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臨戦

「こいつは酷いな。」

 ハンガーに収められたカイルのレプリベラグは、整備のため左腕の装甲を全て外していた。

整備士はその左腕を見てそう呟いていた。

応急処置で何とか動かしていたと聞いていたが、損傷はフレームまで達していたのだ。

こうなってしまっては、腕のフレームを丸ごと交換するしかないが、今、ここには交換するためのフレームはなかった。

だからと言って、何もしない訳にはいかない。無ければ無いなりにできる事をするしかない。

「さて、どこから手をつけたものか。」

整備士は今ある資材と設備を改めて確認する。

どこまでやれるかわからないが、頭の中でプランを練り直すと、整備士はまた作業に戻った。


「エルダ、今いいかしら?」

レイナは天幕で一人資料を纏めていたエルダに声をかけた。

「問題ないわ。こちらもひと段落ついたところだから。」

エルダは手元の資料から顔を上げてレイナに答えた。

「ガルド分隊長のところにいた子供達のことなんだけど、教えてくれるかしら。」

「丁度よかったわ。これを見てくれる?」

エルダはさっきまで纏めていた資料をレイナに渡した。

レイナは無言で資料を一読する。

「信じられないわ。」

エルダの纏めた資料は俄かには信じられない内容だった。

「あの少年は訓練もなしにレプリベラグ動かしたというの?」

「ええ、それと、これは非公式だけど、彼は初めて乗ったレプリベラグで魔獣を倒したそうよ。」

さらに衝撃の事実をエルダは口にした。

「そうよ、と言うことはあなたは、それを見ていないの?」

レイナはエルダの曖昧な言い回しに対して生じた疑問を口にした。

「見ていないわ、ただ、そのことは事実をそのまま書くわけにはいかないの。」

エルダはさらに続ける。

「ただ、彼の才能は本物よ。そのうちあなたも目にするでしょう。だから、こうして纏めたの。」

レイナはもう一度資料に目を通した。

「なるほどね。これでもまだ、控えめな内容ということかしら。」

それでも、ここに書かれていることだけで、少年の特異性は十分感じられる。

辺境伯が知れば、彼なら大喜びで少年の支援を申し出るかも知れない。

「それで、あなたはどうするつもりなの?」

レイナはエルダに尋ねる。

「どうもしないわ。」

エルダの予想外の答えにレイナは動きを止める。

「決めるのはあの子よ。私はただ、道を示すだけ。今のあの子は農民の子供でしかないの。教育を受けるにしても誰かの支援を受けなければならないの。これがあれば、その支援を受ける可能性が出てくるわ。ただ、その支援を受ければ、それに伴う責任も生じることになる。それは、私が決めていいことではないわ。」

レイナはエルダの言葉を聞いて、大きく息を吐いた。

「ガルドがエルダに聞けと言った意味がよくわかったわ。」

レイナはエルダに邪魔したわねと、その場を去った。


ガキン

 大剣同士がぶつかる重い金属音が響き渡る。

「相変わらず重い一撃だな、エドガー。」

「難なく受けといて、それじゃ嫌味にしか聞こえないな、ガルド。」

ガルドとエドガーは今、野営地の隅で模擬戦をしている。

「相変わらず、兄貴達はすげえな。」

大剣使いのバルドは感嘆する。バルドはガルドの実の弟だ。

「バルドさん、あれ、真剣ですよね。」

「ああ、訓練用の武器なんて持ってきてないからな。」

バルドはフィンにそう答えた。

「危ないんじゃないですか。」

フィンが心配するのももっともだ。普通、模擬戦では刃を潰した武器や木剣を使う。

「普通はやらないな。でもな、ありゃ、お互い信頼してるのさ、相手の実力を。」

「実力ですか?」

お互いを信頼しているというのはわかった。だが、実力とはどういうことだろうとフィンは思った。

「ああ、どんな事があっても必ず剣を止められる。それだけの技量が二人にはあるのさ。」

バルドの言葉を聞いて、フィンは二人に視線を戻す。

二人の打ち合いは続いている。

あんなに重い大剣を二人はただ力任せに振るっているわけではない。

狙ったところに的確に、受ける方も時に身をかわし、時に剣で受け流す。

流れるように攻防が入れ替わる。

剣術を習ったことがないフィンでもわかった。二人の実力が卓越したものであることが。

何度目かの鍔迫り合いの果てに、二人は動きを止めた。

「今回も引き分けだな。」

「まあ、そう言う事にしておくか。」

二人は武器を納めると、互いの拳を合わせた。

「バルドさん、俺も、あの二人みたいになれますか?」

フィンは思わずバルドに聞いていた。

「どうだろうな。何せ、あれは別格だからな。まあ、目指して頑張ってみる事だ。本当になりたいならな。」

そう言うと、バルドは無造作にフィンの頭を撫でた。

模擬戦を終えたガルドとエドガーは肩を並べ天幕に向かっていた。

「それで、お前達が苦戦したって魔獣はどうだった?」

「妙なやつだったよ。」

エドガーに聞かれ、ガルドはそう答えた。

「妙?」

「ああ、レプリベラグ1体じゃ倒せそうになかった。」

1体と聞いてエドガーは怪訝な顔をする。

「新兵にはよくあるやつだ。」

「ああ。」

それを聞いてエドガーも納得する。

「奴にはまだ余裕があった、それが、急に引いたんだ。まるで何かを見つけたようにな。」

ガルドの話を聞いてエドガーも考える。

「何か目的を持って動く魔獣か。目的を達して大人しくなってくれるんなら、いいんだがな。」

「ああ、まったくだ。」

それは希望的観測だ。目的を達したとして、その次に狙われるのは、この村かも知れない。

魔獣の考えを推し量ることは出来ない。

「何にせよ、俺たちのやることに変わりはないさ。」

「そうだな。」

エドガーの言葉にガルドも同意する。人に害をなす魔獣が現れたなら、それを倒すのが俺たちのやるべき事だ。

二人は決意を胸に天幕の中へと消えていった。


 整備士達が忙しなく作業を続けている。カイルは自分の乗っていたレプリベラグの前でその様子を見ていた。

自分の未熟さをまざまざと見せつけられている気分だった。

「よく見ておけ。」

背中からかけられたリュークの声に、カイルは振り返ることが出来なかった。

「彼らの力がないと、俺やお前は戦えないんだ。」

リュークの言葉を聞いて、カイルは改めて整備士達を見る。

彼らは今、自分が乗っていたレプリベラグを直している。

それが彼らの仕事だ。今まではそれが当たり前だと思っていた。

今、この瞬間、魔獣が現れたらどうなる。

レプリベラグに乗れない自分は、満足に戦うことはできない。

リュークの言う通りだった。自分が戦うことができるのは、彼らがいるからだ。

魔獣と戦う最前線が自分たちの戦場なら、ここが彼ら整備士の戦場なのだろう。

「リュークさん、ありがとうございます。俺、手伝ってきます。」

カイルはリュークに礼を言うと、整備士達の元へ駆け出していた。

「俺にも何か手伝わせてください。」

カイルは近くにいた整備士に声をかけた。

「手伝うだ?操縦士様が何を手伝うって言うんだ。素人は邪魔なんだよ、すっこんでな。」

整備士はカイルにきつい言葉を投げつけた。

「でも、何かしたいんです。荷物運びでも何でもやらせて下さい。」

カイルも食い下がる。

「そんな事言ってもな、お前さん、部品の名前わかるのか?俺が今持ってる工具の名前、言ってみな。」

整備士はその手に持つ工具をカイルの前に突き出した。

「それは、その……」

「モンキーだよ。本当はモンキーレンチってんだけど、俺らはモンキーって呼んでんだ。名前も知らないで何を運ぶ気だ?」

カイルは何も言えなくなってしまった。それでも、何かないかと探していると。

「おい、お前ら何やってる。」

「おやっさん!?」

整備班長がカイル達に声をかけてきた。

「いや、あのですね。この操縦士が何か手伝わせろって言ってきてですね。……」

整備士は自分を弁護するように、必死に説明を始めた。

「おい、お前、そんなに手伝いたいなら、こっちに来い。」

「はい。」

返事をしたカイルは整備班長の元へと向かった。

「あの、何をすればいいですか。」

自分も何か手伝える、そう思ってカイルは整備班長に尋ねた。

「何もするな。」

「え?」

整備班長からは予想外の返答が返ってきた。

「お前さんの仕事はなんだ?」

整備班長は作業の手を止めず、背中越しに問いかける。

「操縦士です。」

カイルは答える。

「そうだ、お前さんは操縦士だ。俺たちが直したこいつに乗るのが仕事だ。そのお前さんが、俺達の仕事を手伝って、怪我でもしたらどうする。その怪我で、こいつに乗れなくなったら、俺達は何のために直すんだ?」

整備班長の言葉がカイルの心に突き刺さる。

「手伝いたいという気持ちはありがたいさ。だがな、今のお前さんに任せられることはないんだ。だから、今は俺達の仕事を黙って見ててくれ。その気があるなら、領都に帰ってから教えてやる。」

「はい。」

カイルは改めて考える。自分の役割と、それに携わる人達の事を。自分は決して一人で戦っているわけではないと実感した。


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