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ユキナDiary-  作者: PM8:00
104/150

三十一月日 告白


 これが書きたいからこの物語を書き始めた……と言っても過言ではないです。

 皆さんは気付いているかも知れませんが結構私、恋愛が好きな方です。しかも結構追いつめられた状況の中で(笑)

 こういった状況の中で、二人は答えを出し、愛し合い、それでまた会えると信じて今日という日を過ごす。 それがどうなるかは知りませんが、護熾とユキナは答えを出せた。

 おおっとこれ以上言うと後書きみたいな前書きになるのでどうぞ、描写が足りないかも知れませんが精一杯の二人の恋、どうぞお楽しみ下さい。

 

 







 一体自分に後どれだけの時間が残っているのか。

 それまで考えていなかったこと、考えないようにしていたこと―――

 順当に行けば、あと何十年は残っているはずの時間がある日、半年となって絶たれる。

 死とは万人に訪れる絶対的な現象だがそれが何時起こるかは誰にも分からない。

 分からない中で自分だけは目盛りの付けられた砂時計のように分かっているのだ。

 だが日に日に寿命が減っていく中、自分にだけ都合のいい幸運なんて世界に求めるつもりはない。

 

 求めるなら一つ、悔いのない人生を―――自分に正直になって想いを伝える機会が欲しかっただけだ。

 




「ご……おき? え? 私の事……」

「いいから、何も言わないで抱きしめさせてくれ…………」


 小さな体を抱いている腕にさらに少しだけ力が籠もる。

 そして護熾は右手をユキナの後ろ頭にソッと移動させ、艶のある黒髪を愛しそうに撫でる。ユキナはこの突発的な行動にほぼ頭が白くなりかけで護熾に抱かれるがまま胸に顔を埋める。 温かくて心臓の音がトクトクと音を立てているのが聞こえる。


「ごめんな……相手の気持ちも知らずにこんなことしちまって……でももう、会えなくなるから……」


 この少女は明日、自分の元からいなくなるのだ。

 そして大戦の日、互いに生きている保証はない。どっちが先か、どっちが生き残るか? それとも二人とも死ぬのか? 護熾はこの世界でゼロアスと決着をつける。

 ユキナは、みんなと一緒に一蓮托生でその者と他の虚名持との激闘を繰り広げる。

 こんな窮地に二人が元気に再会することはほぼ、無いに等しいのだ。


「だからさ……最後に言わせてくれ……好きだって……ユキナのこと大好きだって……」

「…………何で? 私のことが好きなの?」


 ユキナは顔を上げ、顎を胸に当てるようにして見上げると反射的にそう尋ねる。

 護熾は少しだけ抱きしめる力を緩めるとユキナと見つめ合い、


「お前は……ずっとこの町を護ってきた……それで今度は俺のために護ってくれるって言ってくれたからな……たぶんそん時から……惚れてたんだろうな……」


 護熾は遠い目で自分が惚れた瞬間を思い出す。

 

 





 もう四ヶ月近く前の話。

 今日は昨日より日差しが強いので長居は出来ないがそれでも涼しい風が屋上を吹き抜けて優しく頭を撫でていった。ユキナはフェンスのとこまで行って、昨日と同じようにここから見える景色を眺め始めた。護熾も隣に並んで同じように眺めると、眺めながら


『なあ、何でお前は昨日、ここからこの景色を見ていたんだ?』


 尋ねられたユキナは少しの間、黙っていたがやがて話し出した。


『私はね、五年間のこの【現世せかい】で【異世界パラ守護者アン】の【眼の使い手】として任務を遂行してたときによくここで寝ていたのよ。そこから見える夜の町はどこか騒がしく、静かで、楽しいようで、怖かった。でも今見えるこの景色はそんなのはどこにも無くて、暖かい。ただ優しくて暖かい、そんな気がするの』

 

 それを黙ってきていた護熾は無表情でユキナに向いた。ユキナは護熾を見つめ返すと


『でも今は私があなたを守る。怖い目にはあわせない。だから護熾、私を信じてね』


 かなりグッと胸にユキナの言葉が響いた。その眼差しからは力強い意思がしっかり伝わり、護熾は驚いた表情で見ていたが、やがて口元を綻ばせて笑うと


『ああ、信じるさ』


 一言だけ言った。




 



 ――気付いていたのに、俺はずっと隠して今日まで生きてきた。

 


 告白してそれで断られたらどうしようとか、今の関係でいられなくなったらどうしようとか、そんなことになるならいっその事他人としてずっと関係を保っていこうと護熾は思った。

 

 ――分かってる。これは単なる言い訳で俺の気持ちを伝えないでおく防衛ラインなんだってな。

 

 愛されたいのに愛そうとしない、その繰り返しの中を彷徨って、やっと答えが見つけられた。怖くたって、傷ついたって、好きな人には“好き”って伝えるってことを……でも遅すぎた。 そう護熾は後悔し、泣き声を含んだような声で震えるように喋る。



「ごめんな……最後の日にこんなワケの分からないことで混乱させちまって……自分でもワケが分からない……でもお前がいなくなるって思ったらさ……無性にこう、穴が空いた気分になったんだよ……」

「………………」


 震えた声で護熾は再び抱きしめる強さを戻し、ユキナはまた顔を埋める。

 この少年は自分が想うよりも先にずっと自分のことを想っててくれた。

 まったく気付かなかった………

 それが最初に出てきた正直な感想で、たぶん今日のことは一生忘れないだろう。

 自分を護ってくれたから惚れた。 たったそれだけの理由で自分のことを好きって言ってくれたのだ。 それは、自分という一個人に対する言葉であって決して他の人のものではない。


「でも……お前は生きてくれよ……絶対、向こうのみんなを護ってな……半年後に俺はいなくなるけど……お前は絶対大戦で生き残って……幸せを見つけろ。」

「………………」


 不安だった。

 でも護熾は自分のミスで致命傷を受けて死んだのにそのことはまったく気にせず、むしろ好きだって言ってくれている。それがどんなに嬉しく、どんなに甘いかはもはや測れるものではない。

 この少年と過ごした記憶は朧気な幻と変わるだろうが、これだけは別だろうと思った。

 今日という日が、“特別”な日だというのが分かった。

 ならば自分は応えなくてはならない。今日という日を特別な日にするために。

 もう自分の答えは知っている。ユキナは再び顔を上げ、両手をゆっくり、優しく護熾の頬に伸ばして添える。


「ごおき……顔を少し下げて」

「……? 何だ? ユキ――――――」



 


 





 それは永遠のような一瞬。

 



 




 触れた唇同士が同じ温度に、ユキナは護熾の頭を引き寄せて、口づけをした。

 護熾は不意打ちのようなユキナの口づけに思わず堪えるように体を硬くし、それからゆっくりと瞼を開けると、この世で一番、自分が可愛いと思う少女の切ない表情が目の前に広がっている。

 

「――――――」

「―――――ぷはぁ」


 唇が僅かに離れ、間に空気を一枚重ねただけの近くで、ユキナは頬を朱に染めながらも護熾の頬に両手を添えたまま呟くように


「護熾……私も……私も護熾のこと好きだよ……」

「…………ユキナ……お前……」

「でもよかった……伝えられた…………ごめんね……いつも困らせて、いつも損させて、いつも世話ばかりさせて、いつも迷惑ばかりかけて…………護熾……大好き」


 もう手の届く距離にこの少年はいた。

 ただ、互いに気が付かずに過ごしてきただけ。ユキナは頬に添えていた手を自然体で垂らし、身を預けるように護熾の胸に頭を小突く。

 護熾は若干頭がボーッとなるが、その小柄な体の微かに震える肩を安心させるようにキュッと抱きしめ、温度を分かち合い始める。もっと早く気が付けば良かった。それが後悔でもあり、今日という日を成し遂げるための糧であったと二人は信じている。

 ユキナは自分のことを好きでいてくれている。それがどんなに嬉しく、どんなに甘いかはもはや測れるものではない。


「…………温かいな……ユキナは」

「フフ、ありがと、…………護熾は……私を妹か何かしか思ってないと思ってた…」

「そんなワケねえって…」


 互いに相思相愛だと分かって安心したのか、護熾はまだ緊張気味だったがぶっきらぼうに、いつもの会話で見せるような調子でそう言う。

 ユキナは初めて見る護熾のそんな姿に思わずクスッと笑い、ますます顔をうりうりと埋め、それから悲しそうな声で


「でもね、いいの? 私じゃあなたを幸せにできない。もっと他にあなたを幸せにできる人は必ずいるはずなの……その短い半年の命……私じゃあ……」

「ユキナ、お前は―――」

「でも! やっぱり私……ダメなの……耐えられそうにない……」


 顔を上げて護熾の顔を見たユキナの目は涙で潤んでいた。

 触っただけで壊れてしまいそうなその表情は、繊細な女の子そのもので、それを見た護熾は心の中でパニックになった自分と妙に冷静な自分の存在が一瞬、不思議に思った。


 可愛い、と 愛くるしい、と心の底からそう思う。


 この小さな体でこの五年間、どれほど痛みに耐えてきたのだろうか?

 誰からも理解されず、拒絶し、拒絶され、そして自分の元にやってきて、やっと理解されたのだ。


「でも、ホントにいいの? わたし……すごいワガママだし…」

「知ってる」

「乱暴だし」

「すっげ〜知ってる」

「む、胸も身長もないし……」

「し、知ってる」


 上目遣いで訊くユキナの質問に護熾は即答する。

 しっかりと相手を真っ直ぐ見た、強い眼差し。それはいつ見ても、心が揺らされる不思議な力がある。そしてユキナは少し体を離し、手を差し伸べる。護熾は少し驚きながらもゆっくりとその手に手を重ねるとユキナはまた訊く。


「結構泣き虫で……見栄っ張りで……女子なのに料理もできなくて……」

「なっ……誰がだよ。……でも……それがお前なんだよ……チビで、ペチャパイで、あんパン好きで、身長にコンプレックスを抱いてるお前がさ、俺は………」


 一度息を吸い、それから全てを伝えるような口調で、


「じゅ、十分魅力的だと思う」

「…………護熾」

「ユキナ…………好きだ……」

「私も…………ん……」


 それから護熾は、今度は自分から口付ける。ユキナもそれに応じるように再び目を閉じて、護熾から受け取る。触れる唇が互いの再会を喜ぶように再び温度を分け合い、それから互いに少し口を開けると小さな舌と少し大きな舌が絡まった。

 一生で一番、激しいキスを二人はした。








 暗く、冷たい風が支配する夜中の歩道でイアルは首に巻いたマフラーに顔を潜めながら今、海洞家の方に向かって踵を返していた。

 時折、風がその長い髪を撫でるように吹き、黒いカーテンが形成され、崩れていく。

 イアルは先程、千鶴の家を訪ねていた。

 それは、結果を報告するためである。

 それを聞いた千鶴は一瞬、しゅんと顔が曇ったがすぐに微笑みを見せるとただ一言言った。



 “よかった”



「よかった……か……」


 虚空に呟くようにポツリと言ったイアルはポッケに手を入れて暖を取り、歩き続ける。

 イアルは今の気持ちをどう解釈して良いか、分からなかった。


 二週間前に聞いたギバリとリルの二人への相談の時、イアルは聞いてしまった。

 護熾がユキナの小さい時の話、様子を聞き回っているということを。

 それは、護熾がユキナのことをもっと知りたいという理念が突き動かした行動であり、ユキナもまた、護熾の過去を知りたがっていた。

 そして今日、護熾はとうとう自分にユキナのことを聞いてきた。

 それで確信してしまった。 二人が結ばれるのは必然的だと。


 

 ――結局わたしは……わたしが何をしようと海洞とユキナはああなっていたんだろうな…わたしは余計なことをしたにすぎない……か


 

 護熾が小さくなったとき、互いに同じ人を好きだと理解し合った三人は風呂場という小さなコミュニケーションルームで決めた。

 それは護熾がせめて半年の内に好きな人を見つけて幸せにその時を過ごして欲しいというものだった。

 護熾が何かしら異性に興味を持つなら日常的に触れあいの多い、この三人の中にならもしかしたら一人、いるかもしれないのだ。その可能性を懸けて、今日という日を過ごして、そして護熾は答えを見つけた。


 

 ――でも仕方ないじゃない、目の前でもう一年も生きられない人がいて、しかもそれが好きな人だったら何とか力になってあげたいと思ってしまうのは……



 イアル自身も、心のどこかで知っていたのかも知れない。

 ユキナこそが護熾の隣にいられる人物なのだと。 自分でも千鶴でもない、ユキナこそが。

 護熾とユキナの二人は互いに信じ合って、戦ってきた。 それで心休まる日が最後という今日でも、そっとしておいてあげよう。 


「まったく……どっちもどっちでさっさと言っちゃえば余計な努力なんてしなくてよかったのに……」


 すると目の奥から何かが込み上げてくるような気がして慌てて手で抑える。

 そして堪えるように、ぐっと力を入れる。ここで泣いたって、しょうがない。 せめて帰ったら、護熾ともう一度顔を合わせるくらいは笑顔でいたい。

 泣くんだったら……二人が結ばれたときの嬉し涙と……護熾が本当に死んでしまったときに泣こう。

 そう決意し、一人のいや、二人の初恋は一人の少女に託され、幕を下ろした。






「――それでさ、実際、相談相手が中々いないから……ちょっと複雑だけど俺のことを好きだって言ってくれたバルムディアのティアラにシバさんに付き添ってもらって聞いてみようと思ったんだよ」


 ベットに座り、こちらを見ているユキナに二週間前に何も言わず、ふといなくなった時の話をし始める。


 あの日、護熾はストラスに頼んで現世でバルムディア行きの繋世門を開けてもらい、通行許可を取った。 しかし一人で行くのは前回のこともあってシバが同行人として付いてきた。

 繋世門は見事、セントラルの中庭に出現し、そっから飛び出すように出てきた護熾を最初に目撃したのは丁度、外でロキと若い給仕達と遊んでいたティアラであった。

 ティアラの碧い瞳に護熾の姿が映ると0.3秒でその姿を理解し、そして


『ゴオキ〜〜〜〜〜〜〜!!!!! とうっ☆』

『ん? この声は……って、のはぁ!!!』


 ズドドドドドド!!! と土煙を作りながら満面の笑顔で特攻してきたティアラの手加減無しのダイビングハグに護熾はそれを頭でもろに受け、シバが潜り終えた時にはピクピクとダメージを受けて寝転がっている護熾の頭にティアラがゴシゴシと頬を擦りつけている光景が広がっていた。





『――わたしがゴオキのことが好きだった時? どんな気持ちで告白したかって?』

『ああ、すっげぇ変なこと聞いて悪いけど……教えてくんねえか?』


 久々にあったティアラは護熾が裏で国崩しを企んでいた怪物達を倒して以来、まだ暗殺者がいるかもしれないという配慮の中で、とうとう外を出て遊んでも良いと言う許可が下りたのだ。 しかしまだ、同年代との交際は今までの籠の鳥生活もあってうまくできず、こうして隊長と遊ぶのがやっとだとティアラは芝生の上に座りながら笑ってそう話した。

 シバとロキと給仕達にはこの話は聞かれたくないので護熾は丁寧に遠くへ行って下さいと頼み、二人っきりにしてもらっている。


『う〜んとね〜 特に考えなかったな〜〜』

『考えなかった? 何で?』

『分かんない☆』


 そんな無邪気な笑顔で えへへ と笑うティアラに護熾は少しの間、唖然と口を開けた表情になるがすぐに納得した。

 この少女はストレートに相手からの返事が何であろうが告白したのだ。 例えそれが朝のベットの上だとしても、自分が好きだと思ったら好きだってちゃんと言えるのだ。

 そんな後先考えないことが、羨ましかった。


『っていうことは〜〜 やっぱりゴオキはこの前の黒髪の私よりちっちゃな女の子のことが気になってるんだね〜?』

『え? ……ば、バッカ野郎、誰があんなチビに……』

『だったら何で耳を赤くしてるの?』

『〜〜〜〜〜〜〜〜〜』


 分かっていたハズだが、分かっているはずなのだがこの少女にはどこか頭が上がらない気がしていた。護熾はちっ、と少し悔しそうに舌打ちしてから、認めた。

 自分はあの少女が、ユキナのことが好きだって、洗いざらい吐いた。

 いつもワガママで、身長のことを言われると蹴ってきたりして反抗し、あんパンを食べているときは思わず撫でてあげたくなるような幸せな顔で頬張って、それが可愛いと思えること。

 小さくて、綺麗な髪で、深い色の瞳を持った大きな目。


 こんな女の子、他にはいないとそう言った。



『そのユキナって人は……ゴオキのことどう思ってるの?』

『分かんね。 だから怖えんだ。』

『……まあそうだよね。』

『だからこそ、そんな不安をかっ飛ばして俺に告白してきたお前に敬意を表するよ』

『やった♪ ゴオキに褒められた。』

『〜〜〜う〜ん複雑だな』



『でもさ、やっぱ言おうよ。 大戦は間近だし、二度と会えないかもしれないんでしょ? パッと言っちゃおうよ!』


 不意打ちのように、ティアラは結論を護熾に告げた。

 分からないまま終わるより、分かってから終わった方がいいじゃん。

 そんな直接的で、最も合理的な結論。


『今は言えなくても、時間は限られているけど、それでも勇気を育ててさ、言おうよ! でないと私が許さないぞ! むうぅ』

『…………あぁ、ありがとよティアラ』

『どういたしましてゴオキ、そういえば家泊まる?』

『遠慮しとく』


 





『話は終わったかい?』

『どうもシバさん、退屈させてしまって』

『いやいや、護熾の悩みをここでしか打ち明けられないってんなら仕方がないからな』


 約束の時間を迎え、再び開けられた繋世門を前に護熾とシバは簡単な会話を交え、それから同時に横を向く。

 そこにはティアラと、先程一緒にいたロキが二人の見送りに来ており、他の隊長は忙しくて顔を出せないということであった。ロキは一歩前に出て敬礼し、


『護熾さん、大戦直後はおそらく全戦力を持って戦わなければなりませんが、必ずそちらへ、ワイトへ援護に私達全隊長がストラス博士とトーマ博士の作った新しい強化服を着て向かいますのでどうか、』

『ああ、そん時はみんなを頼む。 そしてここにいる人達も、ティアラも元帥も……必ず無事でいろよ』

『うん、だからゴオキ…………死なないでね』

『誰が死ぬか、俺だってあん時よりさらに強くなったんだから見てろよ!?』







「そうだったんだ……フフ、相談、してたんだ」

「でもよかった、お前が行ってしまう前に手が届いて。 よかった、ホントよかった」


 そして護熾は徐にユキナを持ち上げて、抱き寄せる。

 そして自分の足の間に尻餅を付かせるように座らせる。ユキナは心臓が跳ね上がりそうになるのを感じながらも背中で護熾の体温を感じる。


「これが……恋なんだね……とってもくすぐったくて……気持ちいい」


 うっとりとした目でユキナは顔だけ振り向かせて護熾を見る。

 護熾はユキナの両肩に腕を乗せ、交差させてぎゅっと抱きしめる。


「ユキナ……こうして俺たちが出会って、こうして互いに好きでいられたのは……あのさ、すっげぇ身勝手な話だけどさ……」


 護熾の話にユキナは耳を傾ける。


「あの日、俺たちは出会わなければ気持ちが通じ合わないまま別々の道を歩んでただろうなって。 でも今はそれよりも幸せだって、負け惜しみなく言える。 わがままかもしれないけど、身勝手だけど―――俺たちが恋人同士になるために、世界はこんな異変を起こしたんじゃないかって、そう思うんだよ」

「…………護熾ってさ…」

「ん? 何だユキナ」

「結構ロマンチストなこと言うんだね。」

「…………ほっとけ!」


 顔に赤筋を立ててそっぽを向いた瞬間、ガチャンと誰かが玄関のドアを開ける音が耳に届き、それを聞いた瞬間、ユキナはビクリとしキョロキョロと辺りを見渡すが護熾は手をポンポンと頭に乗せて叩いて落ち着かせ、それからひょいと小柄な体を持ち上げて横に座らせるようにすると立ち上がり、肩越しにユキナを見てから


「イアルにさっき会えって約束されてるからちょいと行くわ。だから、ちょっと待っててくれ」

「…………うん、……あのさ護熾……」


 恥ずかしそうにもじもじし、ユキナはベットのシーツを口元まで上げて顔を隠すような仕草をしながらうるうるした瞳で上目遣いに護熾を見つめながら


「その……一緒に寝てくれないかな? ……今日は寒いし、護熾と一緒に寝たいの…」


 それを聞いた護熾はボンと顔を赤くするが、すぐに『分かった』と短く言い、部屋から出て行った。 

 ユキナは護熾の姿が見えなくなると、今の今までの緊張が解けたのか、『きゃあああ〜〜〜〜』と叫びながらベットの上をゴロンゴロンと転がりまくり、シーツを巻き込んで見事な蓑虫状態になるとまるで芋虫のように移動して枕に頭を置いて定位置に付き、早く護熾が戻ってこないかなと心待ちにしてベットの上で待った。







「どう? 話は付けられたの?」

「ああ、御陰様で、ユキナに思いを伝えることができて、しかも受け取ってくれた。本当にありがとな、イアル」

「どうってことないわよ。私なんて彼女の昔の話をしてあげただけだし」


 階段を降りたところでイアルは待ち伏せていたように壁に凭れ掛かって護熾の到着を待っていた。

 イアルが話してくれたのはユキナが昔、ダクトで食堂の売店の仕入庫へ侵入し、まだ未販売のあんパンを大量にかっさらって盗もうとしたときの話だった。

 そのあと見事イアルに捕まったというエピソードも添えて。

 因みにギバリとリルからは あまり喋ったことはないけど兎に角やることなすこと破天荒な子だったと話し、トーマからは 初めて俺を見るなり開眼して斬り掛かってきた と話してくれた。

 イアルは溜息を付き、それから少しにやりとした顔で


「それにしても、海洞がロリコンだったとわね……」

「なっ! 誰がロリコンだ! 例えロリコンだとしても、俺はユキナを愛してる!」


 彼女のことを言われるとムキになって反論してくるその態度。

 本当に護熾はユキナを選んだのだ。 いや、イアルと会う以前に心に決めていたのだろう。

 そう思うと、悔しいとか嫉妬とかがアホらしくなる。今の護熾は幸せなのだ。

 そう考えると、負の感情など自然と和らいでくる。

 

「分かったわよ、私は一階で絵里ちゃんと寝るわ。あなたは、ユキナと寝るの?」

「………ああ、それでお前ら、明日の何時出るんだ?」

「ユキナと相談して決めたことだけど、海洞達が寝ている間に出発するつもりよ。互いに別れは辛いから、それを断ち切るために」

「…………そうか」

「…………ねえ海洞、渡したいモノがあるからちょっと目をつむって」


 護熾は不思議顔でイアルの発言にハテナを浮かべるが、イアルは怪訝な顔で突っ立っている護熾が中々目を瞑らないので『早く目を閉じなさい!』と怒号を浴びせ、護熾は仕方なく目を瞑ると途端、首に腕を回され、そして唇に温かいモノが触れる。


 そしてイアルが顔を離し、


「じゃ、お風呂入ってくる……私の初めて、あなたにあげるわ。お休み」


 そう言って、横を通り抜けていった。微かに、涙の沫が床に散っていったように見えた。

 護熾は唇に残る何か残るしっとりとした柔らかい感触にしばらくそれが何なのか分からなかったが、やがて、頭に丸太でも打ち付けられたような衝撃が駆け抜けると『ええええ〜〜〜〜〜!!!!?』と思わず叫んでしまった。






 イアルのファーストキスをもらってしまった護熾は少し放心状態ながらもフラフラと自室に戻り、部屋のベットで芋虫になっているユキナに『何してんだお前?』と突っこみを入れ、『早く来てよ。むう〜〜〜』と言ってきたので歩み寄ってベットに寝転がる。

 するとユキナからシーツが被せられ、二人をすっぽりと覆い被さるとユキナは両手を伸ばして護熾の首にしがみつき、『護熾、好き』と甘えた声で囁いてきたので頭に手を乗せ、なでなでと撫でた。

 

「そういえばティアラにもこうしてあげたことがあるな」


 ガスッ!


「って!! 何だ!?」


 ポツリと呟いた瞬間、顎に衝撃が奔る。

 密着状態からのアッパーカットを貰って護熾は一瞬、見上げる形になるがすぐに殴った張本人を見るとぷくっと頬を膨らませ、ムゥ〜と怒っており、


「浮気〜〜〜〜〜〜」

「待て、浮気じゃねえしあん時は仕方なかったし、まだ互いに気持ちが分かってなかったろ?」

「分かってるけど……今度したら承知しないからね!」


 『分かってるよ』護熾はより強く、謝る代わりに抱き締める力を強くするとユキナは顔を赤くしながら微笑み、そして俯くように護熾の顔と肩の間に顔を入れる。

 





 ふと、護熾は首筋に温かいモノを感じ、少し顔を下げてみると、


「ひっく……ごめん……ごめんね護熾」


 ユキナが泣いているのだと気が付き、優しく『どうした? 何で泣いてるんだ?』と尋ねると


「こんなに好きなのに……もう会えなくなるなんて思うと……泣いてなんかいられないよ……ごめんね護熾……私の所為で運命をねじ曲げてしまって……」

「……バカやろ、お前があん時死んだら帰ってこなかったんだぞ? 俺で良かったよ。こうして生きてるんだから」

「う……うぅ……護熾……」


 しばらくの間、護熾はユキナの涙の受け手としていてくれた。

 今日一日だけの恋人。 

 それから二人は語り合った。初めて出会ってから、開眼のこと、みんなの事、世界のこと、理のこと、怪物のこと、大戦のこと、そして……護熾を想っている二人のこと。


「ねえ護熾、最後にね。護熾はこの世界で戦わなくちゃいけないんだよね? 一人で。」

「ああ、ゼロアスを倒せるのは俺だけだってガシュナが言ってたからな」

「だからこそ、護熾に知って欲しいの。 私は知ってるの、真実も、何もかも。」



 そしてユキナから言い渡される事実に護熾は一瞬、息を詰まらせユキナに『大丈夫?』と心配の声を掛けられるが、護熾は 続けてくれ と頼み、ユキナは話してくれた。



 どうしたら二人が結ばれるか、一番難しい課題でした。

 なので正直、ホッとしています。 護熾がどうユキナのことを思っているのか、分からないようにして書いてきたのが。 え? ばれてた? そう言う人は口を閉じて下さい(笑)

 さて、次の一話で最終章前編が終了します。 

 そのあとはバトル、バトル! バトル!!

 つまり前編は恋愛で、後編は戦闘ということです。

  なので最後までお付き合い下さい。 ではでは〜〜

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