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(後編)

「九十九里学院高校文化祭 臨時駐車場」と書かれた看板が立っているグラウンドに一台の車が停まった。

 中から一人の男が降りてくると、涼子が男のもとに駆け寄った。

「あ、先生!」

「おっ、森沢!」

 そう、男は彼女たちの担任で「九十九里少年探偵団」の監督でもある須崎雅彦だったのだ。

「…とりあえず早乙女から電話で話を聞いたが、どういうことか、詳しく教えてくれないか?」

「こっちです!」

 そういうと涼子は須崎とともに現場へと向かっていった。


「みんな。今、先生来たわよ!」

 涼子と須崎が現場となった美術室に駆け込むと、信幸たち5人と一人かずと、そして絵の作者である椎名早苗の7人がいた。


「…これがその絵か…」

 そう聞いた須崎が切り裂かれた絵をまじまじと見る。

 と、そのときだった。

「…あ、須崎選手…じゃなかった。須崎先生、ですよね」

 一人が須崎に話しかけてきた。

「…君は?」

「あ、早乙女唯の兄で一人と言います。妹がいつもお世話になっています」

 そういうと一人は須崎に向かって軽くお辞儀をする。

「…じゃあ君か。早乙女の言っていたお兄さん、ってのは」

「はい」

「いや、君の妹から連絡があって来てみたんだが…。一体どういう状況で起きたんだ?」

「いえ、ちょうど唯たちと昼飯を食っていたときに同じクラスのヤツが呼びに来て、来てみたらこうなっていたんですよ」

「…それは何時ごろのことか覚えているか?」

 と、和美が、

「…確か早乙女さんのお兄さんが昼ごはんを食べよう、ってことで、時計見たときにボクも持っていた携帯電話を見たんですが、そのときが確か11時40分ごろで、早乙女さんが先生に連絡をする、ってことでお兄さんから携帯電話を借りたときにボクも取り出して時間を見たんですが、そのときが12時40分ごろだったと…」

「…となると、その1時間の間に何かがあった、ってことか…」

「そういうことになりますね」

「…でも、そうだとすると犯人は限られますよ」

 椎名早苗が言う。

「…どういうことだ?」

 一人が聞く。

「ちょうどその頃昼休みでしたから、昼休みの間はどこも展示をお休みするので、中には入れるのは美術部員だけですから…」

「…そういえばそうだったな」

 一人が言う。

「それで、昼休みは美術部員が見回りを兼ねて美術室に入るんですけど、今日は確か松野さんたち…」

「…松竹梅か?」

一人の言葉に椎名早苗が頷く。

「…なんだ、その松竹梅、って?」

 須崎が聞く。

「あ、ウチの学校の美術部員なんですよ。松野香緒里、竹原久美子、梅沢寿代の苗字から松竹梅、って言ってるんですけどね」

 一人がそう説明する。


 と、その傍らでさっきからじっと信幸が切り裂かれた絵を見ている。

「…どうしたの? 鶴田君。さっきからずーっと絵を見たままだけど…」

 唯が信幸に話しかけた。

「いや。何か引っかかるんだよな…」

「引っかかる、って…」

「いや、この絵の切り方がなんか気になるんだよな…」

「どこが気になるの?」

「どこって、言われてもなあ…、なんか気になるんだよな」

 そう言いながら信幸はじっと切り裂かれた絵を見ている。


…と、

「…待てよ。もしかしたら」

 そして絵が切り裂かれた部分をじっと目で追うと、

「…そうか、なんか感じていた違和感はこれだったんだ!」

 そう言うと信幸は唯のほうを向く。

「唯ちゃん。ちょっと頼みがあるんだけど、いいかな?」


「…お兄ちゃん、ちょっといい?」

 唯が一人に話しかけた。

「…どうした?」

「ちょっとお願いがあるんだけど…」

   *

「松野、ちょっといいか?」

 一人が松野香緒里に話しかけた。その傍らには唯が立っている。

「? どうしたの?」

 そういうと松野はメールチェックでもしていたか、右手に持っていた携帯電話を折りたたむとブレザーの胸ポケットにしまいこんだ。

「…椎名の絵が切り裂かれたことに付いて聞きたいんだけど」

「…もしかして早乙女君、あたしがやったと思ってんの?」

「いや、そんなことは思ってないさ。でも、聞いた話だと椎名の絵は昼休みに切り裂かれていた、その昼休みにお前がいた、って言うからさ」

「だからって、あたしがやるわけないでしょ? 確かに早苗の絵が入選したのは悔しいけどさ、これで終わりってわけじゃないし、他人の絵を切り裂くなんて、そんなの絵に対する最大の冒涜だと思うわ。それに…」

「それに?」

「あの後久美子だって寿代だって美術室に入ってたのよ。二人にも話を聞いたら?」

「…勿論、後で聞くよ。…行くぞ、唯」

「うん」

    *

「…竹原」

 一人が話しかける。と、竹原久美子は誰かに電話をしていたか、左手に持った携帯電話で話をしていたようだ。

 と、一人に気がついたか、

「…じゃ、また後で電話するから」

 そう言うと彼女もまた松野香緒里と同じように左手に持っていた携帯電話をブレザーの胸ポケットにしまった。

「…早乙女君、一体何の用なの?」

「ん? ちょっとお前に聞きたいことがあってね」

 竹原はそう言うと、一人の傍らに立っている唯を見ると、

「あら、妹さんも一緒なのね」

「まあな。椎名の切り裂かれた絵のことについて聞きたいんだけど…」

「…いい加減にしてよ。あたしこれから用があるんだから」

「5分や10分くらいいいだろ?」

 そういわれて右腕にはめた時計を見る竹原。

「…仕方ないわね。もしかして早乙女君、あたしがやったと思ってない?」

「いや、そうは思ってないよ」

「あたしがそんなことするわけないでしょ? 美術部員、って言うのは絵を誰よりも愛しているんだからそんなことするはずないじゃないの。それよりも香緒里や寿代も美術室にいたんだから、二人にも話を聞いたらどう?」

「…わかってるよ」

    *

 校内備え付けの自動販売機の前で一人の女子高生が缶ジュースを飲んでいた。

「梅沢、ちょっといいか?」

 一人がその少女・梅沢寿代に話しかけた。

「何? あげないわよ!」

 そう言うと梅沢は右手に持っていた缶ジュースの缶の飲み口を左手でふさぐ。

「誰がお前の飲みかけのジュースなんか欲しがるか」

「じゃあ何の用よ?」

「椎名の絵の件だよ」

「早苗の?」

「ああ。なんか椎名の顔見てたら、かわいそうになっちゃってさあ。何とかしてやりたい、と思ってさ」

「ふーん。早乙女君もいいところあるのね。…それで早乙女君、もしかしてあたしがやったと思ってんの?」

「いや、そうは思ってないけどさ…」

「…仕方ないわね。事件が起きた頃、あたしも美術室にいたしね。…でも早乙女君だって美術室に行ったんだから知ってるでしょ? 早苗の絵が飾ってあったところって外からじゃ見えない死角になってるから、誰だって切り裂こうと思えば切り裂くことが出来るわよ。それに昼休みの見回り、あたしが一番最初で、そのときには切り裂かれていなかったもの。香緒里か久美子がやったんじゃないの?」

「…わかったよ、有難う」

 そういうと一人と結いはその場を離れた。

    *

「…さて、お前の頼みで3人に話を聞いてやったけど、どう思った、唯?」

 一人が唯に話しかけた。

「…うーん。もしあの3人の誰かが犯人だとしたら、他の二人が真犯人をかばう、ってことあるのかしら?」

「…それはあるかもしれないな。ああ見えて松竹梅の3人は仲がいいし、今は椎名、と言う共通の敵がいるからな」

「…となると…、あれが直接の証拠、ということになるのかな…」

 そういいながら美術室に入る兄妹。

「…どうだった?」

 信幸が唯に聞く。

「うん、バッチリ。鶴田君の考えが正しかったら、犯人はあの人しかいないわ。…ねえ、お兄ちゃん。あの人を呼んでくれない?」

     *

「早乙女君、あたしに用、って何?」

 竹原久美子が美術室に入ってきた。

「…竹原。お前なんであんなことしたんだ?」

 一人がいきなり言った。

「あんなこと、って何よ?」

「…お前だろ? 椎名の絵を切り裂いたのは」

 その言葉に一瞬言葉に詰まる久美子。

「…ちょ、ちょっと、何言ってるのよ。あたしがそんなことするわけないでしょ? 確かにあたしじゃなくて早苗が入選したのは悔しいけれど、だからと言って早苗の絵を切り裂くなんて…」

「…それはどうかな? こいつらがお前がやった、って言う証拠を見つけた、って言うぜ」

 そういうと一人は信幸たちをを親指で刺した。

「証拠ですって?」

「…お前ら、説明してやれ」

 一人はそう言うと信幸たちに先を促した。


「…あの絵を見たときにオレは何か違和感を感じたんですよね」

 信幸が言う。

「違和感ですって?」

「あの絵の切り裂かれた後なんですけど…」

 と、信幸は切り裂かれた絵を指差す。

「…あの絵、左上から右下にかけて、切り裂かれていますよね」

「…それがどうしたの?」

「…だって、もしこれがオレみたく右利きの人だったら…」

 と、信幸は絵の前に立つと、右上から左下へ切り裂くような真似をする。

「…とこう言ったように右上から左下に切り裂いたほうがやりやすいんですよね。でもこの絵は左上から右下にかけて何回も切り裂かれている…。つまりこれは犯人が左利きの人間じゃないか、と言う気がしたんですよね。それで唯ちゃんに頼んでお兄さんと二人で松野さん、竹原さん、梅沢さんにそれぞれ話を聞いてさりげなく調べてもらったんですが、その中で左利きだったのがあなただったから、もしかして、今回の事件はあなたが犯人じゃないか、と思ったんですよ」

「どうしてあたしが左利きだと思ったの?」

「だって時計、右手にしてるじゃないですか」

「あら。それだけであたしが左利きだってわかっちゃうの?」

「勿論中には右利きでも好きで右手にしている人もいますよ。でも唯ちゃんが言ってましたけど、あなた左手で携帯電話使ってたそうじゃないですか。そう考えるとあなたが左利き、と考えるのが自然なんですが」


…と、

「…驚いた。そこまでわかっちゃうとはね」

「…じゃあ、竹原。お前…」

「そう、今回の事件の犯人はあたしよ。あたしがあの絵を切り裂いたの」

「…動機は椎名に対する嫉妬か?」

「…そうね。あたし、香緒里や寿代と比べても一番絵がうまいと思っていたのよ。それなのにあたしたちの絵じゃなくて早苗の絵が入選したから、なんか悔しくなっちゃって…。たまたまカッター持ってたから衝動的にやっちゃったのよ」

「衝動的に、ってお前…」

「…そう、確かに切り裂いた瞬間はスッキリしたわ。でも、なんだか悲しむ早苗の顔を見てたら自分でもとんでもないことした、って思ったわ。だってあたしだって早苗と同じくらい芸術を、絵を愛しているんですもの。絵を愛するものとしてこんなこと、やっちゃいけなかったんですものね…、今は早苗に申し訳ないと思ってるわ」

    *

 数日後、早乙女家の夕食の席。

「…で、お兄ちゃん。結局あの件、どうなったの?」

 唯がテーブルの向かいに座っている一人に聞いた。

「ああ、あれか。結局学校内で起こった事だったし、絵のほうも何とか修復できることがわかったそうでさ。竹原が椎名に謝って終わったよ」

「ふーん…」

「…それにしても、嫉妬ってのは怖いね」

「何で?」

「友達って言ってて、表面上は仲良くしてても、本当のところは何考えているかわからないんだからな。唯、お前も気をつけろよ」

「そんなこと無いと思うけどね」

 一人の言葉に思わず苦笑いをする唯だった。


(終わり)


(作者より)この作品に対する感想等は「ともゆきのホームページ」のBBSの方にお願いします。

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