死ぬ前に最後の選択を
「もしもーし、生きてますか?」
僕はゆっくりと目を開けると、黒いフードをかぶった少年が目の前にいた。
「目覚めていきなりで申し訳ありませんが、おめでとうございます!仮死者になりました。」
「あのー、君はいったい誰なの?」
そう言うと少年が頬を膨らました。
「『君』とは失礼ですね。あなたの年齢とは桁が違いますよ。まあ、それは置いといて申し遅れました。私は46代目死神のケリトでございます。」
「死神?そんなの本当にいるの?」
「疑うのも無理はありません。動物界 脊椎動物門 有羊膜亜門 哺乳綱 真獣亜綱 霊長目 真猿亜目 類人猿科 ヒト亜科 ヒト属、すなわち、人間は大多数の意見を真とします。だから、死神を見たと言っても信じてはもらえません。事実あなたも信じることはできないでしょう。しかし、私が死神であることは疑いようのない真実なのです。」
僕は信じることができなかった。ケリトは機械を用意し始めた。
「最近の地球は進歩がすさまじいですね。今までの進度だともう少し時間がかかると思っていました。」
「神ってそう言うものを作れないんですか?」
「あー、やっぱり人間ってそう思っているんですね。神だから何でもできるって訳じゃないんですよ。私はあくまで『死神』です。生産は創造神のマルナの仕事です。死神は活動費に予算の大半を費やしているので、私の機材が揃うのは地球と同じくらいのスピードです。」
そんな会話をしているうちに、機材の準備が完了していた。
「これから何をするんですか?」
「これから黒戸 琥珀様の人生ハイライトを流そうかと思いまして・・・。」
そう言ってケリトがプロジェクターのスイッチを押すと、映像がスタートした。その中には、僕しか知らないはずの出来事も入っていた。
「・・・どうでした?いろいろと思い出しました?」
「はい。でもこれってどう言ういm・・・」
「これから黒戸様には選択をしてもらおうと思います。」
「選択?」
「はい。生きていくか、死んでしまうかです。」
僕は迷った。なぜなら自殺志願者だったからである。志願した理由はいじめられていたからである。家を出た後に近くにあるビルから飛び降りたのだ。
「すぐに決める必要はありません。ここの時間はとても遅く流れるように設定されています。ゆっくりお考えを。」
数日考えたが全く答えが出てこない。そのとき、ケリトが提案してきた。
「せっかく仮死者に選ばれた訳ですし、少し遊びますか?」
「え?どう言うことですか?」
「この世の神々も暇しているのです。せっかくですから遊んでいって下さい。」
ケリトは僕の手を引っ張っていった。
「どこに行きましょうか?」
「どこって言われても・・・。」
「そうでしたね。じゃあ、カシヤのところに行きますか。」
「カシヤ?」
「はい。カシヤとは運命共同体ですから、仲はいいですよ。それに、あなたの選択の手助けになるかもしれません。」
ケリトは家の前に止まって、チャイムを鳴らした。
「カシヤー!生きてるかー?」
「生きていますよ。」
「今日はお客様がいるんだけど、大丈夫?」
「もちろん。どうぞ入って。」
チャイム越しの会話が終わり、僕とケリトは入り口に向かう。
「神も家に住むんですね。」
「仕事にもよりますが、自分の空間は必要ですから。」
家の中に入ると、豪邸のような広さだった。
「いらっしゃいませ。黒戸様。」
白いコートにフードをかけた人が出てきた。
「あ、こんにちは。」
「カッシヤー!」
ケリトがカシヤに飛び込んだ。
「抱きつこうとしないで!」
そう言って、ケリトを叩き落とした。
「あのー、カシヤさんは・・・?」
「『カシヤさん』なんてもったいない。『カシヤ』と申しつけ下さい。」
「あっ、はい。何で僕に対して敬語なんですか?」
僕のぎこちない質問に対してカシヤは微笑みながら答えた。
「天界から見たらお客さんですし、私たちがいるのはあなた方のお陰ですから。」
僕はよく意味がわからなかったが、カシヤは話を続ける。
「私たちはあくまで地球の神でございます。地球が消えたら私たちも消滅いたします。」
「そうだったんですか。」
「って言っても僕たちは関係ないけどね。地球より僕たちのほうが早いだろうから。」
ケリトはふたりにわざとらしく言った。
「だって、私たちの寿命は残り六千万年くらいですから。」
「寿命もあるんですか。」
「はい。ケリトも私も46代目でございます。基本的に寿命は一億年でございます。」
そのとき、犬がケリトに向かって寄ってきた。
「待って、何度も言うけど動物は苦手なんだって!」
ケリトは全力疾走で逃げていた。それを見て、僕とカシヤは笑っていた。
「カシヤはケリトとどう言う関係ですか?」
「といいますと?」
「来ている最中に『運命共同体』と言っていたので・・・。」
「あー、そのことでございますか。私は『産み神』でございますから、一方が消えると、もう一方が消える仕組みになっているのでございます。あ、補足しておきますと我が夫でございます。」
「えっ!?カシヤは女性、いや、女神だったんですか?」
「左様でございます。」
フードをはずすと、ロングの黒髪が姿を現した。
「ちょっとカシヤー!助けてー!」
遠くからケリトの声がする。
「あの犬は私の大切なパートナーなんですよ。」
カシヤは微笑みながら、ケリトを助けに行った。
「はぁはぁ、死ぬかと思った。」
「あなたは死神なんですから、死にませんって。」
僕は思わず笑った。
「死神はみんなの嫌われ者かと思っていました。」
「とんでもございません。むしろケリトは神の間では人気ものでございます。」
「そうなんですか?」
「この制度を作ったのもケリトでございます。」
「そうなんです。黒戸様みたいな方が間違った道を行かないように・・・」
次は子犬の集団がケリトに向かってきた。
「えぇぇぇぇぇ!?いつ犬が増えたの?」
そう言ってケリトはまた逃げ始めた。
「黒戸様、少し真剣なことを申し上げます。あなたが死を選んだ理由などはもう知っています。天界からは何でも見えますから。しかし、逃げる手段として『死』を選ばれるのはどうかと思われます。『生は難く死は易し』ということわざもあります。」
「でも・・・。」
「承知しております。人間は弱い生き物でございます。一人では生きていくことはできません。だから、昔から協力して生きていくのです。私たちはそれを見てきました。」
「わぁぁぁぁぁぁぁ!誰でもいいから助けてぇぇぇぇぇ!」
「神も同様でございます。」
カシヤは笛を吹いた。そうすると、カシヤの周りに子犬たちが寄ってきた。
「カ、カシヤ?そう言うのがあるなら使ってくれよ。」
「たまには運動もいいんじゃない?」
笑いながらカシヤは息が切れているケリトに言った。続けてカシヤは僕に話しかけた。
「黒戸様、もうお帰りになられますか?」
「はい。カシヤありg・・・」
完全に言葉を言い切る前に人差し指を立てて僕の口の前に差し出した。
「がんばってください。」
微笑みながらカシヤは僕に言った。
「死神ってどんなことをするんですか?」
「仕事内容は黒戸様が思っているのと大差はありません。死者の魂を天界に連れてきて、転生神のコツメに受け渡します。」
「大変ですか?」
「そんなことはありません。しかし、死神に生まれてしまったことは後悔しています。」
僕は声が出なかった。ケリトは話を続けた。
「どんな理由であれ、命を取ってしまう仕事ですので気分のいいものではありません。だから、私は『仮死者』の制度を作りました。これなら、無駄な死者を出さないので・・・。」
「死神が命を助けてもいいんですか?」
「先代の死神はそんなことをしませんでした。しかし、法には触れていないので大丈夫です。死ぬか否かは『殺神』の仕事です。」
「僕は殺神を見ていません。」
「黒戸様は自ら『死』を選ばれたので、直接私のところに来られたのです。」
僕とケリトはケリトの家に戻った。
「どうなされますか?」
僕はその一言で天界にいる事を思い出した。僕が僕自身で生死を決めなければならない。
「うーん、まだ迷っているな。」
「黒戸様は珍しい方でございます。他の仮死者の方は即決されますのに・・・。」
僕は自分の力でいじめを解決できるとは思えない。
「私も数多くの自殺志願者を見てきました。思うに、自分の力が無力とお思いですか?」
「はい。」
「なら、『死後の世界』をお見せします。」
「『死後の世界』ですか?」
「はい、黒戸様の亡くなった後にどのようになるかの映像です。」
「そんなの見せていいんですか?」
「もちろんです。黒戸様が『死』を選ばれた場合、そのように進みますし、逆の場合、そのようなことは起こりえませんから。」
ケリトは機械の準備を始めた。
「ケリトはペット飼っていないんですか?」
「生憎、動物恐怖症でして・・・。」
「そーなんですか。だから、カシヤの犬たちから逃げていたんですね。」
「はい。・・・準備終わりました。」
『琥珀ー!目を覚ましてぇぇー!』
その映像は僕が死んでいて、母さんが泣いていた。
『な、なんでぇ飛び降りたりしたのぉ?』
『母さん、少し落ち着けって。』
『あなたはかなしk・・・』
『悲しいよ!息子が死んで悲しくないはずはないだろ!』
いつも感情を表に出さない父さんがそのときは目に涙を浮かべていた。
『もう、安らかに眠らしてやれよ。』
『ごめんなさい、私が琥珀に学校のことをもっと聞いておけば・・・。』
『そのことで自分を責めるなって。そのことは俺だって賛成したんだから。』
僕は驚いた。両親がいじめられていることを知っていたなんて・・・。
『あいつには自分で解決する能力があると思っていた。でも、あいつは優しすぎた。責任なら俺にある。』
そう言って父さんが母さんを抱きしめていた。
その後、学校ではいじめの調査が始まった。
そして、城戸 真珠にたどり着いた。
『城戸、どうして黒戸をいじめていたんだ?』
『・・・。』
『黙っていたってわかんないだろ?』
先生の口調はさっきよりも強くなった。
『いじめているつもりはありません。』
城戸は小さな声で言った。
『は?』
『ただ、僕は普通に接していたと思います。』
『例えば、どんな感じに?』
『じゃれあっていました。』
その時僕は初めてわかった。僕が嫌いで強くあたっていたのではなく、コミュニケーションの方法として叩いたりしていたのだと・・・。
『手とかを出して、黒戸は嫌がらなかったか?』
『そんな感じはありませんでした。』
『きっとあいつの事だから言えなかったんだな。それに加えて、何かが起爆剤となって自殺しちゃったんだな。』
その後もいろいろと『死後の世界』が流れていった。
「以上で『死後の世界』は終わりです。」
「あ、ありがとうございました。」
ケリトがハンカチを手渡してきた。
「黒戸様、涙が出ていますよ?」
僕は涙を拭いた。
「改めてお伺いします。どうなさいますか?」
「僕、戻ります。」
「承知しました。」
ケリトは僕の手を引っ張った。
「ところでどうやって戻るんですか?」
「そこの魔方陣に入ってください。」
僕は素直に入った。すると、ケリトは呪文を唱え始めた。
「僕は一体どうなってしm・・・。」
「黒戸様、仮死者お疲れ様でした。今後のご活躍を天界から見守らせていただきます。」
ケリトは一礼した、そうすると魔方陣が光り始めた。
「琥珀!?琥珀!」
目を開けると母さんがそこに居た。
「良かった!死んだらどうしようかと思っちゃったよ~。」
泣きながら僕に抱きついてきた。たまたま、木々に引っかかって衝撃が少なかったらしい。
「実はいじめらr・・・」
「知ってる知ってる、もうそれ以上言わなくていいよ。」
そう言いながら、母さんは強く抱きしめた。
数日経った後、僕は学校に向かった。
「よお、黒戸。」
そう言って、城戸は僕の背中を強く叩いた。
「朝会ったら叩くんじゃなくて、『おはよう』って言うんだよ。」
今まで城戸に対してあまり意見を言っていなかったので、城戸はキョトンとしていた。
「お、おう。わりぃ。」
「大丈夫、大丈夫。これからは友達としてちゃんとやっていこう。よろしくね。」
僕は手を差し伸べた。
「この時はどうすれば・・・?」
「本当になんにも知らないんだな。」
僕は微笑みながら、城戸の手を取り握手した。
もちろん、僕は天界のことを話した。無論、誰も信じない。正直、自分でも夢だったのではと思うときもある。
そんなある日、手紙が届いた。手紙の文章は簡潔だった。
『今後のご活躍も見守らせていただきます。byケリト&カシヤ』
どうも、柚檸檬2号です(=・ω・)ノ
今回は結構ノリで書いてしまったような気がします。m(__)m
このシリーズのスピンオフをいつか書きたいと思います!