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崩落

 大地に崩れ落ち動かなくなった鎧熊の姿を見て、フィンはほっと胸を撫で下ろしていた。

新たに巨大鎧熊が現れた時は気が気ではなかった。

「終わったんですよね。」

フィンは隣にいたセリスに尋ねていた。

「そうねぇ、私たちが最初に遭遇した鎧熊は、これで倒したはずよ。」

セリスもフィンを安心させるようにそう答えた。

ガルドは周囲を警戒しているが、今のところ新手が現れる様子はない。

「一度中央で集合するぞ。」

ガルドの号令によりレプリベラグのいる中央に向かい一同は移動を始める。

左側のエドガー達も同様に移動を始めていた。

「カイル兄さんとエリスは無事ですよね。」

カイルの乗るレプリベラグは左腕がなくなっている。その姿を見てフィンは心配になった。

「操縦席は無事みたいだからぁ、きっと大丈夫よぉ。」

今にも駆け出したい衝動に駆られたが、セリスの答えを聞いて、フィンも安堵する。

何事もなく中央で全員が合流できた時、カイルもレプリベラグを待機状態にし、エリスと降りてきた。

「カイル兄さん、エリス。」

フィンはカイル達に駆け寄った。

「フィン。大丈夫だったか。お前、危ないことはしなかっただろうな。」

カイルも駆け寄ってきたフィンの無事を確認する。

「大丈夫だよ。」

フィンは笑顔で答える。

「そうか、俺はちょっと機体の様子を確認してくるから、エリスのこと頼んだぞ。」

カイルはそう言うと、自分のレプリベラグに向かって歩き始めた。

その時だった。あたりを覆う霧が急速に晴れ始めた。

急激な変化に、周囲から戸惑いの声が上がる。

「あれは、なんだ……」

誰かが驚愕の声を上げた。

見ると、完全に霧が晴れた平原の中心に巨大な氷塊が浮かんでいた。

氷塊の下に動く白い影がある。

それは、白い霜の鎧を纏った巨大な鎧熊だった。

白い鎧熊が吠えると、浮かんでいた巨大な氷塊が勢いをつけ地面へと落下した。

落下の衝撃は凄まじく、フィン達が立っている地面も激しく揺れ、亀裂が走った。

「エリス!」

地面を走る亀裂がエリスに迫る。立っているのもやっとな状況の中、フィンはエリスに向かって走った。

「フィン。」

フィンの伸ばした手をエリスが掴んだ。だが、無情にも亀裂は二人を飲み込むように大きく口を開けたのだった。

落ちる。何もできない無力感がフィンを襲う。

「エリス、絶対はなさいよ。」

それでも、今掴んでいるこの手だけは離してはいけない。フィンはそう思った。

闇に飲み込まれるように、周囲から光が急速に消えていった。

そんな中、激しく流れる水の音が聞こえてきた。

「エリス、しっかり掴まって。」

落下する中、フィンはエリスを強く引き寄せた。

エリスも必死にフィンにしがみ付いたその瞬間、二人は不思議な光に包まれ地下を流れる水脈に消えていった。

「フィン!」

いつもと違うセリスの野太い叫び声が響く。

地上では、混乱が続いていた。

突如現れた新たな脅威に、地割れに飲み込まれた二人の安否。

幸いと言っていいのだろうか、地割れに飲み込まれたのはフィンとエリスの二人だけだった。

ロッタは二人の落ちた地割れに駆け寄り覗き込んでいる。

底の見えない深い穴をじっと目を凝らして二人を探す。

ガルドは迷っていた。二人の捜索の指示を出したいが、新たに現れた脅威をそのままにすることも出来ない。

氷塊を操る白い鎧熊。明らかに特殊個体だ。

消耗している中、ここは撤退も考えるべきだろう。ガルドの握る拳に力が入る。

「分隊長。」

エルダはそれだけ言うと、ただ黙ってガルドを見ている。

その目にはどんな指示にも従うという意思が見えた。

ガルドは大きく息を吐いた。

「撤退する。」

ガルドは決断を下した。だが、その肩は小刻みに震えていた。

「なんでや、ここで撤退したら二人はどうなるんや!」

ロッタが、顔を真っ赤にして、ガルドの決断に意を唱える。

口には出さなかったが、ロッタの声に同意するものは他にもいた。

「それに、二人はきっと生きてる。聞こえるんよ、穴の底を流れる水の音が。」

底の見えない程の高さからただ落ちたのなら、無事でいる保証はなかった。

途中、斜面にあたるなどして落下速度が落ちたり、落ちた先が何か柔らかいもの、例えば水面であれば生存の確率は上がる。

ロッタのもたらした情報は二人の生存に希望を持たせるものだった。

「だが、今二人の捜索を行うのは無理なんだ、あの鎧熊が二人の捜索をただ黙って見ていると思うか。」

「そないなもん……」

鎧熊を倒してから探せばいい、それが簡単なことでないことはロッタもわかっているから、口に出すことが出来なかった。

歯痒さにロッタの固く握りしめた手が震えている。

「今は一度退いて、体勢を立て直す。捜索はそれからだ。」

ガルドは白い鎧熊を見る。距離があるとはいえ、霧が晴れ見晴らしが良くなったこの場所で、こちらに気付いていないわけがない。

恐らく霧の中でもこちらの存在には気付いていたはずだ。

巨大鎧熊達をけしかけてきたのは奴だろう。

それが動かず、ただ一点を見たまま動こうとしていない。

動かないことは不気味だが、撤退するなら今のうちだ。

ガルドは改めて撤退の指示を出す。

レプリカントを失ったカイルのレプリベラグは動かせない。

一旦、ここに置いていくしかない。

カイルもレプリベラグを見上げながら、複雑な表情を浮かべていた。

各々が撤退の準備を進めている中、シェイドがいち早く気付いて声を上げた。

「隊長、囲まれています。」

シェイドの声に隊員達も一斉に周囲を見渡す。

今まで戦ったきた大型ではない普通の鎧熊が無数に、背の高い茂みに隠れるように近づいてきていた。

どうやら初めから逃すつもりはなかったようだ。

巨大鎧熊をけしかけたのは、氷塊を落とすための時間稼ぎだけではなく、普通の鎧熊による包囲網を敷くためだったのだ。

ガルドは改めて白い鎧熊を見る。相変わらず動く気配はない。

「自ら動く必要はないってことかよ。」

苦々しく言い捨てる。

「総員、構えろ!」

ガルドの号令により隊員達は各々武器を手に取り構える。

「私ねぇ、今、とっても機嫌が悪いのよぉ。」

「奇遇やな、うちもすこぶる機嫌が悪いんよ。」

セリスの言葉にロッタも続けた。

二人はフィンを守れなかった自分に対して、そして、助けにいけない不甲斐なさに怒りを覚えていた。

カイルも剣を受け取り構えている。

「こんなとこでやられる訳には行かないんだ。」

ここを切り抜けてフィンとエリスを助けにいくんだと心に誓いを立てた。

他の隊員達もそれぞれ意を決して動き始める。

鎧熊達は余裕なのか、ガルド達を取り囲んだまま動こうとしない。

お互い睨み合ったまま、静かな戦いが始まった。


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