神竜の婚約者と出した答え
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最初のブレスを躱わして空中を吹っ飛んだあと、すぐさま体勢を立て直して、俺は回避に徹していた。
あの黒竜を倒す算段はついているのだが、考えなければいけない事があったからだ。
──俺は何をしたいのか。
神竜の婚約者としてどうしても決めなければならないと俺の心が訴えてきている。
正直な話、こんなこと前世では一度も考えたこともなかった。
そもそもそんな事を外見年齢9歳の俺に聞かないで欲しい。いや、確かに精神年齢は二十代後半に差し掛かるけれども過ごしてきた環境がずっと子供としてのものなのだから許して欲しいのだ。
「──ってあぶね!」
俺は何度目かのブレスを躱わして、距離を取る。
……じっくり考えてもなかなか決められるものではないのに、こんな命を賭けた戦いのさなかではまともに思考できるはずもない。
そもそも俺は妄想するのは大得意だが、先を見て思考するのはかなり苦手なのだ。実際、勘当してもらったはいいがそれが正解かはよく分からないしな。
『いつまで逃げるつもりですか!」
「さあ、な!」
─―っと、今度は滑空してきて噛みつき攻撃か。なかなかに危ないな。
……っていうか、今の俺は全力の横っ飛びで百メートルくらい移動できるのか、完全に人外だな。
それにしても先ほどから黒竜すごく苛立っているな。せっかちな性格だから余計に腹が立っているのだろうか。
……今思うとユイもそれなりにせっかちかもな。好きだと思ったらいきなりキスして、婚約してって言ってくるし。しかもキスが婚約の証でそもそも婚約成立しちゃってるし……
──っと思考が逸れた、今は自分がしたいことを探すんだった。
俺はその後も回避をしながら自分がしたい事が何か考え続けた。別に一時間もそうしているわけじゃない(おそらく五分程度)のだが、さすがに人外でも体力や集中力に限界はある。
「ぐうっ!」
何度目かのブレス攻撃に、対応が遅れて俺は吹っ飛ばされてしまった。
『死になさい!』
同時に黒竜は俺に急接近してきて、尻尾を叩きつけてくる。
「く────っ!」
俺は重力魔法を使ってなんとか直撃は避けたが、あまりの膂力にとんでもない速度で地面に叩きつけられたあと、勢いそのままに転げ回る。
かぁーキッツイなぁこれ……
本来あのレベルの竜っていうのは勇者を含めて一万人くらいの兵たちで倒さなきゃならない相手だ。
いくら多くの盗賊や魔物達からステータスを奪っているとはいえ今の一撃はかなりのものである。
『くう!何ですかこれは!』
黒竜の方を見ると、体を痙攣させて地に倒れていた。
実は黒竜の尻尾が当たった瞬間に、接触している部分から強烈な雷を体内に流してやったのだ。様子を見ると完全に麻痺しているようである。それなりに効果があってよかった。
ふう、これでだいぶ時間を稼げるかな?
俺はしばらく横になったまま(正確には動けない)、先ほどから考えていて、しかし未だに出てこない答えを探す。
──俺が何をしたいのか。
本当に難題だ。
そういえば物語の主人公たちは、大抵何かの信念を、どこかのタイミングで定めるよな……
例えば好きな人がいるからその人のために行動したいとか、転生ものなら過去に未練があって転生した先では後悔しないように頑張るとか、意外とシンプルなものが多いな。
なら俺はどうだろうか? 俺の根源は何なんだろうか? 前世でも特にこれと言った悩みもなく死んでいった俺には、何があるんだろう……
……………………
やっぱり俺の根源はもうそうだろう。……身もふたもないな。でも本心だ。
そんで、俺が妄想するのって、自分が何でもできて、かつ困っているヒロインを助けるパターンが多い。
だって女の子にはかっこいいところ見せたいし、何より女の子は笑っているものだろ。まあ、悪い方向に狂った女の子にはちょっと制裁を加える必要はあるかもだけど、でもやっぱり女の子が笑っているところを見たいのは本心なわけで……
つまり、俺の根源は、「妄想みたいに自分の手で女の子を笑顔にしたい」ということ、なのかな?
うーん。これだけ聞くと俺は相当なガキだな、精神年齢二十代後半なのに。……うん、でもこれが俺の中で一番しっくりくるな。
気がつけば俺の心はしっかりと固まっていた。特に迷いもなくなている。
体も大ダメージを受けているはずなのに軽くなったように感じた。
『よくもやってくれましたね……』
俺が自分の中でしっかりとした気持ちで意気揚々と立ち上がると、黒竜が忌々しげにこちらを睨みつけていた、どうやらかなりのヘイトをためてしまったようだ。
まあでも、俺も答えが出たからここからは攻撃に出るけどな。
俺は右手に魔力を込めながらニヤリと笑って黒竜を見ると、さっき質問された最後の質問を答えてやることにした。確か「力を得て何をしたいのか、だったよな」
……そうだな、俺の根源は「妄想のように女の子を自分の手で笑顔にしたい」だから、さしあたりまずは──
「俺が力を得たいのは、俺のことが好きだと言ってくれたユイに後悔をさせたくないからであり、何より彼女に俺と結婚してよかったと笑ってもらうためだ」
こうして俺は、自らの信念を込めて黒竜を倒すために自ら突っ込んでいった。
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