神竜の婚約者と婚約者の試練
魔物→モンスターに訂正。
「わかった。俺はこれからユイの婚約者のカズトだ」
こうして俺は、妄想家のオークから神竜の婚約者カズトになったのだった。
『――妄想再現【ドラゴンっ娘を嫁にする】達成なの! ボーナスとして妄想ポイント100000000pt獲得なの!』
「ふふふ、嬉しいぞカズト」
俺がユイの婚約者になると宣言したら、嬉しそうに笑ってくれた。なんだか脳内で聞こえたが今は無視だ。『む~無視するななの~』って聞こえた気がしたが無視ったら無視だ。
「お、おう。こっちこそ好きって言ってもらったのは初めてだったから嬉しかったぞ」
「ふふ。そういうところも可愛いなぁ。愛やつじゃ」
「ふぐっ!」
その顔があんまりにも可愛くて、顔が熱くなるのを感じながら答えたら次の瞬間には、柔らかなものに挟まれる形で抱きつかれた。フカフカである。……どこで「愛いやつ」ネタを仕入れたのだ?
しばらくして顔を上げると、そこには少し寂しそうな顔をしたユイがいた。
「……どうした?」
心配になった俺は尋ねる。突発的とはいえ俺の嫁は俺の嫁である。まさか、異世界に転生して九歳で嫁が出来るとは思っていなかったが、俺の嫁である。……これ以上言うと、俺への爆発しろメッセージが多数になりそうだからやめておこう。
俺が余計なことに思考を割いていると、ユイが寂しそうな顔を維持しながら話してきた。
「いや、実は私はまだ子竜でな。成体になる為にやらねばならんことが有るんだ」
「つまり……一時的にお別れ?」
「うむ。そういうことだ」
「そういうかとか……」
「すまん。しかもこれには恐らく五年はかかる」
「……」
「すまないカズト」
俺が黙ってしまったのを悲しんでいるとでも勘違いしたのか、ユイが謝ってくる。
「うん、少し寂しいかな。だからしばらくこのままでいさせてくれるか?」
「! わかった!」
こういう時は素直な気持ちを伝えて、その上でじゃあ一つ我儘をするというのが、相手を一番楽にしてくれる行為だ。実際、前世でもこっちでもこの方法は有効だった。
ひとしきりユイの柔らかな感触を楽しんだあと、お別れの時間になってしまった。
どうやらユイは空間魔法と呼ばれるものを扱うことができて、転移魔法が使えるらしい。いわゆるワープと呼ばれるものだ。
この転移魔法は一度行った場所でしか使えないそうなのだが、ユイはすでにそこに行ったことがあるそうだ。
では何故その時にその必要なこととやらをやらなかったかと言えば、どうやら神竜は何度も不死鳥のように生まれ直すらしく、現在子竜なのは生まれ直してすぐだったかららしい。
つまりユイはすでに成体になるためにその場所に行っているため、記憶の上では行ったことがあるが、生まれ変わって子供になったので大人になるための行為はしなければならないということだ。
「じゃあユイは一体いくつな――」
キスによって口を塞がれてしまった。
どうやら竜でも女性に年齢のことはタブーなようだ。
「別に俺はユイが幾つでも問題ないのに」
「そ、そういう問題ではないのだ」
そういうことらしい。
まあ、ちょっと顔を赤くしてるから、俺の言葉もそれなりに嬉しいと思ってくれたのだと思う。
それからしばらくイチャイチャして、ユイが本当に転移魔法でいなくなる準備をした。
「じゃあ、言ってくるぞカズト」
「ああ、一つだけ聞いてもいいか?」
「なんだ?」
「なんで俺の名前はカズトなんだ?」
これは結構気になっていたことだ。なんで気になったかと言えば、かの鋼鉄の城の英雄様のリアルネームと一緒だったことが関係したりしているが……純粋に、自分の名前の由来というのが気になっているのも事実なので言わない。べ、別に漆黒のコートを着てソー〇スキル使いたいとか思ってないんだからね!
「ああ、それか。なんとなくだな」
「なんとなくですか……」
「うむ。私からしてみればどんな名前でもカズトはカズトだから関係ないのだ」
「さいですか」
「む。なんか適当ではないか?」
「そんなことないよ」
「そうか」
俺とユイはクスクスと笑いあう。うーむ。ユイとは今日が初対面なはずなのに何故か気兼ねなく話せてしまうな。
ひとしきり笑ったあと、ユイが虚空から純白の長剣を取り出した。
「これを持っていてくれ」
「これは?」
「婚約者が持つことを許される剣だ。神剣の一つで、名を【永遠の祝福】だ。これを持っているものは神竜の婚約者と周囲に知らしめる効果がある」
「へえ」
「それに、お互いのいる位置がなんとなくわかるし、他にも遠距離で会話出来たりする効果もある。あ、もちろん剣としての性能も十二分にあるぞ。まあ、婚約者によってその特性が変わったりもするのだが」
ふむふむこれはいろいろと特性を調べる必要がありそうだ。
「それじゃあ行ってくる」
「……そうか」
「とりあえず言いたいことが一つだけある」
「なんだ?」
「最低でも二人は妻を増やしておけ」
「は?」
え? こういう時は「浮気するなよ」とかいうもんじゃないの?
俺がキョトンとしていると、ユイがニヤリと笑って言ってきた。
「私の夫になる男が、複数人の妻も抱えられないような甲斐性なしじゃだめだからな、頑張ってくれ。まあ一人は心配していないが……」
最後の方は聞こえなかったが、どうやら俺は強制的にハーレムを作らなければならないらしい。
「ああそれと、神竜の婚約者の試練としてモンスターどもが文字通りごまんと襲ってくるから、帰りは気おつけてな。じゃあな、カズト! 転移・邪竜の顎」
今の不穏な言葉は何! と思ったときにはユイの姿はなかった。
ものすごーく嫌な予感がした。
「きゃ~~~~~~!」
「っ!」
俺は直ちに盗賊のアジトである洞窟から抜け出す。
そして、そこから見える景色に俺は乾いた笑みがこぼれた。
そこにいたのは、文字通り五万のモンスターの大群だった。
神竜の婚約者としての試練が、あまりにも突発的に発生した。
ユイにかかわると展開が異様に早くなる気がするな……
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また、これは妄想したものを創造できちゃう能力を主人公が持っているので、皆さんもこんな道具は強い、面白いなと妄想したものを教えてくださったりすると、本編のちょっとした時や幕間で出したりするかもしれませんので、そういうのも送ってくれると嬉しいです。