

「ああ、お昼寝の時間だったし、うとうとしてたから寝かしつけておいた」


 お昼の皿洗いが済んだユリアがエプロンを外しながらそう尋ね、アスタはそう答える。

 先程お昼のサンドイッチを完食し、ユリアが皿洗いをしている間に積み木遊びや絵本、お人形などで遊んでいたのだが、午前中の買い物やこの遊びによる疲労でか、頭が船を漕いでたため布団を敷き、ここに寝るよう言い付け、こうして完全に寝るまで撫でてあげていたのだ。


「ほんと、子供って不思議だな。元気だと思ったら、急に寝ちゃうし」

「ふふっ、そこが可愛いところでもあるんですよ?」

「そりゃ! っとと、もちろんだ」


 自分の張り上げた声で起きてしまうことを危惧したので途中から声を弱めて言う。


「それで、行くのですか?」

「ああ」


 短い返事と共に、アスタはゆっくりと起こさないように立ち上がる。


「ようやく帰って来たのに、というのはもう言い飽きましたよ」

「ははっ、すまないな。でもあいつらも集まってるだろうし、それに己を磨くってのは、悪いことじゃねえからな」


 彼の言う己を磨く、というのは修行のことである。

 これは眼の使い手全般に言えることだが、彼らは来たる怪物の襲撃に大して常に修練を積んでおかなければならない。そう、アスタも例外ではなく、その鍛錬の結果が今現在ワイトにて実力が頭一つ飛び抜けているのだ。

 開眼の呼び名は『焔眼』。

 そして開眼時の姿とその能力も合わさって、人々から『武人』と呼ばれているのもそう言った地道な努力による賜物である。


「それに、好きなもの喰う前に思いっきり腹を空かせておくにも丁度いいしな」

「あらあら。それじゃあ――――」

「ああ、そいじゃ――」



「「いってらっしゃい(きます)」」



 互いに簡単で、何度も交わしたことのある言葉を贈りながら、アスタは部屋から出て、玄関へと向かう。そしてドアが開こうとしたとき、


「あら? ちょっとあなたー! これ忘れてますよー!」


 机の上のものに気が付き、ユリアはそれを持って呼びながら玄関の方へ急いで向かった。










 この世界は怪物の脅威によって鎖された生活を人類は強いられている。その中でワイトは発展都市であり、水源が豊富なのが有名である。そしてもう一つ、怪物に大して最も有効で攻性に出れる存在、『眼の使い手』という異能力者がいることでも有名であった。

 そしてその異能者たる眼の使い手達はワイトの中核を担う軍政府地区『中央』にて、集結していた。


 場所はワイト研究所の地下訓練場。タイル張りの床と跳弾や誤射に配慮した耐久兼防音壁、さらにはたっぷりと空間を取るためのドーム状の天井になっている。

 ここでは訓練生や射撃練習、さらには試作品の試運転のデータを採取するために使われるなどの使用目的であるが、今回は他でもない、眼の使い手達の修行場とするために完全貸し切り状態である。

 そんなやけに広く、静まりかえっている訓練所のど真ん中に、彼らは集まっていた。


「…………少し遅いな」

「どうせユリアか娘のユキナにうつつをぬかしているのであろう。そういうやつだ」


 集合場所にてぼやいたシバに、横から凛々しい女性の声が入る。

 

「まあ、あいつの性格を考えりゃあ確実にそうだろうけどな」


 シバは顔を横に向け、女性を見る。

 隣にいる女性、背はシバより低いが、勇ましく整った顔立ちをしており、そして何よりオレンジ色の髪が目立つ人物であった。それを少しでも隠すためか、纏めるよう一つに結わえ、背中に垂らしてポニーテールにしている。そしてもう一つ、その女性の下腹部辺りが妙に膨らんでいた。別に彼女が太っているわけではなく、これには別の理由がある。


「ふふっ、では、このお腹の子が生まれたらお互い同じ事が言えるのだろうかね? シバっち」

「リーディア。頼むから生まれたらその呼び名は控えてくれるようにしてもらえるといいんだが?」

「いやだよーだ。まだ産まれてないし、私はこの呼び名が好きだ」


 妊婦、改めシバの妻のリーディアは悪戯に微笑んでみせる。

 どうしてこの場にいるかというと、彼女もまた眼の使い手なのである。

 彼女の開眼の称号は『天眼』。今現在唯一無二で、紅一点の眼の使い手である。

 とは言っても今は産休で前線を控えており、こうして中央にやってきて研究所の友人達に会ったり、今回のように他の眼の使い手達の修行を見に来たりしているのだ(彼女曰く、見ているだけでも眼の使い手は成長できる生き物、だと言う)。


「ありゃ? アスタの奴、ユリアさんとユキナに家族サービスで遅れてんのか?」


 と、二人の他に新たな声。

 その声を聞き、二人はそちらに顔を向けると、白衣姿の男が近づいてきていた。

 そしてその後ろに他にも二名ほど見た顔が近づいてくる。


「お、トーマ。っと、ストラスと師匠せんせいも来たのかい?」

「どうもシバさんリーディアさん。見学にきましたっす」

「ちょっと息抜きにねー。うーん。それとも何かヒント探しに来たっていうのも正解かもね」


 同じく眼の使い手であるトーマと彼の研究者としての先輩、眼帯をしている師匠せんせいことミョルニルと弟分の研究者のストラスが到着し、軽い挨拶を交わす。


「で、今日は例のものの確認だよな?」

「ああ、でも肝心のあいつが来てねえんだが」


 今回の修行は何と言っても、今まで眼の使い手達の歴史の中、例を見ない現象の確認、調査、及び判明を元に行うものであり、何が起こっても最小被害で済むいつもの修行場に来たのだ。

 そしてその史上初の現象を引き起こすことが可能な、彼、そう彼がその姿を見せていない。

 集合時間から既に七分。遅くとも遅すぎず、早くとも既に遅刻という微妙な時間であったが――――


「おーい悪い悪い! 少し遅れたぁーーーっ!」


 今集っている面子の中で一番陽気で元気な声が、五人の耳に届き、声のした方に顔を向かせる。

 見ると訓練場の入り口の安全鉄扉を抜け、こちらに走ってきているラフな格好の男、その人物こそ皆を待たせた元凶である彼、アスタの姿が見えていた。


「すまんすまん! ユキナを寝かしつけていたら遅れちまった!」

 

 そう笑いながら、全速力でこっちに来たのか汗も少し掻いており、よく見ると肩には白いタオルと水筒が掛けられている。一同、その姿を暫し見た後、まずトーマから口が開く。



「ほうほう、で、ユリアさんとの簡単な会話を済ませ―――」



 続いて呆れた表情でいるシバが、



「あげくにはタオルと水筒を持っていくように呼び止められて引き返し―――」



 続いて確信を持った声色でリーディアが、



「そしてそのドタバタで娘のユキナが起きちゃったからまた寝かしつけて―――」



 その光景を想像しながらストラスが、



「また簡単な会話を交えて、じゃあ今度こそ行ってくると言ってすねー―――」

「で、全速力でこっちに来た、ていうみんなの推理なんだけど、どうかしらアスタ君?」



 最後の締めとしてミョルニルが微笑んでアスタに尋ねる。

 以上、全員のこの場に来るまでの経緯の推測をされ、驚愕の表情でいたアスタだが、恐る恐る全員の顔を見ながら呟くように言った。


「なんでみんな分かるのっ!?」

「「「「だって分かりやすいんだもん」」」」


 全員一致のハモりながらの返事。

 この男はどうにも愛妻や愛娘が絡むと行動が読めるほど単純な、恒例とも言える日常があるのだ。


「くそっ! お前らプライバシー保護侵害で訴えてやる!」

「さてさて、全員集まったことだし。主役もおいでになったことだし準備しようか」

「ん? ああ、そうだな。……てかっ、あれってさぁ―――」

「なんだい?」


 実験の準備をするよう皆に促すと、当の本人は少し嫌そうな表情で答える。


「あれってその、やるとすっげー疲れるんだよ……」

「そんなん、修行の時はいつもじゃねーか?」

「いやいやいや。それが一気にぎゅーっと濃縮されたような! 乳酸の塊をぶち込まれたみたいになんの!」

「だったら早く終わらせてユリアの膝枕と娘のユキナちゃんとの添い寝で休めば良かろうに」

「さあ、今すぐ始めようか! ほうら早く早く!」


 ボソッと言ったリーディアの鶴の一声に、大いなる未来の図に夢を抱いた彼はすぐに切り換え、各々の面子もそれに同意して機材や見学の準備をするための行動を開始した。

 




 訓練場の真ん中に電極やらセンサーを取り付けたアスタを配置し、彼の後ろにシバとトーマが控え、正面には気力の測定値も映せるカメラとそれを繋いだノートパソコン、そして記録用紙を持つストラスにその背後にミョルニル、最後に全員から少し離れたところでイスに座っているリーディア。彼女のみ、胎児に影響が出ないように万が一のためにある程度は気力で見えない防壁を張っているが、それでも今から行う現象は未知数なので距離を取っている。



「こっちは完了よー」

「いつでもいいっすよこっちは」

「こっちは何時でもいいぞ」

「こっちもだ。リーディアはどうだ?」

「何、心配なら無用だ。さっさと始めるといいさ」



 それぞれ配置に付き、準備完了を告げる声が相次ぐ。

 そしてリーディアがそう言い、今回の実験の中心人物に眼をくれてみせる。



「…………」



 そこには、いつもの陽気さや気楽さなどはなく、ただ一点、静謐さを秘めた彼が佇んでいた。

 まるで嵐の前の静けさのように、津波が来る前の砂原のように、彼は双眸を閉じて自然体でそこにいた。



(…………いつも思うが―――)



 トーマは彼の背中を見てそう思う。



(静かになると、何というか、空気が変わるんだよな。いつも元気な奴だからそう思うだけかもしれんが……しれんが)



 実際、いつも元気な人物が静かになるとイレギュラーな気持ちを感じることはある。

 しかし、彼の場合はあからさまに、覆っている空気が厚みを増したように、気配が大きくなってまるで巨大な生き物が鎮座しているように、圧倒的な存在感を放っているのは確かなのだ。



「…………」

「…………」



 その様子に、同じ眼の使い手であるシバもリーディアも感じているのか、固唾を呑みそうな表情で見守っている。

 そしてそんな緊張が続くこと数秒――――鎖されていた双眸が開かれる。



 真紅に燃えるような、紅蓮の瞳。まるでルビーの中に炎をたぎらせたかのような、双眸。

 そしてそれに伴って黒い髪も熱せられた鉄のように一瞬オレンジ色に、そしてすぐに緋色へと変貌を遂げる。一本一本がそうであるかのように、力強く紅く点す髪は、見る者の眼に飛び込むように穏やかな光を送る。

 そして部屋が、力強さと穏やかさを含んだ紅蓮に染まる頃、彼の開眼が完了する。



 アスタの開眼『焔眼』。

 まさしくその名の通り、灼熱の紅蓮を具現化したような力強い風貌である。



「相変わらず凄いわね。じゃあアスタくん、やってみせて」

「はい!」



 ミョルニルに気合を込めた返事をし、体に僅かに力を入れるよう、静かにもう一度両眼を閉じてから力む。

 同時に彼を薄く覆うようにしていた朱色のオーラが突如厚みを増し、逃げ場を求める蛇のように暴れ出し、その暴走を止めるよう一つ深呼吸をするとその厚みのまま安定し、もう一回眼を開ける。

 すると、彼の姿は先程と少し違い、髪が少し逆立ち、出るオーラは厚みを増してはいるがそれと同時に刺々しい空気も纏っているようで、肌の感覚に小さな棘のような感触を持ってくる。




(この状態も相変わらずか。眼の使い手としての才能なら、過去の眼の使い手達に引けをとらない。むしろ、超えてるといっても過言じゃねえかもな)



 

 最大限解放イグニッション



 彼らは今のアスタの状態をそう呼んでおり、呼び名通り普通の開眼状態の気力を最高状態にしたものである。その結果、通常より気力を多く扱えるため動作が俊敏になったり発揮できる力が一段階上がる。ただし、体への負担も大きく、一日に最高三度までしかこの状態になることができない。




 ―――というのが、『過去』の眼の使い手達から得ている情報であり、実際、この実験におけるアスタの状態も単なる本題への通過点にしか過ぎない。

 


「あんまりこの状態でいるのには時間が勿体ねえからいくぞ!」



 思いっきり戦うためのこの姿は気力の消費も激しいので次の段階へとアスタは進める。

 皆が見守る中、アスタは『その状態からさらに』開眼をするときと同じ要領で冷静に、体中の気力を解放するようにする。 するとそれまで大人しくしていたオーラも、まるで拒絶反応を起こすかのように荒れ始め、それに伴ってアスタの表情も険しく、脂汗が滲み出始める。

  




 すると、そこで一つの変化が起こる。





(―――――っ! 出た!)





 全員の眼が、その変化を捉え、驚愕の色に変わる。

 



 それは、透明で不定型な、何か。

 一枚布のような何かが彼の周りを取り巻く様にし、彼の纏っている激しいオーラにさらに被るよう、激しさとは対極にある静寂さである風の衣のように、彼の体を覆っている。

 しかしその姿も束の間、フッと、空気に溶け込むように元々の儚さに拍車を掛けて、消滅してしまう。



「~~~~~っ!! ぶはぁっ!!」



 それと同時に、まるでずっと水中にいたかのように大きく深呼吸をし、熱が冷めた鉄のように元の黒髪と瞳に戻る。先程の状態がかなり堪えたのか、両膝に手をついて激しい息切れを起こしており、数秒前までの状態から一転、心配になるほどの脂汗と疲労が目に見えていた。


「はいお疲れさん! トーマトーマ! 早くアスタくんに水を!」

「ほい、お疲れさん、っと」


 ミョルニルの指示に従い、懐にしまってあった預かり物の水筒を開けて顔を伺うようにし、彼に渡す。

 アスタは急いで流し込むようにすると、ユリアの気遣いなのか、清涼飲料水が入っており、清涼飲料独特の甘さや爽快さが喉元を過ぎていく。


「――――――――っは! 生き返ったァ!!」


 一息で全て飲み尽くすと、深呼吸をすると同時に復活の雄叫びを上げる。

 ここまで元気な声が上げられるなら大丈夫だろうと判断したトーマは、機材担当をしていたストラスのとこへ行く。

 丁度、ノートパソコンで映像の再生と測定できたデータを照らし合わせている作業をしているので横から顔を覗き込ませる。


「どうだ? 今の」

「はい、バッチリ取れました。しかし何というか、ちょっと師匠せんせいもこっちに来て下さい!」

「はーい何々?」


 弟子に呼ばれ、アスタの様子を近くで心配そうに見ていた彼女は、ひとまず彼の様子から大丈夫だと判断すると早足でこちらに来る。

 ガッ、と――――その時一転、何もないところでつまづくスキルを発揮。途端、バランス崩壊と近づく地面に気が付き、素っ頓狂な声を上げる。


「きゃっ!? ってあわわ!?」

「おっ、ととっ」


 何となく転ぶタイミングなら今かなと準備していたトーマは何の苦もなく起こしていた事前行動により、派手に転ぶ前に両肩を掴んで、地面との接吻を阻止する。


「あ、ごめんなさいトーマ。ありがとう」

「やれやれ、あんたは自分の身に降りかかる危機察知能力を鍛えてほしいもんだ」

「あ、あははー。毎度面倒を見てありがとうね」 

 

 トーマとストラスの先輩であり師匠である彼女は、どうもドジなところがある。しかし意外なことにワイトを代表する科学者であり、現在は怪物の迷彩能力の分析を元に無力化する装置の完成に追われている。しかもその装置は単に無力化するだけではなく人間側にも有利な状況を作る様々な機能を追加検討中でもある。

 しかしこの世に神がいるのならば、何故彼女にこんな危なっかしいスキルを付けたのかと今一度問いたいと思ったのは昔の話。今では事前察知ができるようになってしまった。


(……まあ、そこがこの人の個性と言えば個性なんだがな)


 そんなことを思いながらも彼女を立ち上がらせ、一緒にストラスの元へ行く。

 既に彼の手で今回の実験の要点や印を付けられた映像に編集されており、二人して覗き込むときには奇妙な点が浮き彫りになるように工夫されていた。

 映像にあるのは先程の風の衣を纏うアスタの姿で、画面横には気力の強さや濃度を表すグラフの図があり、映像に合わせて上昇し、開眼を解いた途端、急斜面を滑り落ちるように低下していった。


「あ、ちょっとこれとこれ見て!」


 何かに気が付いたのか、ミョルニルは映像のある場面を指さし、ストラスは映像をストップさせる。

 彼女が指さしたのは、アスタが最大限解放後の透明な衣が出現した時のグラフである。それを見てみると、既に気力のピークを過ぎているのにも関わらず衣は出現しており、もう一つ、開眼を解いた後も、映像にはさらに薄くなっているが、あの衣は数秒の間、開眼状態を解いても尚、存在していた。


「何だ? 単に余韻のような気もするが?」

「あなたは眼の使い手でしょ? 普通開眼状態を解いたら眼の使い手が作った物は成功失敗例外なく発光粒子になっちゃうはずでしょ?」

「まあ先輩は具現化の能力苦手ですもんねー」

「るせえ。あの三人みたいに器用じゃねんだよ」

「まあまあ。でもこれはそのままスーッて消滅しています。それに、微弱な気力も探知するはずのセンサーにも引っ掛かっていない。ようするにこれは―――」

「気力じゃない何かってことか? 俺が出したやつは」


 考察からの横から入り込む声。

 気が付いてその声に目を向けるとアスタもその映像を見ており、シバもリーディアもうーんとこの現象について頭を悩ませているようであった。

 ふと、何かを思いついたようにリーディアが尋ねる。


「そういえばアスタ、お前は一体何をイメージして気力を込めたのだ?」

「え? いや、前にも言ったけど、実はこれと言ってイメージは固めてねえんだよ」

「しかし前回よりは形というか、具現化はハッキリしてきているがな」

「前回との違いは、期間と、それと、ユリアさんの膝枕とユキナちゃんとの添い寝発言くらいだな」

「じゃあ、愛の力で形がハッキリしたってことか」


 ごくあっさりと、恥ずかしいはずの言葉をさらっと自信気に言う。

 この発言に一同、反応に困るがシバは溜息を付きながら、


「その愛の力は一方的な気がする。単なるお前の欲望だろうが」


 すかさず核心を突かれたアスタは反論。


「ああ? いいじゃねえか! それに護るべきものがあると強くなるっていう話があるだろうが!」

「その護るべきものに見返り求めてる時点でどーなんだよ」

「うるせえ! 膝枕と添い寝くらい現実にしたっていーだろうが!」

「んなもんであんな未知の現象引き起こしてんのかお前は!?」


 愛の力は無限大なんだよと、胸を張って答える一児の父親(眼の使い手)。


「まあまあお二人さま。結論を言うと、この衣みたいなものはアスタくんの気でできていない、若しくはアスタくんの別の力を模っているものなのかもしれないことね。どちらにせよ眼の使い手史上初の現象に立ち会えたんですから今回の実験はこれで良しとしましょう」


 彼の気でできていないというのを確認できた結果、そして気ではない何か未知のエネルギーの可能性のある衣、研究対象が増えたことと、ヒントになるかどうかは分からないが少なくともこうして全員と共に過ごせた時間を満足げな表情で答えるミョルニル。


「まあ、眼の使い手の歴史の中で記される貴重な記録っすから、光栄なことですよ」

「はい、じゃあアスタくんお疲れ様! 帰ってユリアさんとユキナちゃんによろしくね」

「よーし、今度こそこれで今日は終いだな。お前らはどーすんだ?」


 用事が済み、昨日の戦闘の疲れが残っている状態での気力の大幅消費をしたアスタは、体力的にはまだ余裕だが生体エネルギーである気の消費は見えないところでボロボロにするのでこれ以上の修行続行は控えなければならない。


「もちろん、俺たちも帰―――」

「当然、せっかく貸し切ってもらったのだから使わせて貰う」

「る、ってちょ、っと待ってくれリーディア! 俺も疲れてんだけど!?」

「うかうか怪我をするような未熟者が何を言っている? 鍛え直してやる。それと―――」


 せっかく休めると油断していた夫を撃沈した後、そろそろと忍び足で逃げようとする白衣の男に目を付ける。


「トーマ」

「うおっ!? な、な、何だ?」

「お前は具現化がまだ下手だからな。いつも夢の中の人の修行ばっかじゃ技量は定着しないぞ。ほらほらやるぞ」

「「うえ~」」


 この二人は別段、修行自体は嫌いではない。問題はコーチがリーディアという点であろう。

 幼いときからの付き合いで、彼女の厳しさが身に染みている二人(※アスタもよーく知ってる)にとっては既にグロッキーな状態になってそうな声色で言う。 


「はっはっは! あばよお前ら! 俺は一足先に膝枕と添い寝を堪能してくるぜ!」


 いざ、夢を現実にするため、タオルをしっかり持ったアスタは全員に軽く手を振ってからその場を去る。そんな帰宅していく友人の背中を見ながらシバは悔しさを混ぜた声で返事をする。


「くっそォー、悔しいがよく休めよ! いざって時に足手纏いになられるのは困るからな!」


 その言葉に対して、彼は片手を振って返事をする。

 大丈夫だ、精々頑張れ。そんなことを言っていることは長年の付き合いで大体分かった。

 そして彼の姿が見えなくなった頃、うだーっという顔をしているシバに、リーディアはある提案をする。


「これが終わったら、シバっちには膝枕をしてやろう」

「な、何!? 本当か!?」

「お前も何だかんだ言って見返り欲しいのな」


 こうして鬼コーチリーディアが見守る修行が行われる。

 眼の使い手の日常では己を鍛えることを課し、開眼状態時も通常時にも自身の気力をうまく扱い、性質を見出し、それに沿って自分なりの戦術や力加減を習得しなければならない。特に、開眼時には普通では考えられない能力や殺傷能力を己の身一つで実現してしまうため制御や習得は特に重要である。

 ここにいる彼らは、既に10年以上もの修業を積んできている。なのでこのことは重々その身をもって承知しているわけであるし、そう言った基本が一番大事なのもよくわかる。


 

 毎晩、聞かされ、痛めつけられ、何度も立ち上がってきているわけなのだから。

 








 その晩、彼の大好物である鳥の唐揚げを夕飯に食べ、風呂に入った後は寝室で娘に絵本を読み聞かせ、眠くなるまでの子守りをする。そして奥さんもそれに加わり、ベットの上で川の字に、間に娘を挟み、頭をポンポンと撫でているとすやすやと静かで小さな寝息を立て始めた頃だった。


「……あんまり、無茶をなさらないでくださいね?」

「あー、やっぱ心配しちまうか?」


 眠ってしまったユキナの頭を軽く撫でながらも、アスタは軽く予想通りと言いたげな微笑みで返す。

 ユリアに話したのは、今日の実験のことである。この前よりは具現化に成功はしているが、それに比例して体力の消費も増えていることを包み隠さず言ったところであった。


「だって、普通じゃ考えられないくらい体力を消費しちゃうんですよね? あなたが一歩ずつ前に踏み出しているのは分かるんですが、命を削ってそうな感じがして……」

「大丈夫だって。眼の使い手ってのは人の何十倍もの気力を持ってるし、俺だって中途半端に鍛えていない。今回のやつも、最大限解放イグニッションみたいに何かの力になるかもしれない」

「………どうして」


 途切れそうな声に、アスタは気が付き、そして思わず小さな声でえっ、と呟いた。

 ユリアは悲しそうな、心底心配そうな表情でいて、両目を微かに潤ませているように見える。


「どうして、そんなにも力を得たいと思うんでしょうか?」

「そりゃあ、俺はお前たちや、あいつらのために……」

「だからと言って、自分を無視してまで手に入れる価値があるんでしょうか」


 ここで、アスタはユリアが何を心配しているのか大凡把握する。

 ようするに、アスタの力を得ようとする行為に怯えているわけでもなく、その未知の現象について怖がっているわけでもない。心配なのは生体エネルギー、すなわち命が懸っているかもしれない状況まで自分を追い込んで手に入れるまでの価値があるのか、そんなあからさまに危険な行為に心配しているわけである。



「もー、可愛いなユリアはー」



 自分を心配してくれている、そう思ってくれていることに愛しさを感じながら艶やかな髪を撫でる。



「ちょっと、誤魔化さないで下さいよ。私は本当に―――」

「分かってるって。でも俺は眼の使い手で、軍人だ」



 撫でていた手を退け、アスタは微笑みながら言う。



「逆の立場でも、俺は止めたいと思う。でも、このご時世、怪物どもの勢力は日毎に増している。もう、ただの開眼じゃあ、いざ戦になったとき守りきれる自信がねえんだよ」



 ユリアはそこで初めて、彼の言葉の端に焦燥の陰りを感じ取れた。



最大限解放イグニッションだって、せいぜい三回程度が限度だ。そんな限られた条件で生き抜けるほど、連中は軟じゃない。だからもっと強く、絶対に帰ってこれるような、護れる力が欲しいんだよ」



 彼だって、いつも陽気でヘラヘラしている印象だが、誰よりもこの世に跋扈する異形の者達に対しての不安や恐怖も持ち合わせているのだ。

 

 彼は眼の使い手である。これが意味することは怪物たちと直接対抗しうる能力を持っていると同時に、過去に怪物たちの手によって、日常を奪われてきたことを意味する。

 つい忘れそうになる、彼は両親を早々に亡くした孤児であったことを。そういった寂しさを同じ境遇であるシバ、トーマ、リーディアと共に堪えてきたのだ。つい忘れそうになってしまうのは、それほど彼自身の芯の強さが周りにも影響してしまうほど強力な証拠である。

 そんな強さを持つ人を夫としていつもそばにいるということを思うと、不思議と安心するような、微笑みが零れる。


「……ほんと、真っ直ぐな人」

「だろ? 俺は真っ直ぐでいたいんだ。刀みたいにな」

「刀って……少し曲がってますよ?」

「ああ、そうじゃなくって。刀で斬ったみたいな真っ直ぐさが……あー、何言いたいのか分かんねえ」


 口の中でしどろもどろになってしまい、頭を軽く抱えるようにする彼。

 彼だって、人間だ。それに特殊な生涯を経験しているのでたとえ危険であってもようやく手に入れたこの小さな平和を護るためには多少の無茶だって躊躇せず行うであろう。

 彼の覚悟を否定してはいけない、でも、踏み入れすぎないようにするのが他ならぬ自分であることを改めて確認したユリアは微笑んでフォローの言葉をかける。


「ふふっ、とにかく、あなたの言いたいことは分かりましたよ」

「待て、刀関連でもう一個言わせてくれ!」


 何か思いついたように言い、両手で曲線を描き、刀の形を表すようにする。


「俺ぁ、何かこの刀ってのが好きなんだよ。何というか、自分の意志を宿しているような感じなんだよな。そうだなー、例えば、ユリアやユキナに会いたいって、毎度生きて帰ってこれるようにっていう自分なりの約束を込めてるような、そんな感じなんだよ」

「確かに不思議な力が宿っているように見えますもんね。なんていうか、他の武器にある荒々しさがそんなにないというか」

「そうそう。なんていうか初めて手にしたときからしっくりきたんだよなー」

「それはあなたの性格の所為かもしれませんね。あなたの武器全部刃物ですし」

「あー、まあな」

「とりあえず、今日はこのへんにしておきましょう。ユキナを起こすとまずいですし、ね?」

「え、ああまあそうだな。うん。うん?」



(あれ? ちょっと寝るには早いし、ね? ってことは、あれ? もしかして、いやまさか、これってあれですかい?)



 別に錯覚ではなく、普段より約一時間早い御就寝状態であることに気が付き、アスタは直に心臓の音を聞いた気がした。それも錯覚ではなく、自身の心臓の鼓動が聞こえるほど緊張していることに気がつく。

 娘を早く寝かせ、妻が何か裏がありそうなことを滲ませる確認の一言。

 そういえばやけにユリアが色っぽく見えるし、不思議とシャンプーの甘い匂いもする。それに、最近ご無沙汰であるし、彼女の方も気にしているかもしれない。そうなるとつまりは、今夜は突撃OKってことなのか!?

 そう結論付けたアスタはいざ出陣するべく体を起こす。なぜか今日消費したはずの気力以上の精力なるものが、彼の体を推し進める。



「じゃあ、明りを消しますねー」



 しかしいつもと変わらない口調でユリアが薄ぼんやりとしている部屋の明かりを消したので、アスタは不意にその動きを止める。何かおかしさを普段と変わらない様子から感じ取ったのであろう。


「? どうしました?」

「え? いや、あの、うん。そうだな、寝ようか」

「はい。今日はずいぶんお疲れになったそうなので早めに寝ましょうね」




(あー、ちくしょー。やっぱそうなのか~)




 どうやら、錯覚であったのはそういう風に見ていた自分の眼であったらしい。

 単に、彼女は今日の実験で体力を消費したのを考慮して睡眠時間を多く取ってもらおうとした気遣いをしただけであろう。それによくよく考えれば、間にユキナがいるのにそんなことをするはずがないと、自分がどれだけ視野の狭い状態に陥っていたのかと思うと、自己嫌悪感しか生まれない。



(自重しろアスタよ、男ならここは彼女の厚意に甘えて明日に備えるんだ。泣きたいとか思うんじゃねえ! そりゃ俺だって健全な男ですよ! そういうこと期待したっていいだろうが男はみんなそうなんだから! それで可愛い奥さんならなおさらじゃん……! 俺は、何か間違ってますか!? 間違ってませんよね? でも愛してるなら混同させんな!)



 ごく自然な本能に対し、理性を持って制する自問自答ほど苦しく悲しいものはない。

 なぜか枕が湿っているような気がしたが、まあ明日の朝までには乾いているであろう。

 するとふと、自分の腕に誰かが抱きつくように腕を回してきた。見てみると、可愛い寝顔でいるユキナのものである。


「うー、むにゃむにゃ」


 寝返りがてら、安心できるものだと無意識に認識したのか、抱きついて離れないようにしてくる。それを見て、毒気を抜かれたような気分になる。そんな愛娘の温もりが心地いいと思っていると、さらに別の温もりが加わる。そちらも見ると、ユリアの方もこちらに身を寄せるように近付き、腕に触れている。

 その顔を見てみると、眼が合ったのに気がついたのか、微笑んでくる。いつ見ても変わらない、ここにいることを安堵させてくれる気持ちが染みる。



(……そうだ。もっと、強く)



 自身の気持ちに張りを、二人を抱擁している実感と共に感じる。



(強く、ならなきゃな)



 望みの先にあるものを確固たるものにするには、そうしなければならない。



(眼の使い手として、一人の父親として、な)



 そう思いながらも、知らないうちに疲労が蓄積していた体は、その腕に世界で一番愛している娘と妻を抱きしめながら、世界が約束しない明日への眠りへ誘っていった。







さて、いつもより早く投稿できました。今回アスタ成分が多めでございますし、次回もこんな路線で進めていきたいと思います。次の次辺りで変化を起こせればいいかなーなどと無計画な発言、お許しくだされ(笑

 さてさて、現在の文章力での最終リメイク(仮)は七日目まで進んでおります。今もですが三年前の恥知らずな文章力に悶えつつ、頑張っています。

 そんなわけでそれではまた次回。ではでは~

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