妄想家のオークと勇者一行
「ぐうっ!」
「ハハッ!何が”ぐうっ!”だ。そこは”ブー”っていうところだろ!」
「確かに、妄想趣味の変態オークさん?ほら泣いてみろよ豚みたいにさぁ!」
「グフッ!」
「おらよ!……そろそろ授業始まるな、戻るか」
「そうだな。命拾いしたな」
「だな」
ニヤニヤとこちらを見下してきた侯爵家三人衆は去っていく。
「はぁはぁ……」
俺は呼吸を整えながら、ここ三ヶ月のことを思い出していた。
一瞬にして最弱になった俺は、予想通りイジメの対象になった。誰にイジメられてるかって? そんなの他の侯爵家の人間に決まってる。
彼らは無事に真っ当な天職を得たためステータスが向上し、以前までは実力の問題で手が出せなかった俺を執拗に攻撃するようになった。
それから毎日のように、こうして授業の合間を縫っては俺を痛めつけているのだ。正直あいつらに食ってかかったこともないし、敵対したこともなかったはずなのだが、本当にあいつらの思考回路が理解出来ない。
ま、俺とは本質的に違うものだと見ることで、現在はただ俺に一方的に攻撃してくるバカ程度の認識しかないが、そう思えるのはやっぱり妄想のおかげだった。
俺は先ほど一方的に攻撃されている最中も、必死に相手の攻撃を受け流す方向で考えていた。……失敗したが。
これは俺の妄想の一つに、すべての攻撃を受け流す技術を持った主人公を登場させた事があったからだ。確か、力が弱かったので、全てをカウンターに捧げた主人公だったかな? ラノベでも時々そういうのがあるよね。
ともかく、必死に相手の攻撃を受け流す方向で頑張ったおかげか、剣術のスキルもレベル9に到達してくれたりと成長はあった。最近は家で槍術や弓術など、中遠距離武器も練習してる(もちろんそういった主人公での妄想もした事がある)ので、スキル面の成長はなかなかだと思う。
とはいえ、今の俺は弱者でイジメを受けるのは変わらない。
俺は今後のことを考えながら、必死に授業へと向かうのだった。
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「お、オーランド君、大丈夫ですか!?」
教室に最後に入ってきた俺を見て物凄く心配そうな表情で駆けつけてきたのは、四大侯爵家よりも地位が上であり、かつて魔王を倒した勇者の仲間の一人だった人物の血を引くヒジリ公爵家の長女、金髪碧眼で、眼鏡な美少女、アリス・ヒジリさんだ。
アリスさんはクールな印象があるのだが、非常に優しい方で、俺のような豚、しかも今は学校最弱の名を欲しいままにしているやつにも優しく話しかけてくれる。天職も【聖女】と、正にお似合いだ。ちなみに彼女のステータスはこんな感じ。
姓名 アリス・ヒジリ
種族 人族
天職【聖女】
能力値
HP[20] MP 23
筋力[12] 耐久[12] 敏捷[12] 器用 23 幸運[18]
スキル
《治癒魔法⑧》《聖魔法⑧》《水魔法⑦》《棒術⑤》《MP回復速度上昇⑧》
うん。能力もまさしく聖女様って感じだな。特に《治癒魔法》は回復系の魔法がある《聖魔法》との相性が良いため、理想的な回復担当としての機能を果たすと言われており、チートなのがよくわかる。あ、魔法について説明してなかったな。
魔法にはいくつかの種類があり、基本となるものは火、水、風の三つの種類だ。大抵はこれらのうちどれかに才能がある。さらに聖魔法、呪魔法と呼ばれるものがあって、聖魔法は人族のごく一部が、呪魔法は今もなお受け継がれている魔王の血族とそれに使える魔族が、才能があれば扱える魔法だ。そして、マリアの治癒魔法などは特殊魔法として扱われ、天職を得たときなどに発現する魔法とされている。
アリスが俺に治癒魔法をかけてくれたあと、
「何か困ってたらいつでも言ってください。力になれることがあれば全力を尽くすのも、聖女たる私の務めですので」
と言って自分の席に戻っていった。本当にいい子である。
アリスのやさしさにほんわかして、その流れで授業に入り、魔物や魔族などの情報を勉強したあとは毎日ある戦闘訓練だ。
ここ最近の俺の相手はこの学年で最強の、天職【勇者】を手に入れた王の血族ラインハルト・サクラだ。ちなステータス。
姓名 ラインハルト・サクラ
種族 人族
天職【勇者】
能力値
HP 25 MP 25
筋力 15 耐久 15 敏捷 15 器用 15 幸運[18]
スキル
《勇者⑨》《剣術⑨》《聖魔法⑨》《火魔法⑧》《縮地⑤》《HP回復速度上昇⑦》《MP回復速度上昇⑦》
うん、こんな奴に勝てるわけないだろ。しかも幸運以外はすべて限界じゃないというのだから恐ろしい。――っていうかこいつといいアリスといい幸運高くないですか!? 俺[1]ですよ!? しかも二人とも美形だし! 理不尽すぎるでしょ!
「はぁはぁ。参った」
「お疲れ様ですオーランド君。神よ、その優しき愛で以て、汝が子等を癒し給え」
俺がラインハルトと戦ってボッコボコにされた後、アリスが詠唱して俺に治癒魔法をかけてくれた。ちなみに、この世界の魔法には名前がない。この文章を詠唱をすればこの魔法を発動できる、と言うのもといったことしか教えてもらってないからだ。中二的な名前の魔法とか、一度でいいから撃ってみたかったので、この事実を知った時には、少しガッカリしたものである。
「ありがとう、アリスさん」
「ううん、当然のことをしてるだけだよ」
「いやアリス、治癒魔法をやめるんだ」
俺がお礼を言って、彼女がまさしく聖女のような笑みを向けてくれるのたのだが、そこに割り込んできたのはラインハルトだ。
「なぜです?」
「今は訓練中だ。痛みになれることも必要だろう」
俺は心の中でやれやれと思いながら、しかしそれを表情に出さないようにラインハルトを見る。
彼は自分が言っていることがすべて正しいと思っているところがある。しかもそれでいて嫉妬深いところがあったりして、しかもそれを自覚していないのだからたちが悪い。
だってこいつ、今の戦闘の時も実に楽しそうな表情で俺を殴ってたからな。実際、今もスッキリした表情をしているし。お前はすべてを持っているくせに何が不満なのかね。なんというか、今後あまり関わり合いになりたくないタイプだ。
「だから、俺が許可するまでアリスは治癒をかけないでくれ」
「そんなの知りません。なぜラインハルト君に私の行動を決められなければならないのですか?」
「アリス……」
アリスさんのあっけらかんとした答えに、ラインハルトは苦い表情になる。
すると「クス」という笑い声が聞こえてきた。その声にラインハルトが後ろを向く。
「どうしたんだ」
「……なんでもない」
「うむ。アヤセは某の言葉に笑っただけである」
「……それもない」
「む、そうであるか」
「ははは、ロズワルドは相変わらず口調が面白いなぁ」
「……あなたもそれなりに変」
「アヤセちゃん。それは言ったらあかんて」
ラインハルトが向いた方にいたのはアリスさんと同じ、先祖が勇者の仲間だった、現在の公爵家の人達である。
最初にアリスに関係ないと言われたことについて笑ったのが、国王直属の騎士団を作っているというアヤセ公爵家の黒髪ショートボブとやや眠そうな雰囲気のある黒い瞳をした少女、カタナさん。
それから某とか言っちゃってるのが国王直属の魔術師団を作っているイワタ家の仮面をつけて顔が分からないロズワルドさん。
さらにはんなりとした口調の少女が、国の財政を管理しているアサヒ公爵家の栗色髪にはしばみ色の瞳のアナである。
三人のそれぞれの天職はカタナが【侍乙女】、ロズワルドが【大魔導士】、アナが【錬金術師】である。名前だけでもチートが満載だな。
彼らはいわゆる幼馴染らしく、いつも一緒に行動している。なんで俺がこの人たちの間に入ってるのかな? まあ、そんなまさしく勇者一行な感じな人たちのおかげで、俺は弱者ではあるが力をつけているので文句はない。苗字の方が完全に日本人なんだよな。この世界にラノベを持ち込んだのも勇者って話だし地球人だったのだろうか?
っていうかカタナさんさっきボソッと「勇者も聖女相手にはかたなし」って言ってたよね。しかも凄く楽しそうな表情。もしかしてSなのかな?
「アリスさんありがとう。もう大丈夫。サクラ様、もう一本お願いします」
「ああ、受けてたとう」
そして俺は弱者なりに強くなろうと努力した。
――いつまでもこんな状況が続くとは思っていなかったから。