第一話 告白
俺の名前は木村博夢。私立鈴川高等学園の1年生だ。学力は学年では一番いいらしく、一応特待生で学費は全て免除されている。これは俺にとっては好都合だ。
去年、両親が車の事故で返らぬ人となった。親戚は両親は元々、駆け落ちで俺を産んだわけで手を差し伸べてくれる親戚などおらず、一人暮らしだ。
親戚が居ても、おそらく一人暮らしを選んでいただろう。
大人のどろどろとした都合に付きあわされるのはごめんだからな…
おっと、話はそれたけど、一人暮らしでなおかつバイトで生きてるってことだけ把握して欲しい。
なので、学費免除は嬉しい。つくづく、頭が良くてよかったと思う。そんな学校とバイトの生活は疲れるが慣れてきた。
今は朝の7時30分。学校へ行くための通学路を歩いている。
部活はバイトのため入っていないし、そもそもおもしろそうな部活もないわけでバイトという理由がなくとも、入部する気はない。
首を横に倒したり、腕を回したりすると骨が不気味なくらい簡単になる。おれ自身はそんなに疲れを感じないのだが、体は疲れているらしい。
体をある程度動かしていると、学校が見える。
私立鈴川高等学園。中等部、小等部もあって、エスカレータ式の学校でクラスメイトのほとんどが顔見知りで俺みたいな外部の人間のほうが珍しい。
俺は別に人見知りが激しいわけでもないが最初はクラスメイトから邪険されているような気がしてならなかった、気のせいではあるんだろうけど。
今はクラスメイトの中でも親友を作ってなんとかやっていける。
「よっ、木村、相変わらずそのクールな顔はおもしろそうだなっ」
いきなり、後ろから俺の背中を誰かが叩いた。
こいつはクラスメイトであり、俺の親友である鈴村和馬、髪は茶髪で少し不良っぽく見えるが、基本的に楽天的でいい奴だ。
「人の顔を見て面白そうはないだろ、面白そうは」
「そういう反応がおもしろそうなんだけどね~」
「朝から元気だな、お前は」
こいつは朝から相変わらず笑顔を絶やさないな…。まあ、この笑顔のお陰で俺もクラスメイトと馴染んでこれたのは事実なんだ。
何気に最初に声をかけてきたのはこいつなんだよな。
「あはは、そういえば言ってなかったね。木村、おはよっ」
「遅いぞ、おはよう」
そういえば、コイツが女の子に告白されるのを見たことあるな…
こういうのを見ているとなにかとそれも分かる気がする、俺が女だったら惚れてたな。
男だからさすがに一部の腐った奥様方を興奮させるようなことはないけどな。
「木村、学校に行こうぜ~、ほら走るよ~」
「お、おい、待てよっ、置いて行くなよ~!」
俺は走りながら、にやける。
こういう生活が変わらなければいい、そう思った。
いくら、言葉で『青春』と言って美化したって、つらい過去を持っている人たちだってたくさんいる。
そんな中で普通の生活を知ることが一番の幸せだと俺は思う。
これだけは崩したくない幸せだ。そう思って俺は学校まで親友と呼べる者と走った。
+++
「はあはあ、さすがに全速力で学校まで来るのはキッツい」
肩を揺らしながら、鈴村はかすれ声で言う。
「そうか?お前が体力がないだけだろ?」
「なんでそんなに平気で居られるの?!これでも僕、サッカー部のスタメンだからね?木村が体力が化け物なだけだろ!」
うなだれていた鈴村が信じられないという風に俺に向かって言う。
「そうなのか?普通じゃないか?」
「僕の知っている普通と木村の普通はちょっとかけ離れているような気がしてならない」
俺は首を傾げる。
そんなことはないと思うのだが…
「そうか…?そんなつもりじゃないんだけどな…」
話しながら、上履きを入れる靴入れを開ける。
一枚の手紙が下に落下する。
「あれ~?これって、女の子から~?もしかしてラブレターかい?木村く~ん」
ニヤニヤしながら鈴村が手紙を拾い上げる。
外見はピンクがほんのりとついた清楚な感じの封筒だ。
「まさか…。入れ間違いかなんかだろ」
「そうでもないよ~、ほら『1年A組 木村 博夢くんへ』って書いてるし」
そう言って封筒の端に書かれた字を俺に見せる。
明らかに俺宛じゃないか…。
「は、はあ…?俺になんで…?」
「その無愛想を除けば顔もイケメンだし、モテル要素はあると思うんだけどね~」
手紙の理由を当たり前のように述べていく鈴村。
「それ、お前に言われても全然嬉しくないんだけどな」
「僕も男に言ってて、何言ってんだろうって一瞬考えたけどね~」
なら、言わないほうが賢明なんじゃないか?と思いつつも褒められているのには変わりなくため息だけをつく。
とりあえず、シールを慎重にはずして中から本文の書いているはずの手紙を出す。
「内容見せて~」
鈴村も内容が気になるようで手紙を覗き込む。
『木村 薄夢くんへ
お手紙呼んでくれてありがとうございます。さっそくですが、今日の放火後、教室にてお話があります。
明惑かもしれませんが、少しの間私に時間をください。よろしくお願いします』
これは正直に言って、誤字がすごいことになっているんだが…
「っ…ひどぉっ…くくく…」
鈴村はツボに入ったらしく、体が震えている。
「まず、俺の名前から違う…。封筒のほうはちゃんと書かれているのになんで本文だけこうなってるんだ」
「あ、あと、放火後って…くくくくっ…、学校でも燃やす気なのかなっ…くくく」
笑いながらもこの手紙にツッコム鈴村。いい加減笑うのやめろ。
「迷惑の漢字ってこんなにひどいの初めて見た」
俺は間違え難い漢字を間違えたのを目にした。
「これ、結局誰が書いたわけ…?」
笑いすぎて涙目になっている鈴村が手紙を見る、俺も釣られて書いた人間の名前を見る。
「「あ。」」
二人で声を合わせた。
名前の欄にはしっかりと「神代静香」と書かれていた。
「神代さんって、あの神代さんだよね?」
鈴村が確認するように俺に問う。
「あ、ああ。多分、そうだろうな…」
「なんか、納得できるなぁ~。あの子だしね~…」
神代静香とは俺と鈴村のクラスメイトなのだが…。
言いにくいが、すっごくバカなんだ。「1+1=田んぼの田」と高校生にして答えているらしい。
「今日の放課後頑張ってね、応援するよ」
鈴村は苦笑いをしつつも、応援をする。なんの応援なのかは全く不明だが…
+++
いよいよ、放課後になった。
一階の窓から見えるのはオレンジ色をした太陽が落ちていく様子とそれを背景に練習をしている運動部だった。
今日は俺はいつもどおり過ごしたはずだ。
だけど、相手は授業中や休み時間、人のことをストーカーしているみたいにジロジロとこちらを見ていた。しかも、すごい目力で。
こっちはそれが気になって仕方がなかった。
今は教室に居るが周りの人間はほとんど帰るか、部活に行っているかで教室には俺しか居ない。
手紙を寄越した彼女も今はいない。
今日は運よくシフトが入っていなかったから大丈夫だったが、シフトが入っていたら多分帰っていただろう。
しばらく時間が経つと、ガラガラと教室のドアが開く音が聞こえた。
そちらに目を向けると彼女がいた。
「あ、こんにちは。すみません、おそくなってしましました」
頭を下げながら彼女は俺のほうに来る。
萌黄色のボブ。かわいいんだけどな…
「で?用件ってなに?」
俺は用事をはやく済ませたくて彼女に尋ねる。
彼女は緊張した感じだが、一息吸い込んで彼女は真面目な顔で言う。
「実は私、神様なんです!」
思いつきによる思い付きの小説