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『勇者』と『魔王』


「本当にいいんだな?あんまり初心者をいじめたくないんだが……」

「いいから早くやろうぜ。もう我慢できねえよ」


 しつこいくらいに確認してくる男に俺はぶっきらぼうに返事をする。男が諦めともつかぬため息をし、了承の意を見せた瞬間に視界に10秒のカウントが表示される。男は左手に盾、右手に片手剣を装備した堅実なスタイルだ。俺は右手の片手剣を構え、こうなった経緯を思い出していた。






 王都の中心近くに位置する冒険者ギルド、そこに俺とアインは訪れていた。


「すごい人の数だな」

「まだサービス開始から2週間だからな。ノブみたいな初心者もいっぱい……ってノブは違うか、エセ初心者だな」

「それを言うならお前もだろうが」

「まぁな」


 冒険者ギルドはかなりの人でごった返していた。大きめの丸い机を陣取り、楽しそうに喋る者達、受付で報酬を受け取っている者達、掲示板で良いクエストが無いか探している者達。様々なプレイヤーがごった返していた。

 その人混みの中を掲示板までなんとか歩く。


「どのクエストがいいんだ?」

「んー、これと、これと……これとかかなぁ」


 アインに教えてもらいながらクエストを選んでいるとにわかにギルドの外が騒がしいことに気がついた。騒がしいといっても喧嘩の類ではなく、どちらかといえば歓声のような……?

 俺とアインは顔を見合わせた後、騒ぎの正体を探るためにギルドの外へと向かった。



 騒ぎの正体、というか騒ぎの中心にいるのは2人のプレイヤーだった。1人は金髪に碧眼の男性。左手に盾を装備しており腰には鞘に入った剣、恐らくは盾持ちの片手剣士。もう1人は赤髪に碧眼の女性。背中に杖を背負っているから魔法職か?

 その2人が周囲のプレイヤーの注目を集めている。集めているのだが……


「おい、アイン。なんでこの2人は囲まれてるんだ?有名なのか?」

「あぁ、ノブは知らねぇか。あの2人は前回グランドクエストの成績上位6人のうちの2人だよ。確か名前はクリスとアッシュだったかな?なんでも上位6人には『勇者』っていうユニークスキルが報酬として与えられたらしい」

「へぇ、『勇者』ねぇ……。じゃああの2人は強いんだな?」

「さぁ?俺はあの2人が戦ってるところ見たことないからな」

「じゃぁ、確かめてみるか(・・・・・・)?」

「……いいね、それ。楽しそうじゃん」


 恐らくこの時、俺たち二人は邪悪な笑顔を浮かべ合っていたことだろう。



 


 僕とアッシュが冒険者ギルドを訪れると多くのプレイヤーに囲まれてしまった。原因は前回のグランドクエストで上位6人に入ったことで、『勇者』というユニークスキルを手に入れたことだ。さすがにグランドクエスト直後よりかは人数は減ったが、それでもなかなか大勢に囲まれてしまっている。まぁ、囲まれるといってもほとんどは遠目から見ているだけで直接話しかけてくるのはほんの数人だ。


「全く、面倒なことになったものね」

「そう言うなよ。有名税みたいなものだろ?」


 不機嫌そうに呟くアッシュをなだめていると、僕達を囲んでいる人だかりの中から2人のプレイヤーがこちらに近寄ってきた。どちらも男性のプレイヤーで顔に見覚えは……ないな。


「こんにちは、ちょっと今時間あるかな?」


 開口一番そう問いかけてきたのは、赤みがかった黒髪に真っ赤な目を持つプレイヤーだ。身長は僕より少し低いくらいかな。


「まぁ時間はあるけれど……僕はクリス、こっちはアッシュだ。君達は?」

「あぁ、最初に名乗るべきだったか。俺はノブナガ、こっちのはアインだ。」

「そうか、よろしくノブナガ君。それで、何の用かな?」

「あぁ、ちょっと殺し合いしないか?」

「――は?」


 彼は今なんと言った?


「ごめん、聞き違いかな。今、なんて言ったんだ?」

「だから、殺し合いしようぜって言ったんだ」


 殺し合い、彼は確かにそう言っている。こんな街中で、平然とした顔で。

 一瞬PKか?とも思ったが、PKがこんな街中で殺し合いをしようなんていう筈がない。PKがしたいなら、フィールドで問答無用で襲い掛かれば良いのだから。

 だがしかし……


「間違っていたら申し訳ないが、君のその装備はそのー、初期装備だよね?」

「あぁ、そうだな」

「そうだなって君……」

「別に装備の差が実力差ってわけでもないだろ?それに俺は以前別ゲーやってたから対人は得意なんだよ」


 そう言われてもなぁ……。僕は助けを求めるためアッシュに視線で訴えかける。


「いいじゃない、やってあげなさいよ。実力の差を教えてあげるのも大切よ」

「おぉ!じゃあそこのお姉さんは俺とやろうぜ!」

「いいわよ、『勇者』舐めんじゃないわよ」


 アッシュはアインと呼ばれた彼と戦うらしい。仕方ない、こうなったらこっちもやるしかないか。


「ここは街中だし決闘でいいよね?」

「あぁ、よくわからんがそれでいいぜ」

「じゃあルールはHPが25%以下で終りょ――」

「いや、どちらかが死ぬまでだ。そうしないと緊張感が出ないだろ?」

「僕は構わないが……。ならルールはどちらかが死ぬまで、スキルはあり、報酬はどうする?僕は無しで構わないんだが」

「そうだな……、報酬は有り金全部でどうだ?」


 彼は少し考えた後そう言った。僕の持っている金は現在約20万G。それに対して彼はどう見ても初心者、せいぜいが10000Gといったところか。僕にあまり得は無いが……


「構わないよ」

「よし、じゃぁ早速やろうぜ!」


 周囲の人だかりも僕達が今から決闘をすると知ったのか、少し距離を取り始めた。しかしこれ、傍から見たら完全に初心者狩りだよなぁ。今からでもやめてくれないかだろうかとノブナガ君に声をかけてみる。


「本当にいいんだな?あんまり初心者をいじめたくないんだが……」

「いいから早くやろうぜ。もう我慢できねえよ」


 返ってきたのはぶっきらぼうな返事だった。仕方が無い、こうなったらできるだけ早く決着をつけてあげよう。それが僕に出来る唯一のことだ。

 視界に決闘の始まりまでのカウントが表示される。剣を持つ右手と盾を持つ右手に力を入れ直す。

 そして遂にカウントがゼロになり、決闘が始まった――





 カウントがゼロになった瞬間、俺は地を思い切り蹴りクリスに肉薄する。クリスが目を見開き、顔に動揺が現れる。そのままの勢いで右手の剣を振りぬく。盾で防がれたが、それはわかっていた。だがクリスも俺の剣の威力を殺しきれず、少し姿勢が崩れている。ここで追撃はせず後ろに下がる。

 クリスは恐らくこの後攻勢に出てくるだろう。やつはグランドクエストの成績上位6人の一人。大して俺はバリバリの初心者だと思われているだろう。そうなれば先ほどまでのやつとの会話から考えるに、できるだけ早くこの決闘に決着をつけようと考えるはずだ。

 俺の予想通りクリスは攻勢に出てきた。俺はクリスの攻撃を時には剣で受け止め、時には受け流し、時には反撃していく。

 ここで仕込みをひとつ。反撃するとき、剣の速度を最初の一撃よりもほんの少し遅くする。それを何回も繰り返していく。恐らくクリスは剣の速度に目が慣れてきた、と考えるだろう。

 打ち合うこと約5分。もうそろそろいいだろう。決着をつけようか……!

 クリスが振り下ろしてきた剣を強めにパリィする。右腕が跳ね上げられたかたちになったクリス。恐らく次手は左手の盾で防ごうとするだろう。それを利用する。


「うおおおおお!スラッシュ(・・・・・)!」

「――っ!」


 俺が袈裟懸けに振り下ろす斬撃を左手の盾で受け止めようとするクリス。まったくもって予想通りだ。


「なんてな」

 

 俺の剣がクリスの盾に当たりそうになるその瞬間、剣を持つ右手を左半身に引き寄せる。そして身体を屈めてクリスの懐に飛び込む。


「なっ!?」


 驚愕の声を上げるクリスに構わず、引き寄せた剣を全力で突く。狙うは人体の弱点である喉である。今まで速度を落としていた俺の剣で、目が慣れたと感じていたクリスはこの速度に反応することが出来ない。

 結果、俺の剣は真っ直ぐにクリスの喉に突き刺さった。

 これが現実ならば死に至る怪我だが、これはゲームであり体力をゼロにしなければ勝利ではない。

 故に俺は迷わず次の行動に移る。喉に突き刺した剣を押し込みながら、クリスの足に自らの足をかけ地面に押し倒す。ここでようやくクリスが反撃を試みるが、右腕を踏みつけ動きを封じる。クリスの喉に刺さったままの剣を逆手に引き抜き、顔面を刺す、刺す、刺す。左手の盾で顔を防御しようとすれば、空いてる足で蹴り飛ばし更に刺す、刺す、刺す。

 大体10回ぐらい剣を振り下ろした頃だろうか。クリスの抵抗が一切無くなり、次の瞬間クリスの身体が灰色になった。同時に俺の視界に映る「WINNER!!」の文字と獲得報酬。


「……こんなもんか、たいしたこと無いな」


 しかしあいつ20万Gも持ってたのかよ。もうちょっと少ないかと思ってたがこれはラッキーだな。

 しかし視界に表れる文字はそれで終わらなかった。


『ユニークスキル「魔王」を獲得しました』


 ……なんだって?ユニークスキル『魔王』?どういう条件で獲得したんだ?

 考えられる可能性としては『勇者』を倒したから、というのが一番スッキリくるが、それだと少し条件が緩い気がする。アインにも聞いてみるか。あいつなら万に一つも敗北はしないだろう。

 俺はクリスの死体をそのままに、アッシュとアインが向かった先へと向かった。






 アインのもとに辿り着くと、なんだかとんでもないことになっていた。アッシュが灰色の身体で地面にめり込み、地面には無数の罅が走っていた。一体どんなことをしたらこうなるんだか。


「アイン、随分また派手にやったな」

「おう、ノブ。彼女魔法職だったから、距離つめて馬乗りになってラッシュ叩き込んだら完封できたぜ!」

「それはまたえげつないことで、まぁ俺も人のこと言えないけどな。それよりアイン、なんかユニークスキルゲットしなかったか?」


 『勇者』を倒すことが条件ならば、アインも獲得しているはずだ。


「おう、なんか『魔王』ってのもらったぜ。その口ぶりからするとノブもか?」

「あぁ、恐らく『勇者』を倒すことでもらえると思うんだがそれだと条件が緩すぎる気もする。他にもなにか条件があるのかもしれん」

「スキルならスキル詳細で条件とか見られると思うぜ?」

「本当か?なら早速見てみるか」


 …………。


「スキル詳細ってどう見るんだ?」

「そこからかよ!?『ステータス』って言えば自分のステータスが出てくるから、そのスキル欄にあるスキルに触れば詳細とか習得条件とか見られるはずだぜ」

「なるほどね、ステータス」


 そう唱えると目の前に半透明のウィンドウが表示された。確かにスキル欄に『魔王』の文字がある。触れば良いんだったか?『魔王』の文字に触れると新しいウィンドウとともに文字列が表示された。


『まだその刻ではない』


「まだその刻ではない……だとさ」

「なんだそれ、効果もわからねぇの?」

「あぁ、何も分からないな。まぁ、いずれ分かるさ。それよりガゼットのとこに戻ろうぜ。クリスが意外と金持っててよ、装備品一式揃えられそうだわ」

「いくら持ってたんだ?」

「20万」

「持ちすぎだろ!?いいなぁ俺にもなんか買ってくれよー、アッシュとは報酬無しでやったから金もらえなかったんだよ」

「余ったらな」

「サンキュー!」


 そんな他愛もない話をしながら、アインと俺はガゼットの店へと歩き出した。


 このユニークスキル『魔王』は一体何なのか。それが判明するのはもう少し後の話。 

2018 7/08改稿

アッシュを弓士→魔法職に変更

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