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防衛隊

 領都カストリア、エルディア王国の辺境伯領に位置する要衝都市である。

堅牢な石造の城壁に囲まれ、都市の中心には領主の館と行政庁舎がそびえている。

城壁の内側には石畳の大通りが放射状に広がり、商人や職人、兵士、農民、冒険者が行き交う活気に満ちている。

城壁の外には農地や牧草地が広がり、川沿いには水車や粉挽小屋も点在する。

都市の一角には訓練場や兵舎があり、カストリア領防衛隊の兵士たちが朝早くから訓練に励んでいる。

魔獣対策分隊の詰所には人造姫神(きしん)レプリベラグの格納庫が併設され、巨大な人型兵器が静かに鎮座している。

魔獣対策分隊の詰所に一人の青年が入ってきた。

「本日よりカストリア領防衛隊、魔獣対策分隊に配属されました、操縦士のカイルです。」

カイルが着任の挨拶をすると、奥から精悍な顔つきの男が、低く落ち着いた声で話かけてきた。

「ようこそカイル、俺は分隊長のガルドだ。これからよろしく頼むな。」

歳は三十半ばといったところだろうか、その肉体は実戦で鍛え上げられたのだろう、歴戦の戦士の風格を纏っていた。

ガルドは魔獣対策分隊の分隊長の一人だ。この魔獣対策分隊には分隊長を任される者は他に三人いるが今はいないようだ。

「初めまして、私はエルダ、副分隊長としてガルド分隊長の補佐をしています。」

冷静な笑顔でそう名乗った女性は、ガルドとは対照的に線の細い印象を受けるが、メガネの奥には知的な光を宿している。

「俺はリューク。操縦士だ。」

カイルより頭一つ大きい長身の男は、先任の操縦士だった。リュークはそれだけを言うと黙ってしまった。

分隊には操縦士以外にも歩兵や斥候、支援を役割としている者達もいる。

常に全員が揃っているわけではないが、今詰所にいるもの達が次々とカイルに名乗り、挨拶をしていく。

一通り名乗り終えた頃、詰所に一人の無機質な女性と付き従うように冷めた表情の少女が入ってきた。

分隊に女性隊員がいるのは別に不思議ではない。先ほど挨拶をした中にも何人かいた。

だが、その女性と少女は一際異彩を放っていた。カイルは一目見て理解する。

彼女達はレプリカントだ。

レプリカントとは、操縦士と共にレプリベラグに搭乗し、機体の制御や調整を行う存在だ。

レプリベラグは伝説のベラグメントを人が模して作り上げ、その制御のために戦姫を模した複製体がレプリカントとされている。

先に入ってきた無機質で整った顔立ちの女性は、静かにリュークの隣まで歩いてきた。

少女は部屋に入ったところで、静かに観察するようにカイルたちを見ている。

「紹介しておく。俺とコンビを組んでいるER-08A-047だ。」

レプリカントは人とは違う存在だ。その為、名前はなく、通常識別番号で呼ばれている。

「あ〜ら、どうしちゃったのよぉ。どうしていつも見たく、シーナって呼んであげないのぉ?」

独特な口調で声をかけてきたのは、先ほどの挨拶でセリスと名乗っていた支援魔法士の男だ。

「こう言う場では、識別番号で呼ぶものだ。」

リュークは顔を背けながらそう言った。

隊員達から笑いが溢れた。

「こっちも紹介しないとな。」

そういうとガルドはカイルの隣までやってきて、入り口の横に立っていた少女を呼び寄せた。

「これからお前とコンビを組むレプリカント、ER-PX-0137だ。」

ガルドは少女の肩に手を置いて紹介する。

「PXって、遺跡発掘型ですか!」

カイルが驚いたのも無理はない。現在、レプリカントは今も残る古代の製造装置によって生み出されている。

神話の時代、今より多くのレプリベラグとレプリカントが存在したとされている。

今では新たに製造装置を作る事はできず、現存する装置に頼る他ない状況だが、時折古代の遺跡より、神話の時代のレプリカントが休眠状態で発掘されることがある。

その為、発掘されたレプリカントは、総じて現代のものより高性能だとされている。

「それがな、こいつの性能は高くないんだ。一般的なレプリカントと比べても、劣るところがあるくらいだ。」

ガルドは少女の肩を叩きながらそう言った。

「分隊長、私が説明いたします。」

ガルドに任せるのが不安だったのか、エルダが少女について説明を始めた。

「彼女は確かに遺跡から発掘されました。ただ、見た目も他のレプリカントと比べて幼く、性能試験でも良い結果が出せなかったのです。ご存知の通り、遺跡発掘型は性能が高いものが多いため、通常、王都や要衝に配備されます。しかし、彼女の場合、一般的なレプリカントと大差ない性能のため、ここ、カストリアに配備されました。」

エルダはメガネの縁を指で押し上げながら、理路整然と説明した。

「と言うわけで、見た目も近いお前とコンビを組ませることにしたわけだ。」

エルダの説明が終わると、ガルドはそう言ってカイルの肩に手を置いた。

カイルは少し困惑しながらコンビを組む事になった少女を見た。見た目は自分より一つか二つは下だろうか。

少女もただ黙ってカイルを見上げている。

「ほぉら、ちゃんと挨拶してあげなきゃダメよぉ。」

そう言ってセリスはカイルの背を叩いた。

「あっ、えっと、本日配属されました、操縦士のカイルです。」

「私はER-PX-0137。」

沈黙が流れる。

「あの、分隊長、貴重な遺跡発掘型の相手が、本当に自分でいいんでしょうか。」

沈黙に耐えきれず、カイルはガルドに問いかけた。

「なに、気にするな。貴重とはいえ、一般的なレプリカントと大して変わらないんだ。」

ガルドは気負う必要はないと言わんばかりにカイルの背中を叩いた。

「そうよぉ、それにぃ、こんなに可愛い子の相手が、あんな無愛想なおっさんじゃ可哀想でしょ。」

セリスは少女の両肩にそっと手を置くと、リュークの顔を見ながらそう言った。

いつもの事なのだろう、リュークはセリスの揶揄するような視線を軽く受け流し、黙りを決め込んでいる。

場の空気が一気に和む。周りの空気に押され、カイルも覚悟を決めた。

操縦士はレプリカントと組まなければレプリベラグを動かせないのだ、それならば、自分は与えられた役割を全うするだけだ。

「よし、それじゃあ、そろそろ訓練を始めるぞ。リュークはカイルを案内してやってくれ。」

ガルドがそう言うと、緩んでいた空気が一瞬で引き締まった。

ガルドは歩兵班を引き連れ訓練場に向かう。リュークはカイルとレプリカント達を連れ格納庫に向かった。

魔獣対策分隊の一日は始まった。


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