ユキナDiary-その後パート1 お泊まり会
おや、また随分と物好きな人が此処に来ましたか。
前回、日記の続きを見るのはもうよそうと言ったのに、意外と聞かん坊ですね。
……というのはよして、よく来てくれました。
それではもう少しだけ、彼女の日記に綴られた物語を、観に行きましょう。
世界が変わる瞬間まで、人々は恋をしていた。
それは、好きな人を例え命に代えてでも護る。
ようやく最後になって、自分の気持ちをハッキリとする。
きっと、最後の瞬間まで恋をしていた人々はたくさんいる。
そのうちの一つの恋が、世界を救ったのだ。世界を救うなんて大上段な使命感ではなく。
ただ大切な人達を護りたい、好きな人を護りたい、という願いがきっと一番強いのだ。
世界を護ったのは自身の欲望。
好きな人を護りたくて、護ったら世界も救っていた。
そんなものだ、この世界が救われたのは。
私は、そんな凄い人の側にはいてあげられなかったけど、後悔はしていない。
彼はもう、見つけていた。
そういえば、私はまだ聞いていなかった。
今更聞く必要が無いかも知れないけど…………
海洞くん、ユキちゃん、あなた達はどんな恋をしましたか?
あれから約二週間後の世界。
現世は変わらず、異世界は大きな変化を伴って世界は変わった。
もうすぐ12月を迎えるこの季節。
肌寒い風が一層強くなり、冬服でも暖房力が足りず、手袋やマフラーが必須となるこの時期、一人の訪問者が、海洞家を訪れていた。
その来訪者を出迎えた護熾はもの凄く驚いた表情でとりあえず中に入れ、それからテーブルのイスに座っているように言いつけてから台所に行く。
それから護熾はその来訪者に正直この後どうなるのか心配な顔を向け、温かいお茶の入ったコップを渡すと、来訪者はそのコップを手で受け取り、ずずっと一口飲み、軽く息を吐き終える。
そのタイミングを見計らって、護熾は言った。
「わざわざ此処まで来るとは思ってなかったぜ……」
「だってゴオキに会いたかったんだもん」
そうニッコリ笑顔で、ティアラは答えた。
ユキナDiary-The-After story 『お泊まり会』
~~It is a business mind in the staying riot(お泊まり騒動にご用心!)~~
11月下旬。
もうすぐ一年を終えるという時期にティアラはやって来てしまった。
ティアラの話によると護熾に会いたいが為にどうやら来たらしく、荷物なども着替え等しか入って居らず、もし繋世門の位置が自分の家の近くでなかったら、表札の漢字が読めなかったら、明日頃にバルムディアで大変な騒ぎになっていたであろう。
護熾はティアラが家に来ることには問題点は持ってはいない。
しかし言うべき事はちゃんと言っておく必要があるといい、口を開く。
「あのな~ 迷惑じゃねえんだけどさ、そういうことはちゃんと親に言っておかないといけないぞ?」
「ん? それは大丈夫大丈夫。お父様はちゃんと許可をくれたし、此処に着いてから二時間以内に向こうへの連絡がなかったら隊長さん達が来るからバッチリだよ!」
どうやら最初から仕組まれたことらしい。
長年ティアラはインドア生活を送ってきた。それなら外のことも知って置いて欲しい、且つ体感して欲しい。
そんな父ジェネスの願いとそれを後押しするストラス、及び隊長達の願いがひしひしとティアラの言葉から分かるような気が、した。
(なんて言うか、ホントこっちの事情は無視する一家だな)
そう、自分を攫った時のことを思い出しながら、護熾はやれやれと溜息を付いて席から立ち上がる。
ティアラがこうしてお泊まりに来ること自体は何ら問題はない。
しかし問題は一つだけあった。
それは他の人も今日ここで“お泊まり”をするという予定が入っているのだ。
その予定の発端は近藤から始まった。
その理由としては、まず九月辺りに起きたマールシャの襲撃の所為で宿泊学習が大きく来年まで延期されたこと。二つめはユキナとイアルと千鶴と共に一緒にお風呂に入りたいこと、などなど。
つまり、色々と一段落するこの時期、一回みんなでどこかの家に泊まって楽しい思い出を作りたいということなのである。
そして親の事情などをスルーパスできる海洞家が率先で選ばれた。
護熾は『それだったらどっか遊園地とかに行けば?』と反論するが『シャッラップ! 一日中一緒にいることに意味があるのよ! それに遊園地に行くよりみんなで食材を持ってあんたん家に行った方が安上がりじゃない?』と近藤の意見に圧され、結局は今日の土曜の朝からみんなが10時に泊まりに来ることになっているのだ。
もちろんユキナもイアルもこの日には来ることになっている。
なので正直、ティアラが来ることになるということは想定外なのだ。
「なぁにゴオキ? そんな難しい顔しちゃって」
頭を悩ませている護熾にいつの間にか来ていたティアラがすり寄ってくる。
「おおっとっ、いやさぁ、実はお前以外に此処に泊まりに来る俺の友達がいるんだよ。だからお前の言い訳はどうすればいいかなって思ってさ」
「無理矢理連れてきたはどう?」
「俺を犯罪者にするつもりかぁ!? あのな、お前が此処に来ているって言う事実は彼女に知られると何されるか分からないんだよ。それにお前は見た目が外人さんそのものだし、お前それに…………可愛いから沢木達にもなんか言われそうで」
「えへへ☆ 可愛いって言ってくれてありがと!」
どうやらティアラにとってこれからこの家に誰が訪問しようが関係ないようである。
何しろまた会えて、さらには一緒にお泊まりができるのだ。これほど嬉しいことはない。
ティアラは護熾の胸に身体を預け、ぎゅ~っと抱き締め、『こらこら』と護熾を困らせていると、丁度誰かが廊下から居間が騒がしいことに気が付いて、トボトボと歩いていく。
それから金髪の少女が護熾に抱きついているという光景に出会し、目を大きく開けると、
「護兄に外人さんが抱きついている。護兄、誰?」
「おおっと絵里! 早いなお前! あっとな、こいつは…………」
「初めまして! 私は護熾の愛人です!」
「違えだろうが!!」
そんなコントのような光景を妹の目の前で繰り広げ、今日も騒がしい一日が幕を開ける。
午前十時。
「やっほ~~~! 海洞来たわよ~~~!!」
チャイムを一回鳴らし、大きな声で海洞家に向かって叫んだ近藤は、叫んだ後口を閉じ、玄関の取っ手が捻られるのを待つと、叫んでから七秒後、カチャッとドアの取っ手が捻られ、中から護熾が姿を現す。
「よぉ、お前が一番乗りか?」
「そうみたい。千鶴は後って言ってたし、沢木達は向こうで固まってから纏めて来るって」
「そうか、じゃあ先に中へ―――――――」
「あ、この人がゴオキの言ってたお友達?」
ヒョコッ。
そんな擬音が聞こえるかのように、護熾の脇からティアラが顔を覗かせる。
大きな蒼い瞳、流れるように柔らかそうな金髪。
近藤は中へ入ろうとした足をビクッと止め、その少女を視界に取り入れ始める。
ユキナと変わらない、その愛らしさ。
無邪気で純粋そうな、大きくて蒼い瞳。
触ったら病み付きになりそうな、長い金髪ヘアー。
近藤はそれらの簡易的なデータを頭に浮かべると、本能に似た欲情が湧き上がり、二秒でティアラに近づき、一秒で両手を首に、一秒で胸に抱き締めると、
「う~~~ん、可愛い!! うわっ何この子!? 可愛い~~~」
「あ~~れ~~、何だか抱き締められた~~~」
「外人さん!? 日本語上手だね! 海洞ったらこんな子を隠していたとは~~~~」
―――…………まあ、とりあえずは説明は不要そうだな
近藤のチビッコ萌えスキルが発動し、ティアラはうりうりと頬摺りされながらも何だか嬉しそうにはしゃぐ。
そんな様子を見ていた護熾は、近藤に一々説明する手間が省けたと考え、二人に中にはいるよう、誘った。
10時30分。
この時間帯になるともうユキナとイアル以外のメンバーは揃っており、全員難しい顔で居間でそれぞれイスに座っていた。
もちろん全員の対象は海洞家に何故かいる小柄の金髪碧眼の謎の美少女である。
その美少女は今はクピクピとホットミルクを飲み、アムアムと蜂蜜を塗ったパンにかぶりついていた。
「お~い、海洞。この謎の美少女の外人さんは……………………誰だ!?」
イスから立ち上がった沢木は何か気にくわない表情で縁に足を掛け、ビシシシィィィッ!と人差し指を護熾に差して説明を要求する。
説明を要求され、全員の視線を浴びながら、護熾はフッと一回溜息を付いた後、言った。
「こいつの名前は佐藤 茶新。俺の親戚、だ」
「おィいいいいいいいいいい!!? 親戚!? 親戚でお前こんな日本人の血じゃないモノが入った女の子がいるのか!!? しかも美人!!」
「こいつはハーフだ。だから名前も外人っぽい」
「この子が…………ティアラちゃん……?」
護熾の嘘紹介に気が付き、名前を聞いて千鶴は改めて少女の方に顔を向ける。
なるほど、じゃあこの子が四人目の海洞くんを好きになった子……
自分の目の前で護熾が攫われ、そして真実を知ったあの日、名前を聞いていた少女、それが今目の前にいるティアラなのだ。
彼女もまた、彼に救われた身。
そんなこんなで全員の視線が集まっている中、さすがお嬢様と言ったところか、周りの注目をまったく気にせず蜂蜜パンを食べ終えたティアラはホットミルクを最後の一滴まで飲み、ホッと一息ついてからようやく視線に気が付き、目をパチクリさせながら可愛く首を傾げて『?』を頭に浮かべる。
「ああ~っと、茶新ちゃん? どうも、海洞の友人の沢木です。君は、ところでいくつ?」
「ん? 14です! 今日はどうやら一緒にお泊まりみたいなのでどうぞよろしく!」
沢木の質問に人見知りせず、あっさりとハイテンションでティアラは笑顔で答える。
「んん~~~こっちこそよろしくね!」
同じくハイテンションで近藤が答え、いつの間にかイスから立ち上がって迂回し、抱きつく。
「ナイス海洞! こんな可愛子ちゃんも呼んでるなんてお前さすがだな!」
「いや……実はティアラがいることに一つだけ問題があるんだけど……」
「え? それは何だ海―――――――」
ピンポーン
「ああ、来ちまった…………ちょっと、ティアラ来い」
まるで死刑執行の合図を聞き取ったかのように奈落の終点駅までテンションを落とした護熾は、手招きでティアラに同行するように誘い、それを怪訝ながらも同意したティアラはイスから降りる。
「何? もしかしてユキちゃんと黒崎さん!?」
「たぶんそうだ。それから先に痛い目に遭っておく」
そう呟くように言った護熾はトボトボと玄関の方へティアラと共に行く。
そして二人が視界から消え、玄関の方からドアの取っ手が捻られる音がし、そして開いたようで寒い風が家の中に吹き込んでくる。
そして五秒後。
「なっ、んでその子がいるのよ護熾!!」
ドカ、バキッ グチャッ ズザザザザザザザザザ!
玄関の方からユキナの声がし、怪しい音とやばい音が混ざったような擬音で、廊下の上をフルボッコされた護熾が虚しくアイススケートのように滑っていく。
それを千鶴は後ろ頭に汗を掻いて見送る。
一方、この声に気が付いた近藤はピーンっと反応すると即座にイスから立ち上がり、廊下に身を乗り出して玄関の方を見ると、丁度、蹴り終えた体勢でいるユキナ、ポカンと口を開けて吹っ飛んだ護熾を見送ったティアラ、そして荷物を入れた鞄を肩から提げているイアルが あ~あ、と言いたげな表情で護熾を見ていた。
「ユキちゃん! 黒崎さん!」
「あ、近藤さん~~~~~ むぎゅっ」
「近藤さん、どうもご無沙汰」
そんな状況を尻目に、近藤は第二のチビッコと第二のナイスバディを発見すると即近づいて再会の感動抱擁をかます。抱き締められた二人はそれぞれそう言い、玄関に上がり始めた。
そんな中、
「ゴオキ~、大丈夫?」
「…………な、言っただろ? 痛い目に遭うってことをよっ」
心配して声を掛けてくれたティアラに、引っ繰り返った体勢で壁に背中を付けている護熾はそう返事をした。
「―――ってわけで、こいつは今日、ウチに泊まることになったんだ」
「それはそうと早く言ってくれればいいのに~~」
「おめえが説明の前に俺を蹴っ飛ばしたんだろうが!!」
椅子に座り、擦りむいた鼻を千鶴に絆創膏を貼られていた護熾は後ろを頭を掻いているユキナに向かって叫ぶ。あれほど、状況をすぐに理解して攻撃という判断の対象にされたのだからたまったモノではない。
「休み早々災難ね海洞。それにティアラちゃんまで来ているなんて……」
「あれ? 黒崎さんは知ってるの?」
護熾のボロボロ振りに可笑しく呟いたイアルに近藤が聞く。
イアルはすぐに『少しだけ』と返事をして手に持っていた荷物を下ろす。
中にはもちろん前回居候させて貰った時のように忘れはせずちゃんと一日分の着替えは持ってきている。ユキナもリュックサックに入れて持ってきている。
二人とも親やら友人やらには説明をしてきているので人事的な問題は発生しない。
「さあ、謎の海洞の親戚もとびきり参加で今日は一日を楽しむわよ! 今日はIN海洞家! そして夜にはユキちゃんと黒崎さんと茶新ちゃんと一緒のお風呂タイム! もちろん千鶴のア ソ コも拝ませてもらいますっ♪ さて野郎共、覚悟はいいかい!?」
「今日も盛り上がってんな、近藤」
無駄にこれまたハイテンションな近藤に護熾はそう言い、軽く微笑んで溜息を付く。
確かに今日は色々ありそうだ。
それが楽しい期待が半分、ティアラとの騒動の心配が半分。
どうやら自分は自動的にティアラのお守りをしなくてはならない。
何故ならもう既にティアラは外へ行く気満々でこちらに星を散らしたような眼差しで見ていたからだ。
「やっぱ、外へ出るのは初めてか?」
「うんっ、見たことないのばっかだから新鮮味を感じるのっ!」
「ところで海洞くん……どこへ行くの?」
「う~~ん、今回は近場で済ましたいから、商店街?」
「ショウテンガイ? そこ行ってみたい!」
「ええ~~あそこ行くの~? あんたいつも行ってるじゃない」
「あのな、近場の方が早く帰れるし肉もそこで買って一石二鳥なんだよ。」
「早くいこいこ☆」
肌寒い風が大気を覆う中、ティアラはワーイを両手を上に伸ばして行きたいとアピールをする。
此処は家を出てからすぐの道路沿いの歩道。街路樹は完全に緑の葉もなくただのオブジェと化している。
そこを歩くは護熾とティアラと千鶴と近藤の四人。
ユキナとイアルは先程来たばかりなので疲れており、ティアラの護熾に対するベッタリ振りにユキナは嫉妬心を露わにするが、疲労と、冷え切った身体の所為で不本意ながら商店街まで付いてくる気力まではなく、家から出たくないという同じ根性無しの三人の男子と一緒にお留守番を一樹と絵里にしてもらうこととなっていた。
「うーーーーん、うーーーーーん、うん?」
ティアラは歩きながら何か興味深そうにしげしげと辺りの住宅やマンションなどを見渡して何かに気が付く。
「どうしたティアラ。何か見つけたのか?」
「ん? いや、あのね。…………ここの人達って小さな家に住んでるなーって」
「………………」
忘れてはならないが彼女は貴族で、世間知らずである。
護熾は一度お邪魔したことがあるのでシファー家の家の広さは知っている。
正直迷いそうなほどの大きさでさらにはセントラルも兼ねているのでこの日本ではちょっとそこらでは考えられないほど大きい。
個人の部屋だってもしかしたら家一個分より広いかも知れないのだ。
「そ、そんなことが言えるなんて……茶新ちゃんのウチって……大財閥?」
「まあ、似たようなモンだ。こいつのウチはデカイからな。」
「へぇーー、ティアラちゃん家って大きいんだね」
「当たり前じゃないっ、何たって私はシファー家の むぐぐ、むぎゅ?」
危うく面倒なりそうな危険発言を護熾は、ティアラの口を手で塞いで止める。
それと同時に、少し声を潜めて注意を促す。
「お前、斉藤には喋って良いけど近藤はあくまで一般人だ。向こうのことがバレるのはちょいとまずい」
「う、うん分かった。今度から気をつけるねっ☆」
護熾の注意を素直に飲み込んだティアラは頷き、了承した。
一方、その頃海洞家の方では―――――
「ああ~~あの小娘めぇ~~、私と護熾の仲を裂きにきたのかぁ~~う~~きもちいい~~♪」
言っている意味は昼ドラの如く、言っているアクセントは完全にだらけきっており、コタツに潜り込んでいたユキナは身体だけ忍び込ませ、顔は出してゴロゴロと喉を鳴らしていた。
一応、護熾は信頼はできるので自分が思っているほどの状況にはならないとは思っている。
しかしあの小娘は一度どんな手を使ったのか、将来自分と護熾がする“結婚”までもつれ込んだ強者(?)である。
しかもあのブロンド美少女は自分よりも少し背が高く、そして外人らしく見た目より豊満な胸をお持ちでらっしゃる。
自分のツルペチャパイチビの体格では完全に劣る。
―――むむむっ、これは夜に決着を付けなければ、
「な~に、潜り込みながら悩んだ顔をしてるのよ? ちょっと失礼するわよ」
そう言いつつイアルはユキナの隣のコタツの布を捲り上げていざ入場。
異世界にはない画期的なコタツを堪能しながら、イアルはユキナに顔を向けながら言う。
「どうせ海洞のことでしょ? 心配ならば行けばいいのに」
「う~ でも疲れたし、寒いから中々出る気になれなくて……」
「まあ、気持ちは分かるけど、あなたは海洞に私や斉藤さんでもなく選ばれたんだからもっと信頼しなさいよ」
―――選ばれた、か……
選ばれた、と聞くとあまり良いイメージがしないのは気のせいであろうか。
自分は、確かにスタイルは良くない。
それでも護熾は選んでくれた。
それでも“選んでくれた”というのは何だか気に入らない。
だって何だか義務感か何かで決められたみたいじゃない。そう思ってみる。
確かに護熾は会いに行けば、時々だが、ちゃんとキスもしてくれるようになってくれている。
でも年頃の男の子。何時どこかに転がり込むかは分からないのだ。
そんな中で、一方、一樹と遊んでいた沢木はそんな難しい表情をしたユキナを見かけ、足を止める。
「……それにしても海洞の奴が彼氏なんて……意外だよな~~」
「そうだよな~~ あいつが木ノ宮さんの本命だって知った時、かなりびっくりしたからな」
ずずっと持ち込んだホットティーを飲みながら木村が呟き、ぷはっと息を吐く。
「どうした木村? 失恋をまだ引きずってるのか?」
「まあ、そりゃあ、ね? だってどんな関係だったかは知らないけど、木ノ宮さんに振られた男子達ってみんな海洞の所為でなったんだぜ? 俺もその一人。 あいつのどこがいいのかな~~って思っちゃったりするわけなんだな~~これが。」
「いや、まあ、人それぞれじゃない? 木ノ宮さんも海洞の奴気に入ってるみたいだし」
そう言った宮崎は昼食は弁当だから大丈夫だよ、と絵里に向かって言う。
「まあ、それは近藤か斉藤さんか黒崎さんに頼んで、今日はパーッとやろうぜ」
「おっし! そうしてやるかっ! 海洞! 振られた男子達の恨み、晴らしてやるぜ!!」
「何でだよっ」
「うわぁ、人がいっぱい。それに見たことがないものもたくさんある~」
このティアラの休日は、彼女にとって忘れられない一日になることであろう。
彼女は金髪の髪に風を孕みながら、護熾達と共に土曜で大賑わいの商店街のあちこちを動き回り―――
護熾が常連のスーパーへ一緒に行って初めて売られている食品を見て驚き、
おもちゃ屋でキラキラとした偽モノの宝石を欲しがったり、
自動販売機で温かく甘いお茶を買って貰ったり、
本屋に立ち寄って年齢的にNGなエリアに気付かず近藤と千鶴に止められたり。
「…………」
そして帰り際に、あるものを見て立ち止まった。
白い、純白のウエディングドレス。
それは大手の有名なブランド服店のショーウィンドウに飾られている染み一つ無い純白なドレスだった。
(この世界でも、これは一緒なんだね……)
「お~いティアラ~! 置いていくぞ~」
「ああ待って待ってゴオキ!」
向こうから声を掛けられたティアラは、ひとまず見るのは止め、急いで護熾達の方へ走っていった。
昼食は各適当に済ませ、午後。
午後ではさあ何を夜にやろうかという計画が持ち込まれたり、滅多に来れない海洞家の探索が始まったり、一樹との隠れんぼをやったり、カレー用のジャガイモの皮むきを開始したり、ジュースを買いに行ったり等など、割と各個人それぞれ適当な過ごし方をして、そして陽が暮れ始め――――
「海洞、米セットするけどいい?」
「ああ、水入れ過ぎんなよ」
「護熾~、肉が先?」
「だああっ、切った野菜が先だっ。斉藤! 鍋に水入れてくれ!」
「わ、分かった! え~とっ……大きい鍋ね……一人じゃ無理そうだから沢木くん!」
「はいはい~~~ 水入れればいいんだな!」
「海洞! 何カレーにするんだ!?」
「ポークだポーク! それと人参切ってくれ!」
「海洞! タマネギが目に染みる!!」
「気力で何とかしろォ! あとちゃんと微塵切りにしろよ!」
「海洞、投入するわよ!」
「ちょっと待てイア―――あちゃぁっ!!」
と、ティアラは見物、一樹と絵里にはコップやスプーンの用意をして待っててもらい、他の全員はカレー作りに奮闘していた。
ジャガイモや人参が目立つ定番のカレー。上手く完成するように祈りつつ、ついに下ごしらえが済んで、それからご飯も炊き終え、陽が沈んだ六時半丁度。
海洞家の夕食の開始である。
「―――……まぁ、いいんじゃね?」
「いいって何よいいって!? あんなにゴタゴタしてた中で今回は結構上手くいってるわよ!」
「いやいや、そこに驚いて言ってるんだよ。よくもまあ混沌の中でまともなカレーができたもんだ」
「うめえぞ海洞! やっぱ泊まりはカレーだろ!?」
「はむはむ……美味しい……これがゴオキとみんなが作った『カレー』なの? 辛くて、でも辛すぎ無くて美味しい☆」
「木ノ宮さん、福神漬け取ってくれない?」
「ほいな~、はい、どうぞ木村君」
「おおっと一樹君、お口が汚れてるわよ」
「あ、ありがとイアルお姉ちゃん」
「うわわっ、この家でこんな大人数で食べるなんて、護兄友人本当に多いね」
「うん、そうだね。でもまあ、海洞くん一人だったらたぶんもっと美味しいんだと思うけど……みんなで作ったっていうのも、良い思い出になるし、美味しいよ」
「さすが千鶴! 良いこと言う!」
「俺、コタツで食おっと」
「あっ、ちょっと待て宮崎!」
「そうよ宮崎! そこは女子優先でしょ!?」
「そこを言うか!? そこ言っちゃうのか!?」
まず、みんなで作ったカレーに味が意外だったのか、驚いた護熾に近藤がツっこみ、
沢木とティアラが初のみんなで作ったカレーを絶賛し、
木村が頼み、ユキナにから福神漬けを小スプーン付きで受け取り、
イアルが一樹の口を拭き取り、
絵里が改めて机の上を見渡してその数に驚き、千鶴も同意して頷き、
近藤が千鶴の言ったことを絶賛して宮崎がコタツでぬくぬくしながら食べようとして護熾が制止し、
近藤にレディファーストの権利を読み上げられて女子は一樹付きでコタツ、男子は一樹抜きで机で食うことになった。
そして無事楽しい夕食は終え―――――お風呂の時間である。
「何だかんだ言って此処に入るのも久し振り~~~」
脱衣所からドアを開け、敷かれたタイルに足を踏み入れ、熱気を素肌に受けながら先に入って来たのはユキナである。
さらりと艶の掛かった髪を揺らし、細く小柄な身体の彼女の後に続いて入るは―――――
「へえー! これが家の『お風呂』っていうモノなの! 小さ~~い!」
感嘆文を連呼しながら自分の家とは比べものにならないほどの小さな湯船に驚いたのはユキナの後から続いて出てきたティアラ。
長い金髪は、近藤のおかげで後頭部に綺麗に結い上げられている。
そして長く細い足と小柄な身体ながらもユキナよりもある豊満な胸。
ユキナはその裸を見て、特にその胸をしげしげと見て、視線を落として自分のと見比べて、
「くっ……! これだから外街人はっ……! 生まれ持った体格の……っ! DNAのっ……! 違いっ!」
そんな悔しそうな言葉を呟く。
「やっほっ---! 風呂だ風呂! さあ二人とも身体を洗ってしんぜよう!」
最後はユキナと一緒に入るという夢が叶ってハイテンションな近藤。
因みに彼女が今回一番長く風呂に入ることになっている。
理由はもちろん、女子とのお風呂団欒をコンプリートすることである。
前半はユキナとティアラのチビッコ達と、 後半は千鶴とイアルのナイスバディを拝むという寸法である。
ユキナはその部活で鍛えられた細い身体、そして足から順に見て胸の辺りを見ると、
「近藤さんも…………結構あるね」
「ん? あたしは一応Cよ。まあ千鶴や黒崎さんには負けるけどね」
そう言ってみせるがユキナにとっては羨ましい以外の何でもない。
この家にいる同じ歳の人達に、自分と同じ神に盗まれた体格の持ち主はいない。
まさに背水の陣にいるかのような心境であった。
「――――で、こいつどうすっか?」
「まあ、とりあえず移動させようか」
「あひゃひゃ~~~ 逆上せたぁ~~~~」
ユキナとティアラ、千鶴とイアルと連続で入り続け、風呂の前の冷えた廊下に仰向けで倒れ、顔にタオルを載せている近藤を見下ろしながら、護熾は男子陣に向かってそう言った。
「私はあと一枚、ハイどうぞ」
「ちっ、近藤が四番目か、あと六人……」
「あ、私も上がっちゃった」
「斉藤もか……あ、俺もだ」
「しゃあ! 俺もだ!」
「あ、護兄僕も上がり!」
「………………」
全員が風呂から上がり、八時半。
九時から見たいテレビの前に、11人でトランプならぬババ抜きを開催していた。
今はもう既に、護熾、ユキナ、ティアラの三人のみとなっている。
因みにババ持ちはユキナである。
そして順番は護熾がユキナの手札をとることになっており、どれを取ろうか迷っているところだった。
「と、そういえば、ユキちゃんは前に私に恋の相談をしたときに――――」
宿泊ではこのような話の食いつきが数倍良くなるのは本当である。
近藤からその言葉が発せられ、この場にいる全員が耳を瞬時に立てる。
ユキナは手札をジーッと見ているが、顔を赤くしてただただ耐える。
「命を救われたって言ってたんだけど…………海洞ってそんなことしたの?」
「!! う、うるっせぇ!! 何だそのニマニマ顔はぁ!? って、てめら俺を見るなぁ!! あと一樹も絵里も何だその意外そうな顔はぁ!?」
ただ、この耐久値が一番低かったのは護熾であったが。
「真実を明かせ海洞! お前の所為で泣かされた青春破人のためにも納得するように言いやがれ!」
それにはもちろん、振られた少年代表の木村が指をさして発言を求める。
「ほらほら! 海洞言わないと怒っちゃうぞって千鶴も言ってるか言いなさい! いや、白状なさい!」
「ほぇえ!? 私そんなこと言ってないよォ~~~」
千鶴もそう言って見せるが実はまんざらでもなかったりする。
嫌みではないが、自分はユキナよりは女性らしさを持っていると思っている。
それはもちろん、海洞は女性の身体で決めるような輩ではないことは一緒にいて分かっている。
でも、納得はしてみたい。
世界を救ってしまうほどの、護りたかった彼女への熱意の理由を―――――
「……へっ、別に俺が誰を好きになろうが関係ねえだろ。だけどな、お前らに言えない事情だってこっちにはある。でも、確かにこいつは一時は危なかった時がある。しかもこいつは小せえし、短気だし、弱いから…………だからただ――――」
そこで止まった言葉に全員の視線が向く。もちろん、顔を伏せていたユキナも。
護熾は視線を落とし、視線を泳がせて、難しい顔をしている。
そしてやがて―――口を開いた。
「俺は好きな奴が怪我するとこも死ぬとこも見たくねえから、そこにたまたま機会が転がり込んで、助けただけだ。それでさ、こいつは俺を見てくれるし、こいつといると…………安心するんだよ」
「………………おーっ…………なん、というか……」
流れからしては二人がどう言った経緯で付き合い始めているのかは読み取れないが、あの護熾が此処まで喋り、言い切ったのだけでも十分希少である。
あまりにもキャラにそぐわない談話に全員は不本意にも赤くなる。
そうだよね…………やっぱり海洞くんは、ユキちゃんのこと大好きなんだ
千鶴はそう思い、少し納得する。
「……ほらほら! 三人ともゲーム再開して!」
無言の空間を先に割って入ったのはイアル。そこから流れが生まれ、ゲームが再開される。
―――やれやれ、やっぱ、敵わないわね……
そう思いながら、イアルは頬杖を付いて二人を見る。
ティアラはジーッと頬を朱に染め、囃し立てられている護熾を見て、それから恥じらっているユキナを見て、ソッと微笑んだ。
因みにババ抜きの結果はお約束というか、護熾が結局ビリで、テレビのおつまみに全員に切ったリンゴを渡すハメになったのである。
午後11半。
テレビを見終え、遊び疲れ喋り疲れ、今日のウチに燃え尽きた彼らは部屋分けをする。
和室では女子が布団を敷いて寝ることに、コタツでは男子が寝ることに。
普通は女子がコタツではと思われるかも知れないが、コタツでは風邪を引きやすいということなのでその面を考えて男子がそこになったのだ。
因みに一樹、絵里、護熾はもちろん個室である。
「俺、海洞の部屋でもいいんだけどな」
「俺は寝慣れたベットじゃねえとダメなんだよ」
沢木の申し伊達をあっさり却下した護熾は全員にお休みと挨拶を交わした後、部屋の電気を消して周り、最後に自室についてベットに潜り込み、就寝した。
午前零時二分。
まだ真夜中、海洞家は眠りにつき、静寂が日本を支配する時間に、護熾の自室に向かって階段を上る音が響き始める。それは一段一段、他のみんなを起こさないように慎重に昇り、そして最後の段を上りきって護熾の部屋の前に辿り着く。
(ついたついた。さ~て、どんな寝顔をしてるのかな)
「真夜中に海洞に何かようなのかなー? ティアラちゃん」
「わひィ!?」
急に声を掛けられ、慌てて口を押さえたティアラは後ろを振り向いてみると、イアルがトイレか何かで起きていたらしく、階段の下の方でこちらを見上げて立っており、今し方誰かが昇っていくのを見たので確認しに来たのであろう。
「大凡海洞のところだろうけどたぶん、もう先着がいると思うから諦めたら?」
「せ、先着? …………あ、う~ それでも、行きたいです」
「そう、でも何をしてもあの二人の関係は千切れないわよ」
「そ、それでも……それでも…………私の好きな気持ちでもゴオキが好きな気持ちと……友達としての好きならいいでしょ? イアルさんもそれはあるはずです!」
「……確かに。でも、あの二人の邪魔だけはしないでね」
「は~い」
聞いたことは聞いたのか、イアルは踵を返し始め、どうぞご自由にという態度を取ったので、ティアラはイアルが部屋に戻ってから、ソッとドアを開けて中を覗く。
護熾が寝ているのは、月明かりが窓から差し込んでいるので鮮明に分かる。
それと、護熾の隣にも小さな膨らみがあり、誰かが寄り添ってゴソゴソと動いている。
『……一緒にいると……安心するか……』
小さくて聞き取りにくいが、それは確かにユキナの声であった。声の対象は寝ている護熾。
確かここに来るまでに物音はしなかったはず。
ティアラはそう思うが一つ音を立てないで行く方法ならある。
それは結界を使えばガーディアンのイアルと気力の高い千鶴と護熾(開眼の力はないが気力の高い人間として存在している)にしか認識されなくなり、尚かつ一旦外に出て窓から入ることもできる。
ティアラはジーッとドアの隙間から、ユキナが何を言っているのかに耳を澄ます。
「護熾…………嬉しいよ私は…………あなたはただ私を選んだんじゃなくて……本当に好きでいてくれてるんだね。」
選ばれた、ではなく安心させてくれる。
これはおそらく、護熾が自分の存在が何なのかを自分に打ち明かしてきたときのあの日のことに繋がっているのであろう。
護熾は自分で記憶も身体も作られた別の生命体かもしれない、と言った。
だけど、ユキナが目の前にいる護熾を本当の、正真正銘の護熾として認めているからこそ、護熾は安心して今を過ごせている。
自分は、護熾を必要とし、また護熾も、自分を必要としていてくれる。
「ありがと護熾…………好きだよ…………愛してる」
そしてユキナは、顔をソッと寝ている護熾に近づける。
そして数秒後、その顔が重なる。
それから顔を少し離してから、護熾の隣で、眠り始めた。
「…………ゴオキが好きな……人かぁ……少し悔しいけど……ゴオキが好きなら、仕方ないもんね」
キスシーンを覗き見し、二人の関係を見せられたティアラは、悔しいようで、少し嬉しいような、そんな複雑な心境を胸に、二人をソッとしておくことに決め、自分は一階の和室へと踵を返した。
朝、護熾はむっくりとベットから起きあがって目が覚めた。
朝6半。習慣なので割と早い。
護熾は一度大きく伸びをし、欠伸をかいて口に手をあてる。
そしてそれと同時にすぐ脇にいるユキナにも気が付き、一瞬唖然とするが、すぐに揺さ振って起こす。
「おい、ユキナ朝だぞ」
「う~、うん? あ、ごおきおはよ~~~」
「お前、ここに来る間誰にも見られなかったか?」
「う~ん……結界を使ったからたぶん大丈夫~~」
目を擦り、まだ寝足りないと言いたげなユキナに護熾は頭を撫でて意識をハッキリさせる。
「さてと、此処にいる連中の目を醒まさせてとっとと帰させるか」
「それは私も含まれてる?」
「それはもちろん、早いとこ帰らないと後がきついぞ。でもまあ、昨日は楽しかったけどな」
そう言いつつ素直な感想を述べる。
昨日は楽しかった。それは自分も同じ。
しかし何よりも、今回の友人達とのお泊まりで、護熾が自分に対する思いを再確認できたことが何よりも嬉しかった。
安心する。その一言が何よりも深い。
「護熾、こっち向いて」
「ん? 何だユキ――――」
「朝のモーニングお目覚めショット♪」
護熾を振り向かせたユキナはそのまま唇を重ねる。
そのまま押し倒す勢いだったが、護熾はそこを踏ん張って止め、肩を掴んで少し顔を離す。
「おまっ、人が見て無くてよかったけど、大胆だな」
「えっへへ~♪ これはお礼よ。さ、みんなのとこへ先に行ってるからね」
お礼? 護熾がその単語の意味を理解する前に、ユキナはたたたっと、ドアを開けて階段を降りていく。護熾は結局お礼の意味は分からなかったが、彼女にとって何か嬉しいことはあったのは間違いないと認識すると、寝ぼ助達を起こしに、ベットから降りた。
「くっ―――楽しかったお泊まりも終わりかぁ~~」
「ああ~~もうこんなチャンスそうそう無いのにユキちゃん達とお風呂入れな~い」
楽しい時は過ぎ、お帰りの時間である。
玄関では着替え終わった服を詰めた鞄を持ち、嘆いている近藤達がおり、ユキナとイアルとティアラは後から行くことになっていた。
見送りはもちろん海洞家とユキナ達。
「じゃ、ここでクヨクヨしててもしょうがないから帰るね。ユキちゃん、黒崎さん、茶新ちゃん、また会おうね」
「じゃ、じゃあユキちゃん黒崎さん、ティアラちゃん……また」
「じゃあな、木ノ宮さんは海洞に襲われるなよ!」
「っるせえ!! しばくぞてめえ!」
「おォ、こえ~こえ~」
第一陣に帰る彼らは、それぞれ別れの挨拶を言ってから、それぞれ自分達の家へと帰っていった。
「―――じゃあ、私も行くね」
「おお、送っていってやろうか?」
「よろしく☆」
時間が来て、今度はティアラの番が来る。
彼女の場合、隊長達がお迎えに来るらしいのでそこまで行けば大丈夫らしい。
ティアラは護熾の気遣いを素直に承諾し、同行を求める。
「ちょっとちょっと、私も行く!」
「え~ 私はゴオキに話したいことがあるから二人っきりがいい!」
「まあまあ、此処は待ってあげましょユキナ」
それに過敏に反応するユキナ、反発するティアラ、宥めるイアル。
ユキナは護熾と彼女を二人きりにするのはいささかどうかと思って暫し引かなかったが、ここは護熾を信じると言うことで我慢した。
そして家では四人がお留守番、外へは護熾とティアラが趣くことになった。
「あ~あ、楽しかったな~☆」
「そうか、それなら何よりだ」
昨日のお泊まりを振り返り、楽しげに言うティアラに護熾はそう返事を返す。
思ったより、こいつ大人しかったな。
そういえば、っと彼女の性格や素性を知る彼にとっては、夜に部屋に侵入しベットに侵入して頬をすりすりとやられるかと思っていたが、実際そんなことはなくただの自意識過剰だと反省する。
「良い思い出に…………なったか?」
「うん! ゴオキと一緒に過ごせたし、外でいっぱい珍しいのを見れたから満足だよ」
決して、家では味わえない開放的な空気と歳の近い人達と過ごす夜は、彼女にとって良い記憶として残っている。
商店街に行ってあちこち駆け回ったり、カレー作りを見たり、テレビを見たり、トランプをしたり、恋話を聞いたり、みんなと一緒に寝たり。
全てが新鮮だったのだから。
「おっ、帰ってきましたね」
「お嬢様~~! こっちこっち!」
曲がり角を曲がったその時、その先にいた隊長達が二人の姿を見つけて駆け寄る。
全員、ここらの住人に怪しまれないように珍しくごくごく普通の格好で来ていた。
「どうも護熾さん、お嬢様と同行して頂きありがとうございます。」
「いいよいいよ、当たり前のことしただけだ」
第一部隊隊長のロキに礼を言われ、大したことはないと返す護熾。
他の隊長達も『お前お嬢さんに何かしてないだろうなっ!』とか『怪我はさせてないやろうな?』や、『今度はあたしの部屋にご招待してあげようか?』などなどと護熾に絡むが、此処にいる時間はあまり取れないので此処でお別れの挨拶を言う。
「じゃ、此処でお別れだね……」
「…………ああ、達者でな」
「もうっ! 会おうと思えばいつでも会えるんだからそんな声で言わないのっ!」
「お、おお悪いっ、…………お前の親父やストラス博士にも元気でやってるって伝えてくれよ」
「うん! 楽しかったってこともね☆」
「…………ああっ」
「じゃあ最後にね………………」
先程まで楽しそうに、むしろこっちに来てから見せることもなかったしゅんと影が潜む表情になったティアラに護熾は怪訝そうな顔をする。
隊長達も心配して顔色を伺うが、ティアラは顔を上げて護熾を真っ直ぐ見据えると、
「もう、いなくなったりしないで。もう、死んだりしないで…………私だけじゃなくて……ユキナさんも……悲しむから…………昨日、安心するって言われてあの人とても喜んでたから……大事にして……ウエディングドレスを着せてあげてよね……?」
「…………!」
きっとそれは、ティアラの二人に対する祝福の言葉であろう。
いなくなってしまっては、自分はもとより、最も近しいあの少女がまた泣くから。
それからティアラは『また会おうね! じゃ!』と言ってアシズが作った繋世門にこちらを見ながら飛び込み、他の人達もそれぞれ護熾に一礼をしてから、飛び込み、最後にロキが飛び込んでから、門は綺麗に空間に溶けていった。
「…………あいつなりの、思いやりか…………」
何もない虚空を見つめて、護熾はボソッと呟いてから、口角をほんのわずか上げて、踵を返した。
来た道を戻り、白い息を吐き、冷たい風を纏いながら、護熾は歩く。
歩いて、歩いて、そして家の前に着き、いざドアの取っ手に手を掛けようとすると、先に捻られ、中から誰かが姿を現す。
「遅い! 何かしてたんじゃないわよね!?」
思ってたよりも時間が掛かっていたことに心配をしていたのか、業を煮やしていたユキナはプクッと頬を膨らませた表情で護熾を睨み、何か弁解を求める。
護熾はそんなユキナを眺めた後、手を伸ばして軽く頭を叩き、ユキナは『うぎゅっ』と瞼を閉じて受ける。
そして護熾はユキナの横を通りながら、
「別に、ただ気遣いを言われただけだ。」
「な、何それ一体!? おしえてよ護熾~~~~~~」
そして玄関に入っていった護熾を追いかけるように、ユキナはドアを離して閉め、その背中を追いかけていった。
「―――それで、どうだったんだい? ティアラ」
「はい、見たこともないものがいっぱい見れたし、食べたことのない美味しいものも食べれました!」
「そうかそうか、それで、護熾殿と過ごせた一日はどうだったかね?」
「はい! それはもう楽しかったです! 素敵な休日でした!」
後日、父親のジェネスにお泊まりの件について聞かれ、それを楽しそうな笑顔で答えるティアラ。
そんな幸せそうな彼女の首には、日光に当たって光っているモノがあった。
それは、護熾と一緒に商店街に行ったとき、少し高い安物の小さな宝石のペンダントだった。
密かに奮発してくれたのだ。
それは、このお泊まり会で一番の思い出で一番の彼女のお土産となった。
さてと、どうでしたかその後のお話は?
楽しんでくれたなら何よりです。
さて、そういえば最終話を見てくれた友人にやばいシーンやなんやらを問い正されて危うく溶鉱炉で親指を立てながら沈みそうになりました(笑)。
それと一つ、開眼の力って人の何倍と言われたのでそれをお答えしましょう。
開眼はもともとドラゴンボールのスーパーサイヤ人から来ていますのでそこから近い数値をとって、まず第一解放は『30倍』、第二解放は約『3倍』、そして護熾の死纏は『2倍』、続いて第三解放が『∞(無限)』となっております。
因みに気でのただの肉体強化では10倍になります。
お分かり頂けたでしょうか?
まあこれに+能力が付きますので実際よりもっと強いと思われますが。
さて、一応新連載もレギオンもどっちも同時にやってみようと思います。
それでどちらにペースを合わせるかは順々にやっていきますのでまだしばらく休ませて頂きます。では!