第14話 陶器と腕輪と髪飾り
「お疲れ様。何を作ったんだい?」
「腕輪だぞ!おいらももうすぐ成人だから、試しに作ってみたんだ」
成人すると何かあるのかな?
ってか、もうすぐ成人って、そんな歳なのか。いいとこ中学生にしか見えないんだけど……まあ、文明的に成人の年齢は推して知るべし、だな。
「じゃあ、借りるね。あと、ちょっと目をつぶってもらっていいかい?泥で汚れちゃってるから」
粘土の着いた手でこすってしまったのだろう。顔に土汚れがついてしまっている。
素直に目を閉じるエフィの頬を、持っていた紙――乾燥させた植物から作った簡素なものだ――を水で濡らしてから拭いてあげる。
「よし、きれいになった」
「ありがとう、だぞ。作ったこれはどうするんだ?」
エフィからアイテム化した腕輪のキューブを受け取る。重さが無いから不思議な感じだな。
「焼いて成型するよ。……そういえば、レシピには乾燥の工程がありませんでしたけど、そのまま焼くんですかね?」
シドさんに話を振ると首を傾げた。
「聞いた覚えはありませんな。そういえば、“カマド”で木炭を作る際も原木そのままです。土窯で作る場合は、原木を乾燥させているのじゃが……」
その辺はツールの方でうまくやってくれているということかな?
規定外だからカマドはうまく動かないだろう。普通に焼くなら乾燥は必須だろう。
一口魔方陣を起動して、アイテム化したままの腕輪を放り込んで起動する。
一呼吸する間もなく、“乾燥した粘土細工”が出てくる。
「どれどれ……うん、ちゃんと固まってるな」
アイテム化を解除すると茶褐色の腕輪はしっかりと固まっていた。ひび割れとかも無い。
円の形はちょっといびつだけど、側面のめんどりとかはとてもきれいな平面にできている。……このきれいさは日本でもあり得ないぞ。
「これ、すっごいきれいに横の面切り取られてるけど、どうやったの?」
「がう!角材で平たくした後、粘土だけアイテム化したぞ!」
「……なるほど。……エフィは頭がいいな」
「がう?そうか?」
「ああ、うん。初めて粘土細工を作ったのに、そういう応用ができるのはすごいよ」
「えへへ、ありがとうだぞ。それなら、手に着いた粘土とかはそれだけアイテム化するときれいにはがれるのも見つけたぞ。最初テーブルにくっ付いて粘土がどんどんなくなっちゃって困ったけど、それでどうにかなったぞ」
なるほど。別々の物体ならアイテム化で引っぺがすみたいなこともできるのか。これ、結構重要な技術な気がする。
「持ってみるか?あんまり力を入れなければ、もう形も変わらないよ」
興味津々にソレを見つめていたエフィに手渡す。
「ほんとだ!カチコチだ!それにちょっとだけ小さくなっている気がする!」
「乾燥すると少し縮むからね」
経常的に少し不安だったけど、どうやらちゃんと手が入るサイズで割れなく出来たらしい。
創作はその辺考慮してくれるのかな?
「シドさん、これを焼いてみたいと思います。“カマド”の燃料は有りますか?」
「それならそこの原木を使うといい。効率は悪いがカマドは起動するはずだ。じゃが、記録にないレシピだ、うまく動くのかのう」
「まあ、ダメ元ですね」
初めからすべてうまくいくとは思っていない。上手く行けばラッキーくらいだ。
ストックされていた薪を貰って“カマド”の燃料エリアに放り込む。アイテム化した薪のキューブが、カマドの中でゆっくり回っている。これで上の段にアイテムを放り込めばいいのか。
「エフィ、お願いできるかな?」
「分かったゾ!」
さて、動くかな?
真剣な表情をしたエフィがアイテム化した腕輪を恐る恐るカマドの中に設置すると、燃料エリアに
光がともった。
「!!」
「動いた、じゃと?」
カマドの動作は一瞬だった。すぐにアイテムは生成物がはいるボックスへと移る。
「がう、できたのか?」
「……出来たみたいですね。取り出してみましょうか」
鑑定で表示された名前は陶器の腕輪となっている。土器じゃなくて陶器か。釉薬を使わない素焼状態だから陶器っぽい光沢は無いけど、十分に焼成できているということだろうか。
腕輪の状態に戻し、指先で弾いてみると高い音がなった。ちゃんと焼けているようだ。
「焼けてますね。形は彼女が作ったままです」
「……焼くのは材料に依存しないということか?」
「わかりません。N数1じゃ大したこと言えませんね。それと、土器と言うよりは陶器になってますね」
「陶器とは?」
「土器よりさらに高温で焼成した場合にできるもの、と言えばいいですかね。耐水性や耐久性が高いですが、基本的な性質は同じです。出来の良さが少し高いと思えばいいですね」
「つまり、ここで使っているものよりも良いものだと?」
「ええ。理由はよくわかりませんが」
乾燥させたのが良かったのだろうか。水分を含んでいると温度が上がりづらいというのはわからない話では無い。
この石カマドの発生熱量ってどの程度なのだろう。
現実的には、乾燥していても薪ではそこまで温度は上がらないはずだ。煙が出ないし、不思議ツールだから木炭と同じ熱効率くらい出ていても驚かないけど。
「エフィ、ありがとう。身につけるかい?」
「がう……腕輪は成人した後に身につける物だ。せっかく作ったけど……まだ付けちゃダメなんだ」
「なるほど。……腕にはめなけれ良い?」
腕にはめなければ腕輪じゃないしね。
「がう?言ってる意味がわからないぞ」
「大丈夫じゃ、問題ない」
「なら、今は髪留めにしておこうか。こっちに来て」
会った時から気になっていたんだけど、髪が長い上に結構癖のある多毛だからもさっとした感じがあるんだよね。
切るのはあれだけど、少しまとめるくらいはしてもいいと思う。
「これでいいのか?」
「うん。ちょっとまってな」
持ち上げた髪を草紐で束て、その紐を隠すように腕輪をかぶせて固定する。
ちょっとアップにした感じ、いわゆるポニーテールというやつだ。うん、ちょっとまとめるだけでもかなりスッキリしたな。
……櫛とかあれば梳いてやることもできるんだけど……創作で作れないかな。
「うん、出来た」
「もういいのか?なんか首元がスースーするな」
「ふむ……これだけで印象がガラリと変わるの。アクセサリーとして人気が出そうじゃ」
「がう。自分からじゃ見えないぞ」
「まぁね。でも、よく似合ってるよ。俺はまだしばらくここにいるから、なんなら誰かに見せてくるといい。オベロンさんとか驚くかもね」
「がう!なら、そうするぞ!」
「うん。っと、そうだ、手をかして。外すときはここ、この輪になってない方の紐を引っ張って、それから髪留めを外す。そのあと紐を解けばぜんぶはずれるから。外したくなったらそうして。一人で難しかったら戻ってくるか、誰かに見てもらうといいよ」
「わかった!それじゃあ行ってくるぞ」
家の方へ駆けていくエフィを見送ったあと、シドさんの方へと向き直る。
「さて、どうしましょうかね?」
「粘土の再発見、土器と陶器、やらねばならぬことは山積みじゃな。年甲斐にもなくワクワクしてきたわ。」
「でも、規定外創作は危険ですからね。あまり無理はできません」
「そうじゃな。……素材がなければどうにも出来ん」
20センチの土から取れた粘土の量は2割に満たないだろう。試すにしてももっと多量に粘土を確保する必要があるな。
近くの土壌や畑を手当たり次第に調べて質の良い粘土を探すか?
昨日井戸を掘った時の土は粘土質じゃなかったし、手がかかりそうだな。
それに、井戸関係をもうちょっと使いやすくしなきゃならない。
「……順番にこなしていきましょうか。まず材料としてはそれなりにある木材で、私の知ってるレシピを使って作れるものがないか試しましょう。その間に、粘土を探したいんですが、誰かお願いできるかたはいますか?」
「それならワシの弟子たちに任せよう。日用品の製作工房の方で、木桶を増産しているはずじゃ」
こっちは研究用の工房だったらしい。
「じゃが、物を見たことがあるのはワシとエフィくらいじゃ。お主の言う通り大地から採取できるとして、見つけるのは困難と思うが、どうするか」
「その辺は現物を見せて覚えてもらうしかありませんね。あとは、実際に水をもって行って、濡れた時の状態を見てもらうのと……ああ、乾いた時の特性も知っていれば何とかなるかもしません」
粘土は乾くと固まるが、自然乾燥ではムラが発生するので割れてしまうことが多い。粘土質の多い地面は、この時期はひび割れていることだろう。
固い地面だと草も生えにくいから、雑草の勢力が弱いひび割れた地面の個所を探してもらって、そこを重点的に調べるか。
「探し方については現物を見せながら説明しましょう。それでよいですか?
「そうじゃな。問題なかろう」
すぐさま人を集めて作業に取り掛かる。
シドさんの弟子は男性が一人と女性が二人の3名。20代から30代前半で、一通りのレシピは覚えているらしい。
粘土の再発見は非常に驚かれたが、みんな物覚えはいい。すぐに要点を理解して、材料の採取の計画を立て始めた。
「昨日の井戸の作成で木桶とタライの需要が高まっています。物干し竿もです。そちらもおろそかにはできませんから、一人は日用品の制作指揮を続けます。残りのメンバーはこちらで選別するので良いですか?」
「任せよう。頼んだぞ」
とりまとめは一番年長だった女性がしてくれた。
とりあえず、近場で植物の育成状態が悪いところから調べて、サンプルを取って来てくれるそうだ。
「なら、目印になるようなオブジェを作ってください。こう、土を三段くらい重ねて。わからなくならないように、場所によって目印をつけるとかもお願いします」
大草原をやみくもに探し回っても、そもそも見つけた場所を特定するのが困難になる。
向こうもプロだし指摘することは多くないが、注意喚起の意味で色々を支持は出しておいた。真剣に聞いてくれるのはありがたいな。
一通り支持を出し終えて、弟子の方たちが作業に取り掛かるころには日が高く昇っていた。
……そういや、エフィが戻ってこないが……まあいいか。
ちょっとお腹がすいたが……そういえば一日2食かな。結構つらい。まあ、エフィが戻ってきたら何か食べる物を作ってもらおう。そっちまで手が回らない。
「それじゃあ、こちらは私の知ってるレシピの再現に取り掛かりましょうか」
つっても、某ゲームのWikiからそれっぽいのを延々と試してみるだけの作業になるけど。
何せ作業台は9×9マスだし、ヒットすればラッキーって言ったところだ。
「うむ。記録はワシがとるから、ミグラ殿が試す、それでよいな」
「ええ。すでに試したことがあるものは教えてください」
「ああ、覚えてるものは指摘しよう。くずレシピのほうも材木を使うものを中心に見直してみる」
「お願いします」
さて、もう一仕事やりますかね。
出かけていて遅くなりましたが、最新話を更新しました。
すでにストックが尽きているのと、最近少し仕事が忙しく平日の時間が取れないため、今後は週一更新くらいに頻度を落す予定です。
定期更新の予定日はまだ決めておりませんが、次回は11/4(日)の24時ごろをめどに更新したいとおっもいます。
よろしくお願いいたします。
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