「ともだち」出来たよ、ハイエナ君!
錆び付いたブリキ人形のように、ゆっくりと声の方向へ顔を向けるハイエナ君。
「ハイエナ、何こそこそしてるんだよ」
へらへらと下品な笑いを浮かべてながら、その子は言いました。いじめっ子のカッコウ君です。
ずんぐりした体型のカッコウ君はハイエナ君を押し退け、下駄箱から自分の上履きを取り出します。
どうしようどうしよう……、よりによって“あの”カッコウ君に見つかるだなんて……
ハイエナ君は焦ります。カッコウ君はクラスでも有名ないじめっ子。この前も上級生を脅してカツアゲした、という噂が流れたくらいです。
ハイエナ君ははっきり言って、目立たないため、今までいじめのターゲットにされるようなことはありませんでした。
ですが、これからはわかりません。今回の事でしつこくゆすってくるかもしれません。「バラされたくなければ、金払えや」みたいに……。
「さっきの事なら、黙っててやるよ」
「……え?」
あたふたしていたハイエナ君の頭に疑問符が浮かびます。
黙っててやる、とは一体どういうことなんでしょう?
上履きを履きながら、カッコウ君は言います。
「俺もさ、ひつじの奴、結構気に入らねーんだよな」
ハイエナ君は「そうなんだ」としか言えませんでした。ですが、内心は驚いていました。まさか自分以外にひつじ君を嫌っているクラスメートがいるとは思っていなかったのです。
カッコウ君は上履きを履き終えると、ひつじ君の上履きを取り出します。先程、ハイエナ君が画ビョウを入れた上履きです。
カッコウ君は手を上履きに突っ込むと、
「もうちょっと奥の方に入れないとバレちまうぞ」
画ビョウを押し込みました。
「ねえ、どういうことなの、カッコウ君?」
ハイエナ君は訊ねます。「何が?」
「どうして黙ってくれるなんてこと言ったの? 僕がやったことは悪いことなんだよ? 普通は先生や友達にチクったりするのが普通なんじゃないの?」
「何、チクって欲しいわけ?」
凄むカッコウ君。
ハイエナ君はすっかり怯えてしまい、「あの」とか「えっと」としどろもどろします。
「安心しろよ。誰にも話さねーから」
画鋲が入った上履きをしまうカッコウ君。ちょっと見ただけでは、画鋲が入ってるようには見えません。
「おい、ハイエナ」
「な、何?」
「俺と手を組まねーか?」
突然の申し出にハイエナ君は目を白黒させます。
手を組む? 言葉の意味がよくわかりません。
混乱するハイエナ君に、カッコウ君は優しく言います。
「要は俺と“友達”にならないか、て言ってんだ」
「トモダチ?」
ハイエナ君は我が耳を疑います。“友達”――そんな素敵な言葉を今まで耳にすることはあっても、自分の身の回りにそういう“友達”なる存在が出来るとは、夢にも思っていませんでした。しかも相手はいじめっ子のカッコウ君……
「お前、いつも一人でウジウジしてるから友達いないのかなって思ってたんだよな。だから友達にならね? あ、別に嫌ならいいんだぜ」
「嫌、じゃないよ」
断れる、はずがありません。
ハイエナ君の返事を聞き、カッコウ君はニマーッとくちばしを歪めました。
「なあ、ハイエナ。そろそろ教室に行かねえか? ここにいると、いろいろヤバイからよ」
カッコウ君は辺りをキョロキョロと見渡します。時間が早いこともあって、まだ他の生徒の姿は見当たりません。
「まだ先生達も来てねーから、今のうちにずらからねーと」
「そうだね」
二人は下駄箱を後にしました。
肩を並べて廊下を歩く二人。一人は有名ないじめっ子、もう一人は空気のような目立たない子。端から見れば異様な組合せです。しかし今、学校に登校している人はほんの少数。誰も彼らを気にも留めませんでした。
「そうだ、ハイエナ」
カッコウ君が思い付いたように言います。
「お前も昼休みドッチボールやらねーか?」
「……え、いいの? 僕なんかが参加して」
何言ってるんだよ、とカッコウ君はハイエナ君の背中を叩きます。
「俺達、もう“友達”だろ?」
カッコウ君にハイエナ君は「うん」と小さく頷き、手の甲で顔を拭いました。
初めての友達。
それまで灰色にしか見えなかったハイエナ君の日常が色鮮やかに照り映えた瞬間でした。
「トモダチ、友達……」
自分の席で呟いてみるハイエナ君。こんな僕でも友達になってくれる人がいるなんて……。
いつも沈んだままの淀んだ心が、次第に暖かくなっていくのがわかります。
わいわいガヤガヤと騒がしくなっていく教室。まだ朝ですが、ハイエナ君は昼休みの時間になるのが待ち遠しく、隅っこの席で窓から校庭を眺めてました。
「あれ、ひつじ君どうしたの? 顔青いよ」
「……何でもないよ」
ぎこちなく笑みを浮かべるひつじ君に、ハイエナ君は気付きませんでした。




