森へ
リュークとカイルのレプリベラグの修理が終わった。
リュークの機体は装甲の換装と調整で済んだが、カイルの機体は左腕の修理が難航した。
充分な設備も資材もない中で、フレームの歪みを矯正し、損傷した部分を補強するのが精一杯だった。
それでも、普通に動かす分には何の問題はなかったが、過度な負荷がかかった場合、どこまで耐えられるかは、わからなかった。
レプリベラグを修理している間、ガルドはエドガーとレイナの三人で今後についての方針を決めていた。
レイナは援軍として来た1個分隊を率いて村の防衛に残り、ガルドはエドガーと2個分隊にレプリベラグ4体を率いて森に魔獣討伐に向かう事にしていた。
だが、この森での魔獣討伐に関して、ちょっとした騒動が起こった。
フィンが魔獣討伐に志願して来たのだ。
エドガーはフィンの参加に反対した。
それは当然の事だ、フィンはただの村の少年で、あくまで民間人なのだ。
だが、意外なことにガルドとエルダは反対しなかった。
ガルドはフィンの才能を評価している。実際に見たわけではないが、報告では魔獣を1体既に倒している。
それ故に懸念もあった。フィンがその才能に驕り、操縦士として戦うことを軽く見てしまうのではないかと。
ならば、一度本当の戦いをその目で見ることで何かを感じてくれればと考えた。
その結果、戦いを恐れ、操縦士になることを諦めても、それはそれでいいと思っていた。
エルダはエルダで、フィンには多くの経験が必要だと考えた。フィンにはその才能を活かす道がある。
だが、ここ数日フィンの人となりを見て、この村で穏やかに暮らすことも、また一つの道だと。
できるなら、どの道を選ぶかくらいはフィンに選ばせたかった。
その為にも今は経験を積む必要があると判断したのだ。
最初は反対していたエドガーだったが、二人の提案を受け、フィンの参加を条件付きで認める事にした。
その条件とは、戦闘への直接参加の禁止、指揮官の命令に必ず従うこと、自らの安全を確保することだった。
「いいか、フィン。この三つは必ず守るんだぞ。」
ガルドはフィンの目を見て、三つの条件を伝える。
「はい。」
フィンもガルドの目を見て返事をする。
フィンは探していた。カイルが戻ってきて、レプリベラグに乗って、エリスと出会って、今まで知らなかった世界を知った。
自分に出来ること、やりたいこと、やらなければいけないこと。
「フィン、気をつけてね。」
ミアも本当はフィンについていきたかった。でも、ついていっても何もできないことをミアは知っている。
「大丈夫よぉ、私たちがついてるんだからぁ。」
「せや、うちらがおるんや。だからミアちゃんは、安心しい。」
セリスとロッタは、心配そうにしているミアを励ますように声をかけた。
「うん。」
ミアは返事をすると、セリスに近づき耳打ちする。
「私、いい女になれるように頑張る。そうしたら、フィンは必ず帰って来るんでしょ。」
「ええ、もちろんよぉ。」
セリスはミアにウィンクしながら答えた。
健気なミアの姿を見てセリスとロッタは思った。ミアのこの笑顔を曇らせてはならない。
その為にもフィンは必ず無事に帰さなければならないと。
出発の準備は着々と進んでいく。
「エリス、機体の調子はどうだ?」
カイルは後ろに座るエリスに声をかけた。
「問題ありません。左腕の出力がやや弱いですが、許容範囲です。」
エリスの報告を聞き、カイルは整備士達の姿を思い出す。
今まで彼らの仕事をこんなに意識したことはなかった。
あの鎧熊の一撃を受けて動かなくなった左腕が、今はこうして動かせるようになった。
初陣で一番大切な事は、生きて帰ってくることだ。
カイルはリュークの言葉を思い出していた。
惨めで悔しい思いをしたが、生きて帰って来たからこそ、気付けたこと、分かったこと、知ることが出来たものもあった。
これから向かう森にはあいつがいる。
不思議な気分だった。以前なら雪辱に燃えていた自分がいたのだろう。
魔獣を倒すことが操縦士としての責任だと思っていた。
雪辱を果たす事が責任だと。だが、今はそれが全てではないと分かっている。
「エリス、今日も頼むな。」
「はい。」
カイルはゆっくりと呼吸をし、出発の時を待っていた。
ガルドの率いる第1分隊とエドガーの第2分隊は出発の準備を終えた。
「ガルド、エドガー、気をつけて行ってくるのよ。」
レイナは二人に声をかけた。
「おうよ、終わったら、いつもの店で一杯やろうぜ。」
エドガーはいつもの調子でレイナに返す。
「ああ、村のこと、頼んだぞレイナ。」
ガルドはレイナに村を託した。
「ええ、もちろんよ。」
いつもの表情でレイナも答えた。
レイナは第3分隊を率いて村に残る。
活性化した魔獣の影響で、森から魔物が出てくる可能性もある。
後方の安全確保と前線への補給と支援がレイナ達の役割だ。
ガルドやエドガーと組む時は、いつも決まってこうなる。
レイナに不満はない。適材適所ということだ。
ガルドやエドガーは前線でこそ、その本領を発揮できる。
レイナはというと、後方での調整や情報収集こそ最も得意とすることなのだ。
それぞれが配置につくと、隊は森に向けて出発する。
低く垂れ込めた雲が、森の上を静かに覆い始めていた。
「フィン、無事に帰ってきてね。」
村に吹く風もどことなく湿り気を帯び、草花の香りが濃くなるのを感じながらミアは呟いていた。




