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ユキナDiary-  作者: PM8:00
101/150

二十八月日 恋のヒントその一







「何書いてんだ? さっきから」

「うわわ、何でも、何でもないから」


 ベットで寝っ転がりながら明日の放課後で商店街で何を買うのかを悩んでいた護熾は、自分の机で何か書いているユキナの背中に向かって声を掛けた。

 すると大慌ててでユキナは突っ伏して書いていた物、日記帳を隠す。

 すると横からイアルが覗き込んできてさらにユキナは体全体を使ってのブロック。


「そう言われると気になるのよね〜、ねえ海洞?」


 しかしイアルはどうやら気になったら止まらないタイプらしくユキナの腕を掴んでグイグイとそこから剥がそうとするので『うぎゅ~』とユキナも謎の声を発しての抵抗サイン。

 ユキナとイアルを外部から見ればどこから見ても仲の良い姉妹にしか見えない。護熾はそんなことを思いながら寝返りを打ち、体を横にしてさっさと寝ようとする。

 するとバササッと顔の上に何か飛来して落下し、両開きになった日記帳が覆い被さる。護熾はそれを手に取り、ユキナが突撃してくる前にそれに目をやると


『10月21日 晴れ。すっごく寒い!

 今日から三週間しかみんなといられない。でもそれでも毎日楽しく過ごしていこう! 

 今日はリンゴを食べて、護熾と修行したけど怪我をさせちゃった。ごめんなさい。そのあと着替えを持ってくるのを忘れてハプニング。そのあとイアルが来てくれて何とかなった。そして――――』


「途中までしか書いてないな」

「だって途中だもん! ぶ~イアル~」


 キッとイアルをきつい目で見るユキナ。

 イアルはごめんごめんと簡単に謝っていると護熾はページの上部、絵日記なのでその部分を見てみると絵が描かれている。

 少し下手だが、ちゃんと人物一人一人の特徴を捉えた絵となっており、すぐにこれは誰でこれはあいつだと分かる。 

 しかも漫画みたいに区切りがあるので別の意味で楽しめそうな感じである。


 一コマ目は1−2組の教室のみんな。

 近藤や沢木、千鶴や木村や宮崎、眉間にシワを寄せている人物は護熾でそれに向かって何かガミガミ言っている髪の長い人物がイアルであろう。

 二コマ目はガシュナ達眼の使い手が寝ているイアルの前で真剣な表情で今後のことについて語り合っているシーン。きっと現実から逃げないというユキナの意志が現れているのであろう。

 最後のコマ、三コマ目は刀を構えた第二解放状態のユキナと同じく護熾が月明かりで照らされて対峙しているシーンであった。


「…………絵はまあまあじゃん。どれ、他のページはっと」

「わわわ! 見ないでよ!!」


 駆け寄ってきたユキナは軽くジャンプして護熾の手からバシッと日記帳を奪い返すとスタッと着地し、そして胸に抱くとスススと部屋の隅っこに移動し、うずくまって二人を警戒するように眼差しを向ける。

 そんな拗ねた子供のように愛嬌たっぷりの表情を向けるユキナにイアルと護熾はやれやれと苦笑いで呟き、イアルから先に言った。


「…………ハイハイ分かった。見ないから安心して」

「…………ホント?」

「さっさと下で書いて来るなり何とかしないと俺かイアルがまた興味を持っちまってまだ奪って見るぞ?」

「うう~~それだけは嫌だ~~」


 絵日記の中身を知られることは自分がどういう風にみんなを見ているかという逆に言えば自分の気持ちを素直に書き表していると言うことである。それならわざわざ二人がいるところで寒いから動きたくないという理由で目の前で書く必要もないと思うが。

 ユキナは寒い廊下に身を晒すのは嫌だが二人に日記を見られるのはもっと嫌である。

 なのでしょうがなく、絵里のところで書かせてもらおうと思い立ち、二人にお休みを言ってから部屋からでる。

 『まったく、何なんだよあいつ』と護熾は頬杖をついて見送り、それからイアルに顔を向ける。


「まあ彼女なりの決めごとでしょうね。何時から書いてるか知ってる?」

「……う~ん、知らねえ。書いているとこ今日初めて見た。」


 すると護熾は腕を胸の前で組んで唸るように悩み、それから『そう言えばあいつの名前、カタカナだったな』と思い出したかのように呟いてからイアルが『どうしたの?』と訊くと護熾は首を回してイアルに顔を向け、


「いや、あいつの日記だから『ユキナDiaryー』ってとこかなって思ってさ」






 場面は変わり、今家の中で一番の名前に反して寒がりな人物はまだ起きていた絵里の自室へお邪魔し、ベットに潜り込んで絵里にはできるだけ見せないように書いていた。

 そしてベットで毛布を被ってリラックスしながら最後の行を書き終えたユキナに絵里は顔を近づけてこれは何なのか尋ねてきた。


「ユキナ姉ちゃん、これは何?」

「ん、絵日記。私は毎日付けることにしているの♪」

「へぇ~~すごいな~……ちょっと見ていい?」

「フフフ、お主にはまだ早いのじゃ」


 超爺臭い口調でユキナはのほほんとした表情でパタンと両手で日記を閉じ、机の上に置いてそのあと絵里を巻き込んでの毛布を体に巻き付ける芋虫モードにささっと切り替わると幸せそうな顔で絵里で蓄えられていた温々を存分に味わい始める。

 すると絵里も体を寄せてきてのさらなる温もりの追加増強。

 互いに顔を見合わせる中、先にユキナはこの機会にと是非、長女の絵里にあることを聞いてみようと決断した。

 そのあることと言うのは――――。





「そういえば絵里ちゃん。護熾って小さいころどんな子だったの?」

「え〜と、私が覚えている範囲での護兄は…………確か中学一年生でお父さんから家事の一通りを教えてもらっているトコかな?」

「そっか、護熾は確かに教わったって言ってたもんね」


 中学一年生は小さくないと思うけど……などと突っ込まず話を聞く。

 護熾だって最初は料理や家事が上手ではなかった。

 洗濯するときだって洗剤入れすぎて部屋が摩訶不思議な世界になっていて掃除が大変だったり天気予報を見ずに洗濯物を干したらものの見事な荒れ様になったり、料理に至ってはありがちな塩と砂糖を間違えたりしたそうだ。今の護熾からはとうてい想像できない姿である。


「それで今は護兄から今度はあたしが教わってるの。さすがに料理はまだ護兄には敵わないけどね。」

「へぇ~、がんばってるんだね絵里ちゃん。よしよし、お姉さんからご褒美だ」


 護熾の詳しい過去を知っているのは近藤か沢木か武しかいないなと思い、明日恋愛ヒントを交えてこっそり訊いてみようと考えてから絵里の頭に無造作に手を伸ばしてポンポンと軽く頭を叩いて褒めるとえへへと絵里も嬉しそうに笑みを零す。


「でもお母さんがうちにはいないからさ…………やっぱり違うんだろうな……」

「…………私もお父さんはいないけど……」


 この前あったユキナの母、ユリアのことを思い浮かべながら絵里は思う。ユキナにそっくりだというのはかなり驚いたが物静かでおっとりとしたその雰囲気はまさに母親と呼べる存在で、とても、とても羨ましいと思っていた。

 少し、憂いを帯びた表情になった絵里にユキナも同情のつもりとまではいかないが自分の父親がいないということを明かし、絵里に目を丸くさせると仰向けになって天井を見つめ、


「それでお母さんに一人ぼっちにさせちゃって悪いと思ってる。でもお母さんはそれを許してくれた。だからさ――」


 体を横に返し、再び絵里に顔を向けると


「寂しさは互いに分け合っていこう。……ちょっとずれたかな?」

「うん、ずれてる。でも嬉しいよユキナ姉ちゃん。」


 正直な絵里の返事にユキナは情けなく笑ってえへへと自分の頭をコツンと叩いてから失敗とお礼を言われたことでの複雑な気持ちの中で何だか有耶無耶になってしまい、コソコソと毛布に体を潜り込ませると直後、部屋のドアがキーッと開いたので驚いて振り向き、部屋の明かりを消していたので小さな影がドアの前に来ており、幽霊か!?とびびったユキナは絵里を抱き寄せて恐怖の共有を図ろうとしたら


「あ、来たんだね一樹」

「うん…………何だか声がしたから来てみたの…」


 何だか茶飯事のように絵里がそう言い、影から一樹の声がしたのでユキナは『な、何だ一樹君か!』と明らかに幽霊類にびびって声をわざと大きくしていたので絵里がジロリと目を向けて何だか弱みを握られたような気持ちになったので


「うっ、ううう別に私は怖くなかったんだからね!」


 これまた見え見え虚勢を張ったので絵里はこれ以上遊ぶのは止め、それから一樹に『一緒に寝る?』と聞くと目を擦りながら欠伸を掻いている一樹から無言の行動で返事。

 一樹はベットを迂回してユキナを絵里と自分で挟むように横からベットに潜り、そしてそのまま眠りにあっさりつくとユキナは頬を赤くして『おおっ! 温かい!』と絶賛の声を上げ、さらには二人に手を伸ばして益々自分の体に押しつけるように抱き、


「うう~幸せ~」


 と、寒い夜には打って付けの人間の温かみを貰いながら三人では少し足りないベットで並び、気持ちよさそうな寝息を立て始める。

 

 明日はあれを訊いてみよう、そして他の人からもいっぱい、でもばれない範囲で。


 瞼の裏の黒い世界を見据えながら、ユキナは楽しみを控えた子供のようにウキウキする。


 ……そしてちゃんと、告白する勇気を育てていこう。でもそれでいいの? もしかしたら護熾は私を恨んでるかも知れない。

 人の心が解れば或いは自分がこの三週間、どのように過ごせばいいのか解るかも知れない。 でも逆に怖い。自分は護熾にとって一体何なのか、解らない。

 ……怖い でもそれでも私は一緒にいよう。だって私は……


 ここで意識が途絶え、明日に向けての漆黒の休息が幕を上げた。








 時は流れる、残酷なほど早く過ぎ、人に止めさせる力などないことを思い知らせるように。

 時は向かう、この世界に時を刻むのを止める日に。

 その間に人々に何ができるのかを考えさせる前に、時は流れる。 










「ん? どうしたのユキちゃん?」

「近藤さん、ここでは話しにくいからトイレに行こ」


 晴天のち曇りの22日。

 翌日の七つ橋高校一時間目終了直後の休み時間、早速ユキナは近藤の許へ向かい、トイレで訊きたいことがあるのと尋ねると近藤は『よっしゃ、可愛いユキちゃんのために相談のってやっか!』と快く承諾し共にトイレへ向かい始めた。


「…………何だ? あいつ近藤連れて行って何する気だ?」

「…………たぶん普通の連れションじゃないかな? じゃなくてお着替えかな? 次体育だし」

「…………」


 すると護熾の席の横にいた木村が茫然と突っ立ちながら無言で黙り込み、ユキナの背中を見送り、それからいつまでもその方角を遠い目で見つめていたので心配になった宮崎と千鶴が様子を窺うように顔を覗き込むと赤い粒沫が一滴、教室の床に弾ける。


「木村君!! 鼻血鼻血!!」

「何があったんだぁあああ!! 木村ぁああ!?」


 まるで高い熱があるかのようにボーッとしている木村の鼻から赤い一筋の線が引かれ、ポタポタと数滴がさらに床に散る。

 千鶴が慌てて常備しているティッシュを取り出して床を拭いてくれるよう宮崎に頼み自分は鼻血を拭き取ろうとすると突然フラフラと崩れるように頭の位置を落として後ろに倒れそうになったので護熾と沢木が慌てて背中に手を置いて止める。

 そしてそのままゆっくりと横にし、クラスの人たちの注目の中、護熾は木村の鼻にティッシュをねじ込みながら『おい! おい! しっかりしやがれ! 何があったんだ!?』と応答を願うように声を掛けると木村から弱々しい声で返事。


「いや……ちょいと木ノ宮さんの着替えシーンを妄想したらあっという間に頭が沸騰して……」


 ああ、なるほどとクラス内の男子から即納得の返事。でもそれどころではない。

 だがここで納得していないのが約一名。それよか一人しかいない。

 突然木村の鼻に指が突っ込まれグリグリと動かしてきた人がいたので木村は驚いて顔を上げると額に怒りマークを浮かべた護熾が今度は馬乗りになって逃がさないようにして手をボキボキと気持ちよく鳴らすと


「てんめぇ? 人を何心配させてんだよ? しかもよりによってユキナの着替えシーンか? あァ?」

「いやいやいやいや!! 鼻血噴いて心配させたのは詫びるけどほらだってさァ、一体どんな体つきをしているのかと思った瞬間、頭ボンよ?」

「ついでに顔もボンさせてやるよ」


 そして大きく開いた手が木村の顔に伸び、護熾の対三バカ(沢木、木村、宮崎)お仕置き技、『アイアンクロー』を決めにガシッと掴むとあとは軽く力を入れるだけ。


「あっ! ちょっ! ごめんごめんごめん!! もう想像しない、うん約束する。ってぁああああああああああああああああああ!!!!!」

「着替えを想像して鼻血噴くべタな奴なんてこの学校でお前くらいだよ!」


 このあと沢木と宮崎のフォローが入って何とか騒動が治まりそうかと思いきや、『木ノ宮のスリーサイズっていくらかな?』と今度は沢木がほざいたのでデコピンをお見舞いしてノックアウトをさせたのは言うまでもない。






「えぇえええええええええ!! ユキちゃん!! 恋してるの!?」


 同時刻、女子トイレの木製のドアに背中をぶつけるほどまでに大きく下がった近藤は腕で顔を隠す様にし、ワナワナと小刻みに体を震わせながら今の発言は本当なのか!? という眼差しでユキナを見るが、ユキナは頬を若干朱に染めながら視線を床に落とし、小さくコクンと可愛く頷いて今言ったことは真実だと明白にした。


「なななななななな!!! 相手は誰?」

「それは言えないお約束です~」


 もじもじとこれまた愛らしく仕草をするユキナに近藤は思考を張り巡らせる。

 宮崎か? 沢木か? もしかしたらユキちゃん好きな木村か? はたまた別のクラスのイケメンくんか!? など、護熾という可能性は入れず、色んな男子を並び立ててどれがお似合いかパラパラと切り換えるが別にユキナが聞いてきたのは『恋ってどうすればいいの?』と言うことなので冷静に呼吸を整え、ふうと息を吐いて落ち着き始める。


「まさか……ユキちゃんにそんなブルースプリングが来るなんて…………だから最近仕種が可愛くなっていたのか……」


 実は結構、ユキナへのアプローチは多い。

 当然、それはユキナの小柄で可憐な容姿と愛らしく艶のある綺麗な黒髪に惹かれ、廊下などで同級生、先輩、はたまた二年上の三年の先輩からも呼び出しをくらうなどモテにモテる美少女なのだ。

 因みにイアルも転校してきてからあまり日数が経っていないため現在男子共は情報を集めるのに必死なのでアプローチは今のところないが近く、ユキナと同じような目に遭うことが約束されている。

 だが、今回はユキナ自身、そっけなく断っていた恋愛劇にとうとう彼女自身がときめく相手ができたのだ。

 それは嬉しくも、少し寂しい感覚。


「えっとじゃぁさあ! これ千鶴にも試したんだけど聞いて」

「? 何?」 


 少々早口で近藤がある試験を課すと言うことでユキナは首を傾げてハテナマークを頭の上に浮かべるとその試験が言い渡される。


「今、自分が好きな人に抱きしめられる、っていうのを想像してみて」

「わたしが……抱きしめられる?」


 疑問系を噴くんだ声でユキナは言われた通り、想像してみる。

 すると両肩に腕が載せられ、それから目の前で交差し、そしてキュッと抱き寄せられて背中に体温を感じ始める。

 それから自分の顔の横にその好きな人物の顔が近づき、向ければ表情を覗ける位置にあった。それから互いに目をつむり、体温を帯びた唇を近づけ…………


「う……はぁ~~~うゥ~~~」

「…………こりゃホンモノだわ…」


 近藤の視線の先には完全に自分の世界に入り込んでいるユキナが自分を抱きしめるように胸の前で腕を組み、恥ずかしそうに目を細めて切なげな表情でフラフラと顔を赤くしている様子からよほど惚れていると確信できる。

 因みに千鶴の場合はプシューと頭から湯気を出してヘロヘロと座り込んでしまい、ボーッと明後日の方向を見つめてしまい、視線の先に手を置いてブンブン振ってもしばらく気が付かなかったとのこと。





「……でもユキちゃんが好きになるなんてどんな人なの?」

「あのね、何度も私を助けてくれたし、一緒にいるだけでとても、とても温かい気持ちになるの」


 妄想ワールドから無事生還したユキナはすでに落ち着きを取り戻し、名前は言えないがその人が自分とどう関わり合っているか、どこが好きなのかを近藤に伝える。

 近藤はふむふむと顎に手を当てて頷き、ユキナの感想を素直に聞き取り、『そりゃぁ、あたしも、てか女子なら憧れるシチュエーションじゃない?』とややおどけた口調でそう言い、本題へ入る。


「私、その人にどう言ったら分かんないの……こんな気持ち初めてだし………でもわたし……せ、背も低いし、む、胸もないし」

「でも好きなんでしょ? それにユキちゃんが告白したら誰だって喜びそうだけど……よほど好みがなさそな人なのね」

「うん、全然分かんない」

「じゃあ好みがなさそうな人の例を取ると…………海洞かな?」


 護熾の名前が近藤の口から生まれた瞬間、ドクンッと衝動が胸に駆け抜ける。

 その人なのよー! などと言えるわけが無く、ただ黙って言葉を待つと近藤が話を続ける。


「あいつさ、千鶴に好かれてるのにまったく気が付かないのよね。相変わらず無愛想で料理と家事しか考えて無くて結構短気。ああいう人はNGだからね?」


 それを言われるとさすがのユキナもただ情けない苦笑いで答えるしかなく、近藤はそれを意に介さずさらに話を続ける。


「でも確かあいつ…………『俺の料理を残さず食べる人なら誰でもいいな』って言ったことが前確かにあった。」


 それは中学三年生で高校へ行く前、高校とは青春の溜まり場であるからどんな人を彼氏彼女にしたいのか三人で話し合ったことがある。護熾はもちろん、あまり乗り気ではなかったがちゃんとそう答えたのだ。それは…………すごいハードルが低くないか? と二人に思わせたという。


「…………うん、護熾はきっとそういう人だね。」

「うん、でもユキちゃん、容姿に自信がなくたって男ってもんは可愛い子に告白されると断れないもんよ! たぶん胸が大きいとかそんなんじゃないかもよ。まあそれは大きさを先に宣言している人じゃなきゃ、って話だけどね。」


 好きになったんだから何時か絶対言うべきだよ。例え断られたとしても、ガツンと行け! 気持ちを言葉にするのは怖いけど、言わないで普通の関係のままはつまんないっしょ?

 だから、ファイト! 千鶴と同じ様に応援するからさ!


 これが近藤の総合的な答え。

 何時までも自分の気持ちを取っておくのは勿体ない。それならいっそのこと当たって砕けてみよう!

 率直で、とても大切なヒント。


「…………うん! ありがと近藤さん!」

「どういたしまして! でも……あたしのユキちゃんの純潔が~~! 一体どこのどいつよ~」

「いや、まだ付き合っているわけじゃないから大丈夫だよ。てか私って近藤さんの持ち物?」


 頭を抱えて本気で悩んでいる近藤にユキナが軽く突っこみを入れる。

 すると丁度、一時間目の休み時間が終わり、二時間目の授業が始まることを知らせるチャイムが学校内に響き渡る。


『何やってんだお前ら~? さっさと出てこい~!』

『遅れるよ~~?』

「うわっまずっ! 次体育だって忘れて着替えてなかったよ!」

「あ! そうだった! 急がなきゃ急がなきゃ!」


 恋愛話ですっかり盛り上がっていた近藤とユキナはチャイムの音と待っていてくれたのか、護熾や千鶴がトイレの外から声を掛けてきたので二人はあらかじめ着込んであった体操服へ服装をチェンジするために制服をするすると脱ぎ始める。

 だが今の時期は寒い。

 体操服は着ていても肝心のジャージがなければ意味がない。急いで取りに行こう。そう思い、決死の覚悟でトイレから出てくるとボフッと持ってきてくれていたジャージが投げ渡される。


「ちゃっちゃとしろ、時間ホントにないんだから」

「うん! ありがと護熾!」

「勇子これ!」

「おっ! ナイス千鶴!」


 冷えた空気で満たされている廊下で二人は走り、二人は受け取ったジャージを頭から被るようにしてから着こなしを完了して外へと向かい始めた。









 二日後の24日の土曜日。

 朝11時の通信端末からのメールでの連絡。


「…………始まったのね。」


 護熾の自室にいるイアルがそう呟きながら端末の液晶画面を覗き込み、さらなる情報を見ようと文字の羅列の下の方に画面を動かし、全てを見終える。

 そして全てを見終えたイアルはそのまま力なくベットに背中から倒れ、髪が広がり体を何度か小刻みにバウンドさせてから諦めたように息を少しだけ大きく吐いた。


『“最重要連絡事項。残り18日となった今日、各主要都市に大戦に備え、兵力増強と守りを固めるために周辺地域にある町は非難を開始。尚、現世に趣いているパラアン達一同は、大戦の始まる五日前に必ず帰還すること。以上。”』


 これが何を意味するかは、こっちの世界に携わる人ならすぐに解る。

 ワイトの中央はとうとう13年前と同じようにカルスなどの小規模の町の住民達を中央の施設に避難を呼びかけたのだ。それは、本当に大戦が始まるということ。

 13年間築かれていた平和が悪夢に変わる瞬間だった。

 この情報はすでにユキナも知っているであろうからあえて言わないでおこう。

 では護熾はというと、実は朝早くからどこかへ行ってしまい、今ユキナが心配で探しに行っているところであった。

 イアルも端末で場所の特定をしようとしてこの情報が丁度入ってきたところであったのだ。


「…………やっぱり、海洞に告白しなきゃ……ダメよね?」


 虚空にそう問い掛けるように小さな声で言い、ゴロンとうつ伏せになって足を軽くバタバタさせ、画面を覗き込んでピッと誰かの番号をメニューから選んでそれから耳に端末のスピーカーを当てた。






 

 同時刻、ワイト北東エリア。

 そこにある一軒家の住宅には季節によって変わる花々や、最近ではベリーを育て始めたガーデニング好きな女性が住んでいる。

 今日もその女性、またはユキナの母ユリアは日課の水やりをしに水を入れたじょうろを持ち、片手にスコップを持って庭に出て、寒い風が吹き込んできても負けずに勤しみ始める。

 するとガサッと道路の方で足音がしたので気になって顔をそちらに向けると


「……護熾さん?」


 そこには玄関門からこっちを覗いている護熾の姿があり、目が合うとペコリとお辞儀をしてきたのでじょうろを土の上に置き、急いで駆け寄って門を開け『どうしましたか? 一人で』と尋ねると


「どうも、ちょっと聞きたいことがあって…」


 神妙な表情でそう答えた。



 目次ページに貼られているのは井戸さん&AIBOさんによるユキナ第二解放のイラストです!

 何だか勿体なくて土下座しそうになるほど素晴らしい絵を描いていただき、私は今幸せです!

 この調子で最終章前編、終わらすぞ!

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