漆黒の狼~邂逅~
「ガウッ!ガァァッ!」
「――ふっ!」
飛び掛ってくるワイルドウルフを最低限の動きで回避し、すれ違いざまに身体を切り裂く。その一撃で死んだワイルドウルフが後ろで砕け散るが、それには意識を向けずもう一体のワイルドウルフに視線を向ける。
この灰色の身体を持つ狼型のモンスター『ワイルドウルフ』は、常に2、3体の群れで行動している。今回は2体で行動していたが、片方は既に葬ったため残るは1体だ。
「グルルルルゥ……」
ワイルドウルフは威嚇するかのように唸り声を上げる。対する俺は右手に握った刀を構え、一気に距離を詰める。
「『武突』」
瞬間、弾丸のように加速された刀がワイルドウルフの脳天を一突きにし、そのまま青い光へと爆散させた。
「ふぅ……」
一息つき、右手に持った刀『打刀』を鞘へと納める。
この『打刀』はガゼットに打ってもらった刀だ。特徴の無い、いたって普通の刀といった感じだ。性能も初期装備の片手剣よりはましといった程度だ。
ガゼット曰く、「スキルもねぇのに最初から強い武器を使うのはオススメしねぇ。お前さんがスキル無しでどうするのかは知らねぇが、最初はその程度の武器で試すほうが良いと思うぜ」だそうだ。
それからは刀の感覚に慣れるために、刀を使いモンスターを狩って狩って狩りまくった。ついでに冒険者クエストでクエストを受けていたため、金もまぁまぁ稼ぐことができた。
以前やっていたゲームでも刀を使っていたため、片手剣よりは使いこなせたが、それでもやはりスキルが無いのは少しつらいと感じた。
なぜかというとこのゲーム、武器スキルが無いとその武器に関する戦闘スキルを習得することができないのだ。つまり武器スキル『刀』を入手しない限り、刀の戦闘スキルを習得することができないのである。
戦闘スキルが使えないのは厳しいが、俺は刀が好きなので半ば諦めて刀を使っていたのだ。
しかしモンスターを狩り始めてから約一日が経過した頃、なんと『刀』スキルを習得したのだ。習得条件を見てみると「刀のみを使用し、敵性MOBを100体倒す」だった。
なんだそりゃ。刀を使いこなすために刀を使って敵を倒さないといけないって軽く矛盾してないか……?
けれど、『刀』スキルが手に入ったのは嬉しい誤算だった。これで刀の戦闘スキルを習得することが出来る。武器スキルにもレベルがあり、スキルレベルが上がれば戦闘スキルを習得できるのだ。そこからはスキルレベルを上げるためにも、さらに狩って狩って狩りまくった。
そして現在、クリスとの決闘から2日が経過した。『刀』のスキルレベルは20まで上がり、戦闘スキルも習得していた。先ほど使用した『武突』も戦闘スキルのひとつである。
今日も今日とてモンスター狩りに勤しんでいるのだが、いかんせん初期エリアだということもあり効率が悪くなってきたように思える。次のエリア、すなわち第二門の先へ進むにはこの初期エリア『イステリア平原』のエリアボスを倒し、イステリアという街まで辿り着かなければならない。
「アインは……オンラインか、あとで誘ってエリアボスでも倒しに行くか」
ふと自分の身体を見下ろし、あることに気づく。
「そういえば俺、防具はまだ初期装備だったな……」
王都へと戻ってきた俺は、NPCの防具店で防具を揃えていた。金属鎧は防御力は高くなるが、重いため俺のプレイスタイルとは合わない。よって選ぶのは、布や皮を基調として軽量の金属を使用した防具だ。
最終的に購入したのは、黒い布製の服上下に、革の胸当てだ。布製の服は一見ただの服だが、これでも初期装備よりは防御力がある。胸当てに関しては、重量をできるだけ軽くしたかったので革製のものを購入した。
「さて、装備も更新したしどうしようか」
王都の大通りを歩きながら考える。防具は用意したし、武器はまだこの刀で十分だ。体力を回復するポーションなどはまだ予備がある。
「アインに声かけてエリアボスでも倒しに行くか」
『エリアボスを倒しに行くからついて来い。いつもの森でモンスター狩って待ってる』っと。さて、アインを待つ間モンスターを狩ってスキルレベルを上げておくか。
王都から20分ほどかけて森に到着したのだが、なにかおかしい。なにが、と聞かれると明確には答えられないのだが、どうにも違和感が拭えない。
なにかがおかしいのにそのなにかが分からない。そんな気持ち悪さを胸に抱きながら俺は森の中へと足を踏み入れた。
森の中を歩くこと約10分。ようやく俺は違和感の正体に行き当たった。
「森が静か過ぎる……」
あまりにも森が静か過ぎる。いつもならば狼の遠吠えや、ゴブリンの鳴き声などの生物が生活する音が聞こえてくる。しかし、今日はそれらが一切聞こえない。
まるでこの森から生物が一切いなくなってしまったかのように。
その証拠に、森に入ってから一回もモンスターに会っていない。
そのまま森を歩き続けること5分。不意に森が開けた場所に出る。
そこにそいつはいた。
全長5mほどの漆黒の巨体をもち、地獄の炎を映したような真紅の瞳で俺を見据える一頭の狼。
そいつ――『ディアボリックウルフ』の大気を震わせるほどの咆哮が、俺とディアボリックウルフの死闘の幕開けの合図となった。




