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邂逅

 ポタリと頬を打つ雫でフィンは目を覚ました。

隣にはエリスがいた。

まだぼんやりした頭でフィンは考えていた。

どうして自分はここにいるんだろう。

意識がはっきりするにつれ、思い出してきた。

「そうだ、あの時、エリスと地割れに落ちたんだ。」

フィンは思い出した。闇に呑み込まれるようにエリスと二人で深い穴に落ち、そして、何か暖かなものに包まれたような感覚のあと、冷たい水に落ちたのだ。

「エリス……」

フィンは慌ててエリスの様子を確認する。

「よかった。」

規則正しい胸の動きで正常な呼吸をしていることがわかる。見たところ大きな怪我をしている様子もない。

「うっ……」

エリスも目を覚ます。

「エリス、大丈夫?」

「フィン?ここは……」

ここはと聞かれて、フィンは改めて周囲を確認する。

近くには勢いよく流れる地下水がある。これが自分たちをここまで運んだのだろう。

ここは地下水の浸食で出来た天然の洞窟だろうか。

洞窟の先から光が漏れているのがわかった。そのおかげで、なんとか周囲を視認できたのだ。

エリスの肩が震えている。冷たい地下水で体が冷えたのだろう。

「エリス、立てる?」

フィンは立ち上がってエリスに手を差し出した。

「はい。」

エリスもフィンの手を取って立ち上がる。

「エリス、あっちに行ってみよう。」

フィンはそう言いながら光が漏れてくる方を指した。

コクリと頷くとエリスはフィンの後について歩き出す。

天然の洞窟は滑りやすかった。二人は足元に気をつけながらゆっくりと進む。

しばらく進むと、洞窟の終わりが見えてきた。

「エリス、出口だ。外に出られるんだ。」

入り口から差し込んでくる白い光を見てフィンはそう思った。

フィンの足取りが早くなる。エリスもつられて早くなり、最後は二人とも駆け足になっていた。

「なんだ、ここは。」

洞窟を抜け目にした光景にフィンは驚いた。

そこは外ではなく、人工的な壁と床が広がり、天井には村では見たことがない白い照明が灯っていたのだ。

空気も冷んやりした洞窟の中と違い、ほんのり暖かく、とても過ごしやすい温度だった。

「エリス、ここって、もしかして……」

フィンは振り返ってエリスを見る。

「どうやらここは、古代の遺跡のようです。」

エリスはどこか懐かしいものを見るようにフィンにそう答えた。

「灯りがついているということは、この遺跡の機能は生きているようです。出口を探しましょう。」

エリスの言葉を聞いて、フィンも頷く。

「そうだね。出口を探そう。でも、どう探せばいいんだろう。」

フィンは遺跡について何の知識も持っていない。出口がどうなっているのか見当もつかなかった。

そんなフィンの問いに、あたりを観察していたエリスが答える。

「この遺跡は拡張中、もしくはその予定があったのでしょう。私達が出てきたところの壁は、岩盤が剥き出しのままです。」

エリスのいう通り、出てきたところ以外の壁は何か硬い板のようなもので覆われている。

「ここはこの遺跡の外縁部という可能性が高いです。まずは主要な施設があると思われる中央部に向かいましょう。」

フィンにとってエリスの説明は、普段聞きなれない言葉があったことで全部を理解出来たわけではない。

それでも、フィンは直感でエリスの言葉は信じられると判断した。

「よし、じゃあ、ここを進んで中央部に向かおう。」

二人は遺跡の中央を目指して通路を歩き始めた。

遺跡の通路は洞窟とは比較にならないほど歩きやすかった。

「この床、何で出来ているんだろう。」

金属でも石でもない、フィンにとって見たことがない素材で出来ていた。

「ここの床は特殊な樹脂タイルで覆われているようです。」

「じゅしたいる?」

フィンは靴のつま先で床をトントンとついてみる。

硬いが感触が返ってくるが、その割に跳ね返してる感覚がない。

「はい、樹脂タイルは高い耐久性と優れた衝撃吸収力があります。」

フィンはエリスの説明を素直に聞いている。

「エリスはすごいね。何でも知っているんだ。」

「いえ……」

フィンにそう言われて、エリスははたと気づく。

自分はどうしてこの事を知っているのだろう。

「エリス、どうしたの?」

何か戸惑っているエリスの様子が心配になりフィンは声をかけた。

「何でもありません。」

そう答えたエリスは、普段のエリスと変わらないように見えた。

「先を急ぎましょう。」

エリスは何事もなかったように歩き始めた。

通路を進むと、壁に等間隔に扉が並んだエリアに出た。

扉には取手がついていなかったが、エリスが壁の出っ張りに手をかざすと、不思議なことに扉がひとりでに開いた。

中をのぞいてみると、そこは小さな部屋になっていて、机や棚の様なものが見えた。

「エリス、ここは何だと思う?」

フィンは自然にエリスに尋ねていた。

「ここはおそらく宿舎エリアです。この部屋はこの遺跡で働いていた人間が寝起きに使っていたものでしょう。」

エリスは部屋の中の様子を確認してからそう答えた。

「ここに人が住んでたんだ。」

エリスの答えを聞いたフィンはその様子を想像してみた。

「ねぇ、エリス、ここに住んでた人はここで何をしていたんだろう。この先に行ったらわかるのかな。」

フィンの問いにエリスは少し考えてから答えた。

「そうですね。その可能性はあります。」

エリスの答えを聞いて、この先にあるものに興味が湧いてきた。

これまでは普段の生活とかけ離れた遺跡の存在に、現実味を抱けなかったが、人の痕跡を感じたことで、フィンの意識が変わったのだ。

「行こう。」

フィンは目を輝かせてエリスにそういうと、宿舎エリアの通路を進み始めた。

宿舎エリアと抜けると、そこはとても広い空間が広がっていた。

床はこれまでの通路とは異なり、とても頑丈そうな金属で出来ている。

見上げると、吹き抜けになっていて、この空間に面した通路が見える。

壁は平面ではなく、所々張り出している。

その張り出しているところだが、フィンには見覚えがあった。

「魔導キャリッジの整備用ハンガーみたいだ。」

フィンは村に来た魔導キャリッジで、カイルのレプリベラグを整備している姿を思い出していた。

「ここは、レプリベラグの格納庫です。」

エリスの言葉を聞いて、フィンは思った。

「じゃあ、ここにまだ動かせるレプリベラグがあるんじゃ……」

エリスは首を横に振っていた。

「ここにレプリベラグはありません。ただ……」

フィンはエリスの次の言葉を待った。

「ここには特別なものが眠っていたみたいです。」

そう言うと、エリスは静かに格納庫の奥を指した。

フィンは振り返りエリスの指した先を見る。

そこには膝をついた姿勢で固まった巨大な人の形をしたものがあった。

一瞬、それはレプリベラグかと思ったが、その圧倒的な存在感は、レプリベラグではない事を示している。

ミルダ村には神殿はない。なので、フィンは話でしか聞いたことがなかった、神殿にある神を象る彫像とはこう言うものかと思った。

それほどの神々しさを感じたのだ。

「エリスには、あれが何かわかるの?」

フィンは振り返ってエリスに尋ねる。

エリスはコクリと頷いた、そして、ゆっくりと話し出した。

「あれはベラグメント。神話の時代、女神の眷属たる戦姫に認められた騎士が、戦姫とともに戦うために女神が創ったものです。」

そう言うと、エリスはベラグメントに向かって歩き始めた。

「あっ、エリス、ちょっと待ってよ。」

フィンも慌ててエリスを追いかける。

やがて、二人はベラグメントの前にたどり着いた。

フィンは改めて間近でベラグメント見た。

不意にカイルの言葉を思い出す。

(レプリベラグは、人が英雄とともに邪神と戦うために、ベラグメントを模して作ったんだ。)

今目の前にあるものがレプリベラグのもとになったもの。これが二千年前のものとはとても思えなかった。

「ねえ、エリス……」

フィンがベルグメントからエリスに視線を移した時、エリスの伸ばした手がベラグメントに触れる。

その瞬間、エリスは瞬い光に包まれた。

「エリス!」

フィンの声が格納庫に響き渡る。

だが、その声はエリスには届かなかった。


 光に包まれた瞬間、エリスの意識はその体から離れていた。

今、エリスは不思議な空間にいる。

エリス以外何もない白い空間。ただ、どことなく懐かしさを感じている。

すると、エリスの前の空間が揺らぎ、一人の女性が現れた。

「やっと会えたわね。」

女性はエリスに優しく微笑みかける。

「あなたは誰ですか?」

エリスは女性に尋ねた。

「私はラグナリア、あなたの姉よ。でも、こうしてお話しするは初めてだから、初めましてと言ったらいいかしら?」

ラグナリアは嬉しそうに笑っている。

「ラグナリア、私は、エリスです。」

エリスは戸惑いながらもそう名乗った。

「今はエリスと呼ばれているのね。じゃあ、私もエリスと呼ばせてもらうわ。」

エリスと呼んだラグナリアの目は優しい光をたたえている。

「ラグナリア、ここはどこですか?」

エリスはラグナリアの優しい光に安堵を覚えながらも、そう尋ねた。

「どこでもないわ、でも、しいて言うなら、あなたの触れたベラグメントの中かしら?」

ラグナリアはクスリと笑い、エリスに答えた。

「ベラグメントの中?ラグナリア、もしかして、あなたは戦姫なの?」

ラグナリアの目がさらに優しくなる。

「ええ、そうよ。私は10番目の戦姫、ラグナリア。そして、エリス、あなたも戦姫なの。」

「私が戦姫……」

ラグナリアはさらに続ける。

「あなたは、神話には出てこない、私達の末の妹、13番目の戦姫なの。」

エリスは言葉が出ない。

そんなエリスの様子を見てラグナリアは、エリスを抱きしめて、耳元で囁いた。

「ごめんなさい。」

突然の抱擁にエリスは驚いたが、ごめんなさいの意味がわからなかった。

「エリス、もっとゆっくりお話ししたかったけど、今は時間がないの。」

ラグナリアはエリスを抱きしめる手を解くと、エリスの顔を見て話し始めた。

「今、外ではあなたの仲間が大変なの。だから、私のベラグメント、オルタリオンをあなたに託すわ。」

ラグナリアの言葉を聞いて、エリスは戸惑った。

「大丈夫。オルタリオンを信じて。あなたを助けてくれるわ。」

ラグナリアはその優しい声でエリスを励ますようにそう言った。

「わかりました。」

エリスもラグナリアの想いを受けて答える。

「エリス、ありがとう。」

ラグナリアがそう言うと、ラグナリアの姿が空気に溶けるように薄くなっていく。

今にも消えそうなラグナリアの姿を見てエリスの口が自然と開いた。

「ありがとう、ラグナリア姉さん。」

ラグナリアは一瞬驚きの表情を見せたが、すぐ笑顔に戻り、そのまま消えてしまった。

ラグナリアが消えると、エリスの周りは急激に暗くなっていく。

そして、気がつくとエリスの意識は元の場所に戻っていた。

「エリス、大丈夫?」

フィンが心配そうにエリスを見ていた。

「大丈夫です。」

エリスは笑顔でそう答えた。その笑顔は以前より自然で、フィンはその笑顔に驚いた。

「フィン、あなたにお願いがあります。」

お願いと聞いて、フィンはさらに驚いた。

これまでのエリスであれば、その言葉が出てくるとは思いもしなかったからだ。

フィンは真剣な表情でエリスの言葉をまった。

エリスも意を決し、フィンを真っ直ぐに見つめる。

「あなたの力を貸してください。」

エリスの真っ直ぐな想いがフィンにも伝わってきた。

「そんなの、俺の力でいいなら、いくらでも貸すよ。」

フィンは笑顔で即答した。

「それで、どうしたらいいの?」

貸すとは言ったが、具体的に何をすればいいのかわからなかったのでフィンは素直に尋ねた。

「目をつぶって、両手を前に出して。」

フィンはエリスに言われるがままに従った。

エリスはそんなフィンの前に立つと目をつぶって両手を重ねる。

重ねた手から、エリスの想いがフィンに伝わり、フィンの想いもエリスに伝わる。

不思議な感覚だった。何も知らないはずなのに、この後どうすればいいのか昔から知っていたようだった。

二人が目を開けると、フィンはエリスの前に跪いた。

すると、エリスの前に光が集まり、光は剣の形になる。

エリスは宙に浮かぶ光の剣を手に取ると、剣の平らな面でフィンの両肩を軽く叩いた。

「我はここに、エリスの騎士となることを誓う。」

肩を叩かれたフィンは、騎士の誓いを述べる。

「エリスの名の下に、汝フィンを騎士として認めます。」

エリスは厳かにフィンの宣誓を承認した。

戦姫と騎士の誓約が成立した時、オルタリオンの胸の宝玉に光が戻った。

エリスの持つ剣が光の粒子となって消えた時、フィンは立ち上がった。

「エリス、みんなのところに戻ろう。」

フィンは何をすればいいかもう理解していた。

「はい。」

エリスが返事をすると、二人は光に包まれた。

光は光球となり、光球はオルタリオンの中に吸い込まれる。

オルタリオンの目に光が灯る。

悠久の時を経て、再び姫神外装が動き出した。


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