神竜の婚約者とエルフとの邂逅
「あなたに私の国に来ていただきたいのです」
「…………ほえ?」
俺は突然現れたエルフさんによくわからない勧誘をされた。
……うん、改めて考えてもよくわからない。
「姫様、それでは誰も分からないと思うのですが」
なんか新しく人がやってきた。
新たにやってきたのは人物は女性で、こちらは小麦色の肌に紫の瞳と髪をした美少女だ。おそらくはダークエルフだろう。
なぜかこの子も執事服を着ているのだが……
あれか? 美少女従者はみんな執事なのか? この世界なんかおかしくね?
「初めまして小さな竜殺しさん。私はメアと申しまして、こちらに居られます御方の従者をさせていただいております」
「は、はあ、俺はカズトだ。で、こっちはハクだ」
「そうですか。この国の初代国王である方と似たような名前ですね。もしかしてそれが強さの原因なのでしょうか?」
「え?」
あれか? 俺が名前を付けた理由が英雄にあやかったってバレちまったのか? それは気まずいぞ。
「失礼ですが、そう言ったことを詮索するのはやめていただきたいのですが。坊ちゃんは今の戦闘でだいぶお疲れのようですので」
「おっと、これは失礼しました」
「ええ、大変失礼ですね」
「そうですか」
「はい」
「これはこれは手厳しい」
俺が無意味なポイントで混乱している間に執事vs執事の言葉による争いが繰り広げられていた。普通に怖いんですが?
「ふふふふふふふ」と執事二人が謎の争いを始めたので、俺は取り合えず最初に話しかけてきたエルフさんに話を振ることにした。
「えと、とりあえず君の名前は?」
確か執事ダークエルフに姫とか言われてたよな? 旅人みたいな格好だが何かあるのだろうか?
「あ、はい! 私の名前はソフィア=ジ=エルフィーノと言います。エルフの国であるエルフィーノ森皇国で一応姫をやらせていただいているものです」
「ふうん……」
やっぱり姫だったのか、エルフィーノ森皇国はエルフが住む森の中にある国だと学校で習った。
基本的には他国とのつながりは低いものの、かつての国王との交友関係か、俺たちが住むサクラ王国とは懇意にしているらしい。
そんなところの姫様がやってきたのだからおそらくは何か外交関連のお話だったのだろう。
……いや、それならそれでそれなりに大きなニュースになってるはずだよな? 一国の姫がやってくるなんて大きな出来事だし。
それに格好もそれなりにおかしいよな。さっきも思ったが完全に旅人の格好だし。
……あれ? なんか面倒事の予感?
「あ、あのー」
「……」
「あのー」
「……」
「あのー!」
「ハッ! ごめんごめん。それで、一国のお姫様が俺みたいな一般人に何の用?」
いかんいかん、思わず思考がえーめんどくさいといった方向へと向かってしまった。
「? 執事がいるのに一般人なんですか?」
「うん、一般人だよ」
まあ、普通は執事なんていないよね~というか、本当ならもう「オーランド」は死んだわけで、ハクは俺についてくる必要はないんだけど、なんか普通についてきそうなんだよなぁ。
「それで? 一般人で、それもまだまだ子供な俺に何か用があるの?」
「あ、はい! そうでした! 本当なら子供であるあなたにこんなことを頼むのはおかしいのですが、あなたの実力を見込んで折り入って頼みがあるのです」
「頼み?」
「はい、私の国に居座っている悪しき魔物を打倒していただきたいのです」
悪しき魔物、ねぇ……
「……それは一体どういうこと?」
「それは私が説明しましょう」
「あ、メアさん」
どうやら執事対決を終わらせてこちらへとやってきたらしい。
「私たちが住むエルフィーノ森皇国には、それはそれは重要な拠点がいくつかあるのです」
「重要な拠点?」
「ええ、そのあたりの話は何分国家機密に関わりますので、私たちの国に来ていただくということを了承していただいたうえで、尚且つ我らの国の領内に入ったあとに説明させていただくとして、現在その重要な拠点に居座っている悪しき魔物がいるため、我々は非常に困っているのです」
「ふうん」
「しかもその悪しき魔物は非常に強く、我々の国の精鋭でも太刀打ちできませんでした。それゆえサクラ王国にご助力を賜りたく秘密裏にはせ参じた次第なのですが、残念なのことに今は人手が足りないとのことで断られてしまいまして……。ですから、あの大きな黒竜を打倒したあなたのような強者に来ていただきたいのです」
「もちろん、私たちはそれが成ったときには多大な報酬を用意しております。どうか、受けてくださらないでしょうか」
「ふうん」
何というか、実にテンプレな展開だな。
どこ行こうか? って迷ってたら、国が困ってるからあなたの強力な力で助けてください! って言われて目的地をそこにする。
うん、実にびっくりするくらいテンプレな展開だ。
それなら、返答は決まっているだろう。
「なるほど、報酬がいただけるのね。まあ交渉としては必要なことだよな。それにエルフの国にもいきたいと思ったことはあるし」
「と言うことは!」
「──だが断る」
「…………は?」
うん、これって一度は言ってみたいよね~