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すみっこ童話・短編

すてきなゆめをお届けします

作者: 神 雪

「さあさあ、みんな! お仕事の時間ですよ! たくさんのステキなゆめを(とど)けてきてね!」


 足首まである白いワンピースすがたのお母さんが、シャンシャンと鳴る(すず)をふりながら、子どもたちを()こしていきます。


 フワフワとしたこれもまっ白なゆかの上に(なら)んでいるのは、ピンクや水色、(みどり)や青などの色とりどりのたくさんの小さなベッドとベッドと同じ色をしたモコモコのかたまり。


 そのモコモコがモゾモゾ動いたかと思ったら、そこから小さな顔がいっせいに出てきました。


「お母さん、おはよう」

「もうお仕事の時間なの?」


 そんな声があちこちから聞こえてくる中、一つだけモコモコが残っています。そのモコモコはお日さまの光の様なうすい黄色いかたまりです。


 お母さんは、(ひと)つ大きなため息をついてから、モコモコをゆすりました。


「ホワン、ホワン、起きなさい! お仕事の時間ですよ!」


 すると、ようやくモコモコからぴょんと小さな顔が出てきました。モコモコと同じ、うすい黄色のフワフワしたかみの毛に、きれいなみどり色のまんまるの目をしたかわいい顔なのですが、小さな手をギュッとにぎってゴシゴシと目をこすっていますから、そのまんまるの目はかくれて見えません。


「ホワン、やっと起きたわね? さあ、みんなも時間ですよ! いってらっしゃい!」

「「行ってきま~す!!」」


 みんながいっせいにとびだして行く中、ようやくホワンもベッドから出てきました。そしてモコモコの毛布(もうふ)をよっこいしょとたたむと、ゆっくりゆっくりフワフワのゆかを歩いて、ピョコンととびおりて行きました。


大丈夫(だいじょうぶ)かしら……ホワン、いってらっしゃい!」


 上のほうから、お母さんの声が聞こえてきました。ホワンもちゃんとお返事します。


「行ってきま~す!」





 ホワンたちは、下の世界でねている子どもたちに、ゆめを届けるお仕事をしているのです。



 水色のパシャンは、生まれたばかりの白鳥の赤ちゃんにきれいなみずうみのゆめを届けました。


 ピンクのヒラリは、かわいい女の子に花のようなドレスのゆめを届けます。



 こうしてみんながゆめを届けて回る中、ホワンはゆっくりゆっくりまだお届け先をさがしています。


 (だれに届けようかなあ。ええと、あの子はモググがお届けしたみたいだし、こっちの仔犬(こいぬ)にはビュンがお届けしたみたい。もう少しむこうに行ってみようかなあ)


 そんなことを考えているうちに、ポツポツと雨がふってきました。もうみんなはお仕事が終わって、ずいぶん前にお母さんのところに帰ってしまったようです。

 

 ホワンもやっとお届け先を見つけました。その男の子は大きなたてものの中で、つまらなそうに雨がふる(まど)の外をながめていたのですが、大きなあくびを一つしてウトウトと目を()じたのです。


 ホワンは知らなかったのですが、雨の日が続いてずっと外で遊べなかったせいで、男の子はちょっぴりイライラしていて、前の(ばん)よく(ねむ)れなかったのでした。



「この子に決まり!」


 ホワンは男の子の頭の上にポスンとおりると、両手を広げてうすい黄色い光を男の子の頭にキュッとおしこみました。これでお届け完了(かんりょう)です。


 帰らなくっちゃ。そう思ったのですが、なんだかホワンまでねむくなってきました。


「ふわわ~」


 小さくあくびしたホワンは、いつのまにか男の子といっしょにねむってしまいました。




 「コラ! 起きろ! まったくじゅぎょう中に()るなんて!」


 大きな声にびっくりした男の子とホワンが目をさますと、こわい顔をした男の人がプンプンと怒っていました。


 (いけない、いけない。帰らなくっちゃ)



 窓の外では、いつのまにか雨がやんでいて、大きなにじがかかっています。そのにじをヨイショ、ヨイショと登り、にじのてっぺんまできた時です。サアッと風がふいて、ホワンの体がもちあがりました。


「あれれっ?」





 ついたところは、お母さんのうでの中。なかなか帰ってこない、のんびりやのホワンを心配したお母さんが、風をおくってつれもどしたのです。


「ただいま~!」


 ホワンがニコニコしながら言うと、お母さんはギュッとホワンを()きしめ、大きなため息を一つついてから言いました。


「お帰りなさい。みんなとっくに帰ってきたのに、ホワンだけ帰ってこなくて、みんなとっても心配したのよ?」


 大すきなお母さんの心配そうな顔を見て、ホワンはなんだか、かなしくなりました。コロンと大きななみだがこぼれます。次から次へとコロンコロン。


「お母さん、心配かけてごめんなさい」


 そんなホワンのせなかをゆっくりなでながら、お母さんはもう一つゆっくりため息をつきました。そして、ホワンのなみだをやさしくハンカチでぬぐうと、ホワンとおでこをコツンとくっつけました。


 お母さんが子どもたちとおでこをくっつけると、子どもたちのお仕事のようすがお母さんにも見えてくるのです。


「あらあら。ホワンったら、いねむりした男の子に【日だまりのゆめ】を届けたのね! うふふ、先生にしかられてしょんぼりしてるけど、男の子も雨でたいくつしてる時にほんわかしたゆめをみて、とってもしあわせそうな寝顔(ねがお)だこと。きっとこれからも、たいくつな雨の日にほんわかを思い出してくれるわね!」


 お母さんがクスクス(わら)いながら言ってくれたので、ホワンにもようやく笑顔(えがお)がもどりました。


「ホワン。次のお仕事の時は、ホワンもいねむりしちゃダメよ? それから、もう少し早く帰ってきてね!」


 ホワンは「はあい」と元気にお返事してから、大きなあくびを一つ。


「ふわわ~」



*おしまい*

お読み下さってありがとうございます!


下記に今回とこれまでの企画の検索ページのリンクがあります。

ご活用下さいませm(__)m

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