『国落とし』
「では、次のグランドクエストの際にまた召集させていただきますね。それでは」
そう言って、アイはその場で身体を消していなくなった。そのため、俺達もなし崩し的に解散となる。
「ノブー、このあとどうする?」
「そうだな、当初の目的通りエリアボス倒しに行かないか?」
元々、エリアボスを倒しに行くところだったのだ。そろそろイステリアにも行けるようになっておきたい。
「オッケー。んじゃ行くか」
「あ、あの!」
アインと一緒に俺達が飛ばされた部屋へと向かおうとすると、背後から声をかけられた。
振り返って確認すると、声の主はクロムだった。
「エ、エリアボスを倒しに行くと聞こえたのですが、どこのエリアボスですか?」
「第一門の先のエリアボスだけど」
「そっ、それなら、あたしもついていっていいですか!?実はあたしもまだそのエリアボス倒してなくって……」
「俺は構わないけど……」
そういってアインのほうに視線を向ける。まぁアインも断らないだろう。
俺の予想通り、アインも了承したので3人でエリアボス討伐といきますか。視界の端で、クロムが小さくガッツポーズをしているのが少し気になったが。
ギルドハウスから地上に戻る手段だが、最初に飛ばされてきた部屋で指輪を使うことで地上に戻ることが出来た。
指輪による転移により、景色が一瞬で変わる。転移先は、俺とアインがいた第一門だった。
「元々いた場所に戻ってくるってことか。確かに街のどこにでも転移できたらチートだよな」
……ん?元いた場所に戻ってくるってことは……。
急いで辺りを見渡すが、やっぱりと言うべきかクロムの姿は無かった。
「あー、クロムも元いた場所に転移したのか。どうやって連絡取ろうか……」
クロムとは、というか『六翼の魔王』でフレンドなのはアインだけだ。こんなことならギルドハウスでフレンド登録しておくんだったな。
「フレンドじゃなくてもギルドメンバーならメッセージ送れるぜ?」
「ほんとか?じゃあメッセージ送るか。ここでクロム待つけどいいよな?」
アインの了承の声を聞いて、クロムへとメッセージを送ることにする。ええと内容は、『どうやら元々いた場所に転移させられるようだ。第一門で待ってるから来られるか?』と。こんなもんでいいだろう。送信っと。
さて、クロムからの返信を待つか。と、思った瞬間メッセージの着信を告げる音が鳴った。差出人はクロムだった。ちょっと返信早過ぎないか?
『ご迷惑をかけ申し訳ありません。すぐに向かいますのでお願いだから先に行かないでください』
なんだが必死さが伝わってくる文面だった。行かないから落ち着いて来い、という旨の返信をしておく。
「クロムこっち来れるみたいだから少し待つか」
「あいよー」
そしてぼんやりと待つこと5分程。大通りをとんでもない勢いで爆走してくる人影が視界に入った。その人影は、俺達の前まで来ると急ブレーキをかけて停止した。
「ゼェー…ハァー…お待たせ…ゲェホッ…しました…」
「いやそんな死にそうな程急いで来なくても……」
「私のせいで…お待たせするわけにはいかないので…」
その後、クロムの呼吸が落ち着くまで待ってから話しかける。
「そろそろ大丈夫か?」
「は、はい……。見苦しいところをお見せしました……」
「いや、それは気にしてないから大丈夫だ。それよりもとりあえずフレンドになっておくか?そっちのほうが便利だろうし」
俺がそう言うとクロムは俯きがちだった顔を上げ、その紫の瞳を輝かせた。
「えっ!?フレンドですか!?」
「あ、ああ。駄目だった?駄目なら構わないんだけど――」
「いえ!!全然駄目じゃないです!むしろこちらからお願いしたいくらいです!!」
ぶんぶんと音が出そうなほど首を横に振るクロム。めちゃくちゃ食い気味に否定してきて少しびびったのは内緒だ。
「よ、よし。じゃあフレンド申請するな」
「あ、ありがとうございます!」
「クロムちゃん、俺もフレンド申請送ってもいい?」
「ア、アインさん!ありがとうございます!」
俺とアインからのフレンド申請にとても喜ぶクロム。なんでこんなに喜んでるんだ?ちょっと聞いてみるか……。
「なぁクロム、なんでそんなに喜んでるんだ?」
「そ、それはですね、お二人があたしの……そのー……は、初めてのフレンドだからです!!」
「あー、このゲームの始めてのフレンドってことね。それなら――」
「い、いえ。今までやってきたゲームで初めてのフレンドです……」
クロムが言いにくそうに、顔を赤らめて事実を告げる。瞬間、俺たち三人の間の空気が凍る。
「え、えーっと……今までどのくらいゲームやってきたの?」
「こ、今年で3年目です……」
俺達の間の空気が更に凍る。凍ると言うかもはや空間が固まっている。
どうやらこのクロムという少女。所謂、『ぼっち』というやつらしい。
『おい、どうするんだこの空気。今の確実に地雷踏んだだろ』
『いや、だって気になるだろ。まさか3年もフレンドがいなかったとは』
『話題振ったノブがどうにかしろよ。俺は知らないからな』
『お前っ!?この薄情者がァ!!』
『がんばれよー』
以上が、僅か3秒の間に俺とアインの間で交わされたアイコンタクトの内容である。くっ……、俺がこの状況をどうにかするしかないのか……。
「あー、その、なんだ。すまんかった。でもほらあれだ!俺達もうフレンドだからな!これから仲良くしていこうな?な?」
「は、はい!よろしくおねがいします!」
ふぅ……、なんとかどうにかなったな……。これからはできるだけクロムと仲良くしていこう。
「しかしなんだって3年間もフレンドが出来なかったんだ?」
「そ、それはその……人と喋るのが苦手と言うか、緊張してしまってなかなか自分から話しかけられなくて……」
「そうか、まぁ俺達といるときは別に無理に話そうとしなくていいからな。というかおしゃべりなコイツが勝手に話しかけるだろうし」
俺はそう言ってアインを指差す。アインは無駄にコミュニケーション能力が高いからな。なんか得意げに笑ってるがお前、さっき俺を見捨てた件はまだ根に持ってるからな。エリアボス戦では背中に気をつけるんだな。
「は、はい……ありがとうございます……!!」
クロムが嬉しそうに笑う。彼女は彼女なりのペースで俺達と接すればいいだろう。焦る必要は無い。
「それじゃあそろそろ行こうか」
「はい、よろしくお願いします」
俺達はようやく、エリアボスを倒すために第一門から出発した。
第一門を出て、しばらく歩いたところでクロムが声をかけてきた。
「あの、ノブナガさん。ノブナガさんって他のゲームでもその名前を使ってるんですか?」
「ん?あぁ、そうだな。基本この名前でプレイしてるよ」
「じゃ、じゃあ、『グランド・ウォー・オンライン』ってプレイしてましたか?」
「ああ、してたけど。それがどうかした?」
「やっぱり……、もしかして『国落とし』のノブナガさんですか!?」
「あぁー……」
『国落とし』。それは『グランド・ウォー・オンライン』をプレイしていた頃の俺の異名というか二つ名だ。そのゲームは、プレイヤーが建国できたりするゲームだったのだが、色々やった結果そんな異名がついてしまった。
「……まぁ、確かにそれは俺だな」
「わぁ!!本物の『国落とし』に会えるなんて……!あたし、憧れてたんですよ」
「お、おう……そうか、ありがとう……」
憧れていると言われても、正直嬉しくは無い。というのも、『国落とし』時代の俺はなんというかその……いわば『中二病』のようなものだった。それこそ魔王のような言動をしていたような記憶がある。今思い返してもほんと酷いな、あの頃の俺は。
つまり、『国落とし』というのは俺にとって黒歴史の代名詞なのだ。できればあまり思い出したくは無い、精神衛生上よろしくないからな。
「あー、クロム。憧れてくれたのはありがたいが、『国落とし』の話はちょっと勘弁してくれ。正直、黒歴史であまり思い出したくは無い」
「あ、はい。すみませんでした……」
「いやいや、謝る必要は無いからな?」
そう、謝るべき奴がいるとすれば。それはさっきから声を押し殺しながら必死に笑いをこらえてるこいつだろう。
アインは俺と一緒に『グランド・ウォー・オンライン』をプレイしていたため、『国落とし』時代の俺を知っている。知っているからこそ、思い出して笑いをこらえているのだろう。
「くそっ……!おいアイン。てめぇ月のない夜道には気をつけろよ……?」
「いやぁ悪い悪い。だってノブ、あの頃のほうが今より魔王してたじゃん。今回もあんな感じでいけるんじゃね?ブフッ、フフフフ」
「この野郎……!!」
結局、エリアボスのところに辿り着くまでアインは笑っていた。何回か叩き切ってやろうかと思ったが、クロムが何度も謝ってきたので俺は顔を引きつらせながら「大丈夫」と言うしかなかった。
このストレスは、エリアボスにぶつけさせて貰うとしよう。




