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ひつじ君がやって来た!

 こんもりした丘の上に広がる、小さな村――こんもり村。

 ここではいろんな種類の動物達が、みんなで力を合わせて暮らしています。

 そして力を合わせるのに必要なのは「思いやりの心」。

 その「思いやりの心」をこどもたちに教える場所が、学校です。




 お日さまが昇りました。あおいあおい空が頭上に広がっています。

「行ってきます……」

 てけてけと、学校へ走っている、半袖短パンのこの子の名前は「ハイエナ君」です。

 今日もめんどくさい学校へ行かなければなりません。

「なんか面白いことないかな」

 ハイエナ君は呟きました。

 そろそろ学校が見えてきます……!


「きりつ。れい! おはようございまーす!!」

 朝の会。

 十四人の生徒がこの教室にいます。

 みんなで「朝の歌」を合唱した後の挨拶は、なんて清々しいでしょう。

「おはよう、みなさん」

 担任のゾウ先生は満足げに頷きました。

「今日はこのクラスに新しい仲間が一人増えます!」

 わあっ、と盛り上がるクラスの生徒達。

 ただひとりを除いて……。

 ハイエナ君です。

 この子はいつものように頬杖をついて、窓の外をぼんやりと眺めています。

 ゾウ先生は自慢の長い鼻でチョークを取ると、黒板に文字を書いていきます。


「ひ・つ・じ」


「はい、彼の名前はひつじ君です。彼はちょっと変わったところがありますが、皆さん、“決して”からかったりしないように」

 ちょっと声を低くするゾウ先生。

 いつもよりちょっと怖い先生に、みんなは「うんうん」と頷きます。ハイエナ君を除いて……。

「よろしい。――では、ひつじ君、入ってきて下さい」

 ゾウ先生は教室の外でモジモジしている生徒に声をかけました。

「……はい」

 ドアの向こうから、返事が小さく聞こえてきました。

 どんな子かな、とみんなは新しい仲間にワクワクどきどきです。ハイエナ君を除いて……。

 ――がらがらがら

 教室のドアがゆっくりと開いていきます。


 ゆっくりゆっくり……


 「あ、」

 と息を呑む生徒達。ぎろり、とゾウ先生は彼らを睨みつけます。

 ドアが、いっぱいに開きました。

 その子はぺこん、と白綿の頭を下げてから、とことこと教壇に上がりました。

「こ、こんにちは……。隣村の小学校から転校してきた、ひつじです」

 自己紹介をするひつじ君。

 しん、と静まり返ったクラス。

 こんな時、みんなが拍手をして、ひつじ君をクラスに迎えるのが普通です。

 ですが、誰も拍手しません。拍手出来なかったんです、びっくりしてしまって……。

 ひつじ君は今にも泣き出しそうな顔で俯いてしまいます。

 ハイエナ君はそんなひつじ君を見て、思いました。

『おばけ?』

 ハイエナ君がそう思ったのも、クラスのみんなが息を呑むのも無理はありません。


 長いのです。


 頭一つ分、首が長いのです。

 こんなに首の長い生徒は、この学校にはいません。

 だからみんなは、異様なものを見るかのようにひつじ君を見ています。ハイエナ君も、です。

 みんなの反応にショックなのか、ひつじ君の肩が震えだしました。

 ゾウ先生がポン、とひつじ君の肩をやさしく叩きました。ゾウ先生はひつじ君に小声で言います。

「大丈夫。胸を張って、堂々と」

 ひつじ君は深呼吸をして、胸を張ります。そして大きな声で言いました。

「これから、よろしくお願いします!」

 パチパチ、と拍手するゾウ先生。

「ほら、皆さんも拍手拍手!」

 ゾウ先生に言われてから、みんなは拍手をしました。

「皆さん、ひつじ君はとても真面目な子です。ぜひ、仲良くしてください。皆さんなら、ひつじ君も楽しく学校生活を送れる、と先生は信じています。それでは、最後にもう一度拍手――!」

 パオーン、とゾウ先生は鼻を高く伸ばすのと同時に、みんなは拍手をします。

 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ

 盛大な拍手で迎えられて、ひつじ君は恥ずかしそうに、嬉しそうに笑いました。

 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ

 こうして、ひつじ君はクラスの一員として認められたのでした。

『首の長い、“ろくろっくび”のひつじ君か』

 ハイエナ君だけは拍手をすることなく、ひつじ君を興味深そうに見ていました。






 ひつじ君が来て、はや一ヶ月。

 クラスのみんなは首の長いひつじ君に、はじめは戸惑っていましたが、今ではみんな仲良く過ごしています。一緒に校庭でドッチボールをしたり、一緒に読書したり、と。

 ひつじ君はクラスにすっかり溶け込んでいました。

 勉強も出来て、運動も出来て、しかも性格もいい。首の長さなんて関係無い。

 ひつじ君はクラスの人気者でした。


 そして、その人気者のひつじ君をいじいじと妬む子がいました。

「ひつじ君め、ちょっと出来るからって、いい気になるなよ」

 友達に囲まれて、楽しく談笑しているひつじ君を、ハイエナ君が教室の陰から覗いていました。

 そう、ハイエナ君はひつじ君に嫉妬しているのです。

 なぜなら、ひつじ君はハイエナ君の持っていないものをたくさん持っているからです。

 まずひつじ君の明るい性格です。クラスに来たばっかりの頃はおどおどしてましたが、すぐに友達が出来ていき、女の子からも好かれています。先生からも信頼されています。

 次にひつじ君は運動が出来ます。勉強も出来ます。才能があるから、というわけではありません。ひつじ君は頑張り屋さんなのです。夕方、苦手な鉄棒を一人で練習しています。朝は誰よりも早く来て、勉強をしてます。

 反対にハイエナ君は、暗いです。いつも陰でうじうじしていて、人の顔色を伺っています。勉強は全然ダメ、授業をただボーッと聞いているからです。運動も全然ダメ。体を鍛えてないからです。

 爽やかなひつじ君と違って――、

 ハイエナ君には、なーんの魅力もありません。


 それなのにハイエナ君はこんな風に思っています。

「ひつじ君はずるい。あいつは才能があるから、人気者なんだ。僕だって才能があれば……。お父さんやお母さんのせいだ。ふたりが才能無いから、僕は才能がない駄目生徒なんだ。どうせ才能無いから、何やっても駄目なんだ」

 頑張らない自分を慰めるハイエナ君でした。


 ある日、ハイエナ君はいつもより早く登校しました。

 そのまま下駄箱で自分の薄汚れた上履きに履き替えると、辺りをキョロキョロと見回します。

 誰もいないことがわかって安心したのか、ホッと息を吐くハイエナ君。

 彼は「ひつじ君」の下駄箱を探します。

「あった」

 ハイエナ君は下駄箱を開けます。そこには綿のように真っ白な上履きが。ひつじ君はまだ来てないようです。

 ハイエナ君は短パンのポケットから何かを取り出します。黄金(こがね)色にきらきら光る、それは



 ――画鋲です。



 ハイエナ君はおそるおそる画鋲をひつじ君の上履きの中にいれます。履くときに見つからないように、上履きの奥の方に――。

 上履きを下駄箱に戻したハイエナ君。かなり緊張していたのでしょう。ふう、と溜め息を吐くと、額の汗を右手で拭います。

『これでよし、と』

 あとは教室に戻るだけです。

 ハイエナ君は逃げるように教室に向かおうとします、が


「見ーちゃった、見ーちゃった」


 その声を聞いた瞬間、ハイエナ君の背筋が凍り付きました。


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