二刀使い
全長7,8mの巨躯は硬そうな鉛色の皮膚に覆われており、その顔では巨大な単眼が周囲の様子をギョロギョロと見渡している。
『サイクロプス』。それがこの第一門の先の草原、正式名称『イステリア草原』のエリアボスだ。
俺とアイン、そしてクロムの三人は遠くからサイクロプスの様子を伺っていた。
「あれがサイクロプスか。弱点は確実にあの目だろうな」
「そ、そうですね。ですがあそこまで身長があると、あたし達の武器じゃ届きませんね」
「そうだな。だとすると、まずは奴の体勢を崩して目に攻撃が届くようにする必要があるな」
俺はしばらく考え込むと、思いついた作戦をアインとクロムに伝える。
それじゃあ、ちゃちゃっと倒してしまうとしよう。
サイクロプスの前まで行くと、こちらに気がついたのか吼えながら歩いてくる。その巨躯ゆえか、一歩歩くたびにズシンと大地が軽く揺れる。
「よし、じゃあ作戦通りに頼むぞ!」
「おう!」
「は、はい!」
俺は近づいてくるサイクロプスに向け、『風刃』を放つ。それを合図に、アインとクロムが走り出す。
『風刃』はサイクロプスの胴体に着弾した。あまりダメージは与えられていないようだが、サイクロプスの注意は完全にこちらに向いた。
「そうだ、俺だけ見とけよこのウスノロが」
『風刃』は、威力は小さいがその分クールタイムが短い。クールタイムが終わるたびにサイクロプスに『風刃』を打ち込み、サイクロプスのヘイトを完全にこちらに固定する。
その間にアインとクロムは、サイクロプスの背後へと回りこんでいく。サイクロプスのヘイトは完全にこちらに向いているため、二人のことを気にも留めていない。
サイクロプスがついに俺の近くまで到達し、その巨腕を豪快に振り下ろして攻撃してくる。だが、サイクロプスはもとよりそこまで素早くない上にディアボリックウルフに比べると月とすっぽんという感じだったので、避けるのはとても簡単だった。
そのままサイクロプスの攻撃を避けながら、隙を見て攻撃をしていく。すると二人が完全にサイクロプスの背後に回りこみ、こちらに合図を送ってくる。
よし、始めるとするか。
サイクロプスの攻撃を避け、隙だらけのその巨体に攻撃を仕掛ける。
「『風刃』」
狙いはもちろん、露骨な弱点である目だ。俺の『風刃』を目に受けたサイクロプスは、叫び声を上げながら両手で顔を覆いのけぞる。
「今だ!」
それを見た俺の合図で、アインとクロムが動き出す。
「『爆・螺旋拳』!」
アインの放った右拳はサイクロプスの右膝裏に突き刺さり、爆発を引き起こす。
「『クレセントムーン』、『メテオアヴァランチ』!」
クロムの右手に握られた片手剣が三日月を描くような斬撃を、そして左手に握られた片手剣が爆発的に加速し突きを、サイクロプスの左膝裏にそれぞれ叩き込んだ。
俺に目を攻撃され、のけぞっていたサイクロプス。その状態で両膝の裏に強烈な攻撃を食らえばどうなるか。まるで膝カックンを食らったように両膝が折れ曲がり、サイクロプスは尻餅をつくかたちとなった。
「『天断』!」
その状態のサイクロプスへ、容赦無く天からの斬撃をお見舞いする。このスキル、擬似的に伸ばした刀で切るというよりも振り下ろして叩きつけるといった方が正しい気がする。
その証拠に、『天断』を頭頂部に叩き込まれたサイクロプスはその勢いに負け、そのまま身体を地面へと叩きつけられた。
「よし!顔面に叩き込んでやれ!」
地にその巨躯を横たえたサイクロプス。この状態ならば、弱点である目を攻撃するのになんの苦労も無い。
「よっしゃぁ!『剛轟鉄槌』!」
アインが飛び上がり、極限まで振りかぶった拳を鉄槌のように振り下ろす。とんでもない轟音とともに拳がサイクロプスの目へと突き刺さり、そのままの勢いでサイクロプスの頭部が地面に叩きつけられる。
拳を引き抜いたアインがその場を飛びのくと、次はクロムがサイクロプスの目へと駆け寄る。
「『アストラルブレード』!」
クロムの右手に握られた剣が黒く輝き、そのまま強烈な一閃を目玉に見舞う。だが、それだけでは終わらなかった。
「『アストラルブレード』!」
先ほど発動したばかりのはずのスキルを、今度は左手の剣で発動するクロム。あの威力から見るに、クールタイムもそこそこ長そうなスキルだが……。まぁいい、今は戦闘中だ。
「よし、少し離れてろ!」
クロムが離れたのを確認し、サイクロプスの目を目掛けて飛び上がる。
「『武突』」
そのまま落下の勢いも乗せた突きを目玉に食らわせる。そのまま、ディアボリックウルフ戦でも使用したコンボを発動する。
「『雷陣』」
サイクロプスの身体を眩い紫電が包み込む。サイクロプスが悲痛な咆哮を上げるが、もうどうにもならない。
そのままサイクロプスは硬直し、青い光となって爆散した。
「まぁ最初のエリアボスだし、こんなものか……」
「いやー楽勝だったな」
「そ、そうですね。こんなに呆気なく終わるとは……」
アインとクロムがこちらに寄ってきて口々に感想を言い合う。
俺は戦闘中から気になっていたことをクロムに聞いてみた。
「さっき、『アストラルブレード』を連続で使ってたよな?あれはどういう仕組みだ?」
「あ、あれはですね……その……バグ技みたいなものなんです」
「バグ技?」
「はい、あたしが自己紹介のときに言った台詞覚えてますか?」
「確か、『二刀使い』だって……。あのときも疑問に思ったんだ。『二刀流』じゃないのか?」
2本の剣を使って戦うのならば、それは二刀流じゃないのだろうか?
「えっと、一応『二刀流』のスキルも持ってるんですけど……。実際にお見せしたほうが早いかもしれませんね」
そういってクロムは俺達と少し距離を置く。
「『ソードダンサー』」
クロムが何もいない空中に向けて繰り出したのは、正に二刀流と呼ぶべき技だった。両手の剣が交互に繰り出す連撃が空を裂く。
「こ、これが『二刀流』の技です。けど、あたしがやってるのは『二刀使い』なので『二刀流』スキルは使ってないんです」
「……つまり?」
「こういうことです」
クロムは再び虚空にむかって技を放つ。
「『スラッシュ』」
それは、俺も使ったことがあるスキルだった。ただ強い斬撃を放つだけの、片手剣の初期スキル。
「『スラッシュ』」
クロムは逆の手ですぐにスラッシュを放つ。スラッシュにもクールタイムはある。あんな風に連続で使えるものではない。だとしたら……
「……まさか、剣ごとにクールタイムが設定されてるのか?」
俺がそう言うと、クロムは正解だと言わんばかりに頷いた。
つまり、右手の剣で『スラッシュ』を使うと右手の剣は『スラッシュ』のクールタイムが始まる。しかし左手の剣はそのクールタイムが適用されず、『スラッシュ』を使うことが出来る……と。
「なるほど、確かにバグ技っぽいな」
「だからあたしは、片手剣を両方別々に使うだけの『二刀使い』って自称してます……」
「それで『二刀使い』か、確かに言いえて妙だな。しかしそれでもスキルを連続で使えるってのはかなり強いよな」
「た、ただ、あくまで片手剣を両手にもって使ってるだけなので、スキル無しの戦闘はあまり得意じゃなくて……」
それでも、強力なスキルを連続で使用したときの爆発力は凄まじいものだろう。
俺の刀でも同じようなことが出来るのだろうか?とも思ったが、やめておいた。現状火力には困っていないし、この先それほどの火力が必要となる場面はそうそう来ないだろう。
「教えてくれてありがとうな、クロム」
「いっ、いえいえ!この程度のことならいくらでも答えます!」
「とりあえず、このことは秘密にしておいたほうがいいかもな。俺達が魔王となってプレイヤーの前に立つ以上、少しでもアドバンテージを得ておきたい」
「は、はい。そうですね……」
「ま、とりあえず今はイステリアだ。ようやく新しい街だ。なにがあるのか楽しみだな」
「そ、そうですね!イステリアは綺麗な噴水があるそうですよ」
「へぇ、そりゃ楽しみだな」
そんな会話をしながら、俺達はイステリアへと歩いていった。




