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ユキナDiary-  作者: PM8:00
121/150

四十八月日 遠景2

すこ〜〜〜し短いですがご勘弁下さい(笑)

最近妙に忙しくてしょうがないんですよ。まったく、これだから人間は(笑)でもこの物語もそろそろ終わります。あと少し、あとすこ〜〜〜しのなので最後まで、本当にお付き合い下さい!! では前書き終わり!! ではでは〜〜

 





 時は四百年前に遡る。

 まだ街という人の身の寄せ集め場がごくごく少数で、ほとんどの人がそれを知らなかった時代。そう、怪物も居らず、世界的には平和と言っても過言ではないこの時世、振り子は戻る。

 知っておかなければならない。知らなければならない。

 古から現在いまへ、ソラから護熾の世代までの、全ての謎を解き明かそう。

 この話が、全ての原点であることと、そしてソラとツバサの関係も今に続くことであることを伝える鍵となることを…………



 

 ―――このいにしえの戦いに、決着をつけに行こう。




 

 


 私の名前は××××(何かしらの名前を捩ったものであったことは覚えている)と呼ばれ、そしてこの白い髪と白い肌でよく気味悪がられたり、異扱いなどしばしば受けていた。

 そして当然、同年代の子供など、私の名前を変えてバカにしたように呼んで仲間には入れてくれなかった。

 だが、両親はこんな私でも愛してくれた。

 例え世界がお前を拒もうと、私達はお前を離さないと言ってくれたことは、今でも覚えている。


 だが、その世界でも時に残酷な事態が起こるものだ。

 それが、最初。




 空はちょくちょく綿のような雲がいくつも浮かび、後は蒼いキャンパスが無限に広がっている。小鳥の囀りも聞こえ、少しきつい日差しが容赦なく肌に降り注ぐ。

 澄んだ空気が延々と続き、木漏れ日が穏やかな日差しを作る。

 そんな環境に囲まれている村から、一人の少年が山に向かって歩いていた。


「…………僕ってやっぱ変なのかな? 確かにみんなと違って白い髪はしてるけどさあ、それ以外何も変わらないじゃないか。」


 そう愚痴りながら、およそ十歳ほど白髪の少年は籠を脇に挟んで両脇に草が生え並ぶ道を裸足で歩き、今旬の果実や食べられるキノコを採りに近くの山へと向かっていた。

 彼は生まれたときからこの髪の色をしており、肌も他の村人と違って白かった。

 いわゆる不思議体質で、この世に生まれてきたのだ。


 今の時期は丁度夏。

 父親は収穫のために畑の栽培物の様子を見に行き、母親は家で食事の支度をしている。

 この村は山に囲まれているおかげか、この時期はよく食料が豊富に採れる。少年は帰りを待っている母親のためにせっせと山の入り口付近へと向かうのであった。


 山に入ると案の定この時期に実る木の実などが生い茂るようにたくさんあり、ソラは少しだけ眼を輝かせると早速手に届く範囲で、しかし取りすぎず必要な分だけ籠に入れていく。

 それが、山に対する礼儀だからだ。

 しかし何やら人の声が下の方から聞こえたのでそれに気が付いて振り返ってみると、こちらも案の定、他の村の子供達が親に頼まれたのか、同じく籠を持ってこちらに向かって登ってきていた。


「おいっ、あれ××××じゃないか? 何であいつがいるんだよ?」


 またか、少年は子供達に見えないところで小さく溜息を付いた。

 どうせ僕の悪口だろう、どうも人というのは自分の下に誰かを入れたがるものだ。これは、蔑まれた目で見られてきた少年の心の解であり、もう飽き飽きしていた。


「やーいやーい、白髪の蛞蝓小僧やーい!」

「お前なんか雲になって飛んでいっちまえー!」


 予想通り、子供達の罵る声が少年に向かって放たれる。

 しかし少年は特に気にせず、背を向けて歩き出すと摂ったものが入った籠を脇に抱えてさっさとその場を明け渡した。こうすることが、一番面倒ではない方法だからだ。幸い、この外見が幸を為してか石を投げてきたり、殴りかかったりしてきたことは向こうはない。

 だからこそ、頭の中でしょうがないと決めつけてまだ実りが盛んな山の奥の方へ足を踏み入れていった。




 ……ここまで来れば、さすがに来ないか


 少し薄暗くなったこの山奥には村人もそう簡単には立ち寄らない場所である。故に草茫々の手入れのされていないまさに自然な領域なのでその分、さっきの場所よりは実りが多いのである。しかも軽くジメジメしているので切り株などには食用可能のキノコも自生していた。


「お、ここは相変わらず豊富だな」

 

 そう呟きながら少年は脇に抱えていた籠をそばにあった手頃な切り株の上に乗せると早速収穫に励み始める。木の実は丁寧に枝先からもぎ取り、キノコは途中で折れないようにしっかり根本から採ったりと、慣れた手つきでドンドン籠の中に入れていく。


 やがて、三人で食べるのには充分すぎるほどの食料を籠の中に納めた少年は、もうここまででいいだろうと決めると、籠を脇に持ち、そしてこの空間の出口まで歩くと振り向き、そして感謝の気持ちからか、軽く一礼をしてからその場を後にしていった。

 それからだ。

 さっき子供達に占領されたところから村を見下ろすと、紅く染まっていたことに気が付いたのは―――――





 

 場面は変わり、ワイトの東大門の方ではソラの気にアテられた兵士達の介護や、収容するテントなどを張り、しかしあくまで何が起こるかを警戒しながら北、西、南の方に参戦していた生き残った兵力を掻き集め、鉛色の空に向かってそびえ立っている結晶の塔を見晴らせていた。


 もちろん各門の方で援護していた残りの隊長も集結し、そして城壁の方では車で来たトーマ達は担架に乗せたガシュナを運んで定位置に着き、一呼吸終えたところであった。

 ここならば丁度視界のど真ん中に結晶の塔が建っており、もしこちら側に倒れてきたら危なそうも気がするが幸い塔からここまでの距離は一キロはざっとあるのでその心配はない。

 しかしそれでも塔はまさに天を衝くように延びており、現実では見ることのできないまるで生きているかのような幻想的な光と光沢を放っていた。


 そして隊長達も城壁の上に降り立ち、トーマ達と一緒に塔の方に顔を向けた。


「えらいでかいモンが建ってるな〜〜 護熾はんとユキナはんは無事なんやろうか?」

「分からない、現時点ではあそこに二人がいるってだけで、他はどうとも言えない」


 カイムの質問にトーマが飴を銜え直しながら答える。

 気絶しているのか、それとも意識はあるのか。ただ生きているという保証だけで何をしているか、ソラとの接触で一体何があったかさえもは本当に分からない。

 

 眼を細めて憂い顔でそう思うトーマは、ふと残りのメンバーの居場所に着いて考えた。

 オペレーター室から見た様子では、虚名持と実戦を交えた眼の使い手の中で一番軽傷だったアルティがその能力を最大限に活用してみんなを安全な場所に運んだため、全員生きているという確信はあった。

 つまり、自分達が此処に来たと言うことはおそらく向こうも分かっているはずである。

 ならば直接来る、というのが正しい。

 そしてその予感は正しかった。


「あ、来ました!」


 最初にそう言ったのはミルナで、嬉しそうに指をある方向に向けていたので自然と全員の視線がそちらに向くと、そこには大きなドアのような物体が突如現れ、そして中から姿を現す。

 紫色の瞳と髪を持つ頭に包帯を巻いた少女が先導するように歩いてそこから潜り出て、その後に背中がまだ痛むのか、さすりながら包帯だらけのラルモが出、そして後からゾロゾロとギバリ、リル、ロキ、レンゴク、シバ、そしてイアルの順で、ほぼ元気な姿をトーマ達に見せてくれた。


「おっ! お兄さん大丈夫!?」

「ロキ、レンゴク。あんた達もう大丈夫なの?」

「どうだ二人とも? 怪物の大将の気にアテられたんだろ!?」

「ほんまご苦労なこっちゃお二方さん。無事で何よりや」


 一番危険区域に趣いた二人の隊長に四人のバルムディアの隊長が労いの言葉を掛ける。


「けっ、大丈夫だ大丈夫。また護熾に助けられたけどな」

「ハイ、皆さんも無事で何よりです。こちらは平気ですよ」


 ソラの気から離れ、精神的に回復を果たした二人は、自分なりに素直に言葉を受け取ると同時に結晶の塔の方に顔を向けた。


 一方シバ達の方でも再会の挨拶が為されていた。

 大戦の開始、もう会えないと思っていたのにこうして怪我はしているものの、とにかく生きていてくれていることに互いに喜び、本当にキセキとしか言いようが無かった。


「い、生きてる。生きてるもんよみんな! 何だか夢みたいだもんよ!!」

「そだねギバリ。あたしたち生きてる!」

「何言ってんのよ二人とも。此処に居る人達に死にたい人なんているわけないじゃない」


 おなじみのメンバーに出会え、感動を身に刻んでいる二人にイアルが呆れ顔でギバリの尻に蹴りを一発食らわせる。ミルナは一旦躊躇し、ガシュナを見るが『行ってやれ』と眼で返事が来たので早速その場を離れ、中央の庭で別れを告げた以来の二人の許へ向かった。

 そして着くと嬉し涙で少し濡れた顔を二人に見せ、


「アルティ! ラルモ! よく帰ってきたね!! 私……私……心配で…………ふぇ〜〜〜ん」

「大丈夫、大丈夫よ…………安心して、ミルナ」

「おおっ、ガシュナの奴も てッ、随分派手な つッ、怪我をやらかしたな……あたたたた!」

「だ、大丈夫ですかラルモ!?」

「いやいや、何のこれしき……」


 そう背中に拳を当てながら強がり笑顔を見せるまだ病み上がりのラルモの顔は汗ダラダラであった。

 一方、別の所では……


「トーマ、随分怪我しちまってるみてーだな?」

「お前に言われたくはないな、まあお互い様ってことで。あ、長老もいましたか!」


 まあ、俺たちはせいぜいサポートしかできなかったな。そう笑いながらシバとトーマはパンと手を叩いて互いに無事であることを確信する。そのあとシバが長老に向かって敬礼を取ると、長老も軽く一礼して全員を一瞥する。


「本当に皆の者、よく頑張ってくれた。町民全員の代表として、礼を申す」


 こんなにボロボロになるまで戦ってくれたのだ。

 自分の故郷を護るために、或いは悲劇を繰り返さないように、無力な自分達の代わりに戦ってくれた戦士達にただただ感謝の言葉しか頭に浮かばない。

 礼をしないではおけない長老に、ガシュナが横から口を挟む。


「まだ早いです長老。まだ闘いは終わってません。それに此処にいるのは全員じゃない。」

「それもそうだ。護熾とユキナが戦っている、ってワケじゃなさそうだけどあのバカでっかいキラキラした塔にいるんだろ? やっぱ全員揃ってからが一番気持ちいいよな。」

「そうですよ長老。私達の希望が、今世界の命運を懸けてあそこにいるんです。」


 ラルモが言い、両掌握りしめて訴えるミルナに『それもそうじゃな……』と早とちりを反省した長老はユリアの方に顔を向ける。

 ユリアもそれに反応して一度顔を向けるが、軽く礼をするともう一度塔の方に眼を向ける。


「ユリアさん…………」


 不安げにシバが尋ねると、ユリアか軽く困り笑顔でシバの方に向く。


「私は、平気です。あの二人が無事でいられるなら……早く元気な姿を見せて欲しいです……」


 そう言いながら、胸の前に手を置き、静かに二人の生還を待ち侘びてその場に佇んでいた。







 村は、焼かれていた。

 まだ昼近くだったので焔の様子はあまり目立たなかったが山の上からでもその様子が十分に拝見できた。家は一つ残らず火の手に遭い、おそらく火を付けた矢をどこからか一斉に放ったのであろう。そして逃げまどう人々の中に、武装した人間が追いかけ、仕留めていく。


 見ただけで親から聞いた最近領土を広げて街同士が戦争を仕掛けるという話の犠牲になっているということが嫌でも分かった。そしておそらく責めてきたのはこの辺りの地を支配下に置いている街と敵対する勢力。


「大変だ…………行かなきゃ……!」


 少年は頭が真っ白に一瞬なるが、それよりも大好きな両親がこの世から消えて無くなるとうことが何よりも恐ろしかった。少年は籠を投げ捨て、中のモノをぶちまけると落ち葉を踏みしめ、急いで駆け下りていった。


 山への入り口に足を踏み入れたときには、取り押さえられた村人が、横一列に並べられて正座で座らせられていた。その中には子供達もいる。周りには鉄製の剣や槍を肩に担いだ街の兵が、ギラギラとした眼差しで見下すように村人達を一人一人見ていた。

 少年は近くにあった茂みに隠れ、その様子を覗き見にしながら、何とか助け出す方法を考えていた。


「村の人民共よ! 今からこの村を我が街の支配下の隷属地として執り行う! お前達は為す術もなく我々に負けた! だが! もちろん何もしなければこれ以上は手は一切出さない! 大人しく我々の補給地として、身に弁えるように!!」


 兵の団長から、村人へと向けてこのような約束事が言い渡される。

 しかしおそらくこの村はこの地を支配下に置いている街との戦いで戦場となるであろう。それはどの村人も例外なくそう思った。

 

 ………? 母さんと父さんの姿が見えない?


 茂みの中から一人一人村人をざっと四十人ほど見終えた少年は、ふとそのことに気が付いた。捕まったのならこの場に居ても良いはずなのに、いないのだ。

 もしかして………

 少年に最悪の結末ビジョンが浮かび上がる。

 やだ、やだ、やだ。そう思っても顔が、首が、眼が、その方向へ導かれるように動いていく。そして村人達から約20メートル離れたところで、見つけた。


 母親は、背中に数本の矢が命中して血を流して倒れていた。

 父親は、桑を側に倒して仰向けに胸から血を流して倒れていた。


 少年は、その惨状を見て、立ち尽くす。

 脳が、理解を拒否した。現実が、大きく歪んだ。


「え…………母さん……父さん……?」


 世界が終わっても、愛を紡いでくれる世界で一番大切な人が、居なくなってしまったのだ。

 そしてすぐに理解する。もうこの村にノコノコ出てきても、誰も自分を受け入れてはくれまいことを。それよか、この容姿で兵達におもしろ半分に晒し者にされるのも避けられないことであろう。

 そう理解した少年は、歯を食いしばって村に背を向けた。

 落ち葉に数滴、温もりを持った雫を落としながら、その場から逃げるように立ち去った。もうあの場所に自分の居場所はない。唯一の拠り所であった両親の横は、もうないからだ。

 そしてもう一つ、自分は仇討ちをできるほど、強くはないことくらい知ってた。だからこそ、形容しがたい胸を掻きむしられるような思いの中、泣きながら、泣いて泣いて、逃げた。

 

 自分の世界が、壊れた瞬間だった。


 



 それから五分後、少年は道無き道をひたすら走っていた。固い葉っぱで肌を切ろうが、足の裏が尖った石などで傷つけられようが、とにかく走っていた。

 山中を駆け抜け、少年は『情けない、どうせこの先生きていけることなんてできやしないのに、せめて親の仇を討ってできなくてもそのまま命を絶てば、その方が楽なのに……』そう幾度も頭に浮かべながら必死になって、顔を涙でクシャクシャにしてとにかく逃げた。

 それから地面に浮き出ている巨木の根に足を引っ掛からせ、派手に転んで服を土まみれにする。

 暫くうつ伏せの状態で地面に倒れていたが、やがて両手で土を握り、握りしめ、顔を上げる。


「う…………うぅ……うう……」


 その顔にはまた涙が浮かんでおり、そしてぐしぐしと腕で顔を拭って立ち上がる。

 死ぬのが怖くて逃げ出した自分に対しての責めの気持ちと、天涯孤独になったという恐怖が少年の心の内に渦巻く。ほんの数分前に全てが壊されたのだ。そんな絶望の中、少年は行くアテもなく再び歩き出した。不安が胸に渦巻いていく。初めて味わう死の恐怖に、少年は押し潰されてしまいそうだった。


 



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 



 どれだけ歩いたか、知れない。今は夜、漆黒の天空にはもうじき真円となる月が昇っていた。

 土の匂いがする。真っ暗闇で、時々ざらっとした感触の木の肌に触れ、転ばないように歩いていた。そして疲れが限界に達すると、丁度木の根っこの間にスペースがあったのでそこに座り込み、顔を膝に埋めて休み始めた。

 あれから、何日経ったのだろうか。

 少年はとにかく南へと太陽を目印に歩き続けた。そしておそらく二週間は確実に過ぎていた。

 突然の別れから少年はもう何年も一人のように思えた。それはあの出来事から人に出会っていないということもあり、悠久に近い孤独というモノを直に体に刻んでいた。

 ふと、木々の葉の間から薄ボンヤリとした光が顔に差したので天を仰いでみる。


「…………また月……さっき沈んだばかりなのに……これで何回目だっけ…………」


 月明かりに手を翳し、それを見下ろしてから呟き、そしてまた顔を上げ、


「………… 分からなくなった…………」


 気が付けば、日が昇り月が上がるなどの同じ繰り返しの日々。普通のままだったら皮の布団に体を潜り込ませ、深い眠りに着いているはずなのに今は季節にかかわらず心が寒かった。

 それから意識が溶けるように、少年は眠りについた。少年の白い髪を月光は照らしていた。



 その翌日、両目は陽の光を見ていた。

 少年は歩き出した。近くの木に食べられると知っている木の実が成っていたのでそれを数個手に取り口に頬張る。こうして何日間も、父と母から教えられた知識にすがって生きているのだ。それを思うと、また涙が溜まり始めるがそれを指で拭き取り、その場から移動していった。


 そして山を抜け、少し歩くと薄暗い世界が晴れていった。

 そこから一歩踏み出すと、容赦ない日の光が肌に照り着いてくる。少年は草を踏みしめて歩き出し、そして振り返って山を見上げた。

 恐ろしく、孤独しかないところだったが今生きていられるのはこの山のおかげ。

 少年は心の中で感謝の言葉を添え、それから前を見て歩き出した。




 川が流れていた。おそらく近くの山に水源があるのだろう。

 その川は澄んでおり、そのままでも飲めそうだったので少年は土手を降りて裾をまくり上げて早速入水すると手で掬ってがぶがぶと水を飲み始めた。

 うまい、気持ちいい。

 今の季節には川の冷たさが充分に体に染み渡る。それから少年は上半身の衣を脱ぎ、それから体を洗い始めた。数週間ぶりの水浴みは、生きているという実感を与えてくれる。


 体を洗い終えた少年は土手に蹲って川の流れを見つめる。

 此処がどこなのかは、もう分からない。着の身着のままで逃げてきた自分にとっては、一歩歩く毎が新境地だ。空はあの日と同じようにずっと蒼一色が続いており、雲が所々浮いている。


 …………疲れたな……


 少年は疲れた。

 もう自分しかいないと思われるほどの寂しさを嫌と言うほど味わった少年は、また眠りについた。

 だが、少し経つと突然肩を揺さ振られたので驚いて眼を覚まして目を向ける。

 そこには、白く長い髪が瞳に映っていた。着ている服は少年と大差はないが、どこか気品が溢れており、すぐに女だということは分かった。


「君は、どこから来たの?」


 少女が顔を覗き込みながらそう尋ねる。背の高さは自分より少し高く、年齢も上だと言うことが分かる。しかし問題なのは何故この少女が自分と同じ白い髪をしているということだった。


「……………」


 少年は無言で驚いた。まさか自分と同じような人が久々に出会った人間で会えるとは、夢にも思わなかったからだ。少女はポカンとしている少年を見ながら怪訝そうな声で質問を続ける。


「分からない………のか?」

「………………」

「…………そうか、でも此処にいたら風邪を引くぞ。付いてきなさい、私がお前の面倒を見てあげるから」


 少女はとりあえず家まで連れて行ってそこで話を聞こうと決めた。

 細く、白い少年の手を、躊躇わずに引く少し大きな手は、温かく、少年の肌の色とはまったくの逆の世界であった。少年は無表情のままながらも、その手を引かれるがままに立ち上がり、そして優しく、楽しそうに微笑む少女の顔を見ながら、その場を立ち去っていった。




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