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ツンダークの余談  作者: hachikun
2/16

勇気を出して

この一遍は、20世紀に自分のサイトで書いた短編(現存しない)が元になっています。


 ツンダークには多くの人が訪れ、様々なドラマが繰り広げられた。

 だけど、その全てが異世界もの小説の定番のように進んだわけではないし、王道展開だったわけではない。むしろ千差万別であり、揺れまくったあげく結局はツンダークを普通にゲームとして終わらせた者もいたし、様々な理由で閉鎖前にログインし損ね、戻れなくなった者だって存在した。

 そんな『王道ではない者たち』の物語を今回も少しだけ語ろうと思う。

 

 

 

  ◆ ◆ ◆

 

 

 

「もうすぐ見えてくるな」

「ええ。いよいよね」

「ああ」

 どこにでもいるような二人組の最小単位チーム。男は戦士で女は魔法使い。そして彼らが挑んでいるのも、初心者に毛が生えたような者たちが挑むような洞窟。

 どこにでもあるはずの光景のはずだった。

「……」

 しかし男の表情は、見てて困惑するほどに緊張していて。

 女はそんな男を気にしつつも前方の敵にそなえ、両手に魔法を設定済み。

「……む」

 ふたりの眼前に、その姿は見えた。

 オークハーフ。なぜか洞窟内にたくさん湧いている小型のオーク種だ。棍棒を肩に担いでいる。

「……ウル?」

 向こうもこちらに気づき、戦闘態勢に入ったらしい。

 だが男の方が一瞬早く、無言で駆けつけて斬りかかった。

「せいっ!」

「ウガ……」

 オークハーフは絶叫をあげようとしたがそれも果たせず、男の剣の前に倒れた。

「……」

 そして、女は注意深く周囲を探査していたが、

「今の戦闘音と声で釣られた個体なし。サトシさんお疲れ様」

「……ああ」

 緊張に包まれていた男だが、次第にその顔が笑顔になっていく。

「俺、やったのか。ちゃんと倒せたのか」

「ええ、もう問題ないと思う。……よかったね」

「ありがとうリカさん。本当にありがとう」

「……さん?」

「あ、いや、……リカ」

「うんうん、どういたしまして」

 ふたりは頷き合い、そして見つめ合っていた。

「……」

 あまりの甘ったるい雰囲気に「ケッ」とか言いつつ通り抜けていく、まだビギナーっぽさの取れてないプレイヤーたちを尻目に。

 

 

 

 ふたりは元々、もっと人数の多いチームの一角にいた。そして、特に仲の良いコンビというわけでもなかった。

 そんな二人の運命を変えたのは、メニュー開放という裏ワザをメンバーの一人が発見した時だった。彼らはこの、まだ海とも山ともわからない要素を戦闘に組み込めるかどうか、検証プレイを行ってみたわけだが。

 だがその結果は、ひとりのプレイヤー……つまり壁役をしていた戦士サトシの脱落という犠牲を彼らは支払う事になった。

 メニュー開放にはさまざまな利点があるが、問題点もある。その最も良い例がレーティング問題である。つまり、メニューに頼る限りプレイヤーは剥ぎ取りにリアルな血抜きや皮剥ぎをしなくてもいいし、異様な臭気やスプラッターな光景も抑えられるのだが、開放すれば当然、この恩恵は何も受けられない。

 そもそもメニューとはプレイヤーを守るためのもの。プレイに制限をかけるものではない。

 結果としてどうなったか。

 サトシは敵を倒す事はできたが、吹っ飛ぶ敵の首と胴体が血を吹きながら倒れるところやら、裂かれた腹から飛び出した内臓を見て盛大に吐いた。そして倒れてしまったのである。

 それらの経緯から彼らチームはメニュー開放はデメリットが大きすぎると採用を見送ったが、問題はその後だった。戦えなくなったサトシを彼らは仕方がないの一言で切り捨て、彼をチームから外して自分たちだけで再編成したのである。

 この事に異論を発したのが当時チーム内で回復師をしていたリカだった。

『チームに貢献した人を当然のように見捨てていくの?』

 だがリカの発言を他メンバーは一笑に付した。

 彼らは攻略というひとつの目的のために集まっている集団だったが、足手まといはいらないという気持ちをリカを除く全員が持っていた。つまりサトシは攻略から離れた離脱者であり、これ以上一緒にいても足手まといにしかならないというわけだ。

 それを悟ったリカは即答で、自分も離脱する旨を告げた。

 リカを引き留めようとする者、忠告と称して脅しをかけようとする者、そんなにサトシがいいのかいと下卑た発言をする者などが現れたが、彼女は全て無視した。メニューの離脱ボタンを叩いてチーム設定を解除すると即座に立ち去った。そればかりか、おかしな行動をとってくる者に対応するため、彼ら全員を危険人物リストに加えておく事も忘れなかった。

 実のところ、この時点でリカはサトシに気があったわけではない。

 リカだって攻略はしたい。彼女は魔道士であり物理戦闘は苦手だったし、だからこそ攻略チームに属していた。

 だけど、同時に彼女は日頃から、力と数によるゴリ押しに偏重する『仲間たち』に不満と限界を感じていた。そしてサトシは、少々気が小さいところがあったが彼女同様に本来はゴリ押しを嫌うタイプであり、だからこそ新要素の検証を買って出たのだという事も、よく理解していたのだ。

 かたや、数は多いがゴリ押し第一のうえに、仲間でも潰れたらあっさり切り捨てる集団。

 かたや、トラウマに苦しんでいる、ただし本来は思慮深い健全プレイヤー。

 彼女はバカどもを切り捨て、サトシひとりを選んだわけだ。

 当時の自分を振り返って、彼女は後にこう言ったという。

『あたし別に最速攻略したいわけじゃないし。遅れたっていいし、寄り道したっていいじゃん、面白ければ。

 それに、多い方が効率いいって、それただの数の暴力じゃん。そんなゲームして何が面白いの?あたしにはわからないよ』

 二人っきりのリハビリが始まった。

 剣も持てなくなっていたサトシに、まずゲームを忘れさせる事から始めた。つまり武装なしで体力づくりをしたり、格闘系の道場などにも足を運んだ。

 特に後者は、リカどころかサトシも驚いた。

 その道場はプレイヤーの間では、素手戦闘職のためのチュートリアル施設のはずだった。ところが、前述のメニュー開放をした状態で話しかけてみると全然話が違っていた。なんでも、モンスターに襲われてモンスター恐怖症になる人というのはツンダークには結構いるらしく、そうした一般人向けのリハビリコースがあると言われたのだ。

 サトシはもちろん、リカも道場に通わせてもらった。

 ここでの訓練は非常にタメになった。

 トラウマが大きく軽減されたのか、ビクビク、おどおどしていた顔つきは急速に元に戻ってきた。また剣士といえども素の身体能力が大きな影響を受けるのは当たり前の事で、サトシの戦闘能力が大きくアップするという副産物もついてきた。

 サトシだけではない。リカも戦力アップした。

 今まで壁を抜かれると大ダメージ必至だったのが、短時間の多少の攻撃なら受けきれるし、雑魚なら一人でも対応できるようになった。また、低確率だが魔獣系のモンスターと戦わずにすむ事がある『和解』というスキルも得た。

 そうして、ふたりは再挑戦を開始したのだ。……たったふたりの精鋭チームとして。

 

 

 かつて、トラウマをもたらしたモンスターに雪辱戦を果たし、トラウマを完全克服した彼ら。

 さっそく町に戻ると、道場の師匠にお礼に行った。

「雪辱を果たしたんだね、おめでとう。それで何処に行くつもりだい?」

「はい師匠、リカと相談したんですが、西のフロンティアに行こうかなと」

「ほほう?置いていった者たちの後を追うのではなく?」

「俺も彼女も、別にラスボスと戦いたいわけじゃないんで。それに」

「埃っぽいダンジョンとか気持ち悪い古城より、新しい土地で冒険する方がいいですよね。やっぱり」

「ふむ……なるほどね。確かにそうじゃな」

 うんうんと師匠とうなずくと、ならばと懐からひとつの手紙をとりだした。

「これは?」

「今から西のフロンティアに行くんなら、西の国でなくサイゴン王国を目指すのがいい。これはサイゴンにある、うちの弟子のやっている道場への紹介状でな。力になってくれるじゃろう」

「え……サイゴンって西の国よりまだ向こうですよね?」

「西の国は、はじまりの国と大差ないぞ。それに異世界人も多いからの、おまえたちのペースでゆっくりできるとは限らんぞ?」

「なるほど……ありがとうございます」

「いやいや。気をつけて行くがいい」

「はい!ありがとうございます、お師匠さま!」

 

 

 サトシとリカはこの後も二人チームで旅を続けた。浮いた話もよく出たが、ふたり自体は旅仲間であり背中を任せられる相手というだけで、決してそれ以上の関係にはならなかったという。

 ただし彼らはその後、他プレイヤーと関わらない土地、関わらない土地へと活動拠点を移していった。彼らを直接知っていた最後のプレイヤーがツンダークを去った時、彼らはシネセツカのどこかにいたようである。

 その後、ふたりがどうなったのかはわからない。記録にも残っていない。

 なお第六期ツンダークの歴史をみると、南シネセツカ大陸のさらに西、魔大陸塊の一角にあたるマンダミアという大きな島で、ゲートシープと呼ばれる魔道の羊を養育している異世界人の夫婦の記録がある。これがサトシとリカであるかは全くの不明であるが、こんな記録がある。シネセツカで彼らと出会った女錬金術師(当時独身)の日記なのだが、彼らの名前を見て「サトシとリカ……ポケ○ン声優?狙って名づけたの?」とニヤニヤ笑いつつ質問したという。するとそれに対し「そんな事ない(です)っ!」と綺麗にハモって答えており、その反応から「砂糖を食べてる気分だった。爆発しる」と記録に残している。


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