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ユキナDiary-  作者: PM8:00
137/150

ユキナDiary---第零話 武人戦譚

待たせたな!(某伝説の傭兵風に)


 というわけで四ヶ月ぶりですね!

 ええ、ええ、分かってますとも、大幅に遅れたことをここで詫びます。

 地震やら何やらで本当に遅れて申し訳ございませんでした。

 さてさて、こんなところでくっちゃべっても仕方がないのでまだ本題に入らない話ですが、どうぞごゆるりとしていってください。ではどうぞ!








 戦火の中、紅蓮の男が立っていた―――――――







「俺ぁ、何かこの刀ってのが好きなんだよ。何というか、自分の意志を宿しているような感じなんだよな。そうだなー、例えば、ユリアやユキナに会いたいって、毎度生きて帰ってこれるようにっていう自分なりの約束を込めてるような、そんな感じなんだよ」







           ―――――――その瞳に映りしは、真紅に揺らめく焔







                        

「みんな違う色なのに俺だけ変わらない開眼ってのは、どうも変だよな。でもそんな俺にもようやく、転機がきたみたいだ。一端の男から、ようやく親になるっていう変化がさ」








 その手に持ちしモノは、蒼と白銀の刀身―――――――

  







「両親のいない私たちにようやくできた命。楽しみで仕方ないな。この子が生まれてくるとき、この子は一体どんな経験、どんな人生を歩んでいくのか。そしてこの子が幸せに生きていけるように上手に誘導してあげるのが、親の役目かもしれんな」








          ――――――その身に纏う紅焔と雷鳴は怒りそのもの








「タバコより甘い飴、そんな飴より甘い、……恋って奴か? うわ、そんなこと考える俺気持ち悪。でもよく考えろ。相手は身亡人で年だってちょいと離れてる。だからあの人が俺に振り向いてくれる可能性を考えると…………計算不可だなこりゃ」 








 男は、紅闇くれやみの空を見上げる―――――――――








「私のように、もう大切な人を失わないように、今日まで研究してきましたもん。これでようやく、あの人に顔向けができるわ……長かった。もう、私のように泣かずに済む人が、増えればいいな」








         ――――――大切なモノを奪い去った元兇を睨むために







師匠せんせいは結界を、先輩は眼の使い手という実績を作ってるんすから、自分はそれと同等のことを成し遂げたいッす。もっと今の時代に当てはまって、それでそこからさらに応用が利くような研究、それでお二人を仰天させてみるのが自分の夢です」





 




 そしてこれ以上、失わないために手にした力を身に宿し――――――












「あの人といると、本当に楽しくて、どんな時でも安心させてくれるの。いつでも最高に愛してくれて、本当に私は幸せ者ね。だから、もっともっと私達三人で暮らしていきたいなって、そんなささやかなお願いがあるわけで、だから私はいつまでも待つよ。それが、妻である私の役目だもの」















 夢見る時間は終わった。

 男は、天に鎮座する元兇を絶たんと飛び立つ――――――全てを、終幕させるために





















 12月24日。

 この日、多くの国々では家族と過ごすとされており、日本では恋人と過ごすという考え方がある。だが日本ではただのイベントとしての捉え方が多く、仕事などが重なってしまうということもある。

 

 そんな今日はクリスマス・イブ。

 翌日のクリスマスのためにケーキや豪華な料理、ツリーの飾り付けなどを行うための日であり、また小さな子供達が空飛ぶトナカイの引くソリに乗ってやってくる赤い服の白ヒゲのおじいさんからのプレゼントを貰うために良い子にしていた結果が訪れる前日でもある。


 そんなクリスマス・イブはもちろん海洞家も例外ではなく、早速早朝から冬休みに入ったので様々な準備をするべく、朝食を済ませた後に家の中をせっせこ動き回っていた。

 因みに丁度昨日から冬休みに突入したユキナがおり、ふんふんと鼻歌を唄いながらツリーに飾り付けなどをしてくれている。どうやら異世界の方にも長期休暇は存在するようである。

 そんな彼女はもちろん、今回まともなクリスマスを過ごすことができるのだ。理由は勿論、彼女がこの町で任務を全うしている間に四回ほどあったのだが、彼女は知らずに過ごしてきた。そのイベントがプレゼントを貰ったり、豪華な料理を食べると聞けば、彼女は内心わくわく状態なのである。



「で、今回はこっちに来るんだよな?」

「うん。楽しみにしてるって言ってたよ」



 そんな会話をしながら、ツリーの飾り付けを行うユキナは振り向くと、丁度台所の方では護熾が何やらどでかい物体を食卓の上に載せていた。見たところ、鶏が一羽丸々あるように見えるが、大きさがその二倍近くはあるのだ。その光景にユキナは少し驚いて作業の手を緩めていると、丁度お部屋の片付けから戻ってきた一樹が台所にやってきて、護熾が手に掛けているモノに驚きの声を上げる。


「うわー! 護兄それなに!?」

「ん? ああこれはな、七面鳥っつう外国ではクリスマスの日に食べるものなんだよ」

「へ~、大きいねー」

「今からこいつに味付けするから、一樹はユキナの手伝いをしてやってくれ」

「はーい」

 

 そう素直に兄の言うことを受け入れると、一樹は居間の方に足を運ぶ。

 因みに絵里はと言うと護熾にお使いを頼まれており、朝早々買い物に出かけている。

 居間の方では丁度電飾をツリーに巻き付かせ、上手に上から下まで終えたユキナが次の飾り付けを行おうとしていた。


「ユキナ姉ちゃん手伝いに来たよ~」

「おお、んじゃあ今からこのリボンとこの銀色のモサモサを付けるから」

「うん!」


 銀色のモサモサとはガーランドのことである。

 そうユキナから言われた一樹は早速リボンとガーランドを箱から取り、それを見栄えが良いように適度な場所に飾り付けを行なっていく。そしてそれらを終えたら、今度はオーナメント(小さな靴やお菓子を模った小物)を飾り付け、さらに最終調整を行なって良ければ完成となる。


「あ、そういえば一樹君はサンタさんに何頼んだの?」

「えへへー、変身ヒーローセットだよ」


 急に思いついたかのようにユキナが一樹にそう訊ねると、嬉しそうにそう返してくれた。どうやら彼には今日は楽しみで仕方がないのであろう。そんな彼は笑った後、今度はその質問をそっくり返してみせる。


「じゃあユキナ姉ちゃんはサンタさんに何を頼んだの?」

「ええ? えっとその……」


 予想外だったのか、ユキナは眼を泳がせ口を濁して頭の中で解答を見付けようとする。

 そして一樹からの質問に対して眼をキョロキョロとさせていると、あるモノが目にとまり、それを数秒見つめた後に少しだけ、ほんの少しだけ頬を朱に染めると微笑んで質問に答える。


「ええっとね、私は何も頼まなくてもいいかな?」

「ええ~!? ってことはもうユキナ姉ちゃんって大人なの?」

「うぐっ! ……っとその、まあそれは合ってると言えば合ってるけど……」


 少なくとも大人の体験は済ませているわけで。

 だが純粋無垢な少年にそんなことを教えるわけにはいかないので一度咳払いをしてみせてから、こう言ってみせた。


「私はもう、サンタさんって人からもらわなくても、もう欲しいものはもらってるから」

「へえ~、それってなに?」

「んふふ♪ 内緒!」


 そう笑って誤魔化し、そして視線だけを台所の方に移してみる。

 そこには大きな七面鳥相手に、しかめっ面の気難しい表情で奮闘している少年の姿が目に映る。

 そう、その視線の先にいる彼こそが、彼女にとってかけがえのない大切な人なのだ。そんな彼女の言葉をイマイチ理解できなかった一樹は少し首を傾げていたが、そういうのならそうなのだろうと自己完結をすると再び飾り付けに戻る。



(そう…………何よりもかけがえのない人だから……ね?)



 彼女はそう思い、それから視線を戻し、一樹と共に再び飾り付けの作業に戻る。











 そんな、彼女にはかけがえのないサンタからの贈り物こと護熾は、七面鳥を睨み付けながらある人物からの相談の内容を思い出していた。その内容とは、聞いたときは結構驚愕的な事実が発覚し、その次にでは一体どうすればいいんだろうかという問いを突きつけられていた。



(…………まあ、あいつ自身、五年間もこっちいりゃ憶測で言うしかねえよなー)



 そんなことを思いながら護熾は、その相談の内容をもう一度思い出していた。


 その相談は昨日、ユキナがこちらに来る前の黄昏時、ある一本の電話から始まった。

 護熾が出ると、相手は意外や意外、ユキナの母のユリアからであった。

 護熾は初め、彼女がユキナと上手く付き合えているのか、それとも未来の夫になる身だから何かしらの忠告でもしにきたのではないかと思ったが、どうやらまったく違うようで、内容は次のようにあった。













「誕生日……! ユキナのですか?」

『はい。彼女の誕生日は、今から二日を数えた日なんですよ』


 それはユキナの誕生日が明後日だという彼女からの相談であった。

 どうやら、五年間の特例長期任務を過ごしてきた彼女は、自分の誕生日を忘れているようなのである。だからこそ、年数経過の連絡で自分が一体何歳であるかを把握していたのであろう。しかし今年16歳であって実際彼女は15歳、ということになる。


「ええっと、明後日はっと…………クリスマスジャストかよ!?」


 同い年だと思っていた護熾は少し驚きながらもカレンダーを確認し、そこでまた聖夜に誕生日があるという偶然の一致にまた驚く。異世界とこちらでは一年の日にちが違うと思われるので尚更であろう。


『そちらではクリスマス、と呼ばれる特別な日でいらっしゃるそうですね。しかしあの子は明日、護熾さんのお宅に泊まりに行く予定になっていますね』

「まあ、そうですね」

『そこで提案なのですが…………私も一緒に行ってもいいですか?』

「ユリアさんもですか…………いや別に構いませんが、ってかむしろ来てください」


 一年に一度のクリスマス。豪華なごちそうを作るに当たってユリアの家事スキルは大きな戦力にもなるし、何よりも娘の大切な誕生日を祝わせてあげたい。

 それを聞いたユリアは電話越しでも分かるくらい、微笑んでそのことを喜び、そして最後に護熾にある約束事を取り付けた。


『ありがとうございます。それともう一つ、この誕生日のこと、ユキナには黙っていてくれませんか?』

「え? な、何でですか?」

『サプライズをしてみたい、親心ですよ♪』


 さすがあのアスタの妻であることはあり、お茶目っ気がある。

 








 


 そして護熾はそのことについて苦笑いで快諾し、そして今現在までに至っていた。

 そう、サプライズバースデーをするにあたり、護熾は彼女に何をしようか考えていたのだ。因みにすでに彼自身彼女を驚かせるイベントは用意しているが、プレゼントとなるとコレという物がいざ見つからないものである。いや、たぶん彼女に何をあげても喜ぶだろうが、何を上げても同じ反応なのだからそれでは意味がないのだ。



(いや、でも何もあげないってのも問題だよな~。じゃあどうすりゃいいんだが……)


 

 そう思いながら塩を塗し終えた護熾は、余計な塩を落としてから後ろに振り返って流し台で手を洗い始める。結局のところ、彼にとっては一大事な問題であるのだが、その答えはイマイチ浮かび上がらない。


 そんなこんなでこのことについて顔をしかめていると、不意に服の袖が引っ張られていることに気がつく。護熾はハっとなって左に顔を向けてみると、ツリーの飾り付けが終わったのか、ニコニコ顔のユキナが横に立っていた。


「おっと、よお。どうした?」

「えへへー、飾り付け終わったよー」


 手を洗い水を拭き取った護熾がそう訊くと、彼女からツリーの飾り付け終了の報告がされる。

 どれを聞き受けた護熾は軽く微笑んで『よくやったな』と言うが、彼女はそれでもまだニコニコとした表情でその場にいる。

 それに気がついた護熾は不思議顔になり、


「? どうした?」

「あ、えっと……その……」


 そう彼に言われると、ユキナは急に表情を変え、人差し指を合わせてもじもじとする。

 だがその様子に対しても終始護熾はハテナを頭の上に浮かべたまんまだったのでユキナは少しだけ暗い表情になり、しゅんと落ち込みながら背中を向け、



(ご褒美のアレをねだったみたいで、ダメだよね私……)

「…………何でもないよ」

「お、おーい? 何か俺したか?」



 急に変わった様子に対し、さすがに不安を覚えた護熾はトボトボと背中を向けて去りゆく彼女を引き留める。



「何だよ、実は飾り付けは嫌だったのか?」

「……ううん。楽しかったよ」

「じゃ、じゃあ何で落ち込むんだよ?」

「そ、それは…………」



 彼にそう尋ねられ、何か応えに訊くそうな態度を取るが、その後に蚊の鳴くような声でこう言った。



「その…………頭……」

「え? 何、頭?」

「頭……撫でてほしかったの……」

「!?」


 どうやら、ユキナはツリーの飾り付けの仕事のご褒美として頭撫で撫でをして欲しかったようである。

 確かに彼女は、頭を撫でられるのが好きである。しかも大好きな人に撫でてもらえるのだからなおさらであろう。そんな可愛いご褒美をねだってきた彼女に対し、護熾は不覚にも頬を朱に染め、まるで動かし方を忘れたかのように両手を泳がせていたが、やがて、



「そ、それでいいんなら撫でてやろうじゃねえか好きなだけ! ていうかいつでも望めば撫でてやる!」

「あぅ~~」



 そう言って護熾はガシガシとユキナの黒髪を撫でるようにし、彼女の方もそれを心地よさそうに眼を細めてみせた。










 そんなこんなで今日焼くための七面鳥の準備ができ、ツリーの飾り付けも終え、ようやく聖夜前日らしくするための準備を終え、材料を買いにお使いに行ってた絵里も無事帰宅し、昼食を摂る一時間前、つまり11時頃にまで時計の針は進んだ。

 作業を終えた四人はコタツに入り、ミカンの収穫の様子を放映しているテレビを見て時間を過ごしていた。そんなまったりとした中、動きを見せたのが、


「ねえねえ護熾」

「ん、何だ?」


 陽は出ているものの午前中の寒さはまだ残っており、コタツに入っている四人のうち、護熾は隣にいる彼女に顔を向ける。もちろん彼女はコタツに入り、顔だけ出しているという最早おなじみの状態でそこにいた。


「そろそろお母さん来るだろうから、迎えに行かなくちゃ」

「ん、その件についてか……」


 そう護熾は言うと徐に手を伸ばし、コタツに入っているユキナの頭を撫でるようにする。

 撫でられた彼女はその行動に内心少し驚いていたが、その心地よさに思わず眼を細め、喜びを表すかのように喉をゴロゴロと鳴らす。


「う~~…………て、おとと忘れるところだった。で、護熾?」

「ん?」

「お母さん、迎えに行ってくるから行くね」

「だから、その件についてはたぶん大丈夫だ」

「え?」



 ピンポーン



 何故、護熾はユキナの母ユリアを迎えに行くことをまるで必要ないと言わんばかりなのであろうか。

 そんな疑問を頭に浮かべた瞬間、家のチャイムが辺りに響き渡る。


「お、来たみてえだな」

「え? あれ?」

「ほれ、行くぞユキナ。あと二人はそのままでいいぞ」

「はーい」


 チャイムが鳴り終わると同時に、護熾はコタツからよっこらせと抜けて立ち上がり、一緒に行こうとした絵里と一樹に待機するよう伝え、ユキナの方も疑問を思う表情のままコタツの温もりを惜しみながらも抜け、同様に立ち上がる。

 それから二人して廊下の方に出ると再びチャイムが鳴る。


「へいへい、今行くぞ」

(うーん、おかしい……)


 廊下を歩く中、ユキナはこの疑問を晴らすことができていなかった。

 その理由として、


(だってお母さんが来たとして、この場所に来られるハズがないのに。来たらすぐに連れて行くからって言ってあるはずだから……)



 そう、ユキナはユリアに対してこのようにお願いをしておいた。しかも自分は母親がこっちに来る前に合流場所で待つ手筈だったので時間的にもどうも合わない。

 つまり、これは単に護熾の早とちりであって、郵便か勧誘でも来たのであろう。

 そう思っていた。ユキナ自身、そう自己完結すると丁度護熾が鍵を開け、玄関の扉を開こうとしていた。






 そしてドアが開かれると―――――彼女は眼を疑った。









「あ、どうも護熾さん」



 ドアが開かれてまず、聞き慣れた、優しい声が耳に入り、温かそうな服装で両手に荷物を持ったユキナにそっくりの女性、ユリアの姿が目に入る。そう、そこまでは良かったのだが何やら自分の母親の背後の人影が多すぎるのだ。その人影は口々にこういった。


「あ、こんにちわです護熾さん!」

「おーっす。今日の会場はここですかー?」

「やっほー、元気してたカイドウ?」

「うおおっ! カイドウさん! お久しぶりです!」


 声を出したのが四人、あとは荷物を持ったりしている三人、計七人ほどがユリアの背後で待機をしていた。そしてユキナは驚いたように目を見開き、マジマジとその面子を順に見るとどの人も自分にとっては親しみのある人物ばかりで、同時にここに来るのが有り得ないと考えていた人ばかりであった。





 それもそのはず、何しろ―――眼の使い手とガーディアンのご一行なのだから。


 


「え!? ミルナ!? ガシュナ!? ラルモ!? アルティ!? イアル!? リル!? ギバリ!?」

「とりあえず中に入れさせてくれ」

「おうっ、上がってくれ」


 ユキナがメンバー全員の名前を叫ぶ中、ガシュナがそう言ったので護熾は全員を家の中に招き入れる。

 そしてユリアがまず最初に入り、やってきた全員が家の中にはいるとドアを閉め、次に荷物を置かせるために和室へと案内をさせる。


「ちょっ、ちょっ護熾どういうことなのこれ!?」

「ん?」


 今ひとつ状況が理解できないのか、ユキナはやや混乱気味にそう訊ねると護熾は予想通りに驚いてくれたのが嬉しいのかニヤッとした表情でこう答える。


「驚いたろ? 一週間前くらいにみんなに来れねえかどうか頼んだらざっとこうなったんだ。まあさすがにシバさんや博士、それに家の用事でティアラは来れなかったけどな」

「いやいや物凄く驚いたけど!? けど、」

「何だ? ワイトなら眼の使い手はちゃんと二人以上残ってくれてるが。まあその法律の所為でなんだけどな……」


 そう護熾は心から残念そうに溜息をついてみせる。


「いや、まあそれもあるけど……そうじゃなくてその……」

「ん、何だ」


 ユキナが口籠もらせ、護熾は彼女の次の言葉を待つ。

 それから彼女は、少しだけ頬を朱に染めると護熾の顔を見上げてから、こう言った。




「その……ありがと、みんなを呼んでくれて」

「おうっ、今度は近藤達が来るんで安心するのはまだ早いぞ」

「!? うそぉ!?」




 まさかの思わぬ第二波宣言に、こればかりはユキナは驚かざるを得なかった。














「いやー、まさかもう一度ここに来れるとはな」



 荷物を置き終えたラルモはそう呟き、護熾の方に顔を向ける。



「ああ、そういえば……一度中に入れたことあったな」



 そう護熾は何か感慨深そうな表情になる。

 一度中に入れたあの日、そう、あれは虚名持ラバンダスが学校に急襲し、眼の使い手全員が駆けつけてくれ、ソラに宣戦布告をされ、傷ついたイアルを介抱するために全員で今後について話し合うためにこの家に集まった。

 

 そしてその後自分とユキナは互いに告白し、別れ、大戦が始まり、そして自分は母親に別れを告げ、最後に全ての根源を絶ち、自分は死んだ。

 でも、今はこうして、ちゃんと生きている。



「懐かしいな、いろいろ」

「……ああ」

「っと言うわけでギバリ、二階に行くぞ!」

「おうっ!」



 そう元気よくラルモは言ってから立ち上がり、合点承知の助と言わんばかりにギバリも立ち上がり、二人して玄関で見た二階へ続く階段へと向かおうとする。

 


「はいはいちょっと待てコラァ!!」



 だがそこへすかさず二階の自室主が二人の腕を掴んで進行を阻止する。


「何をする護熾! 男ならここは行かせてくれ!」

「こっち来て早々何考えてのか知らんが今晩解放してやっからそれまで待ちやがれ」

「はっはァ! 時間稼ぎのつもりかそれでも!」

「はァ?」


 先程から彼の真意が読めない護熾は不思議顔と呆れ顔を混ぜ合わせたような表情になると、ギバリが横から解説するように話し始める。


「えーっとなカイドウはん。ラルモはカイドウはんの部屋にある秘蔵品を探し当てようとしてるもんよ」

「何だそりゃ? 秘蔵品? 漬け物?」

「違う違う、オレたちほどの青春真っ盛り野郎の年になるとな、どーしても持たなきゃならないもんがあるだろうが! 主にベットの下とか、ベットの下とか、ベットの下とかになァ!」


 つまり護熾達くらいの年齢で、ベットの下によく隠す秘蔵品。

 これだけ言葉が揃っていればいくら鈍感な彼でも何なのか気づいたのか、やや苦そうな表情、と言うより完全に呆れかえった表情で二人から手を離し、額に片手を当てるようにすると、


「くっだらねー。はじめに言っておくがそんなもんはねえし、勉強道具と漫画しかねえぞ」

「ええ~~!? おまっ、健全たる肉体と精神を持つ男子がそれ持たねえとか~ねえわっ!」

「健全もなにも汚れてんじゃねえかその思考が! じゃあお前持ってんのか!?」

「当然じゃねえか!」


 そう胸を張って答えるラルモ。

 一方ギバリは何かに気がついた表情になり、少し青くなる。


「大抵の男子なら唸る本がオレの部屋のベットの下に隠してあんだよ!」


「っちょ、あのラルモはん…………」


「おまっ、最近アルティと付き合い始めたんだろ? そういうのバレたらやべえんじゃねえのか?」

「はっはぁ、大丈夫大丈夫、あいつが来るときはタンスの上の箱とかにしまってるぜ!」


「あ、あ~、ら、ラルモはん、それ以上はちょっと……」


「ま、バレるんだったら今この会話を聞いてなければ―――――――」









「ふぅーん、あるんだ」











 この時確かに、ラルモは自身の全ての時間を凍り付かせたように一切その場から動かなかった。

 そして護熾とギバリもだが、二人とも顔を声のする方向に向けただけでその場から動くことはできなかった。

 


 何しろ、丁度ラルモの背後に、何時から聞いていたのか、相変わらず眠たそうに半分閉じた眼をし、何となく冷たい視線を持つアルティが、今日は一段と冷たい眼差しで彼氏の背中を見つめているのだ。

 それは、いつも表情が読めない二人から見ても分かるほど、純粋な―――怒りである。



「あ、あ、アルティさん? いつから…………そこに?」



 ようやく口を動かせるほどの時間を取り戻したのか、ラルモは脂汗だくだくの青い顔でそう訊ねてみる。


「護熾さんの漬け物発言辺りから」

「……ほぼ、全部じゃねえか。ラルモのやばい発言が」

「………………左様でございまするか」


 そう畏まった口調で、完全にまいった状態のラルモは恐る恐るアルティの表情を窺うようにする。

 彼女は少しの間彼のことを冷たい眼差しで見つめた後、急にプイッとそっぽを向けると、小さな声で確かにこう呟いた。



『ラルモの…………………バカ』










「あ、ちょっ、アルティ!?」


 そっぽを向いた後、早歩きでその場を立ち去ってしまったので、ラルモは急いでその後を追いかけるようにする。その様子を後ろで見て、残された二人は追いかける背中を見ながら口々にこういった。



「あーあ、仲直りできりゃあいいけどな」

「いやーアルティはん、随分ラルモはんに惚れているようでいますな」

「おまっ、そういうの分かんのか?」

「一応風紀員兼相談員なんで」


 そうギバリは照れたように後ろ頭を掻き、護熾はやれやれと言った感じに溜息をついた。










「んじゃあというわけでコレで決まりだな」

「…………納得がいかんな」


 荷物の整理が終わり、居間にて一度集まった皆に護熾はあることを伝えていた。

 それはこの世界において怪しまれないためのものでもあり、都合を良くするのに大切なことである。

 しかしそのことに対し、ガシュナは不満の意を露わにし、続けてこう言った。



「何故、ミルナと違う名前なんだ」

「しょうがねえだろうが"山田ガシュナ"」

「おーおー。ガシュナってばそういうのにはすっげーこだわり持つよなー」



 今の会話の流れから分かるとおり、これは名字決めである。

 ユキナ達が住む異世界において、名前だけというのが一般人、及びワイトの常識ではあるがこの現世において彼らの名前は日本向けではない。ならばせめて名字だけ名乗れるようにしておく必要があると判断されたのだ。それはもちろん、あとから来る近藤達に怪しまれないためでもある。

 そう言った護熾の独断の結果、


 ユキナ&ユリア=木ノ宮


 ガシュナ=山田  ミルナ=佐藤  


 ラルモ=鈴木  アルティ=井上  


 イアル=黒崎  リル=高橋  ギバリ=山口  っということになった。


 しかしここでガシュナが不満を表したので今は少し進行停止中である理由はもちろん、既婚者である彼は大凡異世界では結婚すると名字を合わせること知っているのであろう。

 

「わ、私は別に構いません……ふにゅぁ~~」

「う~~、温かい~~~」


 そんな中、コタツの温もりを知ってしまったミルナとユキナはとろけきった声でそう言う。

 彼女らにとって既に名字云々より、古来日本に伝わるこの神器の方がよっぽど夢中になれるものなのであろう。そんな彼女たちがかわいいのか、アルティとリルとイアルと絵里はそれぞれ頭を撫でたり髪をとかしたりして時間を有意義に使っている。


 因みに、


「うお、ちょっ、キノコ待てこら!」

「あっははー、あ、気をつけて、もうすぐ溶岩地帯になるから」

「な、なんかこの緑のおじさん足が赤のより遅いもんだからラルモ待ってー」


 一樹を間に挟み、ラルモとギバリは最新ゲーム機の某有名ゲームタイトルの二人プレイをしており、アドバイスを受けながらプレイしていたりする。




 そんなだらけきった彼女達を尻目に、元々あんまり仲の良くない二人の議論も進み、



「名字を名乗るのは今回は貴様の言うとおりにしてやろう。だがこれだけは譲れん」

「だぁーっ! 郷には入れば郷に従えって知らねえか!? だからお前の年齢で結婚してるというのがバレたらすっげーややこしくなるんだ! お前のその隠さない意思は認めるけどよ、それに……」



 そう少しだけ護熾はミルナ、それからユキナと順に見てから顔を再びガシュナに戻し、



「俺の彼女もああだから言うけど、同じ名字で兄妹とか思われたくねえだろ?」

「!?」



 護熾にそう言われ、ガシュナは虚を突かれたかのようにキョトンとした表情になり、それから少しだけ苦虫を噛んだような表情になる。

 そう、自分は今回のこの集まりに来るつもりはなかったがミルナが行きたいと言うから付き添いで来た。しかし自分は、危うくもう少しでもしかしたら彼女を傷つけたかも知れない。そう思うと、反論も何もできず、それからコタツに入ってとろけている彼女に眼をくれてから眼を閉じ、少しだけ黙想すると再び開け、護熾に顔を向け直すと、



「…………そうだな。それなら仕方がないな」

「はいじゃ決定ー。みんな、自分の名字を忘れないように」

「「「「「「はーい」」」」」」



 それぞれ視線は別々に向いているが、承諾したことを示すかのような元気な返事をする。

 その様子を見て、終わりの頃合いを見たのか、ユリアがそそくさと護熾のすぐ側まで近づくとそこで腰を落とし、小声で、


『ふふっ、護熾さん。今日はやけに気合いが入っていますね?』

『うおっとっ!? えっとその……』


 ユリアにそう諭され、急に調子を崩したかのように頬を少しだけ朱に染め、狼狽える護熾。

 もちろん彼女は何故彼がこうするかは知っているし、それだけ彼がユキナに対してどう想っているかも分かる。

 本当に彼は、あの子のために想っているのね。

 そう考えると、何だか微笑ましいと思うのは親心なのであろうか。


『分かっていますよ。それと、あとでお渡しするものがありますから』

『え、えっとぉ…………え? 渡す……もの?』

『はい』

『あ、あー分かりました。…………それにしてもユリアさん、』


 少しだけ落ち着きを取り戻したのか、頬をぽりっと掻いてから護熾はそう言い、続けて、


『何だか、楽しそうっすね』

『!』


 そう言われるのが意外だったのか、少しだけ驚いたような表情になるユリア。


『あ、あら? そうかしら』

『ええ。何か、何となくというか……安心してるような……』


 護熾にそう言われ、ユリアは少し考え込むようになると、それから顔を上げ、いつもながらの微笑みを見せると、



『そ、そうかもしれませんね。ふふっ。では、少し荷物を確認しに行ってきますね』



 そう伝えると立ち上がり、護熾に見送られる中騒がしい居間を後にし、和室の方に足を運ぶ。

 護熾はその背中を見て、少しだけ首を傾げるようにしたが、気にしてても仕方がないと思い顔を前に戻すと、


 じ~


「な、何だ、ユキナ?」


 丁度コタツの向かいではユキナが二人の遣り取りを見ていたのか、机に顎を載せて大きな瞳でこちらをジッと見ていたので護熾はやや動揺気味に声を掛ける。


「ん。お母さんと何話してたかなって思って」

「あ、あーっとな。夕飯をどんな風にしようかっていう献立作りの話だ」

「お~」


 特別な日=豪華な料理=美味しいものというイコールを即座に頭に浮かべたユキナは感嘆の声を上げ、どこかわくわくとした気分になったのか、眼を半分閉じる。



「それにしても、」



 そうすると隣にいたミルナがそう声を出し、その次にユキナに顔を向けると、



「ユキナは、お母さんがいていいなー。優しいし、綺麗だし」

「だよなー。しかし今日はそんな母ちゃんの手料理が食べられるって話だぜ」



 それには同意なのか、ゲームをしながらもラルモもそう言う。一方、親の話になったのがちょっと心配になったのか、ガシュナは茶を飲む動作を止め、ミルナや他の眼の使い手達に目を配ったが、別にただ懐かしむか羨ましがるだけで何か辛い思いをしているわけではないと判断すると再び動作を行い始める。




 そんな中、ユキナはユリアのことについていわれたことを何を思ったのか、隣で初めてのコタツを堪能しているミルナやイアル、頭を撫でたりしているアルティやリルに眼を付けるとその手を掴み、


「そーれっい!」

「ちょわっ!?」

「わぁっ!?」

「あ、」

「えっ!?」


 蟻地獄の如く、コタツの奥底に引きずり込むという強行手段に出る。


「ぷっはぁ、いきなりすぎよユキナ! ってかこんなとこいたら気持ちよくて寝ちゃう!」

「…………良い」

「はう~~、あー、もうダメかも~~……」

「えっへへ~~ほれほれ~」

「きゃあ! ちょっ、くすぐったいし、何だか瞼が~~~」


 コタツの中がどれほどいいのかを教えたかったのか、それとも何か誤魔化したかったのか、引きずり込んだユキナはくすぐったりと大層ご機嫌な様子で他のメンバーとじゃれ合い始めていた。


 一方、そんな光景を見て、ユリアとの会話をごまかせた護熾は何とか危ないところを突破したと内心冷や汗を掻きながらも、そういえばそろそろ近藤達が来る頃だなと思い、壁に掛けられた時計に眼を移した。


 













 これから我が子のためのサプライズバースデーの準備は勿論、彼女に悟られないようにするのもどこかスリリングで楽しみでもある。初めて来る異世界に少しだけ不安はあるが、そんな不安も心強い我が子の未来の夫がいるから大丈夫である。

 それに、今度は護熾さんのお友達、つまりユキナがお世話になった子達もくるからお礼をしなくちゃね。ふふっ、どんな人達なんだろうな。

 

 でもその前に荷物の確認しに行くというのはもちろん本当だし、我が子に渡すプレゼントを取り出して彼に渡そうと思ってこの部屋に来たのは間違いない。

 




 でも、それは単なる口実だし、誤魔化しであるというのは此処にきて後から気づく。





「…………そう、全部、終わったんだ」





 そう呟き、荷物の前で座り込んだ彼女は、何かを憂うような表情で顔を俯かせる。




「長かった…………何もかもが……でも、」




 護熾に安心している、楽しそうと言われ、改めて自覚したことに気がついたのは、神の悪戯か、はたまたあの人の悪戯なのか、どちらにしてもタイミングが良かった。ようやく自分は、あの子達は、安心して生きていける生活が戻ったのだ。それは何百年も前から人々が望み続けた、願い。

 しかしそれを得るまでに、様々なものを、失うと痛いものを、失ってきた。

 そして自分が知る限りでは、最後の犠牲になったのが三人いる。


 その三人が生きていた頃は、楽しくて、夢や希望に溢れてて、何より失うはずがないと思っていた日々であった。




「あなたがいた頃は、とても短く感じますよ………………アスタくん」




 今は亡き、夫の名を呟き、ユリアは何かを思い出すように瞼を閉じた。

 






 









 これから語る戦譚は、読んではならぬ物語。覚悟無き者は、即刻引き返すことを勧める。

 だが、これより先に進む者は、必ずや後悔するであろう。

 この物語はかつて全てを捨て、己を捨ててまで戦った少年のように、世界を救うなどという大儀を背負うのではなく己の命より大切なモノを守るために戦った男の話である。

 


 今こそ明かそう、13年の刻を遡り、語り継がれる武人の戦譚を。



 それは、紅蓮を纏う男が起こした―――奇跡。


 

 大切なモノ全てを守るために自身を懸けて戦った―――軌跡。



 そして、全てを終わらせるために意志を託し、未来に残した―――輝石きぼうの話。










 人々は彼を――――――英雄と呼んだ。






 次回が何時になるのか、リメイクはさっさとしないのか、新連載は放置プレ(ry 色々心配だと思いますが、私は元気です。ってそうですよね、どうなるんだろ、どうなるんでしょうね? 正直予定を言うと必ず外れるというジンクスがありますのでとりあえず長くは放置しないとは言っておきます。もうこれ投稿しちゃったし後戻りはできませんしね。

 ってなわけで次回からようやく本題に入れると思います。それでは次回をお楽しみに、では! ではでは~

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