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希望

 ガルドの振るう大剣が鎧熊を斬り裂いた。

普通の鎧熊であれば、ガルドも遅れを取ることはない。

血飛沫をあげて倒れる鎧熊を後に、次の獲物へ向けガルドが構える。

地上ではガルド達と鎧熊の乱戦が始まっていた。

そこかしこで聞こえる剣戟の音に、獣の咆哮。

鎧熊の爪や牙で傷つき倒れる者もいる。

荒れる戦場で治癒士のリナも必死に戦っていた。

彼女は戦場を移動しながら、傷ついた仲間の治療をしている。

「ううっ……」

また一人、鎧熊の爪に倒れた仲間の元に駆けつける。

「動かないで。」

リナは倒れた男の服を破り、傷口を確認する。

獣の爪は毒素の塊だ、ただ傷を塞いでも、それでは毒素が体内に残ってしまう。

本来なら、傷口を綺麗な水で洗い流してから治療しなければならない。

だが、今は十分な水もなければ、時間も足りなかった。

「痛いけど、少し我慢して。」

リナは浄化の魔法がかかったナイフを取り出し、男の傷口にあてる。

「ちょっ、お前何っ、うわーー!」

リナは傷口の変色した部位をナイフで切り取り始めた。

「うるさい!あんたも戦士でしょ、戦士なら黙って!」

リナは男の口にハンカチを突っ込んだ。

男は涙目になりながらも、必死に耐える。

リナはその姿を横目に傷口の切除を続ける。

一通り切除を終えると、リナは一息つき、男の傷口を確認した。

「頑張ったわね、今塞いであげる。」

安心させるように笑顔でそう言うと、リナは治癒魔法の再生を傷口にかける。

男の傷口に魔素が集まり、欠損した組織が次々と再生されていく。

「よし!とりあえず傷口は塞がったわ。また後で浄化の魔法をかけるから、終わったら私のところに来るのよ。」

そう言うとリナはまた走り始めた。


 一方、レプリベラグは新たに現れた大型を相手に奮戦していた。

「くそ、後から後から、いったいどれだけいるんだよ。」

「ダリオ、今は口より手を動かしてくれ。」

ダリオとエディンも度重なる連戦で疲れが見える。

「大型の相手は俺たちしかいないんだ。」

生身の仲間に大型の相手をさせる訳にはいかないと、リュークも必死に剣を振るう。

そのリュークの剣が、ピタリと止まった。

リュークは自分の見たものが信じられず、思わず我が目を疑った。

「まだいたと言うのか……」

依然動かない白い鎧熊の両脇に巨大鎧熊が現れたのだ。

その時、白い鎧熊が何かに反応したように突然動き出した。

白い鎧熊の咆哮が戦場に響き渡る。

鎧熊達の動きが一斉に止まった。

「なんだ、いったい、何が起きたんだ。」

その異様な光景に、カイルも動きを止めてしまった。

他の隊員達も何が起こったのかとあたりを見回している。

そして、それは現れた。

カイル達を取り囲むように宙に現れた無数の魔法陣。

魔法陣はその輝きを増していく。

「ここまでなのか……」

カイルは思わず天を仰ぐ。

光が最高潮に達した時、ついに魔法陣から光の矢が解き放たれた。

光の矢は戦場を駆け巡り、鎧熊を次々と貫いていく。

「何が起きているんだ……」

光の矢に貫かれた鎧熊が、バタバタと地面に崩れ落ちていく。

カイルは呆けたようにあたりを見回していると、地面が小刻みに揺れ始めた。

「今度はなんだ。」

カイルが地面に目をやると、突然金属の柱が2本飛び出して来た。

「うわっ!」

カイルは驚きのあまり、尻もちをついてしまった。

地面の下から何かが近づいてくるゴーという音と共に、着いた手から振動が伝わってくる。

そして、2本の柱の間の地面を突き破り、巨大な箱が現れた。

箱は動きを止めると、ガチャンという音をあげ柱に固定される。

プシューという音と共にロックが外れると、箱の正面が左右に開いた。

箱の中からオルタリオンが姿を現した。

「間に合ってよかった。」

オルタリオンから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「この声、フィン、フィンなのか?」

カイルは驚きと喜びをないまぜにしたような声で呼びかけた。

「そうだよ、カイル兄さん。エリスも一緒だよ。」

カイルはその言葉を聞いて安心したが、いろいろ疑問が湧いてきてた。

「フィン、今まで何してたんだ、それに、お前、いったい何に乗っているんだ。」

カイルは捲し立てるように質問する。

「これはオルタリオン、ベラグメントだよ。詳しいことは後で説明するから、カイル兄さんも自分のレプリベラグに乗って。」

ベラグメントと聞いて、カイルは信じられないと思いながらも、納得もしていた。

それよりもわからないことがあった。

「フィン、レプリベラグに乗ってもエリスがいないと動かせないぞ。」

カイルの疑問にエリスが答える。

「大丈夫です。オルタリオンの力を借りれば、私が遠隔で制御できます。」

そんなことができるのかと思ったが、エリスが嘘をつくとは思えなかった。

カイルはわかったと頷くと自分のレプリベラグに向かって走った。

「エリス、さっき聞いたあれを出して。」

エリスはフィンの言葉を聞いて、オルタリオンを通して遺跡の制御システムにアクセスする。

そして、遺跡に残っていたレプリベラグ用の武器コンテナを地上に射出するように指示を出す。

すると、再び地面が小刻みに揺れると地面を突き破って武器コンテナ現れた。

「カイル兄さん、レプリベラグ用の武器だよ。みんなで使って。」

コンテナのロックが解除されるとレプリベラグ用の剣や槍が出てきた。

「カイル兄さん達は残ってる大型の相手をお願い。俺はあの白いのと巨大なのをやるよ。」

そう言うとフィンの乗るオルタリオンは、白い鎧熊目掛け駆け出した。

フィンが駆け出すのを見て、カイルは自分のレプリベラグに乗り込んだ。

エリスの言った通り、カイルだけでレプリベラグを動かすことができた。

「ベラグメントってこんなこともできるのかよ。」

カイルは改めてその凄さを感じる。

遺跡から出てきた武器を手に取った時、カイルはさらに驚いた。

レプリベラグから魔力が供給されると、刀身が薄らと魔法の光を帯びる。

刀身が高純度の魔鋼でできているのだ。

魔鋼は魔力の伝達が良く、魔法の付与に適している。

今まで使っていた武器とは段違いの性能だ。

カイルは手近にいた大型鎧熊を斬り付ける。

剣は鎧熊の硬い外皮をものともせず、簡単に切り裂いた。

「リュークさん、みんなも、この武器を使ってください。」

カイルが戦線に復帰すると、リューク達も交代で遺跡の武器を取りに行く。

「こいつがあれば、もう怖いものなしだぜ!」

最後に武器を手にしたダリオが言い放つ。

大型の数はまだ相当数残っていたが、カイルは負ける気がしなかった。

「さあ、いくぞ!」

リュークの声を合図にレプリベラグ達は大型鎧熊に向かい攻撃を始めた。

白い鎧熊に向かうオルタリオンの中で、フィンはエリスに確認する。

「エリス、今の状況を教えてくれ。」

オルタリオンと一体となったエリスは答える。

「フィン、地上に残っていた人達は、負傷した人はいますが、全員生きています。」

全員生きていると聞いてフィンは安心する。

「一般個体の鎧熊は先ほどの攻撃で全て沈黙、大型は28体残っていますが、カイル達が対処を始めました。あとは、白い鎧熊と巨大鎧熊が2体です。」

フィンは向かう先にいる白い鎧熊を見る。

「わかった。オルタリオンの状態はどう?」

エリスは確認してフィンに報告する。

「機体の状態は良好です。ただ、長い休眠状態にあったため、残存魔力量があまりありません。全力で稼働できるのは四半刻です。」

「それだけあれば十分だよ。」

エリスの報告を聞いてフィンはそう答える。

「気をつけてください。オルタリオンは他との連携能力に特化した機体です。戦闘能力はベラグメントとしては平均的な能力しかありません。」

エリスはフィンに忠告する。

「俺とエリス、それとオルタリオンなら大丈夫だよ。」

なんの根拠も提示しないフィンの言葉だったが、エリスは不思議とフィンの言葉を信じられた。

「そうですね。私達とオルタリオンを信じましょう。」

オルタリオンは白い鎧熊と巨大鎧熊の元に辿り着いた。

「エリス、行くよ。」

オルタリオンは剣を抜き構える。

その様子を白い鎧熊は目を細めてみている。

まるで待ち侘びた獲物を前にして、どういたぶろうかと不気味に笑っているようだった。

改めて近くで見ると、その異様な大きさがよくわかった。

両脇に控える巨大鎧熊より頭一つ大きい。

今までは遠目でみていたことと、対比になるものが無かった為わかりづらかったが、近づいたことでよくわかった。

白い鎧熊は不気味な笑みを貼り付けたままオルタリオンを見ている。

値踏みをするようにオルタリオンを下から上まで見ると、白い鎧熊はクイっと首を振った。

それに反応して巨大鎧熊が前に出る。

「まずは様子見ってことか。」

フィンもあわせて動き始める。

巨大鎧熊の爪がオルタリオンに迫る。

それを軽やかに躱すと、伸びた前肢目掛けて剣を振り上げる。

巨大鎧熊の前肢は、オルタリオンの振り上げた剣により、肘から先を切り飛ばされた。

巨大鎧熊は反射的に伸び上がり、喉元を晒す。

晒された喉元を狙い一閃。

大きな音を立てて、巨大鎧熊の首が大地に落ちた。

「まずは一つ。」

フィンは残る一体の巨大鎧熊を見る。

巨大鎧熊は大地に落ちたもう一体の首を見て、怖気付いたように後ずさる。

それを白い鎧熊は許さなかった。

巨大鎧熊の態度を叱責するように白い鎧熊は吠えた。

その途端、巨大鎧熊は我を忘れたかのようにオルタリオンへ突進した。

その突進を見て、フィンは盾を構える。

オルタリオンは巨大鎧熊の突進をその盾で受け止めた。

レプリベラグであれば、耐えることは出来なかったであろう衝撃をオルタリオンは一歩も引かずに受け止めた。

巨大鎧熊は止められても、進もうと足を動かす。

だが、オルタリオンは微動だにしない。

それどころか、巨大鎧熊を押し返すように一歩踏み出した。

力比べはオルタリオンに軍配が上がった。

盾で押し込み、巨大鎧熊の頭をそのまま盾でかち上げる。

巨大鎧熊は堪らず立ち上がり、たたらを踏む。

オルタリオンはさらに踏み込んで、巨大鎧熊の心臓を一突きした。

「これで二つ。」

オルタリオンが剣を引き抜くと、巨大鎧熊はそのまま地面に崩れ落ちる。

「残るはお前だけだ。」

オルタリオンは白い鎧熊に向き直る。

「エリス、魔力はあとどのくらい残ってる。」

戦闘開始前に確認した時は、全力で稼働できるのは四半刻だった。

「残りは先ほどの3分の2です。」

答えたエリスの声には、焦りの色が見える。

「大丈夫だよ、エリス。まだ半分以上残っている。」

フィンはエリスにそう答えると、操縦桿を握り直す。

「今度はこっちから行くぞ。」

オルタリオンは白い鎧熊との距離を一気に詰める。

その勢いのままオルタリオンは剣を振るった。

ガキン

白い鎧熊は、その手に氷を纏いオルタリオンの剣を受け止めた。

「氷で剣を止めた!?」

巨大鎧熊の外皮も斬り裂いた剣を止められ、フィンは驚いた。

「これはただの氷ではありません。強力な魔力を帯びています。」

エリスは状況を分析するとフィンに伝える。

「じゃあ、もっと魔力を込めれば斬れるの?」

「理論上は斬れます。」

フィンはエリスの答えを聞いて、出力を上げる。

「うおおお!」

刀身が発光すると、氷に亀裂が入る。

イケる、フィンがそう思った時、白い鎧熊はその口を大きく開いた。

「避けてください!」

エリスの声を聞いて、フィンは咄嗟にオルタリオンを後ろに飛ばした。

その瞬間、白い鎧熊の口から氷のブレスが放たれた。

氷の礫と強烈な冷気がオルタリオンを襲う。

構えた盾は一瞬で白くなり、冷気は這うように全身を包んで行く。

「うっ……」

苦痛に耐えるようなエリスの声が聞こえてきた。

「エリス!?」

エリスは今オルタリオンと一体となっている。

オルタリオンの受けたダメージは、そのままエリスのダメージになるのだ。

フィンはブレスから抜けるため、オルタリオンを横に大きく跳躍させる。

「エリス、ごめん。」

「どうして謝るんですか?」

エリスにはフィンが謝る理由がわからなかった。

攻撃してきたのは鎧熊だ。フィンのとった後方への回避行動は、その時点で間違ったものではなかった。

むしろ、ブレス攻撃を想定して指示できなかったのは自分のミスではないのか。

その結果、攻撃でダメージを受けたのは、当たり前のことで、フィンに何の落ち度もないと思った。

「エリスとオルタリオンが繋がっていることは分かってたんだ。」

エリスの騎士になった時、ベラグメントに関する知識が流れ込んできた。

ベラグメントを動かす際、戦姫はベラグメントと一体となる事は、その知識の中にあった。

けれど、それがこういう事だと理解できていなかったのだ。

それに、少なからずベラグメントという強力な力を手にした高揚感が判断を曇らせていた。

無茶をしても大丈夫という気持ちが心のどこかにあったのだ。それがエリスを傷つけつるとは知らずに。

「これからは気をつけるよ、もうエリスに痛い思いはさせない。」

「それはダメです。」

エリスに即座に否定され、フィンは戸惑った。

「感覚を共有していますが、実際に私の体が傷ついている訳ではありません。戦いの最中に、余計な事に気を使わないで下さい。」

エリスは諭すようにフィンに告げる。

「私を庇って勝機を逃すなど、以ての外です。もし、そのような事態なった時は、私に構わず実行してください。」

構わずにと言われても、すぐに納得はできない。フィンは返事が出来ずにいた。

「私は、あなたを信じています。」

信じています。エリスはこんな自分でも信じてくれている。

「ああ、分かった。俺もエリスを信じるよ。」

まだ、騎士になったばかりで自信はないけど、エリスの事は信じられる。

フィンは新たな決意を胸に操縦桿を握り直す。

オルタリオンは、ブレスを吐き終えた白い鎧熊に向かい再び斬り込む。

白い鎧熊はそれを魔氷を纏い受け止める。

止められると分かっているなら、やりようはある。

オルタリオンはすぐさま剣を返し、連続で斬り付けた。

白い鎧熊は魔氷を広げ、その全てを受け止める。

ブレスを警戒してオルタリオンは一旦距離をとった。

白い鎧熊の魔氷を打ち破るには、強力な一撃が必要だ。

このまま連撃で崩すのもありだが、残りの稼働時間を考えると厳しい。

何とか一撃を入れるための隙を作りたい。

「エリス、何とか隙を作れないかな。さっきの攻撃とかどう?」

「現在、遺跡の迎撃機能は殆ど停止しています。最初の氷塊による攻撃が原因だと考えられます。一般個体を掃討した攻撃はまだ使えますが、大型以上の個体には効果が期待できないでしょう。」

エリスは冷静に状況を説明する。

「効果は期待できなくても、目眩しくらいにはならない?」

フィンはエリスの説明を聞いて、提案してみる。

「目眩しにはなるかもしれませんが、それだけでは隙を作るのに十分とは言えません。」

エリスはフィンの提案を受けて他に使えるものはないか分析を始めた。

「フィン、あの鎧熊をこの場所に誘い出してください。そうすれば、私が隙を作ります。」

エリスはそう言うと、目の前のスクリーンに小窓を出してポイントを表示した。

「分かった、やってみる。」

フィンは白い鎧熊への攻撃を再開する。

今度は一撃を入れては反撃を誘うように少し退がりながら攻撃を繰り返した。

白い鎧熊はその動きに誘われるように少しずつ移動し始めた。

「あと少し。」

鎧熊の誘導は成功している。目的の場所までもう少しのところまで来た。

だが、稼働時間の限界も近づいていた。

「頼む、もう少しなんだ。」

フィンは焦りそうになるが、隙を作ると言ったエリスを信じて攻撃を繰り返す。

一歩、また一歩と鎧熊は近づいて行く。

そして、ついにその場所まで辿り着いた。

「今です。」

エリスの声を聞いてフィンは必殺の一撃のために距離をとった。

その瞬間、鎧熊の足元が崩れ、片足が地面に出来た穴に落ちた。

エリスは地面に隠れた射出口を開けたのだ。

射出口が開いたことで、上に乗っていた土は鎧熊の重さに耐えきれず穴を作った。

さらにエリスは迎撃機能を操作し、光の矢を鎧熊の顔に集中させる。

突然のことで、鎧熊はその動きを止める。

稼働時間も残りわずか、これが最後のチャンスだ。

フィンはエリスのサポートを受けて、剣に魔力を集中させる。

オルタリオンの持つ剣が光を放つ。

光はそのまま刀身を包み、さながら光の剣のようになった。

「これで終わりだ!!」

オルタリオンは白い鎧熊目掛け飛び込むと、振り上げた光の剣を勢いをつけて振り下ろした。

鎧熊は魔氷を作って対抗するが、オルタリオンの光の剣は魔氷ごと白い鎧熊を斬り裂いた。

断末魔の叫びが戦場に響き渡る。

もう動く鎧熊はいない。

戦いの幕はこうして閉じたのだった。


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