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ユキナDiary-  作者: PM8:00
138/150

ユキナDiary---第壱話 その男、アスタ

前回で始まるぞ~ってな感じにしましたが全然始まっていません! どういうことだこれは! というわけで先に言いますと本当に次話から始まると思いますのでその繋ぎとしてどうぞ今回の話を読んでみてください。


 そういえば13年前のアスタの年齢ってこれであってるんでしょうかね?


 まあそれはともかく、今回のお話をどうぞ~











 闇が優しく包んでくれる夜が終わろうとしている。

 重く垂れ下がる黒を溶かしていくように、光が差し込んで輝く碧色となる早朝であった。

 


 そんな中、この大地が新しい一日を告げようとしている時、夜の暗闇を未だに纏う集団が音も立てずに、しかしそれぞれバラバラの足取りながらも一方向へと進んでいた。

 人間ではない。その集団は、異形のモノ達であった。

 あるモノは常に唸りながら、あるモノは口から涎を垂らしながら、進んでいる。

 彼らは興奮していた。

 そう、今闊歩しているこの大地の向こうには、城壁のようなものが円を模るように立てられており、彼らにはその城壁の中に何があるのかを知っていた。そう、人々が身を寄せ合いながら暮らしている町があり、他のところに比べれば小規模に認定されるような場所である。

 その中にある獲物を求め、およそ百体ほどから連なる数で襲撃しに来たのだ。



 ただあの城壁内にある小さな町でもこの程度の数ならば快勝とまではいけないがそこそこ戦えるだけの武力は存在する。しかしそれはあくまで万全の状態で挑んだ場合に限る。

 だがこの町は少し前に、怪物達の襲撃に遭ったばかりなのである。

 しかも今来ている怪物達の数より大分多かったため弾薬などは大きく消費し、その所為で今はやや武力不足ではあるが、それで悪くても増援を要請する時間くらいは余裕であった。



 だが今は明朝、そして襲撃後の人間達の安堵の隙を狙って彼らは来たのだ。

 そして彼らは、襲撃を行う準備として身体の表面に透明な膜を作り始める。その膜が全身を覆い尽くし始めると、その黒い姿は徐々に風景と同化していき、やがて見えなくなってしまう。

 だが大地を踏みしめて悲鳴を上げさせ、飢えた息づかいは這わせ、彼らは姿無き実体を町の方へと運んでいく。



 そしてようやく城壁がハッキリと見え始め、彼らの終着点がもうじき終わりを迎えるときであった。

 一番先頭にいた怪物が急に足を止め、ヒクヒクと鼻を動かし、自分達にとって不穏な空気を感じ取り、それに続いて後方のモノも足を止め、やや困惑したかのように顔をあっちこっちに動かしているのか、透明な空間が大きな歪みとなっていた。


 そしてその内の一体が、その根源を探し当てたのか突然城壁の方に顔を固定し、他のも一斉にそちらに顔を向ける。

 二百ほどの瞳に映るのは、城壁の所為で見えにくいが二つほどの影。

 バカな、と彼らは思った。

 








「……ようやく、お出ましか。夜通し待った甲斐があったな」

「もうちょっと早く来て欲しかったんだがな俺は…………だァー! 本当なら俺はもう向こうに帰って愛すべき家族と一緒に寝ているハズなのに!」

「おまっ! お前がまだ来るから少し待った方がいいなんて提案するからだろうが!?」


 そんな若い男二人組の会話が、静かな早朝に騒がしさを加える。

 どちらも暗がりではあるが黒い髪をしており、互いに戦闘服を纏い、それぞれ刃物や銃などを仕舞い込んでいる出で立ちである。



「ああ、しましたしましたとも! でも一晩中待たせられるのは予想外だったんですよーだ!」

「お前の勘がいいのは認めるが、付き合った俺のことも労ってくれよな……」

「あーよっこいしょ。でもなあ、本当ならお前まで付き合う必要もねえんだぞ、シバ」



 そう言って男は立ち上がり、改めて前方に広がる透明な怪物達を見据える。

 その眼には、ステルスなど無意味かのように黒い連中の姿がよく見えている。

 それに続いてシバと呼ばれたもう一人の方も立ち上がり、同じように大地に広がる黒い絨毯を見据えると、



「……リーディアの奴に終わるまで帰ってくるなと言われてるし、それに丸投げしたみたいで後味が悪くなるからな、アスタ」

「相変わらず奥さんに弱いこった。でも、ようやく胸を張って帰れそうだな」

「違いないな」



 刹那、二人の身体からは一瞬だけ紅と黒のオーラのようなモノが吹き出す。

 シバの方は黒いオーラのようなものを纏っただけでみためは普段から代わりがないようだがいつのまにかその手には鍔が除かれた日本刀のようなものが握られており、その足下には不規則に何かが蠢き始める。


 そしてその横には、アスタと呼ばれた男から薄暗い大地を照らし出すかのような―――焔。

 真っ赤なオーラが吹き出て、それと同じように髪の色も紅蓮の色に染まり、やがて火の粉のような光粒を身体に纏うと閉じていた両目をゆっくりと開け、――――深紅の瞳が怪物達を突き刺すように捉える。



「さて、ここまで来てくれて悪いが、人々の安眠を邪魔するわけにいかないんだ」

「さーて、じゃあ、用意は良いか? シバ」

「ああ」


 シバはそう言いつつ刀を持っていない方の手で腰のナイフを引き抜き、準備完了にする。

 そして彼が戦闘準備を済ませたのを見て、アスタは右足を少し前に出し、その場を踏みしめるようにし、それからギュッと軽くトン、と音を立てて踏み込むようにすると、



「さーて、と……」



 すると地面から、あるいは空間から、紅の火花を散らしながら梵字が描かれた円陣が出現し、そこから計五本の様々な大きさをした剣が彼に向かって柄から飛び出す。アスタはその中から適当に蒼い色をした刀と鈍色の大剣の二本を両手でそれぞれ掴み、刀は手慣らしにビュンと横に薙ぎ、大剣の方は地面に突き刺して固定する。すると残り三本はまるで次の機会に控えるよう、その場で光の粉となって消滅する。それを確認したシバが、



「じゃ、先行くぞ」


 

 そう言い残し、まず先陣を切るために思いっきり飛び出し、それに続いて足下の蠢くモノもまったく遅れずに彼の後を従っていく。

 続いて二番手になったアスタは今一度両手の得物をしっかり握りしめ、その内大剣を地面から引き抜き、土を辺りにばら撒きながら肩で担ぐようにし、ぐぐっと左足に力を入れると、

 


「悪いが、一晩待たされた俺たちの時間、返して貰うぞ」



 そして彼は、背後にある町に住む人々の平和な幕開けを届けるために、宙に舞う土零れを身体で弾き飛ばしながら、一気にその場から飛び出していった。



 














 ピンポーン



 海洞家では本日三度目のチャイムが響き渡る。

 そのことについてある者は気がついて玄関に顔を向け、ある者はこれから初めて会う人達ばかりなので少し緊張気味になり、ある者は普段と変わらずあまり気にしないでいたり、ある者はよっこらしょと腰を上げて玄関先へと向かおうとする。

 すると、



「トイレ、借りるぞ」

「おっと、トイレは廊下の一番奥の洗面所の右な」



 ガシュナがそう言ったので護熾は立ちながら場所を教え、二人ともコタツから抜け出て廊下でそれぞれ反対方向へと歩き出す。

 因みにユキナは寒いからなのか、それとも驚かせたいのか、コタツに潜伏中のG・Fのクラスメイト達と何やらざわざわと会議をしているようであり、一見すると居間は不自然に膨らんだコタツとゲーム機を片付け中の三人しか見当たらない。


 





 護熾が冬の寒い空気の方に扉を開ける。

 すると終業式以来の顔合わせとなる友人達が荷物を持って並んでいるのが見えた。


「よお、よく来たな」

「はーい時間通りよね? ユキちゃんいる?」

「ああ、今コタツで丸まってる」

「おーっす海洞」

「あ、海洞くんどうも」

「海洞、終業式以来だな!」

「さーてさて、中に入れてくれー」


 沢木、近藤、千鶴、木村、宮崎は彼と顔を合わせるなりそう言い、護熾は全員来ていることを確認すると一歩身を引き、家の中に招き入れるようにする。それを合図に近藤達は順番よく中に入り、最後に入った宮崎はドアを閉めてちゃんと鍵を掛けてくれた。



「ふいー、それにしても寒いな! 早くコタツコタツー」

「その前に荷物を和室で纏めるのが先だ。ほらこっちだ」



 冬まっただ中の気温は昼でも10度前後のため指先や鼻はよく冷える。

 それを一刻でも早く温めさせたいのは山々だがその前に面倒事はきっちり終えさせて貰いたい。



「ん? 何か靴がめちゃくちゃ多いな…………ってことはもう、来てるのか?」

「ああ」



 早速気がついたのか、沢木は護熾にそう訊ねる。

 因みに彼らにも今日、ユキナの友人達が遊びに来ているということで事前に知らせており、千鶴を除く四人はあのユキナの友人達がどんな人なのか不安が六割、楽しみが四割ほどを織り交ぜたような気持ちで今日のユキナのサプライズパーティーを臨んできたのだ。



「あー、緊張するな~。あの木ノ宮さんの友達だから…………つまり女子が来てるわけか」

「!?」

「!?」

「ちょ、あんた達何でいきなり雰囲気が変わったのよ?」



 沢木のこの発言により突然宮崎と木村の目付きが変わったが、護熾は気がつかず和室の案内を続ける。

 そして和室まで足を運び、彼は襖に手を掛けて引き戸をスーッと開けると、意外だったのか思わず眼を丸くしてその場で一瞬固まる。

 何故ならば、開けた先には、



「あら? 護熾さん? っと、その後ろの方達はもしかして……?」



 まだ荷物の整理をしていたのか、座り込んだ状態でいたユリアが大きな目をパチクリさせながらこちらを見ており、護熾の後ろの近藤達に気がつくとそれがすぐにここでユキナがお世話になった人達だと察した。

 一方護熾の方はこれがいやに不味いのではと悪寒を感じ取っており、とりあえず声を掛けようとするが、



「あ、ユリアさ、」

「ユキちゃ~~~~~ん――――――――――!!」



 一足遅すぎて、近藤は荷物を足下に置くと両腕を目一杯広げてハグをするために走り寄る。

 そして案の定、見事にその両腕にユリアを抱き締めるとスリスリと頬を擦り始める。



「あーん元気してたユキちゃん~~~!? 会いたかったよ~~~!」

「わぁっと!? え、えっとお…………これはどうしたらいいんでしょうか?」

「んぅ? 何かユキちゃん、大人っぽくなったね? ……何だろう、何か違和感が……」



 娘と勘違いされ、突然の抱擁でやや混乱気味のまま視線を護熾に向けて返答を訊ね、一方近藤の方も自分が知っているユキナとは違和感を感じ取ったのかマジマジとその姿を見る。そんな様子を彼は片手で顔を押さえ、予想通りの結果になっちまったと言わんばかりであったがやがてやれやれと言った感じで溜息を付くと、



「あー、近藤、気がついたみてえだけどその人はユキナの…………母ちゃんだ」

「ああ、木ノ宮さんの母さんか、ってえェ!?」

「うっそぉ!? 若い!!」

「ワッツ!?」

「え? この人がユキちゃんのお母さん!? おわちょちょちょ!?」



 さすがに近藤も自分の行為が恥ずかしくなったのか慌てて抱擁を解くと蹈鞴を踏むように後ろに下がる。

 そんな中で千鶴は、異世界に行ったことはあるがユキナの母親であるユリアに会う機会がなかったのでそのあまりにも似ている容姿に驚きを隠せないのか、眼をまん丸にしている。


「うわぁ、まさかユキちゃんのお母さんってこんなに似てるんだ…………!」

「あー、うん。最初は俺もどっちがどっちだが分からなく焦ってた時期があったんでな」


 さすがに付き合ってることはあるので現在、間違いは少ないようである。

 しかし、ユリアの存在は近藤達にとっては大きな出来事だったらしく、頭の中でしきりに間違い探しでもするかのようにマジマジとその姿を見ている。



「さ、さすが木ノ宮さんのお母さんだけあって……若いし、綺麗だなー」

「ああ、俺、何かお母さんでも良い気がしてきた」

「家に入るなり俺に早速つっこみを入れさせるとは良い度胸じゃねえか木村ァ!!」

「うわああああああ!! ちょっ……! ごめんごめん海洞!! 邪念が出てきてすんませんでしたっ!!」



 この間ユキナにふられてしまい、失恋してしまった木村の思わぬ危険発言に対し、護熾は反省しろという意味を込めてアイアンクローをお見舞いする。



「い、いや先程は軽率な行動ですいませんでした。いつも娘さんとはあんな感じでコミュニケーションを取っていたので……」

「ふふっ、いいんですよ。ユキナとはあんな風に接して頂けたなんて、母親として嬉しい限りですよ」


 

 そんな二人を脇に置き、残りのメンバーは改めてユキナの母親ということでユリアに挨拶を交わしており、近藤は先程の行為を詫び、あっさりと微笑みと共に許しが得られると慌てた気持ちを晴らさせ、



「て、てなわけで、今度はモノホンのユキちゃんを確保しに、いざコタツへゴー!」


 

 今度こそ成分百%のユキナを求め、荷物をあっさり整理し終えるとみんなを置き去りにし、廊下は走ってはいけないという決まりなど知るもんかといわんばかりに走る。

 

 そして居間へ続くドアの手前で靴下で摩擦熱を作りながら横滑りし、バッとドアを開ける。

 目の前にはコタツ。そして急にドアの開いた音で驚いているラルモやギバリ、一樹に眼を合わせず失礼するわよ!と不自然に膨らんだコタツに両手を突っ込むと確かな感触があり、この掴み具合は間違いなく彼女だ、と判断すると埋まった作物を引っ張り上げるように、


「ユッキちゃーーんカモーーン!!」


 ズボッとコタツから思いっきり引き抜き、体重の軽い身体が簡単に持ち上がる。

 そしてコタツで丸まっている猫のような可愛らしさを誇る彼女をいざお目見えと改めて自分が抱き上げた人物を見下ろす。



「あ、あれ? え、何が起こったの……?」



 すると、何故かそこには黒髪ではなくフワフワとウエーブの掛かった薄茶色の長い髪があり、その人物は急に抱き上げられたことに対して相当驚いている様子であった。



「あ、あれ…………? 誰…………?」

「え、えっとぉ…………? ど、どうも初めまして……」

 


 さすがに近藤の方も二回ともハズれるとは思っても見なかったのでその場で固まり、抱き上げられた人物、ミルナの方も大きな瞳を揺らしてペコリとしながらも、困っている様子であった。

 しかし、フワフワの触り心地の良さそうな長い髪を持ち、ユキナにも負けない小柄な身体と大きな瞳は紛れもなく本物で可愛く、近藤は次第にその重大さに気がつくと、無意識に身体が動き、



「うわああああああ可愛いいいい!! え、何!? もふもふ、もふもふなのね!?」

「あう~~。な、何か知らないけど抱き締められた~~~」



 近藤の可愛いモノセンサーに引っかかったのか、もふもふと頬ずりし、一方ミルナの方は悪い感じではないのか抱き締められながらものんびりした声でそう言い、どこかそうされるのが気持ちいいのか眼を細めて見せる。


 そんなもふもふタイムが始まった中、後から来た護熾は居間に入るなりその光景に驚き、そして主に沢木達男子陣は近藤が抱き締めている謎の美少女に目がいき、心のどこかでテンションが上がっていたりする。



「あ、ミルナちゃん!? ミルナちゃんよね!?」

「あう~~、って、あなたは確か…………あ、斉藤さんじゃないですか!」



 後からやってきた千鶴は面識のある眼の使い手との出会いに驚き、ミルナの方も抱き締められながらも何とか千鶴のことを思い出し、驚いたようにする。


「あの時、以来でしたね。そちらではお変わりはないですか?」

「えっとぉ、今はまだ色々傷が残っていますので完璧とは言えませんがどうにか無事でした。こっちも何のお変わりがなさそなので安心しました!」


 するとそんな会話が行われている中、急にコタツがもぞもぞと動き出すと何かが布をはね、顔だけ出すと、



「ぷはァ、ん~? 一体何が起こってるの?」

「あ、ユキちゃん久しぶり!」

「え? あ、ゆ、ユキちゃんだ~~~~!!」



 何やら騒がしいので気になって顔だけ出したユキナに対し、すぐに発見した近藤は片腕でミルナを抱いたままもう片方を伸ばす。それからまるで猫を抱き上げるように彼女を片腕で掴むとさすがバスケをやっているだけはあるのか、ヒョイッと持ち上げてしまうとギュッと抱き締め、ダブルもふもふを完成させてしまう。


「ユキちゃーーん! 久しぶり~~」

「う~、久しぶり近藤さん~~。ってミルナもやられてるの~~~?」

「あう~~~でも悪くないからいいかも~~~」


 スーパーもふもふタイム、二倍増量である。一方その脇では、


「……なあギバリよ、何だか俺ら視界に入れられずにユキナとミルナがスリスリされてんだが……」

「無我夢中、と言ったところだもんよ」


 そんなラルモとギバリはそんな光景を見ながら初めて出会った(?)近藤に対して感想を述べる。

 そうするとどうやら騒がしいのが気になったのか、コタツがもぞもぞ動き始めると、


「ぷっはあ、何何!? 何が起こってるんでしょうか!?」

「よいしょっと! さっきから騒がしいわね、って、近藤さんに斉藤さん久しぶりー!」

「ん…………?」


 リル、イアル、アルティの順に今起こっている状況を確認しようとコタツから這い出てきた。

 そんな海洞家のコタツから女子が次々と出てくるというある意味男にとって羨ましい光景を目の当たりにした沢木は護熾の方にコタツに指をさしながら首を動かすと、



「なあ海洞、美少女達が出てくるコタツ、いくらで売ってくれる?」

「何言っとんじゃお前は」

「だってだってだって! 何でお前の家にあんな可愛い女子が湧き出てくるなんてずるいじゃねえかよ!?」

「買っても意味ねーから安心しろ! それに売ったら俺も困るしユキナが泣くことになるから!」



 もし売ってしまったらユキナは次のぬくぬくポイントとしてストーブの前に鎮座してしまうであろう。

 そんな中、用が済んだので戻るために廊下を歩いていると何やら騒がしいことに気がつき、いざ人の気配が密集している居間へと足を運んでみると、見知らぬ人だかりができており、その間を見越すように首を少し伸ばすと髪の短い女子にユキナとミルナがスリスリされているという予想外の状況を目にしたので、



「…………どうなっているんだ、これは」


「さあ、なんでこうなっ―――(ビクッ)」

「お、誰だ―――(ビクッ)」



 聞き覚えのない声がしたので沢木と宮崎が振り返ってみると、丁度そこには三白眼の少年、山田ことガシュナがゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!と効果音が出てそうな雰囲気を纏い、大切な妻が見知らぬ女子に抱擁を受けている事に対して静かに怒っているようにしていた。


「う~、って、あ、ガシュナ」

「う~ん? ってあら、イケメンくんがこっち見てるわね」


 実際、あからさまな気配だったのかミルナはガシュナが戻ってきたことに気がつき、近藤は三白眼の顔立ちの良い少年が目に入り、そんな感想を述べる。

 ここで天使でも通ったのか、少しの間沈黙の空気が流れる。



「…………あ、あ~護熾? 何かみんな集まったようだし自己紹介とやらをやんねえか?」

「お、おおそうだな」



 この状況を打破しようと、ラルモがそう提案し、護熾はそのことを承諾するととりあえず彼の友人達側、ユキナの友人達側で分けてコタツに座ってもらうという形でようやく現世と異世界の面子が顔合わせをするということになった。











「えーと、今回は集まってくれて感謝する。そんでこのような形で互いに顔合わせしたんで軽く自己紹介を順番にしてくれ」

「えーと海洞? そちらに並んでいる方々は木ノ宮さんの友人達でいいんだよな?」

「ああ、そうだ」


 沢木の行ったことに対し、護熾は肯定の意を表す。

 現在、彼らは自己紹介のためコタツを挟み、現世側の人間と異世界側の人間で分かれるようにして入っており、五割ほどがやや緊張気味、三割ほどが何故かウズウズし、二割ほどの人間が冷静な状態であった。因みに現世側から見た異世界側の人間は、三白眼や大きな体を持っていたり、仏頂面の人がいたりと現世側は何となく不安な感情を持っていたりする。

 しかしそんなのは今は関係ねえ! と気合いを込めた沢木が先陣を切る。


「お、おしっ! じゃあまずは俺からいくぞ! 沢木って言います! 今日一日よろしくぅ!」

「お、俺は木村です!」

「宮崎と言いまーす!」

「近藤よ! 今日一日楽しく行きましょう! そして今夜で女子のみんなにはあんなことやこんなことをあられもなく話してもらう予定なんで覚悟してね!」

「ちょ、ちょっゆ、勇子~。あ、えーと初めてでない方もいますが斉藤と言います。今日一日よろしくお願いしますね」

「あら、千鶴初対面じゃないのね?」

「前に一度だけ会ったことがあるもので……」 


 初対面の面子にも関わらず、相変わらずの元気の良さとテンションで自己紹介を終える現世組。

 そんな自己紹介のおかげか、元々大らかな空気がもっと和やかになり、ちらほらと微笑みが見え始めた。


「よーし向こうがあんな元気な自己紹介だからこっちこそ行くぜ! オレは鈴木ラルモだ! 今日一日楽しく行こうぜェ!」

「じゃ、じゃあ私も、え、えーと佐藤ミルナって言います。あの、その、よく転んだりして迷惑を掛けると思いますが今日はよろしくお願いします!」


 そんなこんなで異世界側の自己紹介はラルモのハイテンションな自己紹介から始まり、ミルナのもじもじとした自己紹介がなされる。

 ラルモのテンションはもちろん、沢木達に気が合いそう、楽しそうと言う印象を与え、ミルナに至っては恥ずかしがるその可愛い仕草で男子陣から大いに好感が持たれていた。その時誰かがピクッと片眉を僅かに動かしたが誰も気づくはずもなくそのまま自己紹介が続けられる。


高橋リルでーす! 今日一日皆さんと楽しくやりたいのでよろしくお願いしまーす!」

「えっと、山口ギバリと言います! 今日一日楽しくいけるよう努力していくんでよろしくだもんよ!」


 F・Gメンバーであるリルとギバリが自己紹介を終え、三割ウズウズの人間が全て完了する。


「えーと、って私はもう知ってるからパスとして、ほら、次はあなたよ」

「あ、う、うん」


 そう黒崎ことイアルは自己紹介を省略し、隣にいるアルティに呼びかける。因みにユキナも言わずもがなである。

 そんなアルティはイアルの紹介が省られたのが意外だったのか、少し動揺しながらもその場で軽く咳払いし、







「えと、井上アルティと言います。今日一日よろしくお願いします」






 ――――満面の笑みで、自己紹介をした。






「…………………!」

「…………………!」

「…………………!」

「…………………!」

「…………………!」

「…………………!」

「…………………!」


「あ、アルティ、あー、その、な?」(ちくしょぅ…………可愛いなァー)



 アルティの笑顔は、それはそれは沢木達の心に響き、護熾とガシュナは彼女の笑顔が見られると思わなかったのか、その場で眼を大きくして固まっていた。

 そしてラルモは自分の彼女が微笑んでくれたことに対し、他の男子に見られたというちょっとした悔しさなようなものがあり、それと改めてこの笑顔を可愛いと思っていたりする。


「…………? あれ、何か、悪いことしたのかな?」

「いやいやいやいや、あんた天然ね。私でも可愛いと思ったんだけど」


 男子陣が押し黙ってしまったことに懸念を感じた彼女に対し、イアルが突っ込みを入れつつ自身の心を正直に告白する。






『いやー、やっぱ木ノ宮さんの友達だけあって、女子のレベル高いよな?』

『ああ、しかも井上さんのあの笑顔、反則だろうが』

『今日一日しかチャンスがないけど、携帯のメルアド交換とかできればいいよなー』

『だよな。これを機に、もっと仲良くなれれば』

『でももしその先行ったとして、遠距離になっちまうぞ?』

『バカ野郎! 海洞の奴を見てみろ! ここに成功例がいるじゃねえか!』

『そ、そうだな。今冬だけど、もしかして春が俺らに来ているのか!?』


 アルティの笑顔の破壊力からようやく回復した沢木、木村、宮崎のトリオは互いに小声で今まで自己紹介してきた異世界側の女子達について話し合う。どうやらこの年の少年特有なのか、是非仲良くなって願わくば、と考えているらしい。

 と、そんな事を耳に捉えた護熾は振り向き、



「あァ? さっきから何か話してるな?」

「お、海洞。って、おっとぉ、お前には関係ない話だ。これは俺らの秘密会議だ。部外者は聞き耳を立てないで――――」

「言っておくが、向こうの女子達は――――」


「ちょっと待った海洞ゥ!」



 台詞を言い終わる前に、護熾が何かを話そうとし、さらに言い終わる前にストップを掛ける沢木。

 その一言で護熾は口を閉じ、沢木に顔を向ける。



「そっから先の発言は、何だか俺らにとって不吉な予感しかしない。せめて俺たちに夢を見させてくれるって言う気遣いをしてくれ!」

「…………しゃあねえな。分かったよ」



 いつも以上に真剣な声色だったのか、護熾は了承したかのように眼を閉じ、顔を元の位置に戻す。

 


「ふゥー、さて、では会議を続けようぜ」



 一難去り、ようやく安心した沢木は木村、宮崎に顔を向け、同じ戦友(青春を勝ち取る戦争でという意味)を一瞥しつつ、会議に戻ろうとしたときだった。

 その時、護熾は何かを思い出したように再び沢木達に顔を向け、こう言い放った。





「言っておくが、向こうの女子陣、今来ている男子が彼氏だからな」

「「「ちっくしょおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」




 護熾のさりげないこの事実に対し、背けていた事実に対して三人は反射的にそう叫んだ。

 それからものの見事に夢をぶち壊してくれた護熾に対して三人は飛びかかるように集まると沢木は胸ぐらを掴み、涙目でぐわんぐわん揺らしながら、


「お ま え は デリカシーのねえ野郎だな!! 自分が充実してるからってあっさり夢を壊しやがって!!」

「あのな~、一応俺はお前らの身を心配してだな…………?」





山田ガシュナだ。今日一日厄介になるが、よろしく頼む」





 護熾がぐわんぐわんされながらも、青春男共の夢を壊したのかを説明する前に、一つの自己紹介がなされ、それと共に男子陣はまるでその場に空気が無くなったかのように静かになった。

 顔を向けるとそこには、黒髪の三白眼の少年がこちらを見ており、続けざまにこう言った。



「因みに佐藤ミルナは、俺の彼女だ。手を出したら―――」

「リア充!」

「リア充!!」

「リア充、爆発しろ!!」

「むっ」



 さっきから人の愛妻に対して品定めをしていた沢木達に対し、警告を含めた忠告をしようとしたら、三人の指さしによる怒濤で思わずガシュナは口を噤んでしまう。

 因みにガシュナから堂々と彼女宣言をされたミルナの方は顔を真っ赤にして顔を伏せてもじもじしており、その姿を近藤は堪能していたりする。



「じゃ、じゃあ井上さんは?」

「お、そういえば言ってなかったけどこいつは俺の彼女だ」



 沢木が希望を含んだ声でそう訊ねると、今度はラルモが楽しそうな笑顔でそう言う。



「ちっくしょう! 何だよ鈴木って俺らと同じかと思ってたのに!」

「なはは! いやーすまねえな。ちょいとばかしこいつとは縁があるんでな」



 そうラルモは笑いながらもそう言い、顔を向けるとそう言われたアルティは少しだけ頬を朱に染め、顔を少し逸らす。


「あー高橋さん、あの……」

(強い視線をギバリに向けつつ)「あー、高橋リル山口ギバリだな」

「え、あ、そ、そうだもんよ?」


 そして今度はリルについて聞かれたので、それを何故か護熾が代弁し、ギバリに何かを訴える強い視線を向けていたので思わず彼は疑問系ながらも肯定してしまった。そのことに対してリルはもちろん、イアルも驚いた表情でいており、ギバリの方も二人の視線に気がついたのか頬をポリポリと掻き、困った表情でいた。



「えっと、じゃあ私で最後のようですね?」

「ん。そのようなんでお願いします」


 

 少年少女達全員の紹介が終わったのを護熾に訊ね、彼がそう答えるとユリアはみんなに顔を向け、そしてこの場にいる全員も顔を向ける。



「どうも初めまして、ユキナの母です。ついこの間まで、ユキナが大変お世話になったことに感謝しています。今日は何かと厄介になりますがどうぞよろしくお願いしますね」



 そう微笑みながら自己紹介をし、全員が頷き、ようやく紹介が終わり、第二回お泊まり会増員バージョンがここで始まった。














 空気を切る音が、ここ一時間ほど続いている。

 横を見れば、蒼と白しかない光景が広がっており、終わりなどという言葉が見つからない場所であった。目の前には通信機やらレーダーやらボタンやらがあり、今の高度や周辺の状況を絶えず報告をしてきてくれている。

 そう、ここは―――戦闘機内の操縦席である。

 


『あー、こちらE-8。着陸許可を要請する』



 ボタンを押し、どこかと通信可能にするとこの機体の番号を酸素マスク越しからくぐもった声で言い、い、高度を落として視界を斜め下に向かう。そして白い絨毯を突き抜け、今度は蒼と白以外の色の群衆が視界に広がり始め、一つの大きな城壁にぐるりと囲まれた要塞のようなものが見える。

 


 その町は―――ワイトと呼ばれ、発展都市であり、他の町とは少し変わった特徴がある。



『こちらワイトの空軍管制塔、そちらの機を確認。高度を徐々に落としながら、こちらで誘導する』



 通信機越しからそんな応答が聞こえ、それに従って徐々に高度を下げていき、城壁のある地点を越える。

 それから少しすると管制塔が見え、滑走路が姿を現し始める。

 そして誘導に従いながらも速度と高度を落とし、それから機体の前部と腹部が開き、中から車輪が出て、着陸態勢にはいる。


 そして先に前部の車輪から滑走路に付き、その反動で機体が揺れながらも腹部の方の車輪も地面に付き、機体全体が滑走路と平衡になると今度は飛行から走行へと切り替わる。

 するとそれが合図だったかのように、機体後部からパラシュートが展開し、空気を受け止めてスピードを殺し始め、徐々に速度を落とし始める。


 それからようやく長い滑走路を走った後に危険速度から抜け、ゆっくりとなった機体は方向転回をし、旗を振っている誘導員の合図に気がつき、その指示に従ってその地点まで行く。








 そして他の機体が立ち並ぶ場所にて、機体をそこに止め、エンジンが止まる。

 するとここの隊員なのか、若い人間が数人ほど近寄り、帰還した乗組員を出迎えようとすると操縦席の強化ガラスのハッチが開き、前と後ろから計二名が割と高さがあるに関わらず軽々と跳び降りる。

 そんな降りてきた二人に対し、若い隊員が頭を下げて労いの言葉を掛ける。



「お二方、どうもお疲れ様です」

「お、そっちもお勤めご苦労さんです」

「出迎えありがとう。あ~、肩がこるぜ~」



 戦闘機の旅を終えたのは、若い男の二人であった。

 それから二人は仲が良いらしい隊員達に軽い報告を述べた後、二人して本来の自分たちの持ち場に向かって歩き始める。



「にしてもくったくたのとこで俺に操縦させんのかよ。鬼だよな~」

「公平にジャンケンで決めたろうが。それよりもさっさと報告書の作成やら何やらをしてとっとと帰るとしよう」

「それには大賛成だな。あー、でも余計な事がなきゃいいけどな」

「さすがにそれはないとは言い切れないが。まあよほどのことがなきゃ大丈夫だろう」

「まあ、それならいいけどな」



 そう話す二人は、実は空軍の兵士ではない。かと言って陸軍でもない。

 正式にはもっと別の戦闘兵であり、それは特別な人間でしか勤めることはできない。

 かつてこの町は、昔から他のどの町よりも優れた武力があり、それと同時に防衛力もあり、この世を脅かす怪物と呼ばれる存在に対抗しうる存在がある。




「それにしても、連中のステルス機能は相変わらずだな」

「ああ、それさえなけりゃあ、俺たちの仕事も楽になるかもしれねえな」




 それが彼ら、――――眼の使い手と呼ばれる力を持った人間達。

 


「その件に関しては、博士が何とかしようとしてるんだよな? シバ?」

「何か最近トーマから完成まであともう一歩とか連絡が来てたしな。帰る前にちょっと寄っていこうか、アスタ」


 それぞれ互いの名前を呼び合ったシバとアスタは互いに頷いて同意し、さっさと自分の仕事を終わらせるためにその場を急いだ。



 





 今から13年前。『"玄眼"シバ』、『"焔眼"アスタ』、共に23歳。

 結界も完成していない異世界にて、まだ彼が生きていた時代。

 後の眼の使い手達に関わる変化はこの時代に起き、そしてワイトの歴史に記されることのない真実を今ここで語り継ぐとする。




 本当の全ては、ここから始まった。

 



↑ 前話で何か言ったけど、今回もこうだったよ!

そんなわけで遅れてもうしわけありませんでした。今回は時間がなかったのもありましたが、何というか前みたいに話をパッパと繋げていくのを考えるのが苦手になっているらしく思うように書けなかったりしてるみたいです。う~ん、大丈夫かなァ。


 次回はたぶん、アスタとその仲間達のお話が書けるので今回ほど苦戦しないと思いますのでどうか次回も心の片隅で待っていてください。

 では今回のご愛読、ありがとうございました~。それでは、ではでは~

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