神竜の婚約者と雷と重力
「なるほど、確かに《重力魔法》は強力だけど、レベル1の状態だと使い勝手が悪いな」
俺は周りの状況を確認しながらうんうんと頷く。
今、俺の周りでは、半径十メートル以内に入ってきたモンスターだけがのろのろとした動きになっている。これはその範囲の重力が三倍になっているからだ。
そして、この能力が《重力魔法》レベル1の限界。これでは使い勝手が悪い。
《消滅魔法》などは、おそらくレベル1の段階でも、体の一部を消し飛ばすことくらいは簡単にできるだろうから、消費ポイントが多かったのもうなずけるところだ。
そして、もう一つ《雷魔法》だが……
俺は頭上に無数の黄金に輝く電気玉を出して全方位に打ち出す。
すると、そこまで威力はないはずなのだが、食らったやつらがほとんど動きを止める。感電でもしているのだろうか?
しかし、これで大きな魔法でも詠唱する時間ができる。
「滅ぼすは火、拓くは炎…………――」
俺は魔法の詠唱を唱えていく、発動しようとしているのは《火魔法》レベル9の技だ。
魔法についての追加説明をしておこう。
魔法は天職持ちや、今後学園国家に行ったときに出会うであろうジョブを持った人間以外はレベル5以上になることは絶対にない。これは、それ以降の魔法を発動するのに、MP――魔力の絶対量が足りていないからだ。(もちろん、魔法のスキルレベルははそれだけが基準ではないのだが、一般市民が認知しているのはこのあたりまでだし、自分もそこまで詳しくないのでそれ以降の説明は省かせてもらう)
今の俺は相手からステータスを奪い取りっているため、MPに問題はないため高レベルの魔法も発動できる。
そして、ありがたいことにハクが周りで恐怖で動けなくなっていた人たちを一度アジトの中までつれていってくれたので、心置きなく魔法を発動できる。
「――悪しき魂をその聖なる炎で浄化せよ!」
俺が最後まで詠唱を完了させるとあたり一面が一瞬にして炎の海となった。
火属性に耐性のあるリザードマンでさえ、その灼熱の炎に焼かれ散っていく。ぎりぎり、耐えきったものも、その後すぐさま発動した雷の力で撃ち滅ぼす。
「うん、これで地上は殲滅できたな。それに……」
《雷魔法》と《重力魔法》のレベルが3になった。ものすごい成長速度だ。俺の体に何かあるのかな?
「それはともかく、これである程度、暴れられる」
俺は未だ上空で悠々自適に飛びながら、ブレスを放ってきているワイバーンに向き直る。
「堕ちろ!」
俺は《重力魔法》のレベル3で手に入る引力を発生。空中にたむろしているワイバーンの何匹かを引き寄せる。同時に雷を槍のような形にイメージ、未だ空にいるやつらを牽制しながら、落ちてきたやつらを純白の剣で斬り裂く。
それを数度繰り返したら、今度は自身の足場に斥力を発生、自らの体を浮遊させる。
自由に飛べるわけではないが、それでも空にいるという事実を作ることが先決だ。
ワイバーンたちと同じ高さまで浮かび上がると、今度は雷の槍を作り出して、目を閉じて気配感知に切り替える。これによって、一定範囲内にいるワイバーンたちの動きを的確に察知できる為、奴らに俺の魔法が必ず当てられるようになる。
「よし、一斉掃射」
そこから先は蹂躙に近かったのではなかろうか。
感知の範囲内入ってきたものはその瞬間には雷の槍に貫かれ、範囲外にあるものも引力を発動させることで引き寄せて剣で串刺し。
もともと、翼竜は地竜のような魔物よりも耐久が落ちるので尚更倒れるのが早かった。
これによって残ったのは、それなりの大きさを誇る三体のドラゴンだけになった。
うち一体、赤い鱗をした竜が話しかけてくる。
『カカカッ、オマエ、ツヨイナ、アレダケノ、カズ、イッシュンデ、タオシタ』
「そりゃどうも」
『フシギナ、マホウモ、ツカウ、オモシロイ』
「そりゃどうも」
『デモ、オレ、ツヨイ、タオスノ、ムリ』
「それはどうかな?」
俺がニヤリと笑うと、それに答えたのは赤い竜ではなく背後に回っていた青い竜だった。
青い竜の高速での突進。竜自身の重量や飛行速度を考えると、かなりの威力になるだろうそれが、振り返ると目の前に来ていた。
『モラッタ!』
青いやつは勝ったと笑うが、それもコンマ1秒の間に驚愕の顔に変わる。
何故なら、突進が当たる直前俺の体が不自然に上空へ吹っ飛んだからだ。
そんな予想外の事態に体が硬直したため、ありがたくその隙に雷の槍を五本撃ち出し感電死させる。
赤い竜も青い竜がやられたことに驚いて固まっていたので、同じように感電死させた。
うん。《雷魔法》は相手の鱗の硬さを無視して体内に直接ダメージを負わせることができるから非常に有能だ。
《重力魔法》の方も今みたいな時に自身の体と相手の体の間に斥力を発動させれば咄嗟の回避も可能で使えるし。
どちらも、もう少し練度を高めれば、それだけで相手を倒すのが楽になるだろう。
そして、直近の問題は……
「ガルルルル」
今目の前にいる黒い竜だ。こいつはここまで全ての攻撃を躱していた。
こいつは明らかに他の奴と別格だという雰囲気がある。
お互いに油断なく奴の動きを感知しているため、緊張感が高まる。
そんな緊張感を破ったのは――
『……少し、話をしませんか?』
そんな黒竜の声だった? なんだ?