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東京デバッガーズ  作者: 流
一話
9/11

666

「何も知らないガキが、知った風な口を」


 忌々しげに長瀬が顔を歪めた。

 知ってるからなんだけどなー……、と透流は苦笑を浮かべ、


「じゃあ質問を変えます」


 今度は首を傾げて見せた。


「どこでそういう宗教に引っかかってくるんです?」

「宗教?」

「ええ。一般人はそんな思考にそもそも辿り着かないものです。そんなオカルトに頼るより、自分で行動に移します。特に現代日本は無宗教の国ですからね。魔界だ何だといった発想は、何かしらの宗教絡みの考えです。ああ、誰かに吹き込まれて洗脳されている可能性もありますね」


 指折り可能性を挙げていく度に長瀬は身体をわななかせる。

 身に覚えがあるのか、顔を赤らめ、かと思えば青ざめさせ、首を振り自分の記憶を否定していく。

 がばりと上げた顔には失望と絶望と後悔と喫驚がない交ぜに浮かんでいた。


「私は! 私は……」



 誰と出会い何を話した?

 何が救いだと聞かされた?

 それを自分は信じたのか?

 否、見せつけられたのだ。

 奇跡を。

 だからこそ入信した。

 これで自分の生活が楽になると、会社を立て直せると……会社?

 いいや、世界を救うのだと、信じて……信じて──



──……どうした?



 透流の言った通り、洗脳が施されているのか長瀬の身体にはパチパチと小さな紫電が散っていた。

 救世会と言ったか。

 どうやらとんだ詐欺集団のようだ。


「私は、正気だ!」


 洗脳の力がそうさせたのか、長瀬が叫んだ。

 あくまでも魔界と人間界の融合は自分の意志であると主張した。


「ふーん……」


 そう宣言した長瀬を少しだけ目を細めて見つめ、そして透流はこう言った。



「Call ID:666>>ルシファー」



 声だ。

 透流の声だ。

 いつもテレビ越しに聞いている、機械を通した声ではなく、この狭い部屋に直接響く声。

 俺だけに聞こえる声。

 俺を喚ぶ、声。命令。コマンド。合図。

 嗚呼、きっとあいつは口の端をにいっと上げていることだろう。趣味が悪い。

 それに俺はいつもやれやれと思いながら応じるのだ。



 ケルベロスやオルトロスを召喚した時とは違い、透流の背後に光が集まり、魔法陣を描いていく。

 幾何学模様を組み合わせた陣は虹色に輝き、世界の法則を変える。



──これは関


──これは門


──これは道



 透流の世界と俺の世界を繋ぐ道だ。

 俺は()()()()現れた魔法陣に腕を差し入れる。

 ()()()()()()へ腕が通ったのが分かる。

 脚を身体を、魔法陣へ通す。

 そして俺は透流の背後へ、人間の世界に姿を現した。


「”さっちゃん”ご意見は?」


 やはりニマニマとした意地の悪い笑顔を浮かべ、透流は俺の方に顔を向けて言った。


「ふん、どこの魔王様の話なのだか……な?」


 風が一陣吹き抜け、俺の髪を流していく。


「詳しく聞かせてほしいものだ」


 赤い瞳を開き、世界の救世などとのたまう人間を見据えた。


挿絵(By みてみん)


 哀れではあるのだろう。

 不運ではあるのだろう。

 巡り合わせが悪かったのだろう。

 抗うだけの強さが無かったのだろう。

 だから付け込まれた。

 だがそれに同情はすまい。

 同じ境遇の人間などごまんと居る。

 上を見ても下を見てもキリが無い、そんな誰にでも降りかかる不幸な話のほんの一節。

 せめて、その到底叶わない希望を植え付けられた洗脳は解いてやろう。

 俺に微かに残る良心で、僅かなりしも魔王に縋った慈悲をくれてやろう。


「ルシファー? ……堕天した天使か?」

「それくらいはご存じなんですね。そして貴方が救いを求める魔王サタン様その人ですよ」

「そんな、馬鹿な」


 長瀬はまじまじと俺を観察した。

 闇にとけ込むような色のボロの外套を羽織る痩身の男だ。

 そして思ったはずだ。

 こんなみすぼらしい姿の者が魔王なものか、と。

 予想通り長瀬は取り乱した様子で、俺を否定した。


「馬鹿なことを言うな! 私が求めていたのはこんなちっぽけな存在ではない! 清廉! 清浄! 公平! 公正! そんな世界を創造可能な絶対的な力! 汚れた世界を壊す純粋な破壊! それがこんな、こんな!」

「こんなこんなとは随分な言い方だな。勝手に妄想していてのはお前の方だろうに」


 さすがに俺はムッと顔をしかめた。

 長瀬はどんなものを想像していたのだろう。

 この世を一口に飲み込むような巨大な獣でも、もしくは手の一振りでこの世全てを聖域にするような奇跡を起こす存在でも期待していたのだろうか。

 そんなものは、無い。


「長瀬さん。貴方の言っていることって、本当にこの世界の救いになるんです?」


 確かに清廉な救いを求めながらも、その方法は世界の破壊とは、どうしようもない矛盾をはらんでいる。


「貴方はキレイな言葉を並べて隠そうとしていますが、実際に求めているのはこの世界の救いや魔界との融合ではなく、ともすれば憂さ晴らし、もしくは個人的な世間への復讐なのでは?」

「そんなこと、私は……」

「貴様が言うのは神が創るような理想郷ではないか。お前は俺に対して何を期待していた?」

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