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遺跡

「?????はお寝坊さんね。」

 私を呼んだのは誰?

「姉様、いいではないですか。今目覚めれば、?????も邪神との戦いに臨まなければいけませんもの。」

姉様?邪神?何を話しているの?

「それもそうね。?????、私達の可愛い末の妹。」

聞き取れないけど、私の名前を読んでいることはわかる。

「姉様、?????が目覚める前に終わらせましょう。」

「姉様、私もそれがいいと思います。?????には平和な世界で目覚めてほしいです。」

一体何の話をしているのだろう。会話から私の周りにいるのは姉達と言う事はわかる。

次第に周りの声が遠くなっていく。

「あなたの幸せを心から願っていますよ……」

待って、行かないで。

声が出ない。

声も気配もどんどん遠ざかって行く。

「……行かないで。」

エリスは自分の声で目を覚ました。

夢を見ていたようだが、どんな夢を見ていたのか思い出せない。

天幕を出ると、外は朝靄に包まれていた。

「おはよう。エリスも起きてたんだ。」

先に起きていたフィンがエリスを見つけて声をかけてきた。

「おはよう。」

「すごい朝靄だね。一面真っ白だよ。」

フィンの言う通り、明け方の冷え込みで発生した朝靄は森を白く包み込んでいた。

白に染まった世界は幻想的で夢のようだった。

「……リス、エリス、どうしたの?」

一瞬、何かを思い出しそうになったが、フィンの声で我に返った。

「何でもありません。」

そう返事をしたエリスは、いつもと変わらないように見えた。

「……そっか、それならいいんだ。」

何かあったのだろうとフィンは思ったが、聞こうとしなかった。

こんな時、ミアなら構わず聞いていただろう。そんな様を思い浮かべたら、何だかおかしくなって、フィンは笑っていた。

「フィン、どうしたの?」

「何でもないよ、それより、俺たちも準備しよう。」

朝靄の中で他の隊員達も活動を始めていた。

撤収と同時に、簡単な朝食の準備が進められている。

時期にこの朝靄も晴れる。晴れれば移動が始まるのだ。

「エリス、また後でね。」

そう言うとフィンも準備のために朝靄の中に消えていった。

「あっ……」

朝靄の中に消えていくフィンの背中を見て、エリスは反射的に右手を伸ばしていた。

その伸びた右手をエリスは不思議そうに見ている。

なぜ右手を伸ばしたのだろう、エリスはその理由がわからなかった。

覚えていないが、朝見た夢のせいだろうか。エリスはフィンの向かった先をもう一度見た。


 朝靄のはれた頃、鎧熊の向かった先へと隊は進み始めた。

シェイドが先行し、気配を探る。

森の奥は魔物の領域だ。ここまでは運良く魔物との遭遇は無かった。

これから先もないとは限らない。なので、警戒するに越した事はない。

隊列を組んで慎重に進む。

昨日、シェイドが確認した鎧熊の足跡を辿る。

鎧熊の痕跡は足跡以外にもあった。

それを最初に見つけたのはレプリベラグに乗っていたリュークだった。

「おいおい、こいつはとんでもないな。」

リュークの見つけた痕跡をエドガーが見上げている。

それは大木に刻まれた鎧熊の爪痕だ。

エドガーが驚いたのは、爪痕の大きさにもだが、その位置だった。

レプリベラグの頭の位置を超える高さについていたのだ。

エドガーはまだ見ぬ鎧熊の大きさを改めて実感した。

「気合い入れてかないと、本気でやばいな。」

侮っていたわけではないが、エドガーは改めて気を引き締める。

探索を再開し、隊はさらに森の奥へと進んでいく。

鎧熊はまだ現れない。だが、着実に近づいていた。

しばらく進むと、先頭を歩いていたシェイドが停止の合図を出した。

「何かあったか。」

ガルドはシェイドに近づき確認する。

「何かが近づいてくる。」

研ぎ澄まされたシェイドの聴覚が近づいてくる物音を聞きつけた。

「どっちからだ。」

ガルドの問いにシェイドは指を指して答えた。

ガルドはその方向を見るがまだ何も見えない。

だが、かすかだが、ガルドにも何かが近づいてくる音が聞こえてきた。

鎧熊ではないが、大型の獣の走る足音だ。

やがて、木々の間からその姿が垣間見えた。

猪だ。だが、普通の猪ではない。鼻から額にかけ、ハンマーのような突起がある。

槌猪と言われる魔物だった。

槌猪はその見た目の通り、額のハンマーを用いた強烈な突進が武器だ。

どうやら近づいてくる槌猪は一頭だけのようだ。

ガルドの指示のもと、隊員達はレプリベラグを前に迎撃の態勢をとった。

前面投影面積の大きいレプリベラグを囮に槌猪を惹きつける。

槌猪はレプリベラグへ向け突進の速度を上げた。

その距離がどんどん詰まって行く。

「セリス、今だ。」

ガルドの指示が飛ぶと、セリスは準備をしていた魔法を放った。

槌猪はレプリベラグの直前で速度を落とした。

セリスの放った魔法はブラインドと呼ばれる対象の視界を遮る魔法だった。

目標に向け突進する直前で視界を奪われた槌猪は、混乱し、その足を緩めたのだ。

リュークが操るレプリベラグは速度の落ちた槌猪の突進を半身で躱し、その無防備な首目掛けて剣を振り下ろした。

決着は一瞬だった。長引けば隊に被害が出る可能性もある。

ブラインドで視界を奪っても、槌猪はもとより眼がいいわけではない。

代わりに聴覚と嗅覚が優れているため、混乱がおさまれば確実に反撃されただろう。

「シェイド、他に気配はあるか?」

周囲を警戒していたシェイドは、首を横に振ってガルドに答える。

「よし、今のうちこいつを処理するぞ。」

隊員達は槌猪の解体を始めた。魔物の死骸は素材としても有用だ。

だが、今回は素材の回収が目的ではないため、採取するのは貴重な部位のみにとどめ、運べないものは埋めることにした。

そのまま放置しておけば、他の魔物を呼び寄せる可能性があるからだ。

本来の目的のために解体作業に時間をかけるわけには行かない。

フィンも解体作業を手伝うことになった。村で狩人の獲物の解体を何度か手伝った事はあるが、魔物の解体は初めてだった。

とはいえ、フィンに任されたのは、解体して採取した素材を運ぶ作業だった。

「あらぁ、ちょうどいいところに来たわねぇ。」

解体作業中のセリスがフィンを呼び止めた。

「これぇ、何だかわかるかしらぁ?」

セリスは槌猪の体内にある石のようなものを指してフィンに尋ねた。

「もしかして、魔石ですか?」

「そう、魔石よ。」

魔石とは魔物の体内にある魔力の結晶体だ。逆に、体内に魔石を持つものは魔物ということにもなる。

「覚えておくといいわぁ、魔石はね、大体魔物に体の中心にあるのよぉ。」

フィンは改めて魔石を見た。

「中心なんですね。心臓のところにあるんだと思ってました。」

フィンは思っていたことをそのまま口に出していた。

「そうねぇ、魔力が血液と一緒に体を流れるものならぁ、心臓と一緒にあったかもねぇ。」

セリスはフィンの疑問に答えるように話し始めた。

「魔石は、確かに魔力の心臓のようなものねぇ。詳しくはわからないけど、魔石には魔力を増幅する性質があるわ。そして、その魔力は魔力の通り道を通って全身を巡るのよぉ。」

「そうなんですね。」

セリスの説明にフィンは頷く。

「それじゃあ魔石を取り出すからぁ、これも運んでちょうだい。」

「はい。」

フィンの返事を聞いて、セリスは槌猪の魔石を体内から取り出し、フィンに手渡した。

フィンは受け取った魔石をまじまじと見ている。

「ふふ、観察するのも、ほどほどにねっ。」

「ああ、ごめんなさい。」

セリスに声をかけられて、フィンは慌てて魔石を運び始めた。

目ぼしい素材の回収を終え、後は後始末だけだ。

解体の傍ら掘っていた穴に、槌猪を埋めていく。

一通りの作業を終えると、探索は再開された。

鎧熊の足跡は森の奥へと続いていた。

幸い、槌猪との遭遇以降、魔物は現れていない。

「しかし、妙だな。」

ガルドは違和感を感じていた。

探索は順調だった。

鎧熊の痕跡を見失うことなく、ここまで真っ直ぐ進んでこれた。

そう、曲がることなくほぼ真っ直ぐに進んできたのだ。

つまり、鎧熊は迷う事なく進んでいたということになる。

あの時、鎧熊は何かに反応したように見えた。

その何かが、この先にあるのだろうか。

ガルドは改めて進行方向を確かめる。

「ん?」

この先に開けた場所でもあるのだろうか、森の奥が薄らと白んで見える。

「シェイド、少し先行してくれるか。」

シェイドはガルドの言葉に頷くと様子を見るため先行する。

隊はそのまま前進を続けている。鎧熊の痕跡を追っている以上、向かわなければならない。

ただ、明らかに様子の異なるものを見つけたからには、確かめないわけにはいかない。

場合によっては、そのまま戦闘になる可能性もある。

事前に確認できる事を放置して、隊を危険にさらす訳にはいかない。

しばらく進むと、先行したシェイドが戻ってきた。

白く見えたところは、先ほどよりはっきり見えるようになっていた。

それはまるでトンネルの出口のように、薄暗い森の出口を思わせるものになっている。

「どうだった。」

ガルドの短い問いにシェイドは答える。

「この先で森が途切れ、開けた場所になっています。ただ、不可解な事に霧が立ち込めており、全容が確認できませんでした。」

ガルドは黙って頷き、続けるよう促した。

「少し進むと、石畳や、建物の跡が見えたので、奥に進めば古代の遺跡があるかもしれません。」

シェイドの報告を聞いてガルドは考える。

遺跡が存在しているのなら、それが鎧熊の目的である可能性はある。

霧が立ち込めているのは、シェイドの言うようにいささか不可解だが、まずは森を抜けてそこへ向かうべきだろう。

目的地をまだ見ぬ遺跡と定めて、隊は前進を続ける。

森を抜けると、そこはシェイドの報告通り、霧の立ち込める平原だった。

この霧の奥に一体何があるというのだろう。

まるで白い闇に包まれたように霧が全てを隠していた。


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