三十月日 告げられる想い
運命などない。自由意思があるだけだ。
運命を選択しなければならない時もある。時に、それは神でなく、自分自身がすることなのだ
「ねえ、勇子」
「ん? どしたの千鶴?」
「例えだけど……ある人がいてさ、それでその人がある人を好きになるんだよ。でもその人はある病気で半年しか生きられないんだって。その時、その人はどうするのかなって……」
「むっ、千鶴のお友達でそんな大変な人がいるの?」
「ううん、例えだって。勇子は人にアドバイスするの、中々上手だから…」
「う〜ん、限られた時間の命でなら早く告ったがいいけど……相手が問題よね。自分がどんな風に動いてどんな結果が待ち受けているか……でも言った方が悔いがないじゃん! それで成功すればめでたしめでたし。失敗すればせめてそばにいてやるのがベストじゃない?」
「……だよね。ありがと勇子」
「ん。……あ! そういえばユキちゃんに好きな人ができたの知ってる!?」
「え………! ああ知ってる知ってる! 何だかすごく幸せそうだった。」
「だよね〜? ユキちゃんもユキちゃんでさっさと行けばいいのに……絶対成功するってあたしが判押してあげたのにな〜」
「……きっと難しい相手なんだよ……きっとね」
「どうしたんだもんよイアル? イアルが俺らに聞いてくるなんて」
「どしたの? そっちの生活で何か災難でもあったの?」
『違う違う、あなた達に聞いてもろくな答えが返ってくる気はしないけど、とりあえず聞いて』
「ひ、ひどいもんよ俺ら友達なのに……』
『静かに、私語を慎みなさい。……もしさぁ、ギバリに好きな人ができたらどうするの? リルも好きな人ができたらどうするの?』
「ええ!? 随分今時の女の子っぽいこと聞いてきたねイアル!」
「わあああ! 怖いもんよ〜〜〜」
『うるさい!! こっちは真地面なの! …………で?』
「んん〜〜〜そうだな〜〜〜 でも相手の気持ちが分からないうちに無闇矢鱈に突撃するのは成功率は低いと思うもんよ。あと相手の好みにも寄るし、自分が相手にどう見られてるのっていうのも気になる要素だもんよ……」
『………………あんた随分説明が上手になったわね? 何で?』
「あ、ギバリと私は結構恋愛相談に乗ってあげてるんだよ? それで色々と考えてる内にこのような概要が浮かんできたの! イアルはそういうの苦手でしょ?」
『うっ、確かにあなた達なら相談に乗ってくれそうだもんね。で、リルはどうするの?』
「う〜ん、カイドウさんはえり好みってのがあるのかな?」
『…………何でそこで海洞を出すの?』
「え? だってイアル好きなんでしょ? カイドウさんのこと」
『…………!!!! な、何よ!? なんで私が!』
「あんまりツンツンしてるとカイドウはんイアルのこと怖がるもんよ?」
『うっ、うるさい! まったく、あんた達に相談した私がバカだったわ! 切るよ!?』
「あ、ちょっと待ってよイアル!」
「待つもんよイアル!!」
『…………何?』
「せっかくの電話話で今は少し暇なもんだから、少し昔の話をしようもんよ……あと伝えたいことがあるもんよ…………」
『お母さん、私、護熾にちゃんと言えるかな?』
「ユキナ、乙女というものはいざとなったら言わなくてはいけないときがあるのですよ? それがどんな結果に繋がるのであれ、結果は結果で受け入れるしかないの。」
『でもなぁ、私以外に好きな人がいるからなぁ。前にも言ったけど胸にメロンくっつけたDNAの違いをあからさまに見せてくれる二人がいて、もし護熾がスタイル重視だったら明らかに勝てないよぉ』
「こほんっ、DNAの元になってる本人がここにいますよ?」
『でもお母さん、ちゃんと胸あるでしょ?』
「…………まあとにかく、あなたの行動には必ず護熾さんは気付いてくれるはずですよ? それにユキナは親の私が言うのもあれだけど、可愛くって、とてもいい子だと思うわ。だからもう少し自信を持って、言う機会を窺って言わなくちゃ一生後悔するのはユキナ、あなた自身ですよ」
『むむむむっ……じゃあお母さんはお父さんとどんな風に会って、どんな風に結婚したの? 教えてよ』
「…………そうね……あのね、ユキナは私とあの人がF・Gで会ったのは知ってるよね?」
『うん、お父さんがダクトでお母さんに会いに行ってたのは知ってるよ』
「フフ、そうそう。それでね、そのダクト事件からお付き合いしてきたんだけどある日『お前の未来、俺に預からせてくれないか?』ってある日言ってきたの。 わたしはその時少し迷ったけど……すぐにOKして結婚したの。ハイおしまい。」
『うぅ〜 何か普通だね。』
「普通に見えるかも知れないけど、私達にとっては特別すぎる日だったのよ。だ か ら ユキナも護熾さんと特別な日をいつか築いてね。」
『うん、ありがとお母さん。それじゃ』
「ハイ、お休みなさい。ユキナ」
ああ、きっとそれは待ち侘びた瞬間。
どれだけそう言われるのを待ったことか、どれだけ心待ちにしたかあなたは知らないでしょ? でもね、私は知ってたよ?
世界がどんな風に変わろうと、あなたは真っ直ぐ生きてるんだってことをね。
だから、約束するよ。決して破らない約束を……
11月7日 月曜日 午後六時。
冬も本格的に近づいていることを木に付いた葉っぱと風が伝えてくる。
今日は曇天。下手したら今にでも雪が降るんじゃないかという雰囲気が漂っていたが、天気予報ではそのような心配はないという。
あと一週間。
ユキナとイアルがいなくなるのは明後日。
この二週間、本当に怪物達はこの世界からいなくなっていた。それはまるで激動が静かに止んだ静寂な世界同様に。
それは間違いなく大戦が起こる前ぶれであるということと、死の宣告を告げていると言うこと。
イアルは、時々遠くの景色を眺めるような視線で窓の外を見るようになった。
ユキナは、結局この二週間、告白の“こ”の字の片鱗すら護熾に言っていない。
二人とも、気が付いたら明日に帰るという時間まで来てしまっていた。
学校の教師達には転校届けは出している。なのでクラスメイトには明日、発表することになっている。
その前日、今日、ある人が帰ってきた。
その人物は今日は早めに来たらしく、既に一樹と絵里と一緒に家の中で『暖まるぞ〜〜』と追いかけっこに似た遊びを展開しており買い物帰りで遅く帰宅したユキナとイアル、そして護熾に半ば呆れさせながらもちゃんと気が付くと顔を合わせて挨拶し、ユキナを見つけると嬉しそうに挨拶し、そしてイアルに顔を向けたときが今の場面であった。
「と、とうとう家の息子にも季節外れだけど春が…………!」
「ちげぇ!! いきなり初対面の女子にそういうのやめろ!!」
泣き崩れたように膝を付き、顔を腕で隠すように息子にとうとう彼女ができたと本気で泣きそうになっているマイホームパパ、部長、海洞家初代男主婦、子供っぽさ百%こと護熾の父、武に護熾が大声で反論を述べる。
現在、武は有給休暇一週間で今回は帰省してきており、来週に控えている『七つ橋秋花火祭り』に家族と共に過ごそうと計画している。
なので護熾の家事仕事は武到来で半分ほどの負担となり、楽ができるのである。
「え? 違うの? 護熾、こんな美人な子を家に連れてきているからすっかりそうだと……」
「違う違う違う、こいつも訳ありだ。……黒崎、説明してやってくれ」
「ハイ、海洞のお父さん、初めまして。 黒崎イアルと申します」
いかにも教育を叩き込まれたと言わんばかりの模範となれるお辞儀をすると武もユキナの時と同じように釣られて頭を下げる。
そして武はバッと顔を上げて護熾の顔を見ると嬉しそうに目を輝かせながら
「じゃあこの子も家に住むのかい!? ユキナちゃんと同様に家に住んでくれるのかい!?」
「いや、まあその、それも本人からってことで……」
「お父様、私はユキナの姉です。そこでお話が……」
「…………ああ! そう何だ!! で、話って何だい?」
前日、護熾とユキナとイアルはこの線で行ってみようと武納得大作戦で決定しており、その衝撃の事実に一樹と絵里がポカンと若干ショックを受ける。
一方武はユキナとイアルを交互に見て、艶やかな黒髪、凛とした顔立ちでなるほど言われてみればそうかもと見事三人の目論見に掛かり、うんうんと納得してする。
そしてイアルに『名字が違うね? それは一体?』と訊くと打ち合わせ通りにイアルが『悪い人達から身を隠すためです』とハッキリと答え、ニコッと笑みを返す。武はその言葉に思わず目が潤む。
が、ここで武の涙が吹き飛ぶ衝撃の言葉が吐き出される。
「ですので明後日、ユキナを連れてこの家から出ます。本当にお世話になりました。」
「んん、なるほど、明日ユキナちゃ……ん……を? 一緒? 明後日? それは……」
最初は微笑みを浮かべていた武の顔から笑みが消え、目を丸くして固まったような表情になる。今、なんて聞こえたか? それをもう一度頭の中で再生するがどっからどう解釈してもこのユキナの姉と名乗る人物が明日二人揃って家から出て行くというのだ。
普通ならここで何でこのような成り行きになっているのかの説明を要求するところだが、武はあえて訊かず、自らの豊かな想像力と大人の勘から押し黙る。
「…………そうか……寂しくなるな……それにせっかく三人目の娘ができると思ったのに……」
「ごめんなさい……本当に急な話で……でも何時までも世話になるわけには……」
「お姉ちゃん達……いなくなるの? ……嫌だよ……そんなの」
さっきまでの明るい雰囲気が寒い外の空気のように冷めていく。
二人が急にいなくなることに泣きそうになる一樹に絵里がそっと抱き寄せ、自らも突然のことでショックを受けているがそれでも堪えるように抱きしめる力を強くする。
そこへ絵里の頭にユキナの手が重ねられる。
絵里が顔を上げてその表情を窺うと目は潤んでおり、口元を綻ばせて微笑んでいるが憂い顔でユキナが頭に載せた手を優しく動かして『ごめんね』と伝えるかのようにする。
護熾はいつもの仏頂面でただその場に立ち尽くして慰めも、余計な言葉も添えず、家族の気が治まるのをただひたすら待った。
「……よし、まだ今日と明日があるじゃないか! 護熾! 今日の夕食パーッとやっぞ!!」
「……分かった、みんな腹が減ってるようだし、いっちょやるか!」
この場の空気を変えようと最初に切り出した武が護熾にそう提案を持ちかけてそれに賛成する。するとユキナもイアルも一樹も絵里も表情を明るくし、さっきまでの空気が弾け飛んだかのような笑顔に変わる。
悲しいことがあっても最後まで楽しく行こう! それが海洞家の教訓。
「明日……か、近藤とか沢木達、すっげぇ悲しむぞ? ほぼ確実に」
「うん、分かってる。 この世界からいなくなるのは何時だって覚悟してきた。だから私は大丈夫だよ。」
「海洞はガシュナに言われたとおりこの世界での決戦に控えての待機命令だったわよね? 援軍はホントにいいの?」
「そんな人達がいたらそっちを護るのに気が行っちゃうからな……あとハッキリ言って役に立たない」
夕食は食べ終えた。風呂も入り終えた。あとは明日の準備をして寝るだけ。
時間はあっという間に過ぎたことを三人は心の底でそう思った。明日で、二人はこの世界からいなくなる。残るのは二人と過ごした思い出だけ。
それでも護熾は、別に明日があるんだからと言いたげに夜更かしすることなく、いつも通りの時間に、いつも通り起きるために二人の期待を裏切って早々に床に就いてしまった。
二人は一樹と絵里のリクエストに応えて今日だけ一緒に寝に行く約束があるので護熾が眠りにつくと明かりを消して、少し寂しそうに『お休み』と一言だけ言い、部屋から出て行った。
翌日の七つ橋高校授業一時間目。
この日は職員会議で短縮6時間という帰宅部生徒達に取っては幸せな日で部活に所属している人でもわざと休めばその幸せを分かち合うことができるとにかく嬉しい日なのである。
しかし、今1−2組の雰囲気はそうではなかった。
ユキナとイアル、この二人が先生を挟んで黒板の前に立っており、二人とも神妙な顔つきで1−2組のクラス全員を眺めるように見ており、担任の先生は二人を交互に軽く見てからこの状況の意味が分かっていない受け持ちのクラスの生徒全員に説明を入れる。
「…………突然で、非常に残念ですが……今日を持ちまして『木ノ宮 ユキナ』さん 『黒崎 イアル』さんは他の県の学校へ転校するすることとなりました。」
その話を耳にした途端、クラス内は他のクラスにまで届くほどの大きなざわめきを作り、千鶴は黙って視線を机に落とし、護熾はどこかつまらなそうに頬杖を付いて窓の外の景色を傍観している。
「………え! どうして二人ともいなくなるの!? 急すぎない!!?」
この中で一番納得がいかないのは当然近藤。
イスを弾き飛ばすように立ち、二人に視線を向けながら 先生が言ったことは嘘だよね? と縋るように目を合わせるが二人とも目を逸らしてしまったため力が抜けたようにふにゃふにゃと突然舞い降りた事実を受け止めながら魂が抜けたように着席し、机に突っ伏してから数秒後、泣いているのか小さな声ですすり泣く声が聞こえたのでそれを聞き取った千鶴がそばまで行き、慰めるように背中を撫でてあげる。
「……黒崎さんはまだ二ヶ月経ってないぞ? いいのかよそれで?」
今度は沢木が立ってイアル本人への質問。
イアルは少しだけ表情を崩すがすぐにニコッと微笑み
「しょうがないんです。せっかく友達ができたのに……残念だけどホントにしょうがないんですよ……」
声が若干震えながらも笑顔は保ち、言い終えると不満そうに沢木は席に座り直す。そして木村の方に顔を向ける。
一番ユキナが旅立ってしまうことに納得がいかないこの少年はどんな反応をしているのだろうかと見てみれば下唇を噛みしめ、憂いを帯びた寂しそうな視線を机に向けながらまるで今の事実を体に慣らすようにただこのときを耐えているような様子でいる。
宮崎は目を震わせて何か期待するように護熾を見る。
しかし護熾は最初からこんな出来事など興味なしにそっちのけでずっと窓の外を見ている。
まるでこの事が起きると分かり切っていたかのように……もう悩み疲れた表情でずっと枯れ葉の付いた木々を眺めていた。
「先生、ちょっと失礼します………」
ユキナは担任に一礼をしてから早歩きで千鶴が慰めている近藤の許まで行き、肩をさすって
「泣かないで近藤さん……私だって……悲しいから……」
「…………ユキちゃん…………!」
顔を上げた近藤の目には涙が溢れており、ボーイッシュな顔立ちは今や泣き崩れた少女と変わりなく、ユキナに手を伸ばすとギュッと抱きしめ、胸に顔を埋めるようにする。
ユキナはそれに応えるように近藤の頭をソッと優しく包み込むように抱きしめる。
「先生! お別れ会とかはしないんですか!?」
男子生徒の一人が挙手して先生にせめてみんなで壮行会をしてあげたいと言うが
「残念ですが二人とも『そんな特別扱いはしなくていい、普段通り過ごしたい』というお願いを聞いていますので今日は普段通り授業を行います。」
この世界で心残りを作るのはいやだとユキナとイアルは事前にそう決めており、護熾もそれは分かっていた。生徒達は口々に残念そうな溜息を付き、担任は二人に元の席に着くように促すと二人は移動し、クラスメイトからの寂しそうな視線を浴びながらもちゃんと席に座り、さらに時間の短くなった一時間目の授業を受け始めた。
「木ノ宮さん、実は俺、君が転校してきた初日からずっと…………」
「ごめんね。そしてありがとね」
「黒崎さん、好きです! できれば転校先でも話せるよう電話番号を……」
「ごめんなさい、私、誰かと付き合おうと考えていないので」
「き、君のようなその愛らしい小柄にずっと好意を抱いていました。 できれば是非、付き合って下さい…」
「うっ……小柄って……でもごめんなさい。 私は誰とも付き合おうと考えないでいたので期待通りのことは言えません。」
次の授業の合間の休み時間。
二人が転校するという情報は瞬く間に学校中に謎の情報網で広がり、今や歩いて五歩ほどで同級生、一つ上の学年、さらには最上級生の男子達の二人集中狙いの告白会を展開していた。 しかし二人はその告白を一切受け取らず、和やかな雰囲気でその場をお開きにしていき、中には心底惚れていた者もおり、マジ泣きで顔を隠して泣いている男子もいた。
1−2組の生徒達はお別れ会をしないのならせめて寄せ書きを二人に渡しておこうと考え、白紙にそれぞれ回し書きで二人が告白会に巻き込まれている中、淡々と書き、時には長すぎる文章の人(第一人者は近藤)がいたりとクラス全員が書ききれるかという心配があったが一人を除いて、何とか書き終えた。
「よし!! 今日は無理を承知で提案するけど私達みんなでユキちゃんと黒崎さんと一緒に外食を食べに行こう!! 明日行っちゃうんだから海洞も財布の紐を緩めなさい!!」
「……へいへい、今日だけだぞ」
授業を終え、下校している計八人の男女の内、すっかり泣き止んで千鶴と共に部活休むと顧問の先生に言った近藤は護熾の背中をバンバン叩いて溜めているであろうお小遣いを使うように強要し、護熾は仕方なくそれに同意する。
ユキナの胸にはみんなからの寄せ書きの白紙が抱きしめられており、イアルは少しだけカバンからはみ出ている。
八人はそれぞれお金を持って、親に許可を得て、近くにあるバイキングがあるレストランへ5時までに集合と言うことで合意し、解散となった。
「そういえば海洞、あなた、寄せ書きに何も書いてないわね」
「あ、ホントだ。どうして?」
「……今日はまだ時間があるからな、夕食を食べ終えてそれから家で書くつもりだ。いいだろ?」
「いいけど……」
同じ家に向かって歩く三人はそんな会話を交え、とりあえず武におそらくこの件について言ったらホイホイと付いてくるのは間違いないので護熾は何とか友人達だけでこの二人には楽しく過ごして欲しいと願っているので説得の内容を考えながら帰宅していった。
護熾達はレストランに居た。
三人は結構早めに来てハズなのだがウェイターが席の案内をする前に一番奥の大きなテーブルから声を掛けられたのでそちらに顔を向けると既に私服に着替え、護熾達三人を除いての全員がブンブン手を振って既にスタンばっており、男子は男子、女子は女子と互いに並ぶように四角いテーブルを挟んで座っていた。
「こっちよこっち! ユキちゃん! 黒崎さん! そしてさっさと来いや海洞!!」
「海洞!! 今日は果てるまでぜってェ〜〜お前を帰させねえ!! お前こういう時に限って乗りが悪いからな!! ……あ、全員バイキングでドリンクバー・スープーバーでお願いします。」
ズビィ! と集中線が描かれるんじゃないかという迫力で近藤は護熾に指を指し、初めての大人数での外食にテンションが上がっている沢木は盛りに盛り上がっているがちゃんと水を届けてきてくれたウェイターに注文を頼み、それから護熾を自分達男性陣に、ユキナとイアルを女性陣に引き込み、『何だかお見合いみたいだね?』とユキナのひょんな一言で少し気まずい間が互いに流れるが、ウェイターが早く来て『では、三時間のバイキングということでお客様、楽しんでいって下さいね』と時間が刻まれたレシートが渡されると八人は一斉に料理コーナーへと駆けだしていった。
まず護熾はジュースを飲み過ぎると料理が胃に通らなくなると知っているので無難な烏龍茶入れたコップを手にし、席に戻ってみるとあら大変。
ユキナのテーブルの領域に自分が食べたいものをこれでもか! ってほど料理が載せられた皿が並べられており、まるでその場が料理コーナーではないのかと勘違いするほどで通り過ぎていく他のお客が驚愕の目でその光景に驚いている。
その混沌の中でユキナはガツガツと一気食いしながら他のみんなを驚かせているがまったく気にせず次々とお皿の上の料理を消していく。
言わば、外食なんだからたくさん食べなきゃね♪ のノリでの食欲を解禁をしているのである。
「…………何で大きくなれないのそれで?」
この少女が大食いなのは第二解放などでのエネルギー消費が著しいからに起因するのだがいくら何でも体の大きさと食べている量が合わない。
護熾も食べようと思えば簡単に食べれるのだがとりあえずそんなことを愚痴りながら席に着き、先に取ってきていた唐揚げやらサラダやらを載せたお皿に手を付けようとした瞬間、ユキナが勘違いでそのお皿をかっさらい、護熾が振り向いたときには既に白い光沢を放った皿へと変わっていた。
「………………」
「あ、海洞くん、よかったらこれ……」
料理をあのチビに取られたと茫然している護熾に千鶴の天からの救済で別の料理が載った皿を渡され『すまね……』と受け取って千鶴の領域を見るとユキナほどではないが、結構な量のお皿が並べられており、またも唖然とする。
「千鶴〜〜そんなに食べてまたあんたの あ そ こ を大きくする気〜?」
「ゆ、勇子、お食事中よ?」
怪しい目つきで近藤は千鶴の胸に指を差し、慌てて千鶴は胸を隠すように体を反らす。食べた栄養が全て胸に行ってるから羨ましいわね〜 と少し意地悪な発言に千鶴はますます顔を赤くして食べるペースを速くする。
「海洞、食べるの遅えぞ! 俺たち男が食欲で女子に負けるべくむぐぐ――もぐもぐ」
「るせェ、何のために俺たちは来てるんだよ沢木? 早食い競争じゃねえんだぞ?」
皿の上に持ってあった焼いたソーセージを口に突っ込んで黙らせた護熾は宮崎に一緒に料理を取りに行こうと促し、それに賛成した宮崎は一緒に席を離れる。
「あ、待って海洞! 私も行く!」
そこへ丁度食べ終えたイアルがお皿を持って二人の後を追いかけていく。
続いて最後のお皿を食べ終え、積み重ねてあった白い巨塔に最後の一枚を乗せると
「けふぅ〜〜〜 さて、私も行こ♪」
「速っ!! もう食べたの木ノ宮さん!!?」
体の面積を超えているんじゃないかという量のお皿の料理をすっかり平らげたユキナに木村が思わず突っこみを入れる。そしてまた取りに行ったので今度は木村が『じゃ、じゃあジュース取りに行ってあげるよ』と言うと『うん、ありがとね♪』と可愛い笑顔を振る舞う。
するとその笑顔を見ていた木村の表情が逆に曇り始める。
「………………」
「? どうしたの? 木村君?」
「……あっ、ごめんごめん! ジュースは何だっけか?」
「え〜とね〜 オレンジとソーダとカルピスとコーラと野菜ジュースとアップルとメロンソーダね」
「…………とりあえず全部ね」
一度に持って来れないなと考えた木村はどこか、お盆を貸してくれるとこはないかと探しに出かけ始め、これまたお盆に取り皿をたくさんのせたユキナが横を通っていく。
そしてユキナはあれも食べたいこれも食べたいと欲の限りに取りにとって行ってしまい、他のお客からここの料理なくなってますよと厨房の人に声を掛け、追加を頼んでいく。
護熾が『お前、食い過ぎだ』と注意を呼びかけるが『だって食べ放題じゃん!』とその一言で終わらせてまたも白い巨塔第二ラウンドへ入っていく…………
二時間後。
さすがにここまで時間が経過すると食欲が二次関数のように落ち、マンネリ気味になっており、既に全員がデザートというサイドメニューに走っている状態であった。が、ユキナはデザートのケーキをたくさん持ってきており、千鶴もその中から三つ選んで貰い、フォークで突いていて、食欲の旺盛さを他の6人に見せつけていた。
「さて、あと一時間。悔いの無いように語るに語る『十代だべり場』といきましょうか!?」
「「「「「「「おお〜〜〜〜〜〜!」」」」」」
バン! と机を叩いて立ち上がった近藤の提案に全員が拳を上げて声を上げる。
そのために来たのだ。三分の二が例え料理を食べるのに集中してしまってそのことを忘れてしまったとしても。
最初にまず、ユキナが転校してきた時の話。
その愛くるしい容姿に学校中の男子をときめかせ、女子にも好評で誰とでも隔てなく話せ、誰とでも隔てなく調子を変えないマイペースさはまさにご時世の宝物であった。
次にイアル。
期間が短かったであろうども大切な友人。名字と名前のギャップが第一印象であったが丁寧な言葉遣いと大人チックな容姿でこれまた男子達にフィーバーを引き起こさせ、短期間の内にたくさんのお友達を作ってきていた。
そして全員で今日までの出来事を色んな周りの出来事を交え、話す。
夏での海水浴での話、運動会、生徒消失事件。
「……今度の土曜日に『七つ橋秋花火祭り』があってそれでみんなで行こうと思ったのに……残念だわ」
「ごめんね近藤さん、みんな。一緒に行きたかったな」
「ううん、しょうがないじゃん。家族の事情ならそっちを優先すべきよ。そういえば行き先はどこ?」
近藤の質問にユキナは自分で考えてあった嘘の引っ越し先を伝える。イアルも同様にユキナとは別の場所で嘘を言う。嘘だと分かっている二人を除き、四人は『そこってあれが美味しいんだよね?』や、『そこは確かあれで有名なんだよ!』と耳寄りなそこの地域情報を提供し、向こうに無事付いて落ち着いたら連絡頂戴ねと約束し、そして一時間が経過していった…………
「寒い〜〜うう〜〜ユキちゃん〜〜〜」
「うぎゅっ、うう〜〜寒いね近藤さん〜〜」
約束の三時間が過ぎたので全員、手持ちの金で会計を済ませ、店の外へ出ると冬が近づいてきていることを知らせるように辺りはすっかり真っ暗になっており、肌を刺すような冷たい風が八人を包んでくる。
近藤はユキナを抱き寄せて頬を合わせ、お互いに暖を取りながら歩き始める。
まず最初はここから一番近い宮崎宅。
全員で近い順に各人の家へ出向いてそこでお別れをするという方法で店の中でそう決めたのだ。『だったら二人の家に直接行ってお別れをすれば?』というとユキナとイアルの話では九時の電車に乗らなければならないということなので(当然その場を誤魔化すための嘘)急遽このような形になったのだ。
「じゃあ、宮崎君、今日までホントありがとう。」
「いいんや、俺もあんま喋んなくてごめんな。…………急だったから渡すものないけど……せめて寄せ書きで受け取ってね」
「うん、ありがと、じゃあね」
まず一人、宮崎が家の玄関をくぐり、七人の別れを聞いてからそっとパタンとドアを閉じていった。
そして次に右の道に百メートル。そこには沢木宅が構えており、ものの数分程度で到着すると沢木がみんなから一歩前に先に出て、全員の顔を一瞥してからユキナとイアルに顔を向け
「……向こうへ行っても……友達たくさん作って、寂しくないように過ごせよな? 今日まで二人とも友達としていられて、嬉しかったよ。」
「短い間だったけど本当にありがとう。今日は楽しかったわよ。」
「こっちこそ。海洞、木村、男はお前らだけになるんだからちゃんと女子送り届けろよ?」
「はいはい、分かってるよ沢木。」
そして沢木は名残惜しそうに二人を見てから、背を向けて帰宅していった。
そして次は近藤。
暗い夜道の中、近藤はユキナとイアルを抱き寄せて家が近づくたびに腕に力を込めながらもユキナの方にソッと顔を近づけて小さな声で
『この前、あたしにユキちゃんは恋のこと聞いてきたよね? 結局どうなの?』
『えっ……それは……まだ言ってないの……』
『……そっか……言えなかったんだね。 でも向こうでもいい男は必ずいるから気を持ってね?』
そう言い、それから顔を離すと近藤宅に着いていた。
近藤は二人を抱擁から離し、二人の肩に手を置いて面と向き合うようにすると
「じゃあ二人とも、例えどれだけ離れようが死ぬまで友達だよ? だから涙は無し! いい?」
「うん! 分かってるよ近藤さん!」
「うん、分かってる。」
「よし、それでこそユキちゃんと黒崎さんだ! 行ってこい! 我が姉妹達よ!」
それから、近藤は残り五人となったみんなが曲がり角に曲がって見えなくなるまで手を振って見送り、そして姿が見えなくなると溜息をつき、肩を落とし、駆け抜けるように家の中に入っていった。
「ユキナ、お前は木村と二人きりで木村の家へ行ってこい。俺は斉藤の家に行ってくる」
「え……おい! 斉藤さんはいいのかい!? 木ノ宮さんがいなくても!?」
「大丈夫、もう散々別れの言葉は言ったから……だから大丈夫だよ」
半ば歩いてところで分かれ道に出た一同は右に行けば木村宅、左に行けば斉藤宅の順路で気を利かせているつもりか、ユキナが木村の同伴者として任命され、三人はそそくさと斉藤の家がある左にさっさと行ってしまい、二人だけその場にポツンと残される。
「………………」
「…………行こ!」
まるで状況が読めていないような表情で突っ立っている木村の手をユキナが引っ張って歩き、暗い歩道を歩いていく。小さな手が木村の手を包み、温もりが届く。
冷たい風が、歩く度に手に宿っているものと性質の反対なものを運んでくる。
ふと顔を仰がせると今日の空がよく澄んでいるに気が付き、星空が漆黒の中に溶け込んでいた。
そして前を見るとセミロングの彼女が『どっち?』とキョロキョロと首を動かして自分の家を探しており、こちらに振り返って顔を合わせると木村は
「こっちの道だよ。」
「ああ! そうなの?」
そしてまた歩き出す。
こんな小さくて暗いのをまったく気に掛けないこの少女はもう明日から日常として見られないのだ。木村は分かっている。
先に姿を消した三人が自分に最後のチャンスをくれたことくらい。だけどそれを言ったとしても、おそらく今日の授業の合間の休み時間のように振られるかも知れない。
それはとっても怖い。
なので先に聞いてみることにする。
「あ、あの木ノ宮さん」
「ん? な〜に?」
「きょ、今日の休み時間で随分の男子から告白を受けてみんな断ったよね? その理由が誰とも付き合うつもりはないって言ったけどホント?」
「ああ〜 あれか〜 だってそう言わないとみんな諦めてくれなさそうだったから」
「! “諦めてくれそうにない”だって? じゃあ別の理由があるってこと?」
「うん、実はね。…………私……好きな人がいるの……」
彼女から発せられた“好きな人”というのはおそらく自分ではない。
聞いた瞬間そう思ってしまった。木村は凍ったように表情を真顔にし、彼女はそのまま話す。『だから今日、言わないと全部が終わっちゃうから……』
その時見せた憂いを帯びた微笑みは覚悟の表れだと知ると、もう木村は何も言わなかった。
少し歩くと見覚えのある家が見えてきた。
その家に到着すると木村は玄関まで歩き、そして振り返る。
互いと互いの目が合い、ユキナは反射的に花が咲いたような笑顔で微笑む。この笑顔も、明日で無くなってしまう。
ああ、きっとこの玄関を潜り抜けたら自分は泣くんだろうな。
それでも、思い残しは止めよう、そう決めた。
木村の口が開いて、短い文がユキナの耳に届く。
それを聞いたユキナは目を少し大きくして驚いたような表情になり、それからもう一度、もう一度だけ微笑むと――。
“ありがとね”
「黒崎さん、どうかユキちゃんにも無事でいてって伝えてくれない?」
「OK 伝えとくわ。 じゃあ、海洞行きましょ」
「あぁ、また明日な斉藤」
「うん、海洞くんさよなら、黒崎さん……また何時か……絶対会おうね」
「分かってる分かってる、今日は冷えるわよ〜」
無事千鶴を送り届けた二人は元来た道へ踵を返し、見送られながらも曲がり角を曲がって姿を消していった。
帰りは商店街を通っていけばいいので暗い闇の中で躓くことなく、二人は歩いていく。
イアルは隣を歩く護熾に時折目をやるが、すぐに前に戻して歩き続ける。
「なあイアル」
突然護熾が歩きながらイアルに呼びかける。
「……何? 海洞」
ビクッとしながらもイアルは顔を護熾に向けながら歩き、護熾は顔を前に向けたまま言った。
「ちょっち、聞きたいことがある」
「お〜い、護熾。これでいいのかい?」
「上出来上出来、ありがとな親父。」
家に戻った三人の内ユキナは護熾の部屋で待っていると絵里から伝えられると風呂上がりの護熾は武に外食に出かける前に頼んでいたある物を受け取り、それを持って階段を駆け上がろうとすると待ち伏せていたかのように階段の場所の壁に凭れ掛かっていたイアルが壁から離れ、護熾の目の前まで来ると立ち止まり、言う。
「…………行けばいいじゃない……その代わりもう一度私に会いに来てね。」
「……? 分かった。必ず行くよ」
「……じゃあちょっと外の空気吸ってくる。」
イアルは一度髪を手で解かしてから護熾の横を通り、それから玄関に行ってしまうと一瞬寒い空気が入り、それから音がし、ドアを閉じる音がした。
護熾はその背中を見送ってから、階段を上り、そして最後の一段を踏みしめてドアの前に着くとドアノブを捻り、部屋の中に入っていった。
「あ、護熾…………」
「よぉ、いよいよ明日か……」
ユキナはパジャマではなかった。
最初に出会ったようにフード付きジャンパーを身に纏い、青いスカートを履いてベットに座っていた。護熾はユキナの隣まで行き、そして同じくベットに座ると武に渡されたものをユキナに差し出す。
それはできたてのあんパンだった。
いかにも手作り感が出ており、温かく、香ばしい薫りがユキナの胃袋を刺激し、それを受け取ると一度護熾を見てから、パクッと遠慮無くかぶりつく。
モチモチとした食感が口の中に広がり、思わず口が綻んで幸せそうな表情になる。
「どうだ? 親父が作ったもんだけど……うまいか?」
「うん! とっても美味しいよ! ありがとね」
「……そうか」
護熾は笑いながらそう言い、ユキナが食べ終わるのをずっと見ていた。
ユキナは最後の一欠片を呑み込み、はあ〜 と満足そうに息を吐くと隣に座っている護熾を見て、それから少し、元気のない顔になる。
「どうしたんだよ? 元気のない顔して……」
「……いやだって……現世滞在は今日でおしまいだから何だか寂しくなるなって……」
「……まあそりゃそうだよな。 そういや今日ここでお前は寝るのか?」
「え?…………どうしよっかな。」
「別に下でもいいんだぜ? お前の気持ち次第だけどな」
“私の気持ち……そうだ……私は言わなくちゃならないんだ”
思えばせっかくの二人っきりの時間。まるで誰かに用意されたような最後のチャンス。
しかし、果たして告白していいのだろうか? でもここへ来る前に言おうと決めたじゃないか。
誰かを片側から思う時間は苦しくて楽しい。
この人はこちらに向いてくれるだろうか、笑ってくれるだろうか、自分をどう思っているのだろうか―――自分がこの人を好きなように、この人も自分のことが好きなのだろうか?
「あ、あのね護熾……実は私……」
「ん? どうしたユキナ」
「…………やっぱいいや」
「何だそりゃ? ワケわかんね」
思わず口を閉じてしまった自分にユキナは嫌悪感を覚える。
大事なところで自分は怖がったのだ。やっぱり遠慮している。今日が最後なのに自分は普通の関係でいられなくなることが怖くなったのだ。
―――何て、意気地無し……
「んじゃ…さぁ、俺の方から言うわ。 これ、言っとかないと後悔すると思ってさ」
そんなユキナを見かねた護熾は顔を伺いながらそう何か意味がありげな声で言い、その言葉に反応したユキナが顔を向けると護熾はそのタイミングで話し始めた。
「実は俺、この前気になる奴の過去を調べてきたんだよ」
「…………それって誰?」
「まあ、もう少し待て。それでさぁ、そいつを知っていく内に段々あることが浮かんで、それを言おうと思ったんだよ―――」
それから何か覚悟を決めたのか、護熾は少し間をおいてから唾を飲み込み、軽く息を吸ってから小さく吐くように言った。
「―――お前の事、“好き”だって……ことをな」
「…………え?」
突然だった。あまりにも突然だった。
ユキナは呆気に取られ、足に根が生えたように完全に沈黙してしまう。
そして次にユキナが何かを言う前に、護熾はゆっくりと両手を伸ばしてユキナを抱き寄せて自分の胸の中へスッポリとその小さな体を包み込む。そしてキュッと少し強く抱きしめて唇で髪を掻き分けるようにユキナの頭に自分の頭を重ね、瞼を閉じる。
「え? ……ちょっ……護熾?」
「何も……何も言わないでくれユキナ…………ただじっとしててくれ……」
ユキナが聞いた護熾の声は……久し振りに聞いた震える声。




