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出撃

 天幕に戻ったガルドはエルダの纏めた資料を見ていた。

「森の中か……」

地図には狩人の話を元に魔獣の痕跡を発見した場所に印が付けられている。

だが、あくまで狩人の証言した方角と距離から割り出した場所のため、正確とは言い切れない。

「カイル、ちょっと話を聞かせてくれないか。」

ガルドは少し困ったような顔をしてカイルを呼んだ。

「お前、この村の出身だったよな。森に入ったことはあるか?」

「はい、森の浅いところは魔物も出ないので、子供の頃、薪拾いや山菜を採りによく行っていました。」

カイルは素直にそう答えた。

「そうか、なら率直に聞くが、レプリベラグはその森に入れると思うか?」

ガルドにそう問いかけられ、カイルははっとした。

「それは……難しいかもしれません。」

カイルはレプリベラグの大きさを失念していた。木々の密集している森の中ではレプリベラグを自由に動かすことは出来ない。

その事は知っていたはずだ。知っていたが、初めての長距離行軍、久しぶりの帰郷、村に迫る魔獣の脅威。

どうやら自分は冷静ではなかったようだと、カイルは自覚した。

自覚したことで、少し冷静になれた。そして思い出した。

「ですが、地図には書かれていませんが、ここに林道があります。」

カイルは指で地図を差し示した。

「林道か。」

ガルドもそう言うと差し示された場所を見た。

「この林道は木こりが森で切った木を運び出すために使っているので、十分な広さがあります。そして、この奥には作業場に使われている広場もあります。」

カイルは地図を指す指を滑らせた。

ガルドはカイルの差し示した場所と、印が付けられた場所を見比べている。

「意見のあるものはいるか?」

ガルドは他の隊員にも意見を求めた。

「分隊長、よろしいでしょうか。」

エルダが声を上げた。

「構わない、続けろ。」

ガルドは続きを促す。

「まずは森の近くまで移動するのがよろしいのではないでしょうか。私達が行動することで、村人達も少しは安心するはずです。」

ガルドは黙ってエルダの意見を聞いている。

「それに、行動するなら暗くなる前がよろしいでしょう。夜は魔物達が活性化する時間です。魔獣の出現により魔物達の行動に変化があるかもしれません。森から出てくる個体がいた場合、森の近くで戦う方が村への被害も抑えられるはずです。」

エルダはメガネのフレームを指で押し上げながら冷静に意見を具申した。

ガルドはエルダの意見を聞いた後、しばし思案を巡らせ立ち上がった。

「他に意見のあるものはいるか?」

皆、ガルドの言葉を待っている。

「直ちに移動の準備だ、準備が出来次第森まで移動を開始する。到着後、補給部隊は森の外縁部で護衛と待機、レプリベラグと主力部隊は作業場の広場で前線を構築する。シェイドとエマは先行して森と広場の様子を確認してくれ。以上だ。」

ガルドの発した号令により、隊員達は一斉に動き出した。

天幕の落とす影は先ほどよりも伸びていた。

隊員達は慣れた手つきで準備を進めていた。

シェイドとエマは早々に準備を終え、森に向かって駆け出した。

そんな中、落ち着かない様子のカイルに向かってリュークが声をかけた。

「焦っても仕方ないぞ。」

「大丈夫です。」

焦ってなどいない、そう言いたげな目でカイルはリュークを見た。

「まあ、聞いておけ。これはお前にとって初陣になるんだ。初陣を前に緊張しない奴なんて、大物か大馬鹿だ。」

いつになく口数の多いリュークの言葉をカイルは黙って聞いている。

「俺だって、初陣は散々だった。だがな、俺は今、こうしてここにいる。いいか、初陣で一番大切な事は、生きて帰ってくることだ。」

「生きて帰ってくること。」

カイルはリュークの言葉を繰り返していた。

「そうだ、これだけは覚えておけ。」

そう言うとリュークは自分の準備に戻って行った。

「生きて帰ってくること……」

もう一度この言葉を口にして、カイルも自分の準備を再開した。

程なくして、分隊は準備を終え移動を開始した。目指すは魔獣の潜む森。何かを暗示するように春颯が吹き抜けた。


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