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訓練

 カイルが配属されて一月が経った。今、カイルは城壁外にある演習場でレプリベラグを動かしている。

「ようし、その調子だ。」

リュークの声が機体内に響く。レプリベラグ同士は特殊な通信機能が備わっているため、離れていても会話ができる。

「ありがとうございます。」

この一月、カイルはレプリベラグの慣熟訓練を行っていた。

レプリベラグの操縦は魔力を介して機体と同調することで行われる。

適性がなければ機体と同調できず、動かすことはできない。

適性があっても一定以上の同調率を維持できなければ、満足に動かす事が出来なくなってしまう。

同調率は体調や精神状態など、様々な要因で変化する。

ただ訓練をすれば高い同調率を出せると言うものではない。

だが、集中力や仲間への信頼、自信などで精神状態を安定させることが出来れば、同調率もある程度安定させる事が出来るのだった。

一月の慣熟訓練で、カイルは機体の操縦はもちろん、分隊の仲間との連携を繰り返し行なってきた。

最初は思ったように動けないこともあったが、繰り返し行うことで自分の役割や立ち位置などを覚え、操縦も安定してきた。

最近では操縦が安定したことで、余裕も出てきた。

「カイル、今日の壁外訓練はここまでだ。格納庫に戻るぞ。」

リュークは一通り訓練工程を終えた事を確認するとカイルに声をかけた。

「はい。」

訓練の終了を告げられ、カイルはリュークの後を追って格納庫に向かった。

壁外演習場の近くにあるレプリベラグ用の大きな門をくぐると、そこは防衛隊の兵舎になっている。

格納庫に戻り、所定の場所でレプリベラグを待機状態にすると、カイルはER-PX-0137と一緒に機体から降りた。

「今日も訓練に付き合ってくれてありがとう。」

「私は自分の役割を果たしているだけです。お礼を言われるようなことはしていない。」

素っ気無い返事が返ってきたが、カイルは最初の頃と比べるとましになったと感じている。

最初は黙って頷くか、話しても「はい」か「いいえ」くらいだった。

「それじゃ、詰所に戻るか。」

「はい。」

まだまだ先は長いなと思いながら、カイルと少女は詰所に向かって歩き始めた。

詰所に入ると、ガルドとリュークが話をしていた。

「おう、戻ってきたか。」

ガルドは、カイルが部屋に入ってきた事に気づき声をかけてきた。

「はい、カイル操縦士、ただいま戻りました。」

カイルは防衛隊式の敬礼をし、ガルドに答える。

「そう固くなるな、さっき、リュークから訓練の様子を聞かせてもらった。この一ヶ月、よく頑張ったな。」

ガルドはカイルを労うように相好を崩す。

「自分は操縦士として当然のことをしたまでです。」

固くなるなと言われても、カイルは簡単に切り替えることが出来なかった。

そんなカイルの返事を聞いてガルドは豪快に笑いながら話を続けた。

「規定の慣熟訓練は今日で終わりだ。カイル、お前はミルダ村の出身だったな、帰っているのか?」

突然、ガルドの口から故郷の名前が出てカイルは困惑したが、気を取り直して答える。

「いえ、一人前になるまでは帰らないと決めているので、帰っていません。」

ガルドはカイルの答えを聞いて、少し考える。

「そうか、それなら丁度いいな。休暇明けにレプリベラグの長距離行軍訓練を行う。馬車で二日ほどの距離をレプリベラグに乗って移動する。慣熟訓練も終わって、お前も一人前だ。」

「了解しました。」

ふと、丁度いいとはどう言うことだろうと疑問が頭に浮かんだが、カイルは返事をしていた。

「はっはっはっ、今回の目的地はミルダ村だ。巡察隊からもあの近辺で魔獣の兆候があったと報告もあってな、村のみんなにお前の格好いいところを見せてやれ。」

一瞬、ガルドの言っていることがわからなかったが、意味を理解した時、カイルの胸には何とも言えない感情が湧き起こっていた。

「ありがとうございます。」

村に帰る。

12の時に村を出て五年。領兵になる為、最初の三年は領都で冒険者や警備隊の手伝いをして資金を貯め、体を鍛えたり勉強もした。

領兵に志願して受けた試験で操縦士の適性があると判明し、訓練校に通う事になった。

そして、今操縦士としてここにいる。

カイルは、自然と村での事を思い出していた。父や母、兄弟達としていた畑仕事。

よく遊んでいた近所の子供達。羽目を外しては村の大人達によく叱られたものだった。

あの自分を兄の様に慕っていた少年、フィンは今頃どうしているだろうか。

「あ〜ら、カイルちゃんたら、昔のことでも思い出しちゃったぁ?」

「わっ!」

急に声をかけられてカイルは驚いて振り返る。

「セリスさん、音もなく背後に立つのやめて下さいよ。」

振り返った先に立っていたのはセリスだった。

「ノンノン、セリス姉さんって呼んでって言ってるでしょ。それに、支援魔法士の私に背後取られる様じゃ、まだまだね。」

この人は本当に支援魔法士なのだろうか、それよりも、どうして姉さんと呼ばせようとするのだろう。

「姉さんって、だってあなた、おと……」

セリスはその太い人差し指をカイルの口に押し当て、顔を近づけて来た。

そのセリスの圧に負け、カイルは最後まで言葉を続けることが出来なかった。

「ミーナちゃんはセリス姉さんって呼んでくれるでしょ。」

セリスはその身をひらりと翻し、少女に向かって言葉を投げる。

「セリス姉さん。私はER-PX-0137です。ミーナではありません。」

セリスは、姉さんと呼ばれたことに喜んだが、ミーナ呼びを否定された事に落ち込んだ。

浮き沈みの激しいセリスの様子に、カイルはいつの間にか声を上げて笑っていた。

配属されてまだ一月しか経っていないが、いつの間にかこれがカイルの日常になっていた。

「0137。」

カイルは少女に声をかける。

「はい。」

少女もカイルに返事を返す。

リュークとER-08A-047(シーナ)のようにはいかないが、今はまだこれでいい。

「君に、俺の生まれた村を見てもらいたい。」

「わかりました。」

焦る必要はない、関係はこれからゆっくり築いていけばいい。この時カイルはこう思っていた。


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