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家の納屋にダンジョンがある ―God in the abyss of despair―  作者: 止流うず
地下二階 磔刑の庭 毒蟲の花園
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「ちぃッ、いきなりこれか!」

 手足の生えたキノコ型のデーモン。それがくるくると回転しながら俺の頭上を飛び回る。

 こいつらがこの階層で初めて出会った(デーモン)だった。

『遊ぼうヨォ! 遊ぼうヨォ!』

 場違いに明るく甲高い子供のような声。

 俺の頭の上を猿かムササビのようにキノコたちは回転しながら飛び回る。周囲の木々を地面か床のように蹴り飛ばし、くるくるくるくる回りながら飛び交っている。

 人間の子供より少しばかり大きいその身体は、俺の頭上を通る度に毒々しい粘液を飛び散らせている。また頭の部分は微弱に呼吸のようなものをしており、そこからは大量の毒粉を噴き出していた。

 月狼の防具を着ているから無事で済んでいるが、これが何の対策もない皮の鎧ならこの階層では満足に行動もとれず、身体は毒素に侵されていたはずだ。

『遊ぼうヨォォオオオオ!!』

 俺に毒が全く通用しないためか、苦悶した人面を貼り付けた人型キノコたちが焦れたように襲い掛かってくる。

「鬱陶しいぞ!!」

 構えていたショーテルをキノコデーモンの頭頂部に叩きつける。

(きのこ型デーモンの倒し方! 頭から刃で命脈を断つべし!!)

 デーモンとは瘴気で作られているが、何かを汚染している以上はその汚染元を模倣する存在でもある。

 だからキノコデーモンがキノコの形を模している以上、その性質はキノコと非常に似通ってしまう。故に下でも上でも縦に斬るなら非常に斬れやすい。

 キノコだからだ。

 しかしその身体は横から切れば非常に固く、鋼鉄のように硬いのだ。そのうえ打撃などの衝撃はその身体構造で吸収し、弱い炎なども表面の毒液で防御してしまう。

 非常に厄介なデーモンだが、オーラを大量に込めてぶった斬れば倒せないこともない。所詮はデーモンだからだ。

 なのだが、それでは武器の消耗を激しくする。

 故にきのこ型デーモンを倒すなら縦に倒すべきなのだ。

 真っ二つになったキノコ型デーモンが地面へと転がる。止めを刺したいところだが、まだまだデーモンたちは襲い掛かってくる。

 毒々しい体液を撒き散らしながら上方左右より襲い掛かってくるキノコ型デーモン。それをそれぞれ真っ二つに斬り裂き、背後から迫り来るデーモンへ裏拳を叩き込む。鍛えた鋼を叩いたような痛みが手の甲に走るがオーラで十分に保護している。痛ぇ。痛ぇが、気になる程ではない。

『遊ぼう遊ぼう遊ぼうヨォオオ!!』

「お、らぁッ!!!」

 起き上がって突進してきたキノコデーモンの顔面にオーラを込めたショーテルを突き刺し、縦に引き裂く。

 遊ぼう遊ぼうと、苦悶した顔より俺へと呼びかけていた声は縦に引き裂いた断片からも発せられていた。

 俺の周囲に転がっている残骸たち。『遊ぼうヨォ…遊ぼうヨォォ……』と何度も何度も呼びかけてくる。

「いいから、滅べ」

 デーモンを滅ぼすのに十分な量のオーラをショーテルに灯すと、それぞれ残骸にとどめを刺すために突き刺して回るのだった。



 この庭園は先ほど上から見た通りに迷宮が如く道が入り組んでいる。

 たびたび遭遇する二方向や三方向に分かれる通路。それらの道の選択を間違えば行き止まりにぶち当たる。何か法則性があるのかとも思うが俺の見る限りでは見つからず、現状全てに総当りするしかない。

 また、出現するのはキノコ型のデーモンだけではない。捕らえていた人々の屍体を消化しきったのか俺へと触手を伸ばしてくる肉食植物や、頭部を花に寄生されたデーモン犬、更に途中途中の通路に置かれた兵士型の石像なども瘴気に侵されているのか、歩き出して俺へと攻撃を仕掛けてくる。

 刃を傷めるのでさすがにショーテルで相手をするわけにもいかず、拳で砕いた石像型デーモンを前に俺はため息を吐いた。

「早く休息できる場所を見つけないとどうにもならないな……」

 そろそろしっかりと身体を休められる場所が必要だった。連戦に次ぐ連戦。それがじりじりと俺の体力を奪っていく。必ず集団で現れるキノコ型デーモン。樹上に本体があるため完全に滅ぼすことの難しい食肉植物。鉄並の硬度の石の剣や盾を持ち、拳で戦うには苦戦する石像型デーモン。

 唯一デーモン犬だけは地上とそう強さが変わらないため苦戦はしないのだが、それでも倒すなら微量にオーラを消耗する。

 そしてその微量なオーラでさえこのような場所では貴重だった。

「救いはそれなりにギュリシアが手に入るところか……」

 消え去った石像が残した銅貨を拾う。

 キノコ型デーモンや石像は上の階層の料理人デーモンよりも強かった。

 タフさでは料理人デーモンの方が上なのだが、特に注意しなくとも倒せるアレと違ってそれなりに速度が速いうえに硬い。硬いから強いのか強いから硬いのか。それらのデーモンの瘴気は密度も高いのか攻撃が非常に重い。

 デーモンを倒して身体能力が上がった今では料理人デーモンの攻撃もそこまでの脅威ではない。しかしそんな俺でさえここのデーモンたちの攻撃をまともに受けようとは思えなかった。

(食肉植物に限っては触手に絡め取られればそのまま食われる恐れもあるしな……)

 そのうえ、この階層の探索には非常に神経を使う。

 食肉植物は無防備にその真下を歩けば触手を伸ばしてくるからだ。そして、その辺の植物の蔦と食肉植物の蔦は非常に似通っている。

 今回の探索で食肉植物に何度も何度も襲われたのだ。

 それでも集中を切らしていないために未だ致命的な状況に陥ってはいないが、何かと戦闘中などの他に神経を使う状態で引っかかれば俺とて無事でいられるかはわからないのだ。

「お、ここにも長櫃があるのか……」

 道をまた間違えたのか、目の前には行き止まりが存在した。

 また間違えたのかと内心でがっくりしつつ、戻ろうとしたところで通路の先に長櫃を見つけた。

 壁のように剪定された木々。色鮮やかだが毒々しい花々。そんなものしか見ていない中、聖言の刻まれた長櫃を見つけるとなんだかほっとしたような気分になる。

 一応、罠と食肉植物に警戒しながら俺は長櫃を開き、ううむと眉を寄せた。

「鋏、か?」

 そこに入っていたのは大人の身長ほどもある両刃の剪定鋏だった。

 7割ほどが柄で、3割が刃の鈍色の長柄鋏。

「……うーむ」

 この階層で使うなら非常に使える武器に思えるのだが、ううむと唸るほかない。

「あらゆる武具の使い方を知ってはいるが……鋏か……鋏かぁ」

 さすがに、こんなものの効率的な扱い方までは教わっていない。

 なぜなら、このような長柄の鋏を作れるほどの金属があるなら辺境人はハルバードを作るからだ。辺境人があらゆるものに武器の可能性を見出すとはいえ、鋏とハルバードでは武器としてはハルバードの方が優位なのは明らかだからだ。

「おいおい、ドワーフ鋼なのか。これ」

 持ち上げてしげしげと眺めればなんと贅沢なことに刃どころかネジや柄まで総ドワーフ鋼製の鋏である。

「なんと贅沢な。神殿の庭師はこんなものを使っていたのか」

 ぶんぶんと鋏を振り回してみる。ずっしりと重く、このダンジョンに挑む前の俺では扱えない程度には重量がある。

 そう、せめて柄ぐらいは木で作ればいいものを、こいつは全てがドワーフ鋼でできている。

 興味を持った俺は両手でしっかりと柄を握り、振り回してみる。

 ネジはしっかりと止めてあるが、さすがに片手で扱うと非常に不安定だ。しかし肉斬り包丁よりは軽く、筋力の増加した今の俺なら扱いやすい重量である。風切り音を立てる長柄鋏は長さが中々良い。

「さすがに叩きつけるのには使えないが刺突槍代わりには使えるな……。それにドワーフ鋼製だ。オーラの通りが良い」

 いくらか聖言も刻まれているようだし、デーモン相手にも使える武器になるだろう。

 しかし何を考えて昔の人間はこんなものを作ったのだろう?

「……いや、詮索はいいか。とにかくこれが手に入ったのは僥倖だ」

 長さも十分。オーラも通る。ならば今まで邪魔だったアレが排除できる。

 鞘もなく、さすがに持ち歩くには長過ぎる長柄鋏を袋に仕舞うと、俺は悠々と歩き出すのだった。



 手に入れたものの出番はすぐだった。

 樹上に生えているため手が出せなかった食肉植物。長柄鋏は当たり前のことだが、それに対して非常に有効だった。

 樹上へと鋏を伸ばし、バチンと触手を斬り落とす、バチンと食肉植物を斬り落とす。まるで自分が庭師になったような気分になるがやっていることは庭師とだいたい同じだろう。

 とはいえ地に落ちた食肉植物は無力というわけではなく、器用に残っていた触手を使い立ち上がり、俺へと襲い掛かってくる。

「流石に動きは遅いからな。相手にはならん」

 真下を通った獲物を絡めとるなら強い食肉植物だが地上での戦いは得意というわけではない。

 如何にデーモンとはいえ、元々は設置罠のような植物だ。地力が足りない。女子供を襲うなら十分だが鍛えた辺境人を相手にするには何もかもが不足している。

 俺はオーラを込めた長柄鋏を花の中心に叩き込むと食肉植物を消滅させる。

 花粉を撒き散らしていたのが主にこの植物だったせいか。心なしか視界に漂う毒粉が減ったように思えた。

「続けていけば視界は良くなるか?」

 今まで周囲を濃密に漂っていた花粉でろくに前も見えない箇所があり、今まで非常に探索が難しかったのだが、これで少しは効率が上がるかもしれない。

「花粉のせいで見落としている道や長櫃があるかもしれないしな。あちこちに生えてるアレを排除するには矢も太矢も足りないから鋏は助かったぜ」

 探索がやりやすくなったことに俺は気分を高揚させると片っ端から道中の食肉植物を排除していく。

 排除には多少オーラを使うが、やってよかったと思える程度には探索がしやすくなる。

 そして、やはりというべきか。

 鋏が長櫃に入っていたのはこのためだったかのように大量の食肉植物が集まっていた地点の先、濃密な花粉によって前すら見えなかった空間にそれはあった。

 巨大な鉄の格子扉。

 鍵はかかっていない。

 ぎぃぃと警戒しながら扉を開いた瞬間に、額に感じる一筋の殺意。

「はッ!!」

 神速の反応でショーテルを抜き出し、風切り音と共に飛来したソレを叩き落とす。

 矢羽も()も鏃も全てが黒い矢。


 ()だ。


 扉の先をじっと見つめる。そこに広がっているのは庭園の続き。しかし、その大半は侵食してきた影の森に埋もれている。

 そして木々の闇から俺を鋭く見つめているものがいる。

 それは襲撃が失敗したことを悟ると音も立てずに消えていった。

 それは曰く黒き森の狩人。

 それは曰く獣を狩る闇。

 それは曰く敵対者を殺す毒の鏃。

「やはり、一筋縄ではいかんか」

 さすがの剛弓。矢を叩き落とすだけで痺れた腕の感覚に苦笑した俺は扉の先へと足を踏み出すのだった。



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