七人目の遺体
夏のホラー2010 参加作品です。今年も参加させていただきます!
ストーリーがなかなか思いつかず、一時は参加も諦めようかと思ってましたが、なんとか書き上げることが出来ました。初めに書こうと思っていた作品とはガラリと変わり、ギリギリになって全く別のストーリーにしました。そんなに怖くないホラーですが、楽しんでいただけると嬉しいです。
真夏の夜空に、蒼白い月が浮かんでいた。
昨日までの激しい嵐は過ぎ去り、川岸には涼しい風が吹いている。淡い街灯の光りに照らされた石畳の路を歩いていたアシエルは、淀んだ川に架かる橋の方へと向きを変える。時刻は真夜中近くになっており、辺りには馬車も人の姿もない。
「少し、遅くなり過ぎたな……」
アシエルは、寝静まった闇の街に目を向ける。学校の図書室で時間を忘れ読書に没頭し、夜になって図書室から追い出された後も、カフェで本を読んでいた。
「アシエルは本を読み出すと周りが見えなくなるんだから。学校が終わったら真っ直ぐ帰って来なさいよ」
二つ年下の妹、リディアが頬を膨らませて怒る姿が目に浮かんだ。二人とも田舎を出て進学し、同じアパートで暮らしている。賢くてしっかり者の妹は、いつも兄のことを心配していた。
「若い男が夜中に一人でウロウロしていたら襲われるわよ」
リディアは冗談めいて兄に言う。普通ならアシエルがリディアを心配する立場なのだが、今はリディアが口を酸っぱくして兄に忠告することも納得出来る。
あの『連続殺人犯』は、未だに逮捕されていない。
この数ヶ月で、六人もの若者が次々と変死体で見つかっている。どの遺体もこの街近辺で発見された。襲われるのは皆、若い男ばかり。遺体には傷一つなく、一滴の血も流れていないという。だが、皆、血の気は失せ、真っ青な顔をして死んでいたそうだ。そして、何故か皆一様に安らかな笑みを浮かべて死んでいるという。
もし、今ここに殺人犯が現れたら……。アシエルは、暗黒の世界にゾクッと身震いし、足を速めて橋を渡る。昨日の嵐のせいで川の水は増し、濁った川は勢いよく流れていた。アシエルは橋の手すりに手を置いて、橋を渡って行く。
「……あっ」
橋の半ばまで渡った時、彼は橋の下に、何か黒い物体を発見した。蒼い月の明かりを頼りに、橋から身を乗り出して下を覗き込む。
「……!」
アシエルは思わず悲鳴をあげそうになり、慌てて口を押さえた。橋の下に横たわっているのは、人間だった。川の水がかかりそうなくらい、川近くの河川敷に倒れている。ピクリとも動かない様子からして、彼は既に息をしていないようだ。
殺人犯が近くに潜んでいるかもしれない。アシエルは慌てて辺りの気配をうかがうが、周りには人っ子一人いなかった。そこには、暗闇の静寂が広がっている。脈打つ心臓の音だけを聞きながら、彼は橋の下へと走って行った。
「アシエル、お願いがあるの」
一週間ほど前、リディアと朝食のテーブルを挟んで座ったとたん、リディアがじっと目を見つめて言った。彼女は目を潤ませ、ほんのりと頬を染めていた。こんな表情をした時の妹の口から出てくる言葉は、いつも決まっている。
「……ルシオのことが心配なの。彼を家に招いて話しを聞いてもらえないかしら?」
気の強いしっかり者の妹だが、ルシオの話になると、夢見る少女のようにしおらしくなる。
「ルシオ? 彼がどうかしたのか?」
アシエルは少し意地悪く聞き返す。ルシオとは、ルシオ・レカルテというアシエルと同じ学校に通う青年のことだ。美術を専攻し、アシエルとはほとんど接点がないが、彼のたぐいまれな絵の才能と彼自身の美貌により、学校中で彼を知らない者はいない。常に女性から熱い視線を浴びている彼だが、彼自身は女性のことより美術のことで頭が一杯のようだった。そのクールさが、より一層女性達から賞賛されていた。
「最近、元気がないようなの。急に痩せて顔色も良くないわ。何か悩みがあるんじゃないかと心配で……」
「それなら、直接お前が話し掛ければいいじゃないか。僕は彼とは付き合いもないし、まともに話したことさえないんだから」
「もう! それが出来ればとっくに話し掛けているわ」
リディアは口をとがらせ、アシエルを睨む。
「無理だ。例え彼に話し掛けたとしても、彼は家になど来るはずがない。ルシオが関心があるのは絵画だけさ。リディアに興味がある訳はない」
「酷い! 可愛い妹に向かってよくそんな事が言えるわね!」
それからは食事が終わるまで、延々とリディアの抗議が続いた。
ルシオは、若い女性達の憧れの的。嫉妬心など抱かないと思っても、他の男子学生達は良い気分にはならなかった。ルシオが描く絵のモデルになりたいと思っている女性は、リディアを含めて一体何人いることだろう……。リディアの文句を聞き流しながら、アシエルは彼のことを考えていた。
それから数日経ち、リディアの切実なお願いのことも忘れかけていたある日のこと。
アシエルは偶然にもルシオと話す機会を得た。その日いつものように、アシエルは図書室で本に没頭していた。最近、ちまたで起きている連続殺人事件の影響を少なからず受け、アシエルの読む本もミステリー関連のものが多くなった。普通の物語から始まって、過去に起きた殺人事件や、犯罪者の心理の本、得体の知れない生き物や化け物の類にまで、広がっていった。
アシエルは、本に熱中すると周りが見えなくなり、完全に自分の世界に入り込んでしまう。
「この世のものとは思えないほど、恐ろしいくらいに美しい人物に会ったことはあるかい?」
誰かが低い声で話し掛けてきた時も、アシエルはしばらくその声に気付かなかった。
「本や絵画に描かれているどんな美しい物も霞んでしまう程、美しい人物がこの世には存在しているんだ」
もう一度、囁きかけるような低い声がして、アシエルはようやく本から顔を上げた。視線の直ぐ先に、男の顔があった。彫りが深く、青い瞳をした整った顔の美しい男性。だが、彼の生気のない落ちくぼんだ目、何かに取り憑かれたような狂気じみた眼差しに、アシエルは思わずゾッとした。
「君は、リディア・イルバスの兄だね」
アシエルは、あのルシオに話し掛けられたことにも驚いたが、彼が妹の名前を知っていることにもっと驚いた。
「リディアは可憐で聡明だ。もし、あの人に出会わなければ、僕は迷わず彼女を選んでいただろう」
その事実を知れば、リディアはどんなにか喜んだだろうか? しかし、ルシオは更に声を低めて続けた。
「だが、彼女は僕の前に現れた、衝撃的なほど突然に。そして、僕の全てを変えてしまうくらい、僕の心の中に入り込んできたんだ」
「……一体何の話しをしているんだ? 何が言いたい」
アシエルは読んでいた本をパタンと音を立てて閉じた。
「彼女は、その本に描かれている女性よりも遙かに美しく聡明だ」
ルシオはアシエルの本にチラリと目を向ける。それは、ヴァンパイア伝説について書かれた本だった。本の中には美しい女性の挿し絵も描かれてあった。
「僕は何度も彼女を描いたが、本物の彼女より美しく描くことは出来なかった」
ルシオは、手にしていたスケッチブックをアシエルの前に置く。
「僕は彼女のためなら、死んでもいいと思っている」
ルシオは、リディアが心配していたように、いやそれ以上に病的にやつれていた。その異様な雰囲気のする彼の側から、アシエルは直ぐにでも立ち去りたかったが、心に反して何故か体は動かなかった。
「それで……彼女というのは、一体誰なんだい?」
こうなれば、彼の話を聞こうとアシエルは思った。アシエルもまた、次第に彼の話に興味がわいてきた。目の前に置かれたスケッチブックには、何枚もの女性の絵が描かれていた。ルシオが言うように、どれも美しい女性の姿だ。
食い入るようにスケッチブックを見つめるアシエルに、ルシオは微かに口元をほころばせる。彼は、誰かに話しを聞いてもらいたくて仕方なかったのだろう。彼の中の思いが大きくなりすぎて、今にも心の中から溢れ出してしまいそうだった。
「彼女と初めて出会ったのは、夜更けの居酒屋だった。ここ最近、街中が『連続殺人事件』に怯えて、夜の街に出向く人間は減って、店の客もまばらだった。だが、僕は殺人事件などに興味はない。いつも通り、馴染みの店に立ち寄ったのさ……」
ルシオは目を細め、その時の様子を思い出すように遠くを見つめる。その瞬間、やつれきった彼の顔が僅かに明るく輝き始める──。
空いた席が目立つ居酒屋の窓際の席で、僕はいつものように軽く食事を済ませると、とりとめもなくスケッチブックにデッサンを描いていた。そして、ちょうど教会の鐘が夜の十時を告げた時だった。
居酒屋の扉がスッと開き、誰かが店に入って来た。それと同時に夜の涼しい風が店に流れ込み、一瞬店内の温度が下がったかのように思えた。僕も含め、店にいた数人の客は、一斉に扉に目を向けた。その瞬間、僕は言葉を失ってしまった。
店に入って来たのは、二人の若い男女。夏にしては、二人とも少し厚めの黒いコートを羽織っていた。やや時代遅れの古風な装いだったが、彼らには良く似合っていた。彼らは足音も聞こえない程静かに歩いて来くると、ちょうど僕の前のテーブルについた。椅子に座る際、二人は僕の方を一瞥し、目があった。彼らはまるで絵の中から抜け出してきたかのように、美しい容姿をしていた。彼らの周りだけ、違う空気が流れているような不思議な雰囲気を醸し出していた。
そう、あの瞬間から、僕の魂は彼女に奪われてしまったのかもしれない。僕は彼女から目が離せなくなってしまった。だが、その二人はあまりに親密で、他人を寄せつけないような強いオーラをはなっていた。二人は恋人なのか夫婦なのか……僕はやきもきしながら二人を観察していた。
それからしばらく経った時だった。まだ、料理も出されていないのに、男の方が彼女に何か囁くと、不意に席を立ち、足早に店を出ていってしまった。一人きりになった彼女を見て、僕の心は躍った。どうか、男が戻って来ませんようにと、祈ったくらいだ。僕の切なる願いが通じたのか、その後男は店に戻っては来なかった。
この上ないチャンスを得た僕は、意を決して彼女の座るテーブルまで歩いて行った。今まで女性とは付き合ったこともない、まともに話しさえしたことのない僕の緊張が分かるかい? 僕は、まるで小さな子供のように、おどおどしながら、彼女の前の席に座ると、固い笑みを彼女に向けた。僕にしては、それは大胆な行動だった。なにしろ、初めて出会った見ず知らずの女性の席の前に突然座ったのだから。
だが、彼女は落ち着いていた。僕の顔を見つめながら、微笑んでくれた。その美しい笑顔に僕の心は舞い上がってしまった。
「と、突然、すみません。あの、僕はルシオ・レカルテといいます。その──」
しどろもどろに話す僕を、彼女は笑みをたたえて見つめていた。
「私は、フローリカ・サルセド。貴方は学生なのですね? 絵をお描きになるの?」
上品で美しい彼女の声に、僕の心は再び舞い上がっていく。
「は、はい」
僕の手にはスケッチブックが固く握りしめられていた。
「良かったら見せてくださる?」
それからの時間は、緊張のあまりよく覚えていない。ただ、彼女は絶えず笑みをたたえ、僕の描いた絵を誉めてくれた。何という幸せなひとときだったことだろう。あのまま時が止まってくれていたなら、と僕は真剣に考えたりした。
だが、フローリカに、どうしても聞いておきたいことがあった。彼女と一緒に店に入って来た、あの美しい青年のことだ。彼は店を出たきり戻って来ない。知らないでいたいという気持ちと、ぜひ知らなければならないという気持ちの葛藤があり、僕はなかなか聞き出せないでいた。
しかし、時は無情に流れていく、時間を忘れて彼女と語らっていると、午前0時を告げる教会の鐘が鳴り響いてきた。店が閉まる時間だ。僕達は店を出て、別れなければならない。
「あの、フローリカ……」
僕は言いにくそうに口ごもり、高鳴る胸の鼓動を抑えながら彼女を見つめる。
「そろそろ家に帰らなければ……彼は、一緒にいた彼は先に家に帰ったのですか?」
やっとの思いでそう聞くと、僕は静かに彼女の答えを待った。
「あぁ、エクトルのことですか?」
フロリカはにこりと微笑んだまま言う。
「彼のことは気にしないでください。兄はとても気まぐれな人なのです。家に帰っているか、まだどこかを歩き回っているかもしれません」
サラリと答えた彼女の言葉に、僕はどんなに救われたことだろうか! 一緒にいたのは彼女の兄だったのだ。さっきまであれこれ気を回して悩んでいた自分が馬鹿らしく思えてくる。僕は声を立てて笑いたい気分だった。
そして、次に言うフローリカの言葉を聞いた時、我が耳を疑った。
「もし宜しければ、貴方ともっと話しがしたいのです」
彼女はそう言うと、目を伏せてテーブルの上で組んだ自分の両手に目をやった。
「貴方が描いた絵をもっと見てみたい……どうか、初めて出会った方を誘うような、ふしだらな娘だと思わないでくださいね」
ためらいがちにそう言った彼女は、テーブルの上でゆっくりと指を組み替えた。僕は、彼女の指のしなやかさと白さに見入り、目が離せないでいた。
「けれど、私は貴方とこのままここでお別れしたくないのです」
ゆっくりと顔を上げ、フローリカは強い視線で僕をじっと見つめた。僕の心は、もうブレーキがきかなくなってしまった。無意識のうちに彼女の細い手を両手で強く握りしめると、彼女の瞳の中に自分の姿が映るほど近づいて、彼女を見つめ返した。
「僕も貴方と別れることなど出来はしない。ずっと、側にいて下さい」
表情を弛め笑みを浮かべる彼女の唇に、僕はそっと口づけした。
それから、僕達は夜の街をしばらく歩いた後、彼女と共に僕のアパートにたどり着いた。まるで、夢のような出来事だった。突然現れた絶世の美女と一夜を共にし、いつしか昔からの恋人のように愛し合うようになっていた。
ルシオは、夢見るような表情でスケッチブックに描かれたフローリカを見つめる。
「あの日以来、僕は彼女なしでは生きられなくなった。彼女のこと以外は何も考えられない」
アシエルは、幾分ゾッとしながら、夢遊病者のようなルシオの生気のない顔を見ていた。彼は死に神にでも取り憑かれているのではないだろうか? そのフローリカという女性は、この本の中に出てくるヴァンパイア一族なのではないだろうか? 借りた本を見ながらアシエルは想像をめぐらせる。
ただ、はっきり言えることは、彼は直ぐにフローリカと別れた方が良いと言うことだ。
「ルシオ、妹に代わって忠告しておく。今すぐ、彼女のことは忘れるんだ」
アシエルは強く言ったが、もはやルシオの耳には何も届きはしなった。彼は蔑むようにアシエルを一瞥すると、軽く鼻で笑った。
「君も、以前の僕のように、まだ本当の恋というものをしたことがないんだな。本の中の世界にばかり浸っているようでは、到底無理だ。僕は、もう絵画など捨てた。そんなものはどうだって良い」
ルシオは、スケッチブックを無造作に押しやり、席を立つ。
「僕に必要なのはフローリカだけだ。彼女の愛さえあれば、他になにもいらない」
彼はそう言い捨てると、音もなく静かに歩いて行く。
「どうかしている、狂っている! 今に君は彼女に取り殺されてしまうぞ!」
図書館であることも忘れ、アシエルは去って行くルシオの背に向かって叫ぶが、アシエルの声は、もうルシオの耳には聞こえない。後には、机の上にルシオが置いていったスケッチブックだけが残った。
アシエルは、それをめくってみる。後ろの方は、異常な程フローリカの絵ばかりが描かれていた。ルシオを虜にした恐ろしい程美しい女性。もし、自分も彼女に会えば、盲目の恋に陥ってしまうのだろうか? そう考えると恐ろしかった。
スケッチブックの最初の方のページには、花や風景の優しいタッチのデッサンが描かれていた。人物の絵はほとんど描かれていないが、数枚だけ、見覚えのある人物の絵が描かれていた。
「リディア」
リディアのデッサン画だ。リディアが観れば、飛び上がって喜ぶことだろう。その絵は、狂気じみたフローリカの激しいデッサンとは違い、愛らしく柔らかい、弾けるような笑顔のリディアが、ふんわりと優しく描かれていた。
河川敷に横たわる遺体の正体を見ても、アシエルは思ったほど驚かなかった。遺体を発見した瞬間に、それが誰であるか予測出来ていた。『連続殺人事件』七人目の被害者は、ルシオ・レカルテだった。
図書館で会って以来、彼には会ってなかったが、その姿は最後に会った時よりも、酷くやつれはてていた。今までの被害者がそうであったように、彼もまた全身の血は失せ外傷はどこにもない。だが、一つ救われることと言えば、彼もまた眠るような安らぎに満ちた笑みを浮かべて死んでいたことだ。
やがて、騒ぎを聞きつけて駆けつけてきた警察官や野次馬達で、川辺はざわめいてきた。朝には一層騒ぎは大きくなり、学校も騒然とすることだろう。アシエルが気がかりなのは、妹のことだ。ルシオの死を知ったリディアのショックは計り知れない。
結果的に、アシエルは妹の願いを聞き入れることが出来なかったことになる。ルシオが残したスケッチブックは、アシエルが持っていた。その中にリディアが描かれていたことを、まだリディアには言ってない。今、言ってしまえば、妹の悲しみは増してしまうかもしれない。あの、優しいリディアを描いていた頃のルシオとリディアが付き合っていれば、二人はどんなに幸せなカップルになっていたことだろうか……。そう考えると、もっと早くリディアの願いを聞いていれば良かったと悔いが残った。
アシエルは、深くため息をつき、橋のたもとを離れ、夜明け前の道を歩いて行った。まだ、薄暗い空には、蒼い月が浮かんでいる。人影のない月明かりだけが頼りの暗い道を進んで行くと、ふと、前方に二つの黒い影が浮かんできた。突然現れたその異様な黒い影に驚き、アシエルは歩みを止める。
二つの影は、アシエルの立つ直ぐ手前の角を曲がって行く。それは、黒いコートを羽織った若い男女の姿。彼らの顔はよく見えなかったが、女性はうなだれて涙を流しているようだ。男性は彼女を支えるようにして歩いて行く。
「もう、この街にはいられません。どこにいても、あの人のことを思いだしてしまいます」
「愛してはいけないのに、本気で愛してしまったのだね。どんなに愛し合っても、私達は彼らと結ばれることはないんだよ」
泣き崩れる女性に、男性は優しく声をかける。
「そろそろ、別の街に移動するとしよう」
アシエルは、二人の会話が気になり、後をつけて角を曲がった。
しかし、既に二人の姿は消え、路の先には薄暗い闇が広がるばかりだった。夜の空気が一気に冷たく感じられ、アシエルは身震いする。彼らは一体何者だったのだろうか?
だが、夜の闇はもう怖くはない。『連続殺人事件』は、この街ではもう起きないことだろう……アシエルはそう確信した。 完
読んでいただきありがとうございます。
時代背景は、一応十九世紀後半くらいの西洋という感じです。^^; 二人の正体ははっきりさせませんでした。私自身もよく分かりません……が、この世の人達ではない、ということははっきりしてます。