初戦闘
王都エルドラド。中世の町並みを持った円形の都市であり中央には王城が聳え立つ。それが俺が降り立った街の名前だった。円形の都市には正六角形を描くように6つの大門がある。
北東の第一門、南東の第二門、南の第三門、南西の第四門、北西の第五門、そして北の第六門だ。
今現在開放されているのは北東の第一門と南東の第二門だけだそうだ。
「なんで第一門と第二門だけなんだ?」
「1週間前にグランドクエストってのがあってさ、第一門にでけぇドラゴンが攻め込んできたんだよ。なんとかみんなで倒せたんだけどさ、そしたら第二門が開放されたってわけ」
隣を歩く一条一ことアインが俺の疑問に答えてくれる。なるほど、ということは恐らくグランドクエストをクリアするたびに門が開放されていく仕組みだろう。
「お前はそのドラゴン退治に参加したのか?」
「まぁ一応な。けど成果を競い合うような相手もいなかったし、あんまり楽しくは無かったかな」
「そうかい。それでそのドラゴンは……強かったのか?」
そう聞くとアインは唇の端を吊り上げて笑い答えた。
「あぁ、とんでもなく強かったぜ。」
「あぁ、そりゃぁ……楽しみだ」
そう言った俺は恐らく、笑っていただろう。
「着いたぜ、ここが第一門から一番近い森だ」
チュートリアルを終え、とりあえず戦闘がしたいという俺の言葉を受けてアインが案内したのは、第一門から程近い鬱蒼とした森林だった。森に入ると、太陽光が遮られ少し暗くなる。そのまま5分程歩き続けるとそれは現れた。
「あれは……ゴブリンか?」
「正解。この森によくいる雑魚MOBだな」
緑色の身体に尖った耳、汚いぼろ布が腰に巻かれたそいつはファンタジーでお馴染みのゴブリンだった。その数は3。
「アイン、2体持ってくれ。いろいろと試してみたい」
「オッケー、任せとけって」
アインは両手に装着した鋼の篭手――ガントレットを派手に打ち鳴らしゴブリンの群れに突っ込んで行き、そのまま左右の拳で2体のゴブリンを殴りつけた。おぉ、大分派手に吹っ飛んでいくなぁ。
俺は初期装備である片手剣を鞘から抜き、残ったゴブリンに向かい走る。
「ギギィッ!」
ゴブリンは俺が向かってくることに気づき、不快な鳴き声をあげながらその手に持った剣を振り下ろしてきた。その剣は見るからに錆び付いており、斬るというよりは叩きつけると言ったほうが適切か。
俺は右手に持った片手剣でその攻撃をさばきながら、チュートリアルを思い出していた。
『このゲームにはレベル・ジョブといったものは存在しません。戦闘スタイルはプレイヤーの数だけ存在します』
そんな言葉からチュートリアルは始まった。曰く、どんな武器でも装備することができる。両手に別々の武器を装備することもできる。だが、使いこなせるかどうかは話が別である。
例えば弓の素人が弓を装備したとしても、敵に矢を当てることはなかなか出来ないだろう。
だが、この世界には『スキル』が存在する。スキルは大きく分けて『武器スキル』、『戦闘スキル』、『生産スキル』、『ユニークスキル』の4つに分類される。『武器スキル』はいわば武器を使いこなすためのスキルである。スキル『弓』があれば素人でも弓を使いこなすことができる。『戦闘スキル』は戦闘において役立つスキルや、技のスキルである。『生産スキル』はその名の通り、生産に関するスキルである。『ユニークスキル』はその名の通り珍しいスキルである。効果はピンキリであるが、入手条件はどれも難易度が高い。スキルにはレベルがあり、レベルが上がれば効果も上がっていく。
レベルやジョブが無い分、これらのスキルを活用することが重要である。
ゴブリン相手にしばらく剣を振ってみると色々な事が分かった。
まずスキル『片手直剣』はどのような影響を与えるかということだが、主に動きにアシストがかかるようだった。それは剣を振る速さだったり、切り返す鋭さだったりと。だが、使いこなすというよりはある程度使えるといったほうが正確だろう。恐らくそこから先はプレイヤースキルが重要になってくるのだろう。
「ノブー、こっちは終わったぞー」
「あぁ、こっちももう終わらせる」
最後に『戦闘スキル』を試して終わりにしよう。ゴブリンが振り下ろしてきた剣を下から思い切りカチ上げ、ゴブリンの体勢を崩す。いわゆるパリィというやつだ。そして振り上げた剣を素早く切り返し、スキルを発動する。
「スラッシュ」
瞬間、俺の剣は更に加速しゴブリンを袈裟懸けに切り裂く。そのままゴブリンの体力はゼロとなり、全身を青く発光させながら砕け散った。今のは片手剣のスキル『スラッシュ』である。強力な斬撃を繰り出すというスキルだ。
このゲームではスキルを発動するときに声に出して言う必要があるらしい。さらに一度スキルを発動すると、自分の意思でスキルをとめることは出来ない。
「どうだったノブ?NEXOの初戦闘は」
「まぁまぁかな、意外とプレイヤースキルが重要になってきそうなゲームだな」
「そうだな、だからこそ俺はノブを誘ったわけだし」
「あぁ、これはなかなか俺好みのゲームだ」
そう言って俺たちは笑いあう。そう、プレイヤースキルが重要となるゲーム。俺はそういったものが大好きだ。なぜなら、自らの強さが色濃く出るからだ。
「とりあえず街に戻ろうぜ。この初期装備の片手剣はイマイチ好みじゃない」
「おう、町に戻ったら武器屋行ってみるか」
まだゲームが始まって2週間ということもあるのか、プレイヤーが多い王都の大通りをアインと並んで歩く。
「そういえば門の先にはなにがあるんだ?」
「第二門はまだわかんねぇけど、第一門はイステリアって街があったぜ。まぁ王都に比べると小さかったけどな」
「そりゃこの王都に比べれば小さいだろうよ」
この王都はかなり広い。円形の都市だが、直径10kmほどあるらしい。広すぎるだろう。
ただ、このゲームではプレイヤーは家屋を購入できる。いわゆるマイホームというやつだ。マイホームは様々な用途に使用できるらしい。改造して店舗のようにすることもできるらしい。今も人通りの多い場所には、マイホームらしきものがちらほら見受けられる。
今俺とアインが向かっているのもプレイヤーが営業している店だ。先ほどNPCがやっている武器屋に行ったが、気に入った武器が無かったためプレイヤーショップに向かっている。
「おーいおやっさーん!いるかー?」
「おう、いらっしゃい……ってアインか。そいつはフレンドか?」
そういって俺たちを出迎えたのは身長が2m近い巨漢のひげ親父だった。なんというか……
「まさに鍛冶場の親父って感じだな」
「ガハハ!それを狙ってキャラメイクしたからな!俺はガゼット。見ての通り鍛冶師だ。お前さんは?」
「俺はノブナガ。今日は武器を探しにきたんだ」
「ノブナガか、いい名前じゃねぇか!アインの連れならちっと安くしてやるぜ。そんで?何をお探しだい?」
「あぁ、実は刀を探してるんだが……」
俺がそう言うとガゼットは少し顔をしかめるような仕草を見せた。
「刀か……。今は置いてねぇな。あんまりこういう事は言いたかねぇんだが、刀はオススメしねぇぞ?」
「それはまた、なんでだ?」
「武器スキルは基本的に秘伝書で覚えるってのは知ってるよな?」
「あぁ、あのNPCの店に売ってるやつだろう?」
「そうだ。だがな、刀の秘伝書は店に売ってねぇんだよ。それに習得条件もまだ分かってない。だから刀は使ってる奴ほとんどいねぇぞ?」
なるほど、道理で刀を使っているプレイヤーを全く見かけなかったわけだ。でもそれなら、俺は多分問題ない。
「それなら多分どうにかなるから、刀が欲しいんだ。作れるか?」
「どうにかなるって……いや、詳しくは聞かねぇよ。それがマナーだからな。刀は作れるが持ち合わせはあんのかぃ?」
「いくらぐらいになりそうだ?」
「そうだなぁ、アインの連れだからな。ほんとのとこは10000Gだがここは三割引の7000Gでいいぜ!」
「7000Gか……」
今の俺の持ち合わせは初期の5000Gである。あと2000G足りないが……
「アイン、クエストで2000G稼ぐのはどのくらいかかる?」
「2000Gか。それなら1時間かからないくらいじゃねぇかな」
「わかった。ガゼット、金は1時間後でいいか?ちょっと今から稼いでくる」
「ガハハ!おう、構わんぜ。それじゃあ刀を作って待ってるぜ」
「あぁ。頼んだ。それじゃまた後でな」
ガゼットの店を後にし、俺とアインは冒険者ギルドへの道を歩き出した。