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ユキナDiary-  作者: PM8:00
10/150

10日目 朝いなかった理由

 

 


 二時間目の終了のチャイムが鳴ったときだった。1−2組の教室の引き戸を勢いよく開けて飛び出してきたのは護熾だった。

 その後ろからハイエナみたいに男子達が、護熾がユキナから受け取った手紙の内容が知りたくて血眼で必死に追いかけていた。


「何!? お前らが見たって何も価値ねえぞ!」

「それ言われると余計気になるじゃん!! 見せろ見せろ!!」


 後ろから追いかけてくる男子達に振り返って あきらめろ!と注意を促すが男子達はそんなのは耳に入っておらず、追跡を続ける。


 一方、そのころユキナは他の女子からの どっから来たの、好きな食べ物は?などの軽い質問に答え、上手にクラスにとけ込んでいた。




 ――昼休み、

 昼休み、4時間目が終了し、生徒各々が互いに集まり、昼食を食べたり、おしゃべりしたりするとても楽しい時間が七つ橋高校に訪れた。

 だが1−2組の教室は騒がしかった。楽しいおしゃべりなどで騒がしいのではなく


「あれ? 海洞は?」

「木ノ宮さんは?」


 クラス内で昼休みと同時に姿を消した護熾とユキナに気が付いた1−2組の生徒達は男子は護熾を、女子はユキナをそれぞれ捜索していた。



 


 ここは学校の3階の上の屋上。白いコンクリートの床のタイルの合間には雑草が少し生え、緑色のフェンスに囲まれていて、今日は日差しが和やかであまり暑くなく、風が良い感じに吹いているので心地よい環境になっていた。

 ある一人の男子生徒が階段の踊り場を上り、屋上の扉を開けて中に入ってきた。


「…………ものすごいひどい目にあったぞたくっ……あいつめ〜」


 憎み口を叩きながら扉を開けて入ってきたのは護熾で目の下に隈を作ったような、疲れた顔をしており若干痩せたような感じになっていた。その護熾を待っていたのか、フェンスの前にある手すりに掴んで、屋上から見える町並みを眺めているユキナは護熾に気が付かずにずっと町を眺めていた。

 時折強く吹く風がユキナの艶のある黒髪を揺らし、町を眺めているその目はどこか悲しそうだった。護熾はその様子に声が掛けられず、扉の前でたたずんでいた。

 バタンっと扉の閉まる音で振り向いたユキナは護熾に気づくと


「い、いたなら声を掛けなさいよ!!」


と、やや慌てた口調で手すりから放し、護熾に近づいていった。ユキナが二歩前まで来るのを見計らって右手にぶら下げていた物を前に突き出しながら


「ほれ、お前の弁当。やるよ」


 花柄の布に巻かれたポピュラーな弁当箱を渡した。ユキナは渡された弁当を両手で受け取りながら


「わあ! 私にくれるの!?」


 嬉しそうに目を輝かせて、『売店のパン買いに行こうか迷っていたんだよ〜』と昼食に困っていたことを話した。護熾は売店で買うからそれを喰えといい少し溜息をついて屋上の光景をぐるっと見渡す。

 この学校では屋上は開放されているが今は夏、暑い日差しで熱せられたコンクリートの床はミミズを干上がらせるほど熱くなるのでこの時期の屋上は誰も来たがらないのだ。

 しかし今日は日差しが優しく、風が心地よく吹いているおかげで快適で、護熾はよっこらしょ、っと言って地べたにあぐらをかいて座り込んだ。同じようにユキナも床に座って弁当を包んでいる布を取り始める。


「ところでなんで“木ノ宮”なんだ?」


 自分自身の弁当を巻いている布を取りながらユキナに顔を向け、自分をここに呼び出した理由を聞く前にまず、ユキナの名字について尋ねる。

 カパッと弁当のフタを取ったユキナは取った布の上にフタを置きながら


「あなたと出席番号を近くするためよ、良い名前でしょ?」


 【海洞】という名字に近づけるために考え出されたのが【木ノ宮】とのこと 護熾のクラスにはカ行の生徒は護熾と近藤と木村しかいなかったので好都合だったそうだ。

 ちなみに席替えは新学期が始まるときにする。


「は〜〜〜〜〜 ホントに学校に来るなんて、……用ってなんだ?」

「ふああ、 ほっほへふめひひたひほほはあっへ」


 護熾がもう一度ユキナを見たときには口いっぱいにご飯を詰め込んでおり、ハムスターみたいになっていた。護熾は呆れた顔になると


「もう喰ってんのか、飲み込んでから言え!お行儀が悪い」


 指を指され、お行儀の悪さを注意されたユキナは一生懸命口の中を動かしてそしてごくんっと気持ちの良い音を喉で響かせながら


「ん、あ〜〜〜〜〜ちょっと説明したいことがあって」


 改めて護熾の方に顔を向ける。


「なにを?」

「今から言うことを聞いてね? 私は今朝あることをしに行ったの」

「怪物退治じゃなかったのか、で?」

「まあ、実際に見たほうがいいかもね」


 ユキナは床に手をついて立ち上がり、護熾が見ている中


「ユキナ、“認証”」


 と元気よく屋上内に響くくらいの声で言った。ユキナがその場で立ち上がって急にわけの分からんことを言ったので護熾は立ち上がって尻を手でパンパンと叩いた後に


「…………なにしてんの? 」


 と護熾は冷ややかな目で尋ねた。しかし声を掛けても知らんぷりで屋上の様子を見渡すので護熾は『おい、聞けって』っと肩を触ろうとしたときだった。いとも簡単に手が体をすり抜け、ユキナを貫通したみたいになったので護熾は驚き声を上げ、その場で三歩後ずさりをする。

 自分の手を見て何か変な物にでも触ったような顔でユキナを見る。


「“認証解除”、どう?あなたには私が見えていたでしょ?」


 なにやら嬉しそうな顔で目を見開いてこちらを見ている護熾に近づくユキナは護熾の前に立った。


「おい! 何ださっきの!? お前に触れなかったぞ!? 何が起きたんだ!?」


 驚き顔のまま護熾は今、目の前にいるユキナに指を指しながら叫ぶように言ったのでユキナはやれやれと言って


「それはね、私が【覆世孤立空間発生装置ふくせいこりつくうかんはっせいそうち】に認証して入ったからよ」

「え、何、ふくせい?」

「【覆世孤立空間発生装置】、通称【結界】って呼ばれているからそっちで呼んだ方がいいかもね。この装置はこの七つ橋市を覆うように張られているの」

「…………すげえなそっちの科学技術」


 急に長い固有名詞を言われたので護熾はその長い名前のせいで思わず呟いてしまった。護熾が呟いたのでユキナは少し得意になった口調で次のことを話す。


「そうでしょ、今朝あなたの認証登録しにいったのよ。すこし手間がかかったけど」

「お、俺の!? 何で!?」

「そうよ、 私と一緒に行動ができるようにね。その方が安全だからね」

「あ〜〜〜〜そういうことか。確かに、で、その結界とやらはなんか意味あるのか?」


 確かに、っと納得した素振りを見せた護熾は今度はその【結界】はどんな装置なのかを尋ねる。自分に指を指しながらユキナが説明を開始する。


「私たち【異世界の守護者 (パラアン)】でもステルスを見破れるのは私のような【眼の使い手】だけ、この装置は【眼の使い手】以外の戦士達を手助けしてくれる物なのよ。この【結界】に入ることで奴らが纏っているステルスを見破ることが出来るし、それにこの装置は別空間を作る、つまり他の人たちを巻き込まずに戦えるし、一般人の空間識を誤認させることが出来るから安心して行動が出来る優れものなのよ」



 護熾は長い説明を腕を組みながら聞いていた。

 つまり【ステルス】も結界も今この世界の【空間】に隔離された空間を作り出し、そこで戦うっ、てことらしい。

 しかも一般人の目を誤魔化しながら行動が出来るのでこの世界の人たちに見つからないのも納得がいく。


「長い説明ありがと……ちょっと試してみたいな、“護熾、認証!”でいいのか?」

「私の前では意味無いわよ」


 それもそうだな、と男女の声が屋上を楽しそうな声で包み込んだ。気持ちの良い風が屋上内に吹き、二人の髪を優しく撫でるように抜けていく。




 その頃、廊下で、トイレで、階段で、


「木ノ宮さん、どこ〜〜〜〜?聞きたいことがあるのに〜〜〜〜」

「海洞!どこだ〜〜〜〜見せろよあの手紙!!!」


まだ二人を捜している女性陣と男性陣がいた。



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