妄想家のオークと《妄想創造》
――――《妄想》スキルが最大になりました。ボーナスとして妄想ポイント1000000pt獲得しました。すぐに使いますか? 「はい」? 「いいえ」?
なんだ今のは?
俺はよくわからないまま、とりあえず「はい」と頭の中で選択する。すると、頭の中にまたしても無機質な音声が流れてきた。
――――妄想と現実の区別がつかなくなった記念キャンペーン! 《妄想創造》を使ってみよう 「はい」? 「いいえ?」
妄想と現実の区別がつかなくなったってかなり危ないやつじゃないか! さすがに俺はそこまで言ってないぞ!
よくわからない展開に全力でツッコミを入れながらも、脳内では「はい」を選択する。
選択した瞬間に、脳内にさらなる情報が流れ込んできた。
――――妄想と現実の区別がつかなくなった記念キャンペーン! 妄想ポイント1000000pt消費して以下のうちどれかをゲットすると、おまけとして君に必要なものをランダムでゲット!
・「スーパーハイパーダークマスターフレイムドラゴンソード」
・「王さまの言うとおり」
・「神龍の血」
なんだと!? これは俺が妄想の中で登場させたアイテム達じゃないか!? まさかこれが手に入るのか!?
俺は興奮したまま三つのアイテムを見る。
こ、これは……えーと最初はスルーの方向でお願いします。まあ、あれだ、すごい黒い炎が出る剣とでも思っておけばいい。というかこれ以上俺にこいつの説明をさせないで欲しい。
二つ目は被ると国民に言うことを強制的に聞かせるアイテムだ。確かブタみたいな愚王が使っていたアイテムで、本物と違ってイケメンな俺がそいつに囚われた美少女を助け出すという妄想だったはずである。
この二つは正直ハズレアイテムだな。いや、どちらもかなり強力なんだけど絶対に使いたくない。理由は、最初の剣に関しては一時期とある病を患っていた人ならわかってくれるだろうし、二つ目は愚王が使っていたものだけに使いたくない。まあ、そもそも俺は国王じゃないから使えないんだけど……
で、本命は三つ目の神龍の血だ。これは……いや、これを使うのはもう決めたのだから、説明するよりも実際にこれを使うのが一番だろう。
俺が脳内でこれを選択すると、自然と言葉が紡ぎ出された。
「妄想創造――【神龍の血】!」
――――妄想ポイント1000000ptを消費して、アイテム【神龍の血】を手に入れました。現在の妄想ポイントは0ptです。
俺の言葉を発すると、脳内にまたしても無機質な音声が流れて、手元にガラスのようなものでできた小瓶が現れる。外は透明になっていて中には虹色の液体が入っている。うん、俺が妄想で考えた通りのものだな。
今回のことで確信した。スキル《妄想創造》は俺の妄想の中で出てきたアイテムを創造するというものなのだろう。何というか……本当に妄想と現実の境界がなくなってしまったのではないかという感じだな。
それにしても、これを実際に飲むことになるなんて、緊張するな……
ジッと小瓶の中の液体を見つめる。こいつの効果はとてつもないものなのだが、その効果を得るために激痛を伴うのだ。副作用みたいなものだな。
目を閉じて心を落ち着ける……よし!
俺は意を決して小瓶を開けて虹色の液体を飲み干す。
すると、
「がああああああ――――!」
痛い!いや、痛いとかそういう次元じゃない!体の感覚を全て持っていかれる感じだ!しかも体を内部からいじられている感覚もある!
俺はその場でうずくまりのたうちまわった。
どうやら外から俺の叫び声に気がついて入ってきた奴がいるみたいだが、そんなものに構っている暇はなかった。もはや意識を保てなくなってきている。
意識が朦朧となっていると、盗賊たちが騒ぎ始めた。
「な、なんだあいつ!?」
「髪が白くなってるぞ!?」
「体も、なんか変化してるぞ!? バケモノか!?」
――【神龍の血】は、俺が異世界に転生して初めて自分の容姿が最悪であることを知り、落ち込んだときにした妄想の中で出てきたもので、それを取り込んだ人間を、激痛を伴いながら超越種へと進化させるものである。つまり、その痛みに耐えきれれば力を得られる劇薬だ。
よかった、ちゃんと効果は発揮しているようである。本当に俺が妄想したものを現実のものとするようである。
俺は安心したのか一瞬意識を手放した。
…………
永遠に続いたかのような、ほんの一瞬の時間の後、痛みが治まってくると、視界に沢山の赤いスカーフを巻いた盗賊たちが驚愕と困惑半々の顔で見ているのに気がついた。どうやら俺は痛みに耐えきったようである。
一瞬の時間で痛みが引くのは、妄想での設定上、すぐにパワーアップが必要だったための処置だ。俺の脳内妄想でも「永遠に続いたかのような、ほんの一瞬の時間」というのを考えていたが、これほど苦痛な物はないな。
そんなことを思いながら俺は立ち上がると、俺は全身の状態を確認する、腕も足も体もすべてがやせ細っているな、まあそういう設定だから仕方ないか、【神龍の血】の効果はまだ続いているのだから。今も淡い光が俺を包み込んでいる。これがあるうちに早く行動しなければならない。
それにしても服がだぼだぼだな。これじゃ全力で走ったら即座に公然わいせつで現行犯逮捕されそうである。一応俺はまだ九歳だからぎりぎりセーフだとは思うが、単純に恥ずかしい。
「妄想創造――【ランダム】」
俺はもう一度、妄想創造スキルを使った。これはあの、妄想と現実の区別がつかなくなったキャンペーンのおまけの防具を創造するためだ。
俺の言葉によって、全身に新たな装備が現れた。
新たに現れたのは、黒の革の、赤いラインがアクセントとして入ったシャツ、ダークグレーの革ズボンと、夜のような群青色のフード付きローブと、光をプリズムのように反射する、クリスタルのネックレスに、透明な石が付いたシンプルな銀のブレスレットだった。もともと着ていたものは床に落ちている。
どうやらこのスキルは、ただ妄想したものを手に入れることができるだけでなく、自分が妄想したものをその場で装備できるみたいだな。便利である。
『その通りなんですの』
ん? 今なんかしゃべったか?
『はいですの!』
……えーと、どちらさまですか?
『今はそんなことしてる場合じゃないの! 目の前にいる盗賊を倒すのが先なの!』
っと、そうだな、まだやってないことがあるもんな。
俺は右手でネックレスについたクリスタルを握りしめると、俺の変身や装備が一瞬で変わったことに驚愕している盗賊どもを見て一歩踏み出しながら呟いた。
「じゃあ、初の無双をやってみますか」